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第三話
しおりを挟むこの世界には、様々な生き物が共存している。
私の今まで知っている動物とは一線を欠いて、体以上の大きな力をもつ凶暴な魔獣に温厚な魔獣。
その存在、行動が人々にとっては驚異的なドラゴンに、いくつもの物語を彩って見せる世界のどこかにいる幻獣の数々。
エルフ、ドワーフ、猫人、犬人といった数多の人種族。
あまりにも私の知る日本であり、地球とはかけ離れた世界である。
そんな突拍子もない世界だからこそ、私の知る人はいない。
もちろん、旦那や会社の同僚はいない。
その代わり、
「怜奈! ほら行くぞ!」
「あぁ、怜奈かわいいわよ!」
甲斐甲斐しく私の両の手を引っ張ってくれる一組の男女。
ヨーロッパ系の彫りの深く、見事なブロンドヘアーのがっしりとした男性に、女の私でも美人と思うアジア系の美人。
シュリット・ルーインと麗香・ルーインだ。
そしてこの二人こそ、
「お父さん、お母さん。 過保護です!」
「あら過保護ですって!」
「こらこら。 どこでそんな言葉を覚えてきたんだ」
この世界での私の両親だ。
奇跡と呼ぶべきか、こういった際の決まりなのか、この世界には漢字という概念があった。
呼び方は漢字ではなく、『トレッティア文字』という帝国トレッティアという国で常用される文字らしく、私の母、麗香がトレッティア出身のために私の名前にトレッティア文字を入れたらしい。
そしてそのトレッティア文字が『怜奈』という名であり、私の元の世界での名と同じだった。
だからだろうか、なじみの名前で呼ばれるからこそ、私はこの世界にあまり違和感を抱かなかった。
「じゃあ、気を付けていくのよ」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
二人に送られ歩いていけば目の前には大きな門構えの、和洋折衷のような、なんとも不思議な建物。
門に書かれているのは『ルーバリウス・リトルスクール』という文字。
そう私、怜奈・ルーインは学校に通っている。
日本でいうところの小学校に。
――――――――
ルーバリウス・リトルスクールは国が大本の学校組織である。
6回生まであり、6歳から12歳を対象とした多種教育機関である。
この国、セルバロス王国では12歳から一人の人間として扱われ15歳で大人として数えられるため、国は12歳までには教育として、将来を考える時間を与えたのだ。
そのために、様々な街にこのようなリトルスクールはありその敷居は決して高いものではなく、まさに日本の小学校のような機関なのだ。
ただ、この世界は魔獣やドラゴンといった生物や、魔法というなんとも不思議な力があるために個人の選択の自由度は高い。
男の子たちの多くは冒険者にあこがれるし、女の子の間でも結構人気であったりする。
そして、魔法を研究してみたい子やお医者さんになりたい子など様々だ。
そのために、生徒たちの選択制の授業が取られているのだ。
ーー第一魔法学の授業
「で、あるからしてこの魔法では......」
壇上にいる教師、シルバスターの声を聴きながら怜奈の思考はどこか遠くをむいていた。
シルバスターは保護者に人気な、大人の色香をちらつかせる二枚目なのだが怜奈は一向に視線を送ることはない。
ただただ、ノートに最近のことを書き記していたのだ。
つい最近、6歳から7歳に切り替わるときすべてを思い出した。
自分がだれで、どこにいて、どうしたのかを。
それこそ、生まれたときに母親の顔をどう思ったかも。
ただそれでも、5歳くらいまでの記憶は断片的なものでしかなかった。
「........記憶の保護? それとも私の保護?」
そう呟きながらノートに書き記していくのは可能性。
赤ちゃんの時に、今までの27年の記憶を取り戻していたらまずかったのではという考えや、あったところでどうしようもないのではといって、自己分析をざっと書いてみる。
そしてもう一つ。
「......他の人と変わらない」
水篠怜奈の時に読んだことのある、そういった異世界転生をする話でよくあった特典も、特殊能力も何もない。
周りが使えるくらいの魔法が使えて、子どもの体力で、子どもの体つきなのだ。
どれほど可能性をノートに書き記していっても、答えはいつも同じところに帰着する。
「ただの人間」
この世界におけるちっぽけな一員。
それがきっと自分なのだと、彼女は思うだけだった。
ただそんな事実だからこそ、怜奈は心地よくも感じた。
両親は少し過保護なところがあるが、7歳児にはきっとあれぐらいで、怜奈自身が親になったときもそうしていたかもしれないと思えば、当然のように思えるし、何より、
「……見なくて済む」
何をかは、怜奈の言葉は告げないがそれが指すのは、間違いなく一人。
だからだろうか、こんなにも気が軽くなり、
「よしここ、怜奈! 答えてみなさい!」
ばしりとあてられた、魔法の問題。
黒板を見てもすぐには理解ができるわけがなく、
「えっと、火が付きます。 多分」
よそ見をしてしまったのは。
怜奈・ルーインは今、異世界を生きている。
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