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賢王配下、西の英雄 1
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「押さえろ! これ以上街に近づけるな!」
「おおおっ!」
勇ましい声があちこちから響き、空を舞ったのは数多の矢。
それは森の手前に吸い込まれるように飛んでいく。
次いで、ギャァンと甲高い鳴き声を上げながら黒犬の群れが倒れていった。
「そろそろ陽が落ちる、コイツらを押し返さないと!」
「一体どれだけの数がいるんだ!?」
「いくつかの群れは潰したはずだが…!」
神聖ブランデラ王国西方に広がる大森林は、貴重な果物や木材が手に入る一大資源地として、王国民による開拓事業がたびたび展開されている。
一方で野獣や魔物が多く棲息する場所でもあり、資源が手に入る前に犠牲になる開拓員が後を絶たない。
「開拓員たち、お前ら一体何をしたのだ!」
弓矢を構えた甲冑姿の兵士の一人が声を張り上げた。
懸命に矢を放ち、これ以上黒犬の爪や牙を近づけまいと必死だ。
開拓事業の護衛として何度もこの地を訪れているが、今日のような数の多さは初めてだ。
「し、知らねえよ! 俺たちは伐採を終えて引き上げようとしてたんだ! そのすぐ後だよ、森の奥から涎を垂らした黒犬の群れが現れたのは!」
「ヤツらの縄張りに踏み込んだのではないのか!」
「冗談じゃねえや、そんな危ねえことする奴はとっくにあいつらの餌になってるよ! 大体、監視役に魔道士さんたちが何人か来てたんだ! 俺たちゃ仕事に精を出してただけで…」
グオオxルゥルxx
「ぎゃああっ!?」
唸り声、次いで獣が地面に着地する足音。同時に響いたのは開拓員の叫び声だった。倒れ込む開拓員に黒犬たちがあっという間に群がり、その体を引きちぎり噛み砕いていく。
「さ…下がれぇっ! 騎士は前へ、開拓員を避難させ…」
再び黒犬の影が飛び、指揮官役の騎士の喉元に食らいついた。声もなく倒れ込む騎士の姿に、開拓員だけでなく騎士たちにも怯えや混乱が蔓延しはじめた。
やがてその混乱は人の動きとなって現れる。
騎士も開拓員も、安全な街道に向かって我先にと走り出した。
その背中を見た黒犬たちは、好機とばかりに森林から飛び出して男たちを襲う。
倒れる者が続く中、響きわたるのは犠牲者の叫び声。
しかし人間たちも黙ってはいなかった。
突如、風を払うような野太い風切り音。
一人の大男が槍を振り回し、黒犬たちを蹴散らした。
「フアッハッハッハッハー! 敵も味方も、ザコはまとめて下がりやがれぇっ!!」
黒光りする鉄仮面と甲冑を着込んだ姿に、体格と同じく豪快な叫び声と振る舞い。
剛腕の騎士ダラスが、手に構えた槍で、突くというよりは振り回し殴り倒していく。
そしてダラスの影に隠れるようにして、対照的に小柄な体躯が黒犬たちの間を駆けた。
両手に構えたナイフでもって、ダラスの一振りをかわした黒犬の喉元を正確に斬りつけていく。
「おー怖、ダラスの旦那は毎度派手っすねぇ」
少々どんよりとした目つきが特徴の優男・イリヤー。
鎧というよりも金属の装甲を貼り付けたような全身スーツで騎士を名乗るのは、王国ではイリヤーくらいのものだ。
「ポンバルタ卿たちが到着されたぞ!」
「助かった! 英雄様、助けてください!」
二人の登場を受けて、騎士や開拓員の間に安堵と期待の声が湧いた。一方黒犬たちは怯み、少しずつ後ずさっていった。
その様子を敏感に察知したダラスが槍を構えながら告げる。
「まあ待てよ黒犬ども。ウチの大将がお出ましだぜ」
ダラスがニヤリと笑い、左手で街道を指さす。
次の瞬間、指し示された方向から風と光の刃が放たれ黒犬たちを切り裂いた。
一瞬の出来事で何が起こったのか、ダラスとイリヤー以外は誰も理解できていなかっただろうが、何頭かの体から黒い血が吹き出し倒れていく様を見て、再び喜びの声が上がった。
一方、生き残った黒犬たちは慌てて森林の奥に帰っていく。
「あっぶね! 勘弁してくれよ大将、指が切れちまったかと思ったぜ!」
仮面を外し無精髭を生やした表情を晒したダラスは、手のひらを上下に振りながら、黒犬を撃退した人物に聞こえるように文句を言う。
しかし当の本人は特に釈明することもなく、その歩幅を崩すことなくダラス達の前に現れた。
「お見事ですカイルさん」
イリヤーが男の道を開けるように兵にうながす。
「こちらこそありがとうイリヤー、ダラス。君たちが野獣の数を減らしてくれたからこそ成功した奇襲だ」
ダラスと同じく黒光する甲冑に身を包んだ細身の長身。
栗色の髪をふわりと揺らしながら、対照的に目つきは鋭く笑顔もない。
両腰に備えた剣が鞘ごと淡く緑色に光を放っている。魔導が使われた証拠だ。
「一人の犠牲も出したくはなかったが…」
「仕方ねえよ、俺たちが駆けつけた時にゃ野獣どもが森林から出てきてた。随分と獰猛な性格になってたなアイツら」
そう答えるダラスも表情は険しい。仕方ないと言いつつも悔しさを隠し切れないのはカイルと同じなのだ。
「カイルさん、ここ2カ月で野獣や魔物との交戦がずいぶんと増えてます。これからもこんな騒ぎが続くなら、対策を練らないと」
「君の言う通りだ、イリヤー。被害の状況、それから戦況の報告をまとめてくれ。城に戻り王に謁見する」
「おおおっ!」
勇ましい声があちこちから響き、空を舞ったのは数多の矢。
それは森の手前に吸い込まれるように飛んでいく。
次いで、ギャァンと甲高い鳴き声を上げながら黒犬の群れが倒れていった。
「そろそろ陽が落ちる、コイツらを押し返さないと!」
「一体どれだけの数がいるんだ!?」
「いくつかの群れは潰したはずだが…!」
神聖ブランデラ王国西方に広がる大森林は、貴重な果物や木材が手に入る一大資源地として、王国民による開拓事業がたびたび展開されている。
一方で野獣や魔物が多く棲息する場所でもあり、資源が手に入る前に犠牲になる開拓員が後を絶たない。
「開拓員たち、お前ら一体何をしたのだ!」
弓矢を構えた甲冑姿の兵士の一人が声を張り上げた。
懸命に矢を放ち、これ以上黒犬の爪や牙を近づけまいと必死だ。
開拓事業の護衛として何度もこの地を訪れているが、今日のような数の多さは初めてだ。
「し、知らねえよ! 俺たちは伐採を終えて引き上げようとしてたんだ! そのすぐ後だよ、森の奥から涎を垂らした黒犬の群れが現れたのは!」
「ヤツらの縄張りに踏み込んだのではないのか!」
「冗談じゃねえや、そんな危ねえことする奴はとっくにあいつらの餌になってるよ! 大体、監視役に魔道士さんたちが何人か来てたんだ! 俺たちゃ仕事に精を出してただけで…」
グオオxルゥルxx
「ぎゃああっ!?」
唸り声、次いで獣が地面に着地する足音。同時に響いたのは開拓員の叫び声だった。倒れ込む開拓員に黒犬たちがあっという間に群がり、その体を引きちぎり噛み砕いていく。
「さ…下がれぇっ! 騎士は前へ、開拓員を避難させ…」
再び黒犬の影が飛び、指揮官役の騎士の喉元に食らいついた。声もなく倒れ込む騎士の姿に、開拓員だけでなく騎士たちにも怯えや混乱が蔓延しはじめた。
やがてその混乱は人の動きとなって現れる。
騎士も開拓員も、安全な街道に向かって我先にと走り出した。
その背中を見た黒犬たちは、好機とばかりに森林から飛び出して男たちを襲う。
倒れる者が続く中、響きわたるのは犠牲者の叫び声。
しかし人間たちも黙ってはいなかった。
突如、風を払うような野太い風切り音。
一人の大男が槍を振り回し、黒犬たちを蹴散らした。
「フアッハッハッハッハー! 敵も味方も、ザコはまとめて下がりやがれぇっ!!」
黒光りする鉄仮面と甲冑を着込んだ姿に、体格と同じく豪快な叫び声と振る舞い。
剛腕の騎士ダラスが、手に構えた槍で、突くというよりは振り回し殴り倒していく。
そしてダラスの影に隠れるようにして、対照的に小柄な体躯が黒犬たちの間を駆けた。
両手に構えたナイフでもって、ダラスの一振りをかわした黒犬の喉元を正確に斬りつけていく。
「おー怖、ダラスの旦那は毎度派手っすねぇ」
少々どんよりとした目つきが特徴の優男・イリヤー。
鎧というよりも金属の装甲を貼り付けたような全身スーツで騎士を名乗るのは、王国ではイリヤーくらいのものだ。
「ポンバルタ卿たちが到着されたぞ!」
「助かった! 英雄様、助けてください!」
二人の登場を受けて、騎士や開拓員の間に安堵と期待の声が湧いた。一方黒犬たちは怯み、少しずつ後ずさっていった。
その様子を敏感に察知したダラスが槍を構えながら告げる。
「まあ待てよ黒犬ども。ウチの大将がお出ましだぜ」
ダラスがニヤリと笑い、左手で街道を指さす。
次の瞬間、指し示された方向から風と光の刃が放たれ黒犬たちを切り裂いた。
一瞬の出来事で何が起こったのか、ダラスとイリヤー以外は誰も理解できていなかっただろうが、何頭かの体から黒い血が吹き出し倒れていく様を見て、再び喜びの声が上がった。
一方、生き残った黒犬たちは慌てて森林の奥に帰っていく。
「あっぶね! 勘弁してくれよ大将、指が切れちまったかと思ったぜ!」
仮面を外し無精髭を生やした表情を晒したダラスは、手のひらを上下に振りながら、黒犬を撃退した人物に聞こえるように文句を言う。
しかし当の本人は特に釈明することもなく、その歩幅を崩すことなくダラス達の前に現れた。
「お見事ですカイルさん」
イリヤーが男の道を開けるように兵にうながす。
「こちらこそありがとうイリヤー、ダラス。君たちが野獣の数を減らしてくれたからこそ成功した奇襲だ」
ダラスと同じく黒光する甲冑に身を包んだ細身の長身。
栗色の髪をふわりと揺らしながら、対照的に目つきは鋭く笑顔もない。
両腰に備えた剣が鞘ごと淡く緑色に光を放っている。魔導が使われた証拠だ。
「一人の犠牲も出したくはなかったが…」
「仕方ねえよ、俺たちが駆けつけた時にゃ野獣どもが森林から出てきてた。随分と獰猛な性格になってたなアイツら」
そう答えるダラスも表情は険しい。仕方ないと言いつつも悔しさを隠し切れないのはカイルと同じなのだ。
「カイルさん、ここ2カ月で野獣や魔物との交戦がずいぶんと増えてます。これからもこんな騒ぎが続くなら、対策を練らないと」
「君の言う通りだ、イリヤー。被害の状況、それから戦況の報告をまとめてくれ。城に戻り王に謁見する」
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