神樹のアンバーニオン

芋多可 石行

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心の空

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 負傷した藍罠を部屋まで送って来た椎山は、二十分程お茶を飲みながら三人で見ていたテレビのバラエティ番組がコマーシャルに入ったタイミングで帰宅する事にした。立ち上がって見送ろうとする藍罠兄ヨキトの方には休んどけと制して、玄関までついて来た藍罠妹磨瑠香に声を掛ける。
「じゃ、なんかあったらマル医マークの緊急コール押してね?ニイチャンの事だから多分明日にゃ治ると思うけど?」
「はい!ありがとうございました!」
「はーい、お大事に、ぉ休みー!」
 大きな音がしないようにゆっくりと鉄扉をカチャンと閉めた椎山は表札107の名札を見上げて、まじまじと見つめ薄ら笑いをこらえた。
「ふ···ふふ···ふッッ······あ···アイビー(笑)······?わざと···?フ····?」
 椎山が個人的ツボに落ちて油断していると、いきなり隣室の207号室の扉がガチャンと開いてグレーのスウェット姿の隊員が出て来てお互い驚いた。
「「!!」」
「おぁ!すいませんこんばんは!」
「ぁは!こ、こんばんは····」
 隣人は気まずさを避けるようにして、車の鍵をカチャカチャ、サンダルをパタパタと音を立てて階段を降りていった。
「······さて、俺も帰るか。ふぅ···」
 椎山はため息を鼻から通し抜いた。








 日本上空。

 高空に浮かぶアンバーニオンの眼下には、闇夜に煌めく都市部の街明かりや、冬のかみなりが雲の合間に明滅していていた。
 寝惚ねぼまなこでアンバーニオンの操玉コックピットに浮かぶ宇留はディスプレイに徐々に灯ってゆくアラートに気が付いた。
 前から何かが向かって来る。反射的にアンバーニオンの両手を前に差し出す。
 手首付近に備わったツメのような装飾が外れて前に飛び、次の瞬間には掌から放たれた電撃によってブーメランのように回転加速して“何か„に向かって飛んで行った。
 ブーメランはその物体を三枚におろすと、弧を描いてアンバーニオンの方へ戻って来ようと方向転換する。
 送電···鉄塔?
 アンバーニオンの両脇を、ブーメランが斬り砕いた格子状の送電鉄塔のような物体が白い火花を散らしながら通り抜けて消えていく。
 と、同時にアンバーニオンの腕が勝手に動き、掌の電撃の糸で引き寄せられ戻って来たブーメランを再装着する。
「ありゃんりゃん?もうおしまい?呆気ないの?」
 宇留の背後で女性の声がした。そして次に宇留の両目を後ろから覆っていた女性の手が顔から離れる。どういう訳か、両目を手で覆われていたにも関わらず正面が見えていた。
 その間はむしろ主観的かつ、ただでさえ高画質のアンバーニオンのディスプレイよりも画質や密度が高く感じて、手が離れた一瞬目が悪くなったと錯覚さえした。
 
 やがて地上より早い日の出に照らし出されたアンバーニオンの姿は、いつもと異なっていた。

 胸元には青い琥珀が輝き、両膝の三日月型宝甲は足の裏に鉤爪のように装着され、足は鳥足気味に変形している。肩アーマーの天面は後ろを向き、琥珀柱は薄く翼の形に変化し横方向に伸びて、内部の勾玉も“また„違う形になっていた。
 頭部は目の部分が青いスリット状に変化してマスク部分もシンプルな造形になり、翼を広げ、くちばしの先端に雫型のピアスのような青い琥珀のアクセサリーを一つついばんだ琥珀の鳥のかんむりを被っている。

 アンバーニオン オドデウス。
 大空の琥珀の巨神の能力とは一体······?

 眠い······
 (ウリュ!ごめんね?そのまま寝てていいからね?アンバーニオンに何かが来るのをオドデウスが教えてくれたんだよ?)
「もう来ないといいけどね?考察は明日だ!みんな帰って寝よん寝よん!」
 宇留は後ろにいるであろう女性が、ゲルナイドと戦った時に裂断から聞こえた声の主だと気付いた時だった。
 
 ボスっ!
 宇留の部屋がオレンジ色の閃光に包まれ、宇留はベッドの上に放り出された。
 眠い······
 宇留は更にショートスリーパーでかつ、元気すぎる日々を送っていたが、睡眠の質も高すぎて眠っている間はスイッチがほぼオフになっているらしく、寝る直前には簡単な計算も覚束おぼつかない時もあった。
 それでも宇留はフラフラとヒメナの部屋まで近付き、丁寧にヒメナの琥珀を納める。少しの間、目を閉じてヒメナの琥珀の縁に触れてボーッしながら寝落ちしそうになるも、気合いで部屋の蓋を閉じてベッドに戻った。
 二人で色々考えたい出来事だったがもうダメだった············





 

 
 


 おーおー!現在、私の新しい力を着想インストール中、ここは眠りと夢の更に奥。
体、心、精神、魂の安らぎ不足の心配は無いよ?短時長感の暇潰し!例えば悩みとか無いかね?
 オドデウスの声が聞こえる気がする。どうやら夢の変な所に迷い込んだようだ。

 悩み?

「······」
「ナンダヨー!あんまりシカトすっとあの事ばらすかなー?」
 ホウ
「!、ばらすも何もお前が勝手に決めた事だろー!しつこいって!」
 ホウホウ
「スマイのスキナヒトハー?」
 ホウ!ナンジャこいつゥ!
「やめろって!いい加減にしろよ?!」
「あーあ?ーーーーーみんなーーー!スマイのねー!好きな人はねぇー!」
「やめろってーー!」

 その時、時間が止まったモノクロの教室に立つ宇留は自分をからかったクラスメート、倉岸の鼻先をつまんで揺らしてみた。
 ほんの数ヶ月前の教室に居るクラスメートは何故か全員子供に見える。
「そうだった。俺のせいだった。恥ずかしくて、俺なんかと勝手にレッテル張られたら、···さん、きっとイヤだろうな?って思って······」

 ヤメロー!、違う!、違うってーー!
 そんな事無い!······

 ホウホウ······結果、逆にウリくんがその娘を嫌なものデアル扱いしてると思われたんじゃない?女子的にそりゃ無いわー。
「!」
 自分の意見を守ろうとするあまり、あからさまな倉岸への拒否感を乗せた否定を貫いた結果······
 廊下に居るであろうオドデウスの指摘に宇留はショックでぐうの音も出なかった。
「そ、そっち?···!」
 モノクロの教室に来てから、宇留は目を合わせようとしなかったある女子生徒の方を向こうとした時だった。
 あれ!まさかこの娘!あれ!?
 猛スピードで教室に駆け込んで来たオドデウスがその女子生徒と宇留の間に割って入り、顔をまじまじと見始めたので宇留は目を合わせる事は叶わなかった。。
 オドデウスはフクロウの仮面にベージュのパーカーを羽織りフードを被った少し背の高い女性の姿をしていた。
 だがそのスタイルの良さよりも気になったのが、わんちィとパニぃも時々着用していた国防隊の女性用礼服に似たスーツをパーカーの下に着ていた事。
「オドデウス、遊び過ぎです」
 宇留の隣の席の女子生徒がはしゃぐオドデウスに語り掛ける。ヒメナだった。
「ヒメナ?」
 そなんそなん、クノコハの姫様こそウリくんの学校の制服お似合いですよ?
 振り返ったヒメナに宇留はドキッとした。同スケールで面と向かい合うのは初めてだった。
「人の心が面白いからといっていつも踏み込み気味、変わってないですね?」
 ウヌグ···スミマシェン······
 
 するとモノクロの教室は消えて、立った宇留と席に座るヒメナ、オドデウスだけが全方位青空の空間に残された。
 着想終了!オツカレサマデシタ!今のは予告編になりまする!
「え?過去編じゃなくて?」
 ヒメナが冷静に指摘する。
 イヤホラ!前回これまでの~とかあんな感じので!
「あ~!」
 ではウリくん!空でピンチになったら私をヨビタマエ!じゃんじゃん!

 青空空間は光に包まれホワイトアウトした。


「···過去編?なんで?あれ?」
 ベッドでうつ伏せで寝ていた宇留。宇留の手にはヒメナの琥珀の感触があった。ヒメナの部屋は用意していなかったので、ヒメナの琥珀を仕舞ったのは夢だったようだ。
「ぁ···ごめん」
 どこからが夢で現実なのか混乱したが、宇留は柚雲との約束を守ろうとヒメナの琥珀をリュックの中に戻そうとした。
 (もうゅ···このままでいいよぅ···?)
 曇ったヒメナの琥珀から眠そうなヒメナの声がした。

 枕元にヒメナの琥珀を置いた宇留は急に恥ずかしくなって完全に目が覚めてしまったが、心がゴチャゴチャしていたので朝まで狸寝入りで気の済むまで悩む事に決めたのであった。






 
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