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雷神の進攻
しおりを挟む駐屯地周辺住民の避難未完了を理由に、ほぼ何の応戦もされずに堂々と国防隊北部演習場に侵入した送電鉄塔の怪物は、節足動物のような同じく鉄塔で構成された巨大な四本の足を動かし歩みを進めた。
かと思えば思い出したように振り返り、頭部のアクプタンヘッドが南方向に向き直った。
「何を考えている?基地の中枢はここだぞ?」
茂坂は司令室のモニターに映る、乱雑にサーチライトで照らされている送電鉄塔の怪物に問い掛けた。
戦車隊は、上居脇山が送電鉄塔の怪物の背に回る位置まで移動し、砲撃の配置に着く。
ヘリ部隊は触手線を警戒し戦車隊の後方に滞空し留まっている。
敵に対し、国防隊は山背盾撃ちという本拠地決戦用の仮定シュミレーションを実行に移す決断をした。
登山者の有無を確認し、山を目標後方の盾とし、山裾を流れ弾の受け口とする周辺地域への安全面からの配慮である。
しかしながら、山体を傷つける。などの心配から実行は無いであろうとされていたプランは、堂々と入って来た敵によって覆され、そしてまた心配は杞憂に終わる事になった。
ズンドドドドン、ドドドドン!!
「····全弾命ち······いや!まて!」
連続で発射された戦車隊の砲撃。しかし弾体は当たらずに全て送電鉄塔の怪物の前面の空間に固定されていた。
「捕縛能力!」
三角パタパタのお抱え岩塊同様の能力。すぐに三竹が意図に気付く。
「攻撃停止を進言します!これでは奴に弾薬を補給するようなものだ!」
だが送電鉄塔の怪物は動かず、打ち返してくる気配は無い。部隊は膠着状態に陥る。
重拳は基地側の死角の戦車道に隠れ、潜望鏡を高く伸ばして木立越しに送電鉄塔の怪物の様子を見ていた。
「マジかよ?さてどう出るかな···?」
重拳から二百メートル離れた制御車内で、藍罠が茂坂のプランを予測していると椎山が言った。
「藍罠、なんか三号機いじってるみたいだったぞ?」
「本当すか?乗る奴なんて···?」
藍罠は少し考えて潜望鏡を引っ込めた。
「両腕···やる気なんですかねぇ?」
その時、重拳の後方に大型のトレーラーが停まる。キャリアには巨大なハンドガンが積まれていた。
「二人共聞こえるか?」
「「はい!」」
「これよりヘリ部隊によるミサイル攻撃を行う。重拳はその隙を突いた山背盾撃ちによるアーマーキャノン砲撃による推定頭部への攻撃を実行する···」
藍罠は茂坂の指示を聞きながらトレーラーに積まれたアーマーキャノンを重拳の手に握らせ、手首部の可動確認を済ませる。
「戦車モード、射撃管制オン確認」
「あともう一点···ベーカリーからの連絡だ···」
「「?」」
「王子様が出陣した。夜中の日の出を待て」
「!、宇留くん···?!」
藍罠が上を向くと、連動して重拳のカメラも上を向いた。この時藍罠の耳に微かに響いた耳鳴りが重拳の声だと言う事は彼はまだ知らない。
戦車隊が後退し、ヘリ部隊と前衛を交代、ヘリ部隊の隊長から全機に指示が飛ぶ。
「ミサイルの起爆装置オン!キャプチャーされる前に爆発、錯乱させて、重拳の狙撃の隙を作る!」
ヘリ部隊が展開し攻撃に入ろうとした時だった。小型の送電鉄塔が複数、ヘリ部隊の前を横切って飛び、戦車隊の目前の地面にも送電鉄塔がいくつか突き刺さった。
突然現れた小型の送電鉄塔群は一ヶ所に集合、連結し蛇のような形態をとった。その他にも北部演習場内には更に送電鉄塔群がいつの間にか多数現れ飛び交っている。
蛇型送電鉄塔は尾を振って戦車隊に襲いかかった。回避が間に合わなかった二両が尾に弾き飛ばされ横転する。
ヘリ部隊は、突撃してくる飛行送電鉄塔相手にやむを得ずミサイルを使用した。だが命中するも破壊には至らず、少し怯むのみで再び飛び始める。
送電鉄塔の怪物はその光景を黙って見下ろしていた。
ガァァーーン!
「!」
重拳が装備したアーマーキャノンの一弾が、怪物の頭部アクプタンヘッドに向けて放たれた。
しかし弾頭は触手線一本の先端に絡め取られ、アクプタンヘッドの眼前で停止する。
「くそっ!」
藍罠が望遠カメラで見ている先で、触手線にくるまれた弾頭は赤熱化し蒸発する。
送電鉄塔の怪物は右前足をもたげると、重拳の居る付近に足の先端から雷を放つ。雷は重拳の周囲に二発、三発と落ちて、抉れた土壌からは水蒸気が吹き上がる。
「ヌウウッ!後退するッ···!」
椎山は更に送電鉄塔の怪物と距離を取るべく重拳を後退させる。ヘリ部隊は飛行型に翻弄され、戦車隊は蛇型から逃げつつ、自機目掛け飛んでくる槍型を警戒する羽目に陥った。
ガゥオオオオオオオオォォォ······!!
演習場に突如、龍神の咆哮が木霊する。
送電鉄塔の怪物とその傀儡達は動きを止め上空を見上げた。
「来た···か···」
アクプタンヘッドの中で、エシュタガは待ちわびていた敵の輝きを目にする。
上空から降りて来る光。それが演習場上空の照明弾に照らされた雲の中に消えた時だった。
「涙光の閃ッ!!」
巨大な雲がその光に向かって収束し吸い込まれていくように見える。消滅した雲の中心に居た光。アンバーニオンの膝の三日月型宝甲には巨大な水の丸ノコギリが形成されていた。
「ウ·ゴータ!!」
アンバーニオンは足を振りかぶり、涙光の閃を眼下で自身を見上げる送電鉄塔の怪物目掛け放った。
送電鉄塔の怪物は触手線二本の先端に小型の送電鉄塔を装着しクロスさせ迎えうつ。
そこにヒットした涙光の閃は小型送電鉄塔のガードを押し破ろうとするも手前の一基のみの破壊に留まり、その場で破裂した。
破裂した水の丸ノコギリは、演習場近辺に霧雨となって一瞬降り注ぐ。その雨を浴びたカード人間達はふやけて強度を失い、応戦中の隊員達の前で膝を付き腰を折って戦意を失う。
「······」
宇留は涙光の閃に使用した宝甲達に思いを馳せ、機能を停止させる事を忘れなかった。
アンバーニオンは上居脇山の直前で一度再浮遊して身を翻し、山裾の斜面に着陸しそのまま裾野を滑り降りる。その時一度残雪地帯を通ってジャンプし、送電鉄塔の怪物に組み付こうと迫った。
「うぉおおおおおっ!」
気合い充分の宇留の雄叫びと共に、送電鉄塔の怪物に飛び付くべく向かっていくアンバーニオン。送電鉄塔の怪物は破壊された触手線の先端に新たな小型送電鉄塔を合体させ身構える。
「キ·ゴーータァ!」
送電鉄塔の怪物は小型送電鉄塔付き触手線でアンバーニオンを叩き落とそうとしたが、触手線は断ち切られアクプタンヘッドの間近への組み付きを許した。
宇留は踏み滑った残雪の水分を利用し水光の跳ねを三日月型宝甲に形成し切断していた。
中心の巨大送電鉄塔に組み付いたアンバーニオンの背後に触手線が迫るも、それすら背部スタビライザーに発生させた水光の跳ねを振り回して切り刻む。
そのままアクプタンヘッドに詰め寄ったアンバーニオンは、至近距離でアクプタンヘッドの赤い単眼と睨み会う。
「もうこんなことはやめろー!」
アンバーニオンがアクプタンヘッドに手を掛け、送電鉄塔から引き剥がそうとした時だった。
クゥオーーーーン!
「が!」「くぅ!」
宇留の脳内にクリスタルボウルのような激しい音が反響し、宇留とヒメナは一瞬怯む。
その隙を突いた送電鉄塔の怪物は、前足の先端を器用にアンバーニオンの宝甲と宝甲の間に引っ掛けて地面に向けて放り投げる。
「!」
その瞬間、ヒメナは送電鉄塔の怪物の体に捕縛されていた徹甲弾が正面に向き直るのを見た。
「ウリュ!下がって!」
「!」
吊り投げられたアンバーニオンは一度宙返りして、両足とスタビライザーでしっかりと着地するとそのままホバリングで後退し送電鉄塔の怪物と距離を置く。
アンバーニオンが後退した場所を追うように次々と徹甲弾が地面に着弾し土壌が弾け飛ぶ。
土煙の向こうでは既に、送電鉄塔の怪物の右前足が小型送電鉄塔数基によって延長され、アンバーニオン目掛けて振り下ろされる瞬間だった。
だが振り落とされた足の先端はアンバーニオンの右手と右腕を支える左腕によって難なく受け止められる。
「ほぅ!···」
「やっぱり右狙いで来たか!」
宇留の防御癖を狙ったものの、自身の当てを外しに来た宇留に感心するエシュタガ。アンバーニオンはそのまま右前足を引き寄せ、手首周りに装着されたブーメランで直接延長された足の先を切り落とす。
エシュタガはあえて後退し、アンバーニオンと距離を取った。
「ウリュ!思い出した···洞窟の男の名前···そしてあの敵を操る赤い目のアクプタンを操る者!」
「ヒメナ?」
「エシュタガ···ムスアウの好敵手だった戦士···」
「!···うぅ、先輩のライバル···いきなりハードル上がっちゃったなぁ···」
「···ごめん···」
「いいよそんな事、大丈夫!けど甘党なんだっけ?さすが樹液の結晶寄越せって言うだけあるなぁ···」
「フフフ···考えた事無かった···」
「フ、ははは···」
束の間の余裕。しかしヒメナにはある予感があるようだ
さっきの感覚···まさか···
「よーし!エシュタガ!それと送電鉄塔の怪獣だからテットーラ!必ずお前達を止めてやる!」
「スマイ少年、アンバーニオン、琥珀の姫よ!このテットーラが貴様らを必ず打ち果たしてくれる!」
見栄を切るエシュタガの傍らのコントロールパネルに置かれたカード。その中央に描かれたマスコットキャラのような表情が瞬きをする。
エシュタガのカードの中の存在、ガルンはアクプタンヘッドの赤い単眼を通してアンバーニオンを睨み続けていた。
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