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ヒ ト イ ロ
しおりを挟むNさんが十年程前に体験したという怪物との遭遇エピソード。
海にはもう近付きたくないというNさんの体験談は、好奇心制御の重要性を教えてくれます。
変なのに会った話ですか?じゃあ、十年位前の話を······
一応当時の年齢は黙っておきます。
あの頃は暇さえあればローテーションで友達の家に集まっては、適当にゲームやらなんやらで遊んでいました。
その日は同級生友人のR家でおもしろ動画漁りが一段落して、スマホ弄ったりしてボケっとしながら、雑談の流れで怖い話になった時、もう一人の友人Uが変な噂を紹介し始めたんです。
隣街にある海水浴場の奥、そこから岬周りに海沿いの細い林道を通ってしか行けない小さな海岸がポツポツあるんですけど、その辺りの海岸で時々女の人が裸で寝転がってる。っていう噂でした。
正直引きましたけど、なんせあの年頃のバカガキだったんでみんなで話を合わせて、露出狂だ変態だって猿みたいにキャッキャとはしゃいで、笑いながら行ってみるみないで冷やかし合いつつ雑談は違う話題に逸れていったんですよ。
で、お察しの通りなんですけど。
どうも気になったNさんは、日を改めて友人達に内緒で海水浴場の奥まで行ってみる事にしたといいます。
秋になったばかりで肌寒い午後、けど決して秋っぽくない夏空の晴れた日でした。
本当にバカですよね?ありきたりにも程がある位にもし誰か居たら、なんて心の何処かで思ってたんですから。
さりげなーく、シーズンを終えた海水浴場の広い駐車場の隅に自転車を置いて林道を歩き始めました。この先、登り降りのきついオフロードが続くので、どうせ押して歩く事になりそうな自転車は置いて行く事にしました。その時、海水浴場に人影はありませんでしたが、海岸から沖合いに見える入道雲を尻目に、誰にも見つかりませんように!ってそそくさしながら奥の方へ歩いていったんです。
どうしてその林道を知ってるのかっていうと昔、子供の頃に家族でドライブをした時に訪れたのが、林道の先にある海水浴場だったからです。
手前の海水浴場程では無いものの、簡易的に整備された海岸があったので、とりあえずそこを目指そうと決めました。
今はどうなっているんだろう?という興味がその時自分の中に溢れました。
というのも、例の超震災の津波被害の件なんですよ。
自分の住んでいた地域は、震源から遠く離れた所にあったんですけど、それでも数メートルの津波が押し寄せました。
手前の海水浴場は改修工事をしたというのは知っていたんですが、その奥の海水浴場の被災状況が分からなかったんです。
そうなると俄然思い出の確認の方が、怖いもの見たさよりも上回りました。その時は変な人は居ても居なくてもいいから、それをきっかけに散歩に来た事にしてもイイんじゃないか?なんて思ったんです。
林道は昔よりも明らかにボコボコになっていて、自転車を持って来なくて正解と思いながら歩き続けました。でも車で走るより距離の印象が違って結構歩いちゃったんですけど。
Nさんが数年振りに訪れた海水浴場。ですがそこにはもう既に災害によって、異質な雰囲気が漂っていました。
歩いていると平坦な草むらがあったので、あれ?ここかな?と思い足を止めました。そこはかつて数台しか停められない海水浴場の未舗装駐車場でした。記憶の片隅に、ここで車内に入って来たアブをドア全部全開にして家族総出で追い出した記憶が甦ってきたんです。
周囲を見渡すと海岸へ向かう遊歩道の跡らしき所もありました。
丸太を五本、傾斜地に埋めて作った申し訳程度の階段の内の真ん中の一本が、津波に流されたのかそのままになっていました。
その遊歩道は石が散乱していて見た目は完全に枯れ沢のようでした。海岸までは二~三百メートル程あったんですけど、妙に磯臭い甘い匂いが漂ってて。しかも茂みから熊が出て来そう!とビクビクしてたんですけど、大人になってからあそこの岬に熊は居ないと会社の先輩に聞きました。後になって安心しても?って感じなんですけど、熊もあれもどっちもどっちですよ。
そうしたら見えたんです。黒い髪と肌色が。
海岸の波打ち際、砂利浜なんですけどそこから五メートルくらいの所でしょうかね?本当に誰かが裸で寝てるように見えるんですよ。
一瞬ビックリしたんですけど?すごい違和感があって。
横たわる人影。Nさんは違和感の正体を解明すべく歩を進めます。
十メートルくらいでしょうか?恐る恐る近付いて良く見たら人じゃない。肌色と黒い何かが混ざった肉片?なんですよね?確かに遠目で見ればギリギリ人に見えるな?っていう形だったんですけど。なんていうか、そうですね?無造作に噛み跡の付いたガムみたいな気持ち悪い物体だったんです。
その時突風が陸側からブオオって吹いたのでそれから目を逸らしました。それで海の方を偶然向いた時にアレ?って思って···
最初は何か、直径三十メートル位の円になったロープが浮かんでいるように見えました。それで、ああ!漁師さん達の使う漂流しちゃった漁具とか網とかかな~?なんて思ってたんですけど、なんか遠目でもロープにトゲがあるようにも見えて。編み込んだロープに挟んだ仕掛け?と考えてた時に、···声がしたんです。
なんかゲボゲボとか、オゴゴとか、ちょっと前に見た口のロボットに喋らせてみるって動画で聞いた変な声に似てました。絶対その肉片から聞こえた!と思ってたら、その肉片がビタン!と跳ねたんです。その時点で作り物説は自分の中では消えていました。
その時Nさんは、遠目で人に見える肉片の更なる異常に気付きました。海上に浮かぶ物体にも異常が起きます。
跳ねた事でわかったんですけど、肉片からクラゲの体のような質感の透明っぽい管が海中に向かって延びているのに気付きました。そうしたら今度はロープが浮かんでた方から、ガポッって水の溢れるような明らかに波の音じゃない音がして、その時やっと背筋が寒くなって···もう正体とかどうでも良くなったんです。あれが勘、ってヤツなんですね?
膝も腰もゆるゆるで、抜けそうになりながら枯れ沢の道に戻ろうとしました。
そうこうしてたら後ろでビドン!とかガラガラとか、重くて柔らかいものが玉砂利の上に落ちる音がしたんです。
Nさんが振り返ると、先程の肉片が三メートル後ろに落ちていました。
もう本当にゾーー!っとしちゃって!多分ですけど、体当たり?のつもりだったんでしょうね?
ビックリして目が離せないでいたらズルッ!ってそれが海側に引っ張られていくんですよ。なんとなく、もう一回来る為の引き?って思って。そしたら変なロープが浮かんでた所を見たら何かが居たんです。
蓋が無く、細かいキバのあるウツボカズラの口みたいなのが、海中から一メートルくらい海上に飛び出してて、ゴボッて大量の海水を吐き出した瞬間を見ちゃったんですよ。
もう駄目だと思って全力で林道に向かって走りました。幸いというかその後は何も無くて。
壊れた階段の所で暫くへたり込んで息を整えていました。
そんな落ち着きを取り戻そうとしているNさんの元へ誰かがやって来ました。
友人のRがニヤニヤしながら自分を見付けて近寄って来ました。なんか、来てたのかよ?とかなんとか茶化してきたんですけど、もう!もう!逃げるぞ!と!
自分があまりに必死なのでそこはさすが友人。深く理由も聞かずに真面目な雰囲気になって一緒に戻ってくれました。
それで、林道を半分くらい戻った所で、前の方から車の音が聞こえて来たんです。
なんか、上手く言えないんですけど、その時は誰にも見つかりたく無くて···
Nさん達は咄嗟に、林道の脇の藪に姿を隠しました。
やって来た車は三台でした。林道を続け様に土埃を上げて走り抜けて行くと思ってたんですけど···
最後の一台が停車してしばらく動かないんですよ。コソコソしてたせいか、自分達が居るのバレた?って心臓バクバクで息を殺してたんですけど、十秒くらいしたら発車してその車は居なくなりました。
藪の隙間から見えた車体にはアルファベットでFとかPとかってマークがあったと思うんですけど、どういった人達だったのかまでは分かりませんでした。
Rは最初、なんで隠れるんだ?って言ってたんですけど、その後は帰るまで黙っていましたね。
でもなんか、普通の思い出が変な思い出に上書きされちゃったみたいで、モヤモヤばっかりが残っちゃいました···っていう話です。
その後、何事も無く過ごしていたというNさん。私とのお話がきっかけで今度またその海岸ギリギリまで行ってみようかな?と仰っていましたが、大丈夫でしょうか?
“彼女„、の出来が上がっていなければいいんですが?
ふふ、ふふふ······
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