くのこは奇妙現象集

芋多可 石行

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冷 蔵 庫

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 怖い夢の話。

 怖い夢と一概に申しましても、キリが無いと思われるかもしれません。
 ですが今回の体験者が夢で見た存在と思われる生物は、こちらでアーカイブさせて頂いている一部の体験談に度々登場する生物と同一の存在である可能性が高く、我々にとって非常に興味深いお話でありますのでご紹介致しましょう。


 

 女の人になった夢を見たんですけど、そのシチュエーションが不気味で······


 そう話すのは少し前まで国防のお仕事をされていたという男性、Sさん。


 なんかありましたよね?リアル過ぎる夢の名前?、自分忘れちゃったんですけど。最初は、えーとですね?なんか自分、白衣を着た研究員の女性になってたんですよ。どういう研究をしてた人なのかは後でなんとなく分かるんですけど。
 なんか所々リアルな質感の夢で、書類を引き出しから取るとか、棚に並んだ器材とかの印象がやたらリアルで、かと言ってリアルな夢のように全てを自由に意思決定出来る訳でも無い変な感じでした。
 それでですね···その研究室みたいな所で夜に仕事をしていたら同室の男の研究員がツカツカ後ろに来て、肩に手を置かれたんです。で、今からその女性を私さんて呼びますけど、私さんもえ?え?ってなりますよね?で!大人なら分かると思うんですけどセクハラのその先の予感が押し寄せて来ましてね?まぁ、男の感覚で自分もそんな趣味も無いし、私さんは単純にイヤだし、嫌悪感が二重にシンクロ?ですか?しちゃいまして、その研究室みたいな所を飛び出したんですよ。


 研究室を飛び出した私さん。夢であるにも関わらず、その先で実感を伴うイメージが私さんを通してSさんの意識に介入します。


 廊下を小走りで進んでいると、廊下の照明が消されました。そん時、もぉゾッとして!女性ってあんなに繊細なんですね?多分そうだと思うんですけど?
 で、向こうから男研究員が何か開き直った事を叫びながら追って来たのかな?なんかよく聞こえ無かったんですけど、姿は見えないだけでオレハオレハとか、支離滅裂な事を叫んでたような気がします。
 それで!暗い廊下で足音が向かった先を特定されないように、ヒールを脱いで手に持って、ビニールゴムの床をストッキングの足の裏のサラサラ摺り足で音が出ないように滑って歩いた感覚がやたらリアルで!男だったら多分経験する事が無い状況ですよね?私さん、研究の仕事してるだけあって頭イイ!とかとも思ってましたし。


 異常な行動を始めた同僚の男性から逃れる私さん。階下に向かった私さんが向かった先にあったものとは?


 廊下の窓から差し込む月明かりで目が暗闇に慣れた頃でしょうか?階段を見つけて、下に逃げようとして初めて数階建ての建物だという事に気が付きました。その時にですね?···なんか学校みたいな建物だなって思ってたんですよ。
 階段を降りて行くとなんとなく男研究員の気配が遠ざかった気がしたのでスパートを掛ける為に一気に一階を目指しました。
 一階に降りた自分···いや、私さんは絶望しました。階段一階の出入口の防火扉が閉じてるんですよ。開けたら多分大きな音が鳴るのが予想できますよね?男研究員に気付かれる!って扉に触れる事も躊躇われて、戻るのもヤバイので、それで困って周囲を見渡したら···


 閉じられた一階の階段フロア。私さんは更に地下へと降りる階段を発見しました。


 気が付いたら吸い寄せられるようにその地下への階段を降りていました。地下になんて行ったら追い詰められるのが確定的だとは思うんですけど。何故か男研究員はここまで来ないって考えがあったんです。
 地下一階、二階、三階も防火扉が閉まっていました。ループでもしているんじゃないかと思うくらい同じ作りで不気味だったんですけど、幸い?でも無いんでしょうが地下三階から下の階段は無かったんですよ。
 その代わりに階段の下、わかりますよね?本当に最後の階段の下、よく物置になってるような所なんですけど、そこがほのかに明るい。
 私さんは光源に近寄って行くんですね?そこにビーカーとかフラスコとか稼働中の電子機器みたいなのがあってですね?電子機器がジーーって耳障りな音を出し続けてたんです。そこで私さんが何か言ったんですよ。
「○○○!どうしてこんな!?」
 ○○○ほにゃららの所は良く覚えて無いんですけど、視線の先には冷蔵庫みたいな機器がありました。内部が結露した縦長長方形の覗き窓があって薄緑の光がそこから漏れていました。


 不気味な冷蔵庫を発見した私さんは、その中に居た存在に対して何故か強烈な畏怖のような感情をいだいていったと言います。


 冷蔵庫の様子を見ていると一人でに扉がガパッと開きました。手は一切触れていません。その時、私さんの様子が明らかにおかしくなりました。
 冷蔵庫内部の中段に全身深緑色の乳児のような小さい子供でしょうかね?アレ。そんなのが横たわっていたんです。大きめの薄い一枚のガーゼを折って敷き布団と掛け布団がわりにしていたのをはっきり覚えてます。
 私さんはその時、奇妙な思考をしていたんですよ。例えば怖い!とは思っているんですけど、怖がっているのをこの存在に知られてはいけない!とも強く思っていました。

 そしてそれがムクッと起き上がりました。手を全く使わず腹筋だけで起きたんでしょうね?あの動き。それでクルッと首を回して私さんの方を見るんですよ。庫内灯の光が逆光になって顔は良く見えないんですけど。うっすら大きな目が二つギョロっとしてこっちを···私さんを見てましたね。
 その時になって、覗き窓から漏れていた薄緑色の光はこの子に反射した普通の光源だったんだなぁ?と思ってたら、それが私さんに質問したんですよ。
「もう起きてもいいの?」
 赤ちゃんぽく無い、普通の少年の声でした。私さんはその質問で畏怖···?いや!普通に怖い?ですね?、恐怖がピークに達したんですけど、可能な限り優しく、恐れているように感じさせないようにゆっくりと返答しました。
「大丈夫よ?まだ寝てていいのよ?大丈夫、まだまだですからね?ね?」
「·········」
 ソイツは一瞬黙って···
「···うん、わかった」
 と言うな否やバタン!と冷蔵庫の扉がイライラをぶつけるかのように強く閉じられたんですよ。その瞬間冷蔵庫内の照明も電子機器のディスプレイもフッと消えて全てがブラックアウト、この夢は終わりました。
 後で思ったんですけど。私さんは冷蔵庫の変な子供の事を知ってたんじゃないかな?って感じたんです。その記憶にまでは踏み込めなかったんですけどね?
 まぁ、オチとか無いんですけど?


 Sさんはこの夢に対して、前世の記憶説、誰かの記憶に互いに介入説、誰かの記憶が流れ込んで来た説など、持論や仮説などを交えて語られました。
 お礼の景品を受け取り、挨拶をして席を立ち上がるSさんの仕草は、こちらにおでになった時よりも明らかに女性的な印象を受けました。

 私さんがあちらでこちらを観測していなければいいんですが?

 フフ···フフフフ······













 
 
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