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第二章【青梅雨のアーチをくぐり抜け】
席替えと共に
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次の日、日が昇って少ししてから起き出して、薄力粉で生地を作って小豆を煮た。
今から無添加の饅頭を作る。
巡はあれで食べるのが好きだ。
季節どころか天気すら肌で感じることのできないあの場所で、食だけが唯一の変化だからなのかもしれない。
そして真詞は料理が得意な方だ。
特にお菓子作りが好きで、十歳離れた姉と二人、バレンタインデーなどはワイワイとクッキーを焼いたりしたものだ。
巡は甘味も好きだと言っていたから、今回も反応を見るのが楽しみだ。
いつも必ず目の前で食べてくれるし感想をもらえるから、最近は自分のために作っている部分があるような気もしている。
蒸している間に小ぶりの鮭を焼いて、卵焼きと冷凍のミートボール、両親が冷蔵庫に入れてくれている常備菜を適当に弁当箱へ詰める。
作るのが好きな割には、真詞自身は余り食べ物にこだわりがない。
「よし。いい感じだな」
蒸し器の蓋を取ると、ふっくら熱々の饅頭が出来上がっていた。
時計を見れば、もう家を出る時間だ。粗熱を取るのは諦めて保冷材と一緒にリュックに詰め込み、急いで学校へ向かった。
「今日は今から席替えするぞー」
ホームルームでの突然の担任の宣言に教室がざわめく。
「何で今?」
「しないのかと思ってた……」
「するタイミングが適当すぎ」
「よーし。雑談そこまでー。今までしなくて悪かったな。すっかり忘れてたんだ。だから今からする」
賛否両論飛び交う中を一刀両断すると、担任がパソコンを取り出して前の方の席の奴らに画面を見せた。
「じゃ、ここ押したら席替え完了だからなー。お前ら見とけよ、三、二、一っと」
そうして遠目からは分からないけど、画面が切り替わったようだった。
「おし、じゃ、この席順でプリントアウトしとくから、昼休みにでも席動かしとけ」
「え、軽」
「ほんとにな」
前の席の山岸が振り向いて話しかけてくるのに同意する。
担任はどうやら、人によっては冗談抜きで運命を左右する席替えという一大イベントを、パソコンのソフトで一瞬にして決めてしまったらしい。
別にロマンとかは求めていないけど、あっさりし過ぎていて真詞でさえ置いてけぼりだ。
その間も、担任はサクサクと窓際に置いていたプリンターからプリントアウトした席替え表をホワイトボードの左隅に貼ってしまった。
ブーイングが出る暇もない。せめてスクリーンに映し出して全員に見せるくらいの手間はかけて欲しいと思ってしまう。
「たなこーって意外に押し強えの?」
「そうかもな」
“たなこー”とは担任の愛称だ。田中浩平(たなかこうへい)と先公をかけて、いつの間にか“たなこー”が定着した。多分、誰かが先輩から仕入れて来たんだろう。
「山岸、見える?」
「いや、無理だろ。あのサイズじゃ」
「だよな……。ま、仕方ない。またな、山岸」
「お前も軽い! 移動したくねぇー!」
五十音順に並んで座っていたから、真詞は窓際の一番後ろ。山岸もその前という素晴らしい席から移動することがほぼ確定してしまった瞬間だった。
「渡辺真詞くん」
机を移動し終えてすぐにフルネームで呼びかけてきたのは、焦げ茶色のくせ毛に細いフレームの眼鏡、新入生代表をしていた日柴喜輝一郎(ひしき きいちろう)だった。
彼は真詞のすぐ後ろの席になった。場所は廊下側から三列目。後ろから三番目だ。どちらかと言うと中央に近い席だ。
「ちゃんと話すのは初めてだよな? よろしく」
「ああ、よろしく」
「なあ、渡辺クン。それはどうしたんだ?」
日柴喜が真詞を指差して笑いながら聞いてきた。
笑っている。確かに笑っているのに、真詞は何だか背筋が寒く感じた。
「それ、って……?」
指差されている辺りを見てみても、特に変な所は見当たらない。
「自覚あるだろ? あれ、見えてるんだから」
そう言って輝一郎が教室の隅を見る。
微かに目を見開く。本当はのけ反って驚きたいくらいの気分だったけど、全力で表面に出すのを我慢した。
彼が見た辺りには、黄緑色の細長いモノがいる。
でも、もしこれで何かの冗談や何かだったりしたら墓穴を掘ることになる。真詞は必死に取り繕う。
「何のはな」
「やっぱり見えてるんだな。あそこにいるのは、元々は小動物だったモノだな。君にどう見えているのか聞いてもいいか?」
「お前にも、見えてるのか……?」
「ああ。詳しく話をしたい。昼休み、いいか?」
そう誘われて、否と答える選択肢はなかった。
昼休みになって、山岸たちに適当な理由をつけて教室を出ると、輝一郎とやってきたのは屋上だった。
ドアを開けた瞬間は「へぇ……」とつい声が出てしまった。
六月も終わりに近づき、広い空には青空が広がっている。
ドラマや漫画で見たことはあるけど、予想していたよりも広いのが良い意味で裏切られた点だった。
これで生徒の出入りが自由なら言う事なしだ。
そうなのだ。屋上は生徒の立ち入り禁止なのに何で入ることができているのかと言うと、当然輝一郎のお陰だった。
新入生代表はそんなことも許されるのだろうか。
ここに来る間、輝一郎は気さくに話しかけてくれた。でも、教室棟から特別教室棟へ向かい、更に人気のない最上階へ足を向けたときには流石に気を引き締めざるを得なかった。
あんな話の後で、来たこともない場所へ連れ出されれば警戒もするというものだ。
「それで? 話ってなんだ?」
屋上には先に入ってもらい、距離を開けて問いかけた。扉は背中のすぐ後ろだ。いざとなったらさっさと逃げればいい。
今まで、態度の悪さや逆恨みなどで絡まれたりした経験はある。でも、そのどれもを勘と運の良さで乗り切ってきたのだ。
つまり喧嘩は余り強くない。しかも日柴喜は背が高く精悍だ。何かされても勝てる気がしなかった。
「そんなに警戒しないでくれ。何かするならもっと違う方法を取るさ」
輝一郎が面白そうな顔で真詞を見る。こちらの考えなどお見通しなのだろう。
彼の両手はズボンのポケットに入っていて手を出す気はありませんよとアピールしているけど、どうにも逃げられる気がしない。
「え……?」
しっかりと観察していたからだろうか。そのとき初めて、ここに何もいないことに気付いた。
何ものいないのだ。どこにだって、誰にだって何かしらはくっ付いていたのに、輝一郎の周りどころかこの屋上自体に何もいない。
「ああ、気付いたか? 君、やっぱりかなり目がいいんだな」
「え……」
「俺も君と同じなんだ」
そう言うと、輝一郎はそっと眼鏡を外して何かをした。
何をしたのかは真詞には分からなかった。ただ、輝一郎の両目が真っ赤に輝いて雰囲気が明らかに変わったこと、急激に周囲の空気が重くなったことだけは分かった。
この空気の前では、自分など小動物だ。そう思わされるほどに重いものだった。
そして――。
「なっ……!」
「彼らを同業者以外に見せるのは初めてだな。こっちが水浅葱(みずあさぎ)、こっちが呂色(ろいろ)。オレの唯神(ゆいかみ)だよ」
輝一郎の紹介と同時に、その場に人が増えたのだ。
透き通った水色の長い髪をしている優男と、黒髪のおかっぱをした振袖の子がこちらを向いていた。
二人とも突然現れた。今まで誰もいなかった空間に忽然と。しかも空に浮かんでいる。
「ゆいかみ……?」
「そうだな、式神みたいなものだと言えば通じるか?」
「ああ……。そういうのって、本当にいるんだな……」
もうどこから話をすればいいのか分からない。呆気に取られて輝一郎のペースに乗っかっていると、不意に真面目な顔をされた。
「さて」
「日柴喜?」
「俺は手札を見せた。今度はそっちの番だ。――その祝福について聞きたい」
「……祝福?」
言葉の意味は分かるものの、恐らく知っている意味とは違うだろうから、ただただオウム返しした。
「……? もしかして祝福を知らないのか……?」
「そ、のままの意味じゃないんだろ?」
訝し気な顔をされたので、何となく焦って返す。バカだと思われるのは心外だ。
「それだけの目に耳もか? を持っていて知らないのも不思議な話だが……。渡辺クンが今、体に纏っている力を俺たちは祝福と呼んでいる。……本当に知らないのか?」
「力って……」
思い当たるのは巡のおまじないのことだ。
少しだけ真詞を守ってくれると言われた力。確かに『祝福』だと言われればそうなのかもしれないけど、輝一郎が言っているのがそのことなのかは分からない。
「なぁ、渡辺クン。俺は、それを君に贈ったモノに予想が付いているんだ」
それなりに友好的だった輝一郎が、突然探るような鋭い眼差しを向けて来た。変わりぶりに驚いて微かにのけ反る。
「予想、って……?」
「多分、話すより見せた方が早い。そうだな、今日これからサボれるか?」
「は、ぁ? 何言い出すんだよ、いきなり」
まだ昼休みで、何より優等生であるはずの輝一郎にサラッとサボりを誘われて顔を顰めた。
「無理か? なら明日の土曜日はどうだ? 放課後は会いに行くんだろう? その祝福の相手に」
話の勢いのままに数度頷く。
輝一郎は一方的に待ち合わせ場所と時間を告げると「じゃあ明日な」と爽やか扉を潜って出て行った。
ずっと無言で両端に控えていた唯神の二柱が何か言いたそうに振り返りながら彼に付いて行く。
余りの情報量に、一人屋上に残されて真詞は呆然と扉を眺めることしかできなかった。
今から無添加の饅頭を作る。
巡はあれで食べるのが好きだ。
季節どころか天気すら肌で感じることのできないあの場所で、食だけが唯一の変化だからなのかもしれない。
そして真詞は料理が得意な方だ。
特にお菓子作りが好きで、十歳離れた姉と二人、バレンタインデーなどはワイワイとクッキーを焼いたりしたものだ。
巡は甘味も好きだと言っていたから、今回も反応を見るのが楽しみだ。
いつも必ず目の前で食べてくれるし感想をもらえるから、最近は自分のために作っている部分があるような気もしている。
蒸している間に小ぶりの鮭を焼いて、卵焼きと冷凍のミートボール、両親が冷蔵庫に入れてくれている常備菜を適当に弁当箱へ詰める。
作るのが好きな割には、真詞自身は余り食べ物にこだわりがない。
「よし。いい感じだな」
蒸し器の蓋を取ると、ふっくら熱々の饅頭が出来上がっていた。
時計を見れば、もう家を出る時間だ。粗熱を取るのは諦めて保冷材と一緒にリュックに詰め込み、急いで学校へ向かった。
「今日は今から席替えするぞー」
ホームルームでの突然の担任の宣言に教室がざわめく。
「何で今?」
「しないのかと思ってた……」
「するタイミングが適当すぎ」
「よーし。雑談そこまでー。今までしなくて悪かったな。すっかり忘れてたんだ。だから今からする」
賛否両論飛び交う中を一刀両断すると、担任がパソコンを取り出して前の方の席の奴らに画面を見せた。
「じゃ、ここ押したら席替え完了だからなー。お前ら見とけよ、三、二、一っと」
そうして遠目からは分からないけど、画面が切り替わったようだった。
「おし、じゃ、この席順でプリントアウトしとくから、昼休みにでも席動かしとけ」
「え、軽」
「ほんとにな」
前の席の山岸が振り向いて話しかけてくるのに同意する。
担任はどうやら、人によっては冗談抜きで運命を左右する席替えという一大イベントを、パソコンのソフトで一瞬にして決めてしまったらしい。
別にロマンとかは求めていないけど、あっさりし過ぎていて真詞でさえ置いてけぼりだ。
その間も、担任はサクサクと窓際に置いていたプリンターからプリントアウトした席替え表をホワイトボードの左隅に貼ってしまった。
ブーイングが出る暇もない。せめてスクリーンに映し出して全員に見せるくらいの手間はかけて欲しいと思ってしまう。
「たなこーって意外に押し強えの?」
「そうかもな」
“たなこー”とは担任の愛称だ。田中浩平(たなかこうへい)と先公をかけて、いつの間にか“たなこー”が定着した。多分、誰かが先輩から仕入れて来たんだろう。
「山岸、見える?」
「いや、無理だろ。あのサイズじゃ」
「だよな……。ま、仕方ない。またな、山岸」
「お前も軽い! 移動したくねぇー!」
五十音順に並んで座っていたから、真詞は窓際の一番後ろ。山岸もその前という素晴らしい席から移動することがほぼ確定してしまった瞬間だった。
「渡辺真詞くん」
机を移動し終えてすぐにフルネームで呼びかけてきたのは、焦げ茶色のくせ毛に細いフレームの眼鏡、新入生代表をしていた日柴喜輝一郎(ひしき きいちろう)だった。
彼は真詞のすぐ後ろの席になった。場所は廊下側から三列目。後ろから三番目だ。どちらかと言うと中央に近い席だ。
「ちゃんと話すのは初めてだよな? よろしく」
「ああ、よろしく」
「なあ、渡辺クン。それはどうしたんだ?」
日柴喜が真詞を指差して笑いながら聞いてきた。
笑っている。確かに笑っているのに、真詞は何だか背筋が寒く感じた。
「それ、って……?」
指差されている辺りを見てみても、特に変な所は見当たらない。
「自覚あるだろ? あれ、見えてるんだから」
そう言って輝一郎が教室の隅を見る。
微かに目を見開く。本当はのけ反って驚きたいくらいの気分だったけど、全力で表面に出すのを我慢した。
彼が見た辺りには、黄緑色の細長いモノがいる。
でも、もしこれで何かの冗談や何かだったりしたら墓穴を掘ることになる。真詞は必死に取り繕う。
「何のはな」
「やっぱり見えてるんだな。あそこにいるのは、元々は小動物だったモノだな。君にどう見えているのか聞いてもいいか?」
「お前にも、見えてるのか……?」
「ああ。詳しく話をしたい。昼休み、いいか?」
そう誘われて、否と答える選択肢はなかった。
昼休みになって、山岸たちに適当な理由をつけて教室を出ると、輝一郎とやってきたのは屋上だった。
ドアを開けた瞬間は「へぇ……」とつい声が出てしまった。
六月も終わりに近づき、広い空には青空が広がっている。
ドラマや漫画で見たことはあるけど、予想していたよりも広いのが良い意味で裏切られた点だった。
これで生徒の出入りが自由なら言う事なしだ。
そうなのだ。屋上は生徒の立ち入り禁止なのに何で入ることができているのかと言うと、当然輝一郎のお陰だった。
新入生代表はそんなことも許されるのだろうか。
ここに来る間、輝一郎は気さくに話しかけてくれた。でも、教室棟から特別教室棟へ向かい、更に人気のない最上階へ足を向けたときには流石に気を引き締めざるを得なかった。
あんな話の後で、来たこともない場所へ連れ出されれば警戒もするというものだ。
「それで? 話ってなんだ?」
屋上には先に入ってもらい、距離を開けて問いかけた。扉は背中のすぐ後ろだ。いざとなったらさっさと逃げればいい。
今まで、態度の悪さや逆恨みなどで絡まれたりした経験はある。でも、そのどれもを勘と運の良さで乗り切ってきたのだ。
つまり喧嘩は余り強くない。しかも日柴喜は背が高く精悍だ。何かされても勝てる気がしなかった。
「そんなに警戒しないでくれ。何かするならもっと違う方法を取るさ」
輝一郎が面白そうな顔で真詞を見る。こちらの考えなどお見通しなのだろう。
彼の両手はズボンのポケットに入っていて手を出す気はありませんよとアピールしているけど、どうにも逃げられる気がしない。
「え……?」
しっかりと観察していたからだろうか。そのとき初めて、ここに何もいないことに気付いた。
何ものいないのだ。どこにだって、誰にだって何かしらはくっ付いていたのに、輝一郎の周りどころかこの屋上自体に何もいない。
「ああ、気付いたか? 君、やっぱりかなり目がいいんだな」
「え……」
「俺も君と同じなんだ」
そう言うと、輝一郎はそっと眼鏡を外して何かをした。
何をしたのかは真詞には分からなかった。ただ、輝一郎の両目が真っ赤に輝いて雰囲気が明らかに変わったこと、急激に周囲の空気が重くなったことだけは分かった。
この空気の前では、自分など小動物だ。そう思わされるほどに重いものだった。
そして――。
「なっ……!」
「彼らを同業者以外に見せるのは初めてだな。こっちが水浅葱(みずあさぎ)、こっちが呂色(ろいろ)。オレの唯神(ゆいかみ)だよ」
輝一郎の紹介と同時に、その場に人が増えたのだ。
透き通った水色の長い髪をしている優男と、黒髪のおかっぱをした振袖の子がこちらを向いていた。
二人とも突然現れた。今まで誰もいなかった空間に忽然と。しかも空に浮かんでいる。
「ゆいかみ……?」
「そうだな、式神みたいなものだと言えば通じるか?」
「ああ……。そういうのって、本当にいるんだな……」
もうどこから話をすればいいのか分からない。呆気に取られて輝一郎のペースに乗っかっていると、不意に真面目な顔をされた。
「さて」
「日柴喜?」
「俺は手札を見せた。今度はそっちの番だ。――その祝福について聞きたい」
「……祝福?」
言葉の意味は分かるものの、恐らく知っている意味とは違うだろうから、ただただオウム返しした。
「……? もしかして祝福を知らないのか……?」
「そ、のままの意味じゃないんだろ?」
訝し気な顔をされたので、何となく焦って返す。バカだと思われるのは心外だ。
「それだけの目に耳もか? を持っていて知らないのも不思議な話だが……。渡辺クンが今、体に纏っている力を俺たちは祝福と呼んでいる。……本当に知らないのか?」
「力って……」
思い当たるのは巡のおまじないのことだ。
少しだけ真詞を守ってくれると言われた力。確かに『祝福』だと言われればそうなのかもしれないけど、輝一郎が言っているのがそのことなのかは分からない。
「なぁ、渡辺クン。俺は、それを君に贈ったモノに予想が付いているんだ」
それなりに友好的だった輝一郎が、突然探るような鋭い眼差しを向けて来た。変わりぶりに驚いて微かにのけ反る。
「予想、って……?」
「多分、話すより見せた方が早い。そうだな、今日これからサボれるか?」
「は、ぁ? 何言い出すんだよ、いきなり」
まだ昼休みで、何より優等生であるはずの輝一郎にサラッとサボりを誘われて顔を顰めた。
「無理か? なら明日の土曜日はどうだ? 放課後は会いに行くんだろう? その祝福の相手に」
話の勢いのままに数度頷く。
輝一郎は一方的に待ち合わせ場所と時間を告げると「じゃあ明日な」と爽やか扉を潜って出て行った。
ずっと無言で両端に控えていた唯神の二柱が何か言いたそうに振り返りながら彼に付いて行く。
余りの情報量に、一人屋上に残されて真詞は呆然と扉を眺めることしかできなかった。
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