a life of mine ~この道を歩む~

野々乃ぞみ

文字の大きさ
15 / 89
【第一部】二章 友情なんて簡単な言葉じゃ説明できない

十五、推しを生で見た感動

しおりを挟む
 報告は上がっていたし写し絵も見ていたけど、この目で見るのは初めてだ。
 感動で胸から湧き上がるものがある。
 なるほど、これが推しを見たときの感情なのかもしれない。

「グロリアスの……?」

 表面上は驚いた素振りを見せた。最近、少し表情筋が動くようになった気がする。

「はい。偶然、彼はグロリアスの一番を起動しました」
「僕と変わらない歳に見えますが……」
「はい、エドと同じ歳です」
「そうですか」

 話している間も僕たちの視線はイアンに集中している。
 彼はまだ荒削りながらも、対峙している兵士に見事な打ち込みを入れている。主人公なだけあってポテンシャルが高い。

「ただの少年に見えますね。センスは悪くないようですが」
「エド! イアンはすごいのですよ! 剣を握ってまだひと月も経っていないのに、もう一般兵に引けを取らない動きをしているのです!」 

 フルーリア王女が頬をバラ色に染めて、イアンがいかにすごいかを力強くアピールする。
 褒めたつもりはなかったのだけど、恋する乙女には関係なかったようだ。

「確かに動きがいいですよね。相手の動きを読むだけの余裕もあるようです」

 本心ではないだろうけど、ブライトルもイアンを褒める。
 横目で彼の顔を見ると、僕に見せる意地の悪い目をしていた。王女殿下がイアンばかり見ているからか、随分余裕があるようだ。
 手合わせしていた兵士が下がると今度は奥から精悍な男が現れた。あれはニュドニア国軍第三師団の師団長だ。イアンの最初の師匠となる人。

「あれは……」
「第三師団長ですね。彼もイアンを買ってくれています」
「本当に優秀なのですね」

 フルーリア王女には悪いけど、返事が多少おざなりになってしまっているのは許して欲しい。つい意識が前のめりになる。こんな所で二人の手合わせを見られるとは思っていなかった。
 これは多分二人の二回目の手合わせだ。一回目は描写されていたけど、二回目は話に上がっていただけで詳しく何があったか分からない。でも師団長がイアンを自分の子供のように可愛がるきっかけになる瞬間だった。
 できる限り見落としがないように中庭を見下ろす。
 モクトスタは装備していない。無い状態での動きを見るためだろう。
 始まったと同時にイアンが飛び上がり、真っすぐ振り下ろした剣を師団長が軽く横に弾く。でも、イアンは諦めずに全身の筋肉を使って空中で体勢を整えた。

「へぇ!」

 流石のブライトルも感心したのか楽しそうな声を上げる。
 イアンは、さっきと同じような軌道で剣を振り下ろした。せっかく立て直したのに、また捻りの少ない真っすぐな攻撃をしようとしている。
 それじゃあ師団長には敵わないだろう。この場の全員がそう思った。
 その瞬間、イアンは剣を手放した!

「えっ!」

 王女殿下の口から声が漏れる。
 僕もブライトルもバルコニーに半歩近づいた。
 イアンは振り下ろした勢いを両手に込めて、師団長の肩を思い切り押す。まるで跳び箱の要領で巨体を越えると、剣を弾こうとした師団長の体が前につんのめった。
 そのままバランスを崩した襟首を掴んで、重力に従って落ちるままに師団長の体を引きずり倒した。
 ダァン!
 地面にぶつかる大きな音と共に、師団長は大の字で空を仰いでいた。

「彼、すごいね」

 声が出たのはブライトルだけだ。
 フルーリア王女は頬を染めて両手で口元を覆っているし、僕は僕で表情に出さないようにするので精一杯だったからだ。
 すごい。
 その一言だ。あの場であれだけの判断ができる才能。やっぱり彼は主人公だ!

 食い入るようにイアンを見つめていると、不意に横から視線を感じて顔を上げた。
 王女殿下はイアン以外目に入っていない。見ているのはブライトルだった。
 無表情で僕を見ていた。王女殿下もいるのに取り繕わないなんて珍しい。

「ブライトル殿下?」
「ん? ああ、随分熱心に見つめているなと思ってね」

 満面の笑みだ。今となっては裏があるとしか思えない見事な笑み。
 何か言いたかったのかもしれない。僕には関係ないけど。

 イアンは師団長に頭を力強く撫でられている。
 そこまで見ると、フルーリア王女が背筋を整えて僕らへ振り返った。

「エド、イアンは来週から学園へ通います」
「噂になっています。彼のことだったのですね」
「彼のことを、よろしくお願いいたします」

 小さな両手を胸の前で強く握ってジッと見つめられる。これは、相手が王女殿下じゃなくても断れない。
 安心させるためにできるだけ表情を柔らかくする努力をした。深く腰を折る。

「承知いたしました。フルーリア王女殿下」
「ありがとうございます。エドマンド」
「微力ながら、私もお手伝いしますよ。フルーリア王女殿下」
「ブライトル殿下……。よろしいのですか?」
「お気になさらず。これでグロリアスの研究が進みますね」
「ふふ、そうですね。では、お二人とも。未来の英雄のため、どうぞお力をお貸しください」
「承知いたしました」

 ブライトルと二人、声を揃える。

「ありがとうございました!」

 中庭からはイアンの元気な声が聞こえる。訓練が終わったのだろう。こちらを見上げて王女殿下に明るく微笑みかけている。
 後ろに立つ僕らに軽く頭を下げると、師団長と共にその場を後にする。
 暫くの間、彼は家族と一緒に王城の使用人エリアで生活するそうだ。
 見上げた空は日が落ちかけて、明るさを増す月の隣で一番星が光っていた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

お言葉ですが今さらです

MIRICO
ファンタジー
アンリエットは祖父であるスファルツ国王に呼び出されると、いきなり用無しになったから出て行けと言われた。 次の王となるはずだった伯父が行方不明となり後継者がいなくなってしまったため、隣国に嫁いだ母親の反対を押し切りアンリエットに後継者となるべく多くを押し付けてきたのに、今更用無しだとは。 しかも、幼い頃に婚約者となったエダンとの婚約破棄も決まっていた。呆然としたアンリエットの後ろで、エダンが女性をエスコートしてやってきた。 アンリエットに継承権がなくなり用無しになれば、エダンに利などない。あれだけ早く結婚したいと言っていたのに、本物の王女が見つかれば、アンリエットとの婚約など簡単に解消してしまうのだ。 失意の中、アンリエットは一人両親のいる国に戻り、アンリエットは新しい生活を過ごすことになる。 そんな中、悪漢に襲われそうになったアンリエットを助ける男がいた。その男がこの国の王子だとは。その上、王子のもとで働くことになり。 お気に入り、ご感想等ありがとうございます。ネタバレ等ありますので、返信控えさせていただく場合があります。 内容が恋愛よりファンタジー多めになったので、ファンタジーに変更しました。 他社サイト様投稿済み。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

【16話完結】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /チャッピー AI比較企画作品

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

優秀な婚約者が去った後の世界

月樹《つき》
BL
公爵令嬢パトリシアは婚約者である王太子ラファエル様に会った瞬間、前世の記憶を思い出した。そして、ここが前世の自分が読んでいた小説『光溢れる国であなたと…』の世界で、自分は光の聖女と王太子ラファエルの恋を邪魔する悪役令嬢パトリシアだと…。 パトリシアは前世の知識もフル活用し、幼い頃からいつでも逃げ出せるよう腕を磨き、そして準備が整ったところでこちらから婚約破棄を告げ、母国を捨てた…。 このお話は捨てられた後の王太子ラファエルのお話です。

【完結】Restartー僕は異世界で人生をやり直すー

エウラ
BL
───僕の人生、最悪だった。 生まれた家は名家で資産家。でも跡取りが僕だけだったから厳しく育てられ、教育係という名の監視がついて一日中気が休まることはない。 それでも唯々諾々と家のために従った。 そんなある日、母が病気で亡くなって直ぐに父が後妻と子供を連れて来た。僕より一つ下の少年だった。 父はその子を跡取りに決め、僕は捨てられた。 ヤケになって家を飛び出した先に知らない森が見えて・・・。 僕はこの世界で人生を再始動(リスタート)する事にした。 不定期更新です。 以前少し投稿したものを設定変更しました。 ジャンルを恋愛からBLに変更しました。 また後で変更とかあるかも。 完結しました。

処理中です...