家事代行先の無口なお姉さん、推しVtuberでした。

星宮 嶺

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第15話 久しぶりの雑談会

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 高山柚月(Vtuber朝比奈柚葉)視点



 夜九時。

 配信画面のカウントダウンがゼロになると、バーチャル空間に朝比奈柚葉の姿がふわりと現れた。背景は、いつもの落ち着いた色合いの雑談部屋。視聴者が見慣れたその空間に、コメントがじわじわと流れ始める。

『お!雑談ひさしぶりじゃん』『ゲームばっかだったから新鮮』『部屋片付いた?w』

「こんばんわー、こんばんわー。ほんと、雑談配信ひさしぶり」

 カメラ越しの彼女は、どこかゆるっとした雰囲気で笑った。

「最近ねー、ずっとゲーム配信ばっかで、まったり喋るの久しぶりだから、ちょっと緊張してるかも」

 『緊張するタイプか?w』『むしろそっちがメインでは?』といったコメントが流れる。

「いやいや、最近ほんとにバタバタしててさ……まあ、実はね、ちょっと生活を見直してて」

 画面に『!?』『どうしたw』『まさか家事代行?』などのコメントが飛び交う。

「断捨離……というか、ちょっと限界がきて……」

 苦笑しながら柚葉は続けた。

「ついに家事代行を頼みました」

 コメントが一気に加速する。

『マジか!』『いいなー』『それ俺!』『どこの会社!?』

「いやほんとね、ヤバかったの。部屋が。ガチで足の踏み場ないレベルだったから……頼んだら、すっごくきれいになった」

 『えらい!』『信じられん成長』『まじ感動した』

「しかもね、ご飯も作ってくれるの。その作り置きがもう、最高に美味しくてさ」

 視聴者の反応もすぐに食いつく。

『うわいいな』『なにそれ羨ましすぎ』『それだけで人生勝ち組』

「ちゃんと人の手で作られたご飯って感じでさ。なんか、安心するんだよね」

 少しだけ、語尾が優しくなる。

「毎日とはいかないけど、週に一回来てもらってる。静かで、真面目で、すごく信頼できるお姉さん」

 コメントが少し静かになる。『え、それバレない?』『声で気づかれないの?』

「そこはちょっと気をつけてる。できるだけ喋らないようにしてるし、相手もVtuberに興味なさそうっていうか……すごく落ち着いてて、こっちのこと詮索してこないの」

 『プロだな』『それなら安心』『気を付けてね』

「ホント、プロって感じ」

 笑い混じりに答えながら、柚葉はモニターの隅で流れるコメントの波をじっと見つめた。

 自分の生活が少しずつ整っていくこと。その変化を、自分の言葉で伝えられること。それが、いつもよりほんの少しだけ心を軽くしてくれる。

「というわけで、今夜はまったりと雑談していこうと思います。最近の話とか、いろいろ……よかったら、のんびり付き合ってね」

 そういって最近の近況報告をしていく。流行のゲームや音楽など久しぶりの雑談配信で話題は絶えない。

「なんかちゃんとご飯食べるようになったからか、ちょっとだけ寝起きよくなった気がするんだよね」

『栄養って大事』『朝ご飯って食べてる?』『それでも昼夜逆転なんでしょ』

「朝は起きれたらプロテイン飲んでる。いや、でもほんと、家事代行さんが来てくれてる日だけはちゃんと人間の時間で生活してる」

『偉い』『人間に戻ったw』『週1の奇跡』

「ほんとそれ。週一の文明との接触みたいな。あの人、来ると空気が整うんだよね。不思議だけど、片付いた部屋って、精神に効く」

『部屋きれいだとメンタル安定するのガチ』『実在する生活音に癒される説』『片付け配信して』

 コメントに笑いながら、柚葉はモニター越しに視聴者の温かさを感じていた。

「今日は来てくれてありがとう。なんか、こういう日もいいよね」

 大きなニュースがあったわけでも、特別な企画があったわけでもない。ただ、少し整った暮らしと、美味しいご飯と、誰かとつながっていられる配信の時間。それだけで、心の奥がぽかぽかするような気がした。

 まったりとしたコメントが続き、ゆっくりとした時間の流れに、柚葉も自然と肩の力を抜いていく。

 画面の中に流れる小さな文字たちと、温かな言葉に包まれて——

 今夜もまた、穏やかな時間が静かに過ぎていった。
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