家事代行先の無口なお姉さん、推しVtuberでした。

星宮 嶺

文字の大きさ
49 / 73

第49話 頼れる推し

しおりを挟む
 火曜日の朝、透子はいつものように支度を整え、高山柚月のマンションへと向かった。大会後初の訪問ということで、部屋の様子や柚月の様子がどうなっているのか、少し気になっていた。

 インターホンを押すと、すぐにロックが外れる音がして、柚月がドアを開けてくれた。

「おはようございます、春野さん。今日もよろしくお願いします」

「おはようございます。こちらこそ、よろしくお願いします」

 部屋に入ると、やや散らかった印象はあるものの、以前のように物が溢れていたわけではなかった。ゴミ袋には飲み終わったペットボトルや空き缶がきちんとまとめられ、玄関の脇に並べられている。

「ちょっと余裕できたので、少しは片付けてありますが……やっぱり限界があって。春野さん、よろしくお願いします」

 そう言って申し訳なさそうに笑う柚月の顔には、どこかスッキリした雰囲気があった。

「了解しました。高山様ができる範囲で片付けてくださっただけでも、とても助かります。あとは私にお任せください」

「ほんと、助かってます……春野さんが来てくれると、安心するんですよね」

 その言葉に、透子の胸があたたかくなる。柚月が素直に頼ってくれること、それを信頼の証として受け止められることが、透子にとっては何よりの励みだった。

(やっぱり高山様は、しっかり人を頼れる方なんだな)

 肩の力を抜きつつも、人に任せることを恐れず、自分の限界を正しく認識している。それは、誰にでもできることではない。

 透子はエプロンの紐を結びながら、心の中でひそかに笑みを浮かべた。

 今日の献立は、鶏そぼろと卵、ほうれん草の三色丼。大会が終わってもなお疲れが残っているだろう柚月に、見た目にも栄養的にも元気の出るものを――そう考えて選んだ。

 キッチンに入り、そぼろと炒り卵、ゆでたほうれん草の準備に取りかかる。調理の合間に洗い物も片付けながら、少しずつキッチンが整っていく。

 途中、柚月がひょこっと顔を出してきた。

「いい匂い……なんだかお腹が空いてきました」

「今日のメニューは三色丼です。疲労回復にも良い食材を選んでいますので、しっかり召し上がってくださいね」

「春野さん、やっぱりプロだなぁ……こういうの、自分じゃ絶対考えられない」

「そうおっしゃっていただけると光栄です」

 食事の準備が整い、配膳を終えると、柚月は嬉しそうに手を合わせた。

「いただきます」

 その姿を見届けてから、透子は再び作業に戻る。今日は掃除にも少し余裕がありそうだ。

 全体的に見れば“散らかっている”には違いないが、それでも透子には明らかに前回とは違う空気が感じられた。

(少しずつ、日常が戻ってきてるんだな)

 あの大会に向けて、あれだけ集中して、全力で頑張った柚月。今はその反動もあるのだろう。でも、こうしてまた自分の生活を少しずつ取り戻そうとしている。

(推しが努力して、ちゃんと前に進んでる姿を見るのって……やっぱりうれしい)

 柚月が空になった器を持ってキッチンへやってきた。

「ごちそうさまでした。ほんとに、美味しかったです」

「それは何よりです。次回もまた、元気の出るメニューをご用意いたしますね」

「お願いします。……本当に、春野さんが来てくれて、よかった」

 そう呟いた柚月の言葉に、透子は深く一礼を返した。

「そのお言葉だけで、十分に報われます。また何かありましたら、いつでも頼ってください」

「はい、またお願いします」

 マンションを出た透子は、柔らかく吹く風を感じながら、ふと空を見上げた。

(さあ、次は名取さんのところ……こちらもきっと、何か変化があるかもしれない)

 推し二人の生活を支える――その使命を、改めて胸に刻みながら、彼女は次の準備へと気持ちを切り替えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

【ガチ恋プリンセス】これがVtuberのおしごと~後輩はガチで陰キャでコミュ障。。。『ましのん』コンビでトップVtuberを目指します!

夕姫
ライト文芸
Vtuber事務所『Fmすたーらいぶ』の1期生として活動する、清楚担当Vtuber『姫宮ましろ』。そんな彼女にはある秘密がある。それは中の人が男ということ……。 そんな『姫宮ましろ』の中の人こと、主人公の神崎颯太は『Fmすたーらいぶ』のマネージャーである姉の神崎桃を助けるためにVtuberとして活動していた。 同じ事務所のライバーとはほとんど絡まない、連絡も必要最低限。そんな生活を2年続けていたある日。事務所の不手際で半年前にデビューした3期生のVtuber『双葉かのん』こと鈴町彩芽に正体が知られて…… この物語は正体を隠しながら『姫宮ましろ』として活動する主人公とガチで陰キャでコミュ障な後輩ちゃんのVtuberお仕事ラブコメディ ※2人の恋愛模様は中学生並みにゆっくりです。温かく見守ってください ※配信パートは在籍ライバーが織り成す感動あり、涙あり、笑いありw箱推しリスナーの気分で読んでください キャラクターのイメージ画像とイメージSONGを作りました!興味がある方はどうぞo(^-^o)(o^-^)o 私のYouTubeのサイト https://www.youtube.com/channel/UCbKXUo85EenvzaiA5Qbe3pA

田舎おじさんのダンジョン民宿へようこそ!〜元社畜の俺は、民宿と配信で全国初のダンジョン観光地化を目指します!〜

咲月ねむと
ファンタジー
東京での社畜生活に心身ともに疲れ果てた主人公・田中雄介(38歳)が、故郷の北海道、留咲萌町に帰郷。両親が遺したダンジョン付きの古民家を改装し、「ダンジョン民宿」として開業。偶然訪れた人気配信者との出会いをきっかけに、最初の客を迎え、民宿経営の第一歩を踏み出す。 笑えて、心温かくなるダンジョン物語。 ※この小説はフィクションです。 実在の人物、団体などとは関係ありません。 日本を舞台に繰り広げますが、架空の地名、建造物が物語には登場します。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

処理中です...