怪しき中にも道理あり

チベ アキラ

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怨みの道理

鬼払瀬パート 鬼払瀬美晴の回想

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  これから私、鬼払瀬 美晴が語るのは、神来くんと知り合う前のちょっとした前日譚だ。
どのくらい前日なのかと言えば、そう、私達の学年が2年生に上がったまさにその日。
何故そんな所まで遡るのか、それは後々分かるだろう。
何はともあれ、せっかくだから回想させて欲しい。

「美晴ー!今年も一緒だね!」
私の新学年は、そんな親友 宮古 阿也の第一声から始まった。
実はこのフレーズを聞いたのはこれで10回目。私と阿也は小学校入学から今に至るまでほぼ毎日一緒にいた。親友に定義はないが、こうして最も長く過ごした学友であり未だ関係も良好ならばそう呼んで差し支えはないだろう。
「これで11年目か。小一の頃にした私たちのおまじないはよほど強力とみえる。」
「このまま一緒に住んじゃったりして。」
「フフッ、結婚でもする?」
「いいねー。苗字どっちのにしようか?」
息のあった会話というのは、内容がどれだけ希薄でも楽しめる。こうして結婚の話をするのはもう何百回目だろう。それでも飽きないほどに、阿也との会話は心地よくて面白い。
出席番号がかけ離れているため席が近いわけではないが、少しでも長く一緒に居たいのか、阿也は席に座らなければならないギリギリまで私の隣にいて腕を絡める。
「あっ、ソイヤサー、美晴。」
あっ、そう言えばさ、を適当に言われるとこう聞こえる。
「美晴はこの学校の七不思議が増えたの知ってる?」
親友の頓珍漢な物言いに思わず眉を寄せた。間を持たせるかのように、窓の外で小鳥が二羽さえずりながら飛び立った。
「増える時点で七不思議の定義から外れている気はするが・・・聞いたことがないね。何かあったの?」
「最近美術部の人たちが次々と具合悪くなってて、イジメられてた人の呪いなんじゃないかって噂になってるんだ。」
「遺憾ながら良くある噂話だね。それが真実かはさておいて。」
何か事象が重なると、人はそこに理由を見出そうとする。しかし求められるのは大抵納得できる理由ではなく、話していて、聞いていて面白い理由の方だ。呪いや祟りの類いはその最たる例であり、俗世で流行する怪談話や妖の類いも、多くは口ざわりや面白さによって尾ひれをつけながら形を成している。
だが職業柄全てを事実無根の流言飛語と断ずるわけにもいかず、そのまま続きに耳を傾けた。
「浦木 里美さんっていう3年の先輩。いや、ギリギリ学年上がる前だったから2年生なのかな?
美術部でひっどいイジメに遭って、春休みの間に飛び降り自殺しちゃったんだって。
学校は事故扱いにしてるけど、屋上に行く浦木先輩を見たって子が何人かいて、みんな口を揃えて『全く元気がなかった』って言ってたから本当は自殺だって噂なの。
それで、ここからが本題なんだけど、それから数日して美術部の子がみんな同じ症状の体調不良を訴えだしたの。美術室にいると、頭痛と吐き気がするんだって。怖いよね。」
怖いと言いつつどこかソワソワしている。これは興味本位でとんでもない提案をしようとしているときの顔だった。
「阿也、言っておくが引き寄せ体質の君が首を突っ込むのは・・・」
キーンコーンカーンコーン、とチャイムに遮られる。
助かったのか、それとも邪魔されたのか。どちらにしろ狙ったようなタイミングのチャイムがキッカケで、この話は一度ウヤムヤになった。

「だからさ、芸術選択は美術にしよう?」
「・・・」
邪魔されていたようだ。阿也は真剣な眼差しで開幕早々に私を見つめた。
「阿也。頼むからガソリンに塗れた体で火の中に飛び込むような真似はやめて。」
「大丈夫。さすがにヤバそうだったら逃げるから。それに祓い屋としてはそういうの、放っておけないんじやない?」
「稼ぎが減るのは御免でね、依頼がないと動きたくない。」
「じゃあ依頼する。」
してやったり、という表情で見つめてくる阿也。少しムッときたので、とりあえず阿也の柔らかい頬にフニリと圧力をかけた。
「仕方がない。まあ、どうせ二択だ。書道だけは選ぶつもりも無かったからね。」
「どうして?」
「うちの弟は日本語にうるさいから。」
「あぁ、納得。」

 そうして、私と阿也は美術選択になった。
以前神来くんが不思議がっていたが、こういう経緯だ。
さて、肝心の美術室の呪いについてだが・・・
「・・・阿也。」
「ん?」
「その噂は・・・ハズレみたいだ。」
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