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尾張 夏芽 編
涙残留 その4
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「ナツメさん!ナツメさんは居ますか?」
扉の向こうから声が聞こえる。回診の後で疲れていたが、急患だといけないので応対することにした。
「はい、ナツメですが・・・」
「よかった!あの、良ければお力添えをお願いします!」
患者というわけでは無さそうだった。
訪ねてきたのは剣士の少年と武闘家の少女、魔法使いの少女の3人パーティ。おそらく小規模の冒険者ギルドだ。
「オレはケンジ。スタート村から来た冒険者です。」
「よろしくお願いします、ケンジ。」
右手を差し出されたので、促されるがままに握手を交わす。
「あれ?これって・・・」
「どうかしたんですか?ナツメさん。」
「い、いえ。それより、わたしのことはナツメで良いですよ。皆さんよりも若輩者ですし。」
3人に座るよう促して、お茶を出す。普通の来客は久しぶりだったので、この対応の仕方で合っているのか正直不安だった。
「ありがとうナツメ。私はフィリシア。気軽にフィーって呼んで。」
「ボクはアルマリス。親しい者はアルと呼んでいる。」
「フィー、アル、よろしくお願いします。」
「それで、どうしてこの村までお越しに?スタート村はここよりかなり遠いと記憶していますが・・・」
「単刀直入に言うよ。ナツメ、オレ達の冒険に協力して欲しいんだ!」
真剣な表情で、ケンジは話を切り出した。
「冒険・・・?」
「またキミは唐突に。これだからコミュ障だと言われるんだよ。
詳しくはボクから説明しよう。ボク達は王国の依頼でここより北にある洞窟の魔物を討伐することになったんだが、そこが魔獣の巣窟でね。
ボクもこの2人も腕に覚えはあるが、流石に数が多過ぎる。どうしても回復ポーションや薬草では凌ぎきれないんだ。」
「王都のプリーストは王国軍のヒーラーとしてみんな駆り出されちゃってて、回復手段が無いのよ。他の教会にもあたってみたけど・・・」
「信仰を理由に断られた、ですか?」
何も言わずに3人はこくりと頷いた。
教会の治癒術師は信仰する神の力を借りることで治癒術を行使する。神の加護は信仰心による賜物で、それ故に異教の民に行使することは不可能に近い。助けたくても助けられないのだ。
「だけど、ナツメはプリーストではなく魔術による治癒術を使えるって噂を聞いたんだ。
オレ達は信仰が無くて他に当てが無い。助けてくれないか?」
冒険者にとって回復リソースの確保は何よりも重要だ。
いくらレベルの高い冒険者でも探索をする上でダメージは避けられない。薬草やポーションによる回復には限度があり、ここ最近は値段も高騰して気軽に使えるものでもない。
そして、信仰が関係ない治癒術師はとても珍しく、少なくともこの国では私以外には居ないらしい。
「・・・北の洞窟までの距離は?」
「馬車で3日。」
「討伐対象は、全ての魔物ですか?」
「いいや、ロードキメラさえ倒せば巣の体系は崩れる。理論上はロードキメラ単体の撃破でいい。」
「3日・・・」
3日。その数字がわたしにとって何より重要だった。
3日までなら、行ける。
「・・・分かりました。3日で終わらせましょう。」
「・・・ごめんなさい、ナツメ。君に頼るしか無いんだ。」
表情は変わらないが、アルマリスは苦しそうに言葉を絞り出していた。他の2人は気づいていないが、アルマリスだけはわたしが洞窟に向かう時間を気にした理由が分かっているようだった。
「ありがとうございます、アル。わたしも決心がつきました。」
3日かけて洞窟に向かった。その間も村のことが心配で気が気でなくなってしまう。
村の治癒術師はわたししか居ない。他の町に行くのも山を越えて1週間かかる。それでは死病の場合間に合わない。
しかしここで中途半端に村を気にしては、北の洞窟に行くことを決意したのが無駄になる。
「ここが、北の洞窟・・・」
「では、作戦通りにいきますよ。"広域探知"」
目を閉じて洞窟内部の健康状態を探る。簡単なバイタルチェック用のスキルだが、裏を返せば広い範囲の生物反応を一斉に読み取ることになる。つまり本来の索敵スキル以上の範囲を索敵できるのだ。
「・・・全て把握しました。」
「ロードキメラは陽の光を嫌う。その特性から洞窟の最深部に居る習性があるんだ。一番深くに居る生体反応まで案内してもらえるかい?」
アルマリスの知識をもとにロードキメラの居場所を特定。他の魔獣を避け、ターゲットを一点に絞る。
岩陰に潜みつつ、最深部に入ると、フィリシアの旋風脚で入り口に落石を落として他の魔獣とロードキメラの間の道を塞いだ。
「よし!作戦通り!」
「みんな!来るぞ!」
ようやく自らの危機に感づいたロードキメラが、威嚇するように雄叫びを上げた。
後衛であるアルマリスとわたしは下がり、ケンジとフィリシアが斬り込む。
鋭い爪の攻撃をケンジが受け止める。
「ロードキメラの一撃を受け止めた・・・!?」
「ケンジのスキル"完全防御"だね。ボクも初めて見たときは度肝をぬかれたものさ!」
腕を無力化するために火炎魔法で集中的に焼き払う。キメラは腕をさげようとするが、ケンジに爪を立ててしまったことで思うように動かない。
「今だ!フィー!」
攻撃を全て無力化したロードキメラは、フィリシアにとってただの大きな的だった。
天井を蹴り光速まで加速したフィリシアが、ロードキメラの頭から顎までを貫いた。
扉の向こうから声が聞こえる。回診の後で疲れていたが、急患だといけないので応対することにした。
「はい、ナツメですが・・・」
「よかった!あの、良ければお力添えをお願いします!」
患者というわけでは無さそうだった。
訪ねてきたのは剣士の少年と武闘家の少女、魔法使いの少女の3人パーティ。おそらく小規模の冒険者ギルドだ。
「オレはケンジ。スタート村から来た冒険者です。」
「よろしくお願いします、ケンジ。」
右手を差し出されたので、促されるがままに握手を交わす。
「あれ?これって・・・」
「どうかしたんですか?ナツメさん。」
「い、いえ。それより、わたしのことはナツメで良いですよ。皆さんよりも若輩者ですし。」
3人に座るよう促して、お茶を出す。普通の来客は久しぶりだったので、この対応の仕方で合っているのか正直不安だった。
「ありがとうナツメ。私はフィリシア。気軽にフィーって呼んで。」
「ボクはアルマリス。親しい者はアルと呼んでいる。」
「フィー、アル、よろしくお願いします。」
「それで、どうしてこの村までお越しに?スタート村はここよりかなり遠いと記憶していますが・・・」
「単刀直入に言うよ。ナツメ、オレ達の冒険に協力して欲しいんだ!」
真剣な表情で、ケンジは話を切り出した。
「冒険・・・?」
「またキミは唐突に。これだからコミュ障だと言われるんだよ。
詳しくはボクから説明しよう。ボク達は王国の依頼でここより北にある洞窟の魔物を討伐することになったんだが、そこが魔獣の巣窟でね。
ボクもこの2人も腕に覚えはあるが、流石に数が多過ぎる。どうしても回復ポーションや薬草では凌ぎきれないんだ。」
「王都のプリーストは王国軍のヒーラーとしてみんな駆り出されちゃってて、回復手段が無いのよ。他の教会にもあたってみたけど・・・」
「信仰を理由に断られた、ですか?」
何も言わずに3人はこくりと頷いた。
教会の治癒術師は信仰する神の力を借りることで治癒術を行使する。神の加護は信仰心による賜物で、それ故に異教の民に行使することは不可能に近い。助けたくても助けられないのだ。
「だけど、ナツメはプリーストではなく魔術による治癒術を使えるって噂を聞いたんだ。
オレ達は信仰が無くて他に当てが無い。助けてくれないか?」
冒険者にとって回復リソースの確保は何よりも重要だ。
いくらレベルの高い冒険者でも探索をする上でダメージは避けられない。薬草やポーションによる回復には限度があり、ここ最近は値段も高騰して気軽に使えるものでもない。
そして、信仰が関係ない治癒術師はとても珍しく、少なくともこの国では私以外には居ないらしい。
「・・・北の洞窟までの距離は?」
「馬車で3日。」
「討伐対象は、全ての魔物ですか?」
「いいや、ロードキメラさえ倒せば巣の体系は崩れる。理論上はロードキメラ単体の撃破でいい。」
「3日・・・」
3日。その数字がわたしにとって何より重要だった。
3日までなら、行ける。
「・・・分かりました。3日で終わらせましょう。」
「・・・ごめんなさい、ナツメ。君に頼るしか無いんだ。」
表情は変わらないが、アルマリスは苦しそうに言葉を絞り出していた。他の2人は気づいていないが、アルマリスだけはわたしが洞窟に向かう時間を気にした理由が分かっているようだった。
「ありがとうございます、アル。わたしも決心がつきました。」
3日かけて洞窟に向かった。その間も村のことが心配で気が気でなくなってしまう。
村の治癒術師はわたししか居ない。他の町に行くのも山を越えて1週間かかる。それでは死病の場合間に合わない。
しかしここで中途半端に村を気にしては、北の洞窟に行くことを決意したのが無駄になる。
「ここが、北の洞窟・・・」
「では、作戦通りにいきますよ。"広域探知"」
目を閉じて洞窟内部の健康状態を探る。簡単なバイタルチェック用のスキルだが、裏を返せば広い範囲の生物反応を一斉に読み取ることになる。つまり本来の索敵スキル以上の範囲を索敵できるのだ。
「・・・全て把握しました。」
「ロードキメラは陽の光を嫌う。その特性から洞窟の最深部に居る習性があるんだ。一番深くに居る生体反応まで案内してもらえるかい?」
アルマリスの知識をもとにロードキメラの居場所を特定。他の魔獣を避け、ターゲットを一点に絞る。
岩陰に潜みつつ、最深部に入ると、フィリシアの旋風脚で入り口に落石を落として他の魔獣とロードキメラの間の道を塞いだ。
「よし!作戦通り!」
「みんな!来るぞ!」
ようやく自らの危機に感づいたロードキメラが、威嚇するように雄叫びを上げた。
後衛であるアルマリスとわたしは下がり、ケンジとフィリシアが斬り込む。
鋭い爪の攻撃をケンジが受け止める。
「ロードキメラの一撃を受け止めた・・・!?」
「ケンジのスキル"完全防御"だね。ボクも初めて見たときは度肝をぬかれたものさ!」
腕を無力化するために火炎魔法で集中的に焼き払う。キメラは腕をさげようとするが、ケンジに爪を立ててしまったことで思うように動かない。
「今だ!フィー!」
攻撃を全て無力化したロードキメラは、フィリシアにとってただの大きな的だった。
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