異世界転生カンパニー

チベ アキラ

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二都 勇治 編

転生したら激かわ妹ができた件 その2

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  寒い。苦い。
俺が現実に覚えている感覚なんて、それだけだった。
本当に温もりと呼べるものなんて無かった。楽しそうな連中の足下、誰も見てくれないところで泥を舐めながら頑張っても、何か得られるわけじゃなかった。
じゃあリア充が羨ましかったか。そう聞かれると答えはNOだ。
リアルにうつつをぬかしていたら、推しに出会えなかったはずだ。俺はそれを悔やんでいるわけじゃない。
ただ、現実ではなく、二次元に生まれたかった。

「・・・ぃに、にぃに。起きて。」
目を覚ますと同時に慣れない感覚に困惑した。
俺の腹の上に何かが乗っている。それなりの圧迫感はあるものの、不思議と質量は重いと感じない。
「何だ・・・?」
「にぃに。朝だよ。」
なんとか重たい頭を起こし、腹に乗った何者かを見る。
その瞬間、頭の中は真っ白になった。
サラサラとした長い金髪、ほんのりと赤く、いや桃色に色づいた大きな瞳、少し心配になるほどに色白な肌。
正に絵に描いたような、と形容できるロリ美少女が、あろうことか俺にまたがっていた。
「!?あ、あの、えっ!?」
誰なんだこの子は。さっきからにぃにって呼ばれているが俺にそんなかわいい妹がいた記憶はない。
冷静になろうと視線を背けると、見たこともない部屋が広がっていた。
そういえば、俺は転生したのだった。ようやく思い出す。
たしかに、ゲームもラノベもなく、綺麗に片付いていた全く見知らぬ部屋なのに、ここが自分の部屋だと感覚的に理解できる。
そしてかなり遅れて、とても大事な感覚が俺のもとに戻ってきた。
「・・・妹よ。いくら俺たちが兄妹だからってこう密着というかそういうのは良くないと思うが?」
「なにモゴモゴ言ってるの?起きてお口うごかない?」
舌足らずの妹にこうもバカにされると、中々くるものがある。
そのショックを悟らせないように、決して下心のない優しい持ち方で妹の脇を抱えてベッドの横に下ろした。
  驚いたことに、転生した俺には愛らしいロリ妹ができていた。

  こういうとき、何故か遅れて記憶はやってくる。世界の辻褄合わせがうまくいっていないのか、最初は違和感を覚える記憶も段々と俺に定着していた。
俺は二都という苗字が消え、ユウジという名前だけが残っていた。両親は冒険者で、俺たちはその帰りを待ちながら二人で村はずれの森に住んでいる。
木材を取っては村に売りに行き、その金で生活していたらしいが・・・
「めんどくせぇ・・・」
「にぃに、また言ってる。オシゴトなんだからしなきゃだめだよ。」
なぜ異世界に来てまで働かなければいけないのか。俺はてっきり冒険者になって旅して回るのだとばかり思っていたが、これではモブキャラだ。
主人公には不向きだと世界に判断されたのかもしれない。
とりあえず、言われるがままに木を切ってみることにした。そして斧を持ち上げて、違和感を覚える。
「あれ?この斧軽くないか?」
「なに言ってるの?それめちゃくちゃおもいよ。きのうにぃにもおもいって言ってたじゃん。」
忘れていた。俺の能力値は、全てカンスト状態だったんだ。
そう考えると少しずつやる気が出てきた。こうして木材を作ることも楽な作業になればクラフト系のゲームを実践しているような感覚になる。なるほど、こんな異世界ゆったり生活も悪くない。かわいい妹付きだし。
とにかく沢山の木を切り倒して・・・
「にぃにストップ。切りすぎ。」
「えっ、沢山切った方がいっぱい金になるだろう?」
「そんなことしたらこのあたりがすぐフモーチタイになっちゃう。このくらいで売りに行こう?」
リソース管理か。確かにそれは大事だ。
  木材を街に売りに行くと、どこからか悲鳴が聞こえた。
「おいサッサとしろ!死ぬのが怖くないのか!」
「・・・なんだ?あれ。」
悲鳴の聞こえた方に駆けつける。すると露店がいかつい奴らに襲われていた。
これはアレか。チュートリアルの敵か。
きっとそうだと俺は思い、いかつい奴らのうちの一人に近づく。
「あぁ?なんだテメェ。」
「強盗は感心しないなぁ。金は働いて稼ぐものだぜ?」
つい先日までニートだった男の口から出たセリフだった。
「ナメた口きいてんじゃねぇ!」
突然ナイフで腹を刺され、俺は反応出来なかった。強盗の口がニヤリと笑う。しかし、俺から血は一滴も流れ出なかった。当然だ、防御力もカンストなのだから。そこらのナイフで傷つくはずがない。
「・・・終わりか?」
「なっ、何者だテメェ!」
「攻撃されたから、次はコッチのターンだよな?
ターン制の戦闘ってリアリティ無いなぁって思ってたんだけどさ。こうしてみると割とそれっぽいんだ・・・な!」
驚いている強盗に歩み寄り、力一杯握りしめた拳をお見舞いする。強盗の身体は宙を舞い、一回転して地面に倒れ伏した。
「ば、バカな。あんなヘッポコパンチで大の大人が吹っ飛ぶなんて・・・」
「悪かったなヘッポコパンチで。喧嘩なんてゲームでしかやった事ねぇんだよ。」
「何わけ分からないこと言ってやがる!ふざけんじゃねぇ!」
二都 勇治、改めユウジ。異世界転生により、無事無双できそうだ。
地面に倒れる強盗たちを見て、俺は心底安心した。
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