異世界転生カンパニー

チベ アキラ

文字の大きさ
上 下
20 / 32
菅田 正之 編

か弱くてニューゲーム その2

しおりを挟む
「ど、どう・・・だろうか・・・」
  目線が急に低くなり、同時に声は高くなる。
真っ暗な世界から一転。現実と遜色ない都会へと出てきて、ショッピングモールのような建物のなかで転生後の服を選んでいた。
それにしてもスカートとは、かくも着ている感覚がしないものなのだろうか。
足に布が触れる機会が少ないからか、とても心許ない。
「とてもお似合いですよ、菅田さん。あっ、いや、ユキさん。」
「そ、そうか・・・?」
巡谷さんは楽しそうにわたしに着せる服を選んでいる。
今、菅田 正之は『ユキ』になるための最終準備段階に入っていた。

「そうそう、あとは髪を掴んだまま左手のゴムを右手で引っ張って・・・」
  女性になることを決めた俺は、転生請負人の巡谷さんの指導のもと女性に変わるためのアレやコレやを教わっていた。
髪の結い方、女性服の着方、歩き方、座り方。
衣服の違いまでは覚悟していたが、まさか身体を動かす時の感覚まで大きく異なるとは予想外だった。
身体の作りが違うからだろうか。それともこれが『転生する』ということなのか。
まったくちがう自分になるというのは、思っていたよりも苦労する。
「髪ひとつまとめるのにもここまで苦労するのか・・・」
「傷めたくないですからね。丁寧にやりませんと。
・・・はい。こんな感じです。」
話している間に、綺麗に2つ結びにされていた。
「君は見たところあまり結びそうにないが、どうしてこんなに慣れているんだ?」
「一時期伸ばしてたんですよ。ポニテかわいいなぁって思って。ユキさんもやってみます?要領としては今やっているツインテールとほとんど同じですし、ユキさんのストレートなら映えると思いますよ?なんというか、こう、可愛らしい感じになります。」
可愛らしい。その言葉に一瞬引っかかる。
ニュアンスは違うのだろうが、どうしても男らしさ、女らしさという『らしさ』として反応してしまう。
「可愛らしい、か。それは『女らしい』ということか?」
「うーん、どうなんでしょう。男の子でもかわいいときはかわいいって言われますし・・・。
でも、言われて嬉しいのはほとんどの場合、やっぱり女の子なんじゃありませんかね。」
巡谷さんは話しながらも、クシで俺の髪をとかしている。想像していたよりも心地よい。妹が母にしてもらっていた時もこんな感覚だったのだろうか。
呼吸に合わせて頭を撫でられているような感覚で、心が落ち着いていく。
「め、巡谷さん。その・・・」
「どうしましたか?」
「ポニテというのも、やってもらっても良いか?」
「・・・はい!喜んで!」

  女性としての感覚にだいぶ慣れたところで、俺は転生する異世界を視察することになった。
異世界転生先を決めるための視察は『霊体視察』と言って、透明人間状態になって異世界に実際に降りる方法。その特性を利用して、とりあえず見てみるらしい。
「ユキさんのご希望に添える世界でしたら、やっぱり平和な世界が良いですよね。」
「危険なところでは甘えるどころではないからな。それに、こう、我慢できずに俺自身剣を取りかねん。」
「あはは、たしかに。」
気がつくと、周りはヨーロッパのような町並みになっていた。石畳みの道が続き、レンガ造りの建物が並ぶ。
「ここも、異世界なのか?」
「ええ。前の世界のヨーロッパ、特にイタリアの町並みに似ていますが公用語は日本語。
生活の知恵として魔法と錬金術が発達した世界です。
転生サポートとして、得意な魔法も選ぶことができますよ。」
思っていたよりもちゃんと異世界。まるでゲームの世界のようだった。
行き交う人々は俺と同じ『人』だが、足下を駆ける鳥は鶏と呼ぶには少し見た目が異なり、やけに二本の尻尾をもった猫が多かった。
「あれは・・・猫?」
「ええ。この世界ではネコマタ、と呼ばれるパートナーです。
生まれるときに1人に1匹、神の使いとしてお世話してくれる聖獣なんだそうですよ。ユキさんにもモチロンつきます。」
この世界では猫に甘えられるらしい。
なにより、前は動物を飼えるほど余裕が無かった。
そんな憧れも助けて、俺はすんなりと転生先をこの世界に決めた。

「承りました。それでは、良い人生を。」
しおりを挟む

処理中です...