罪なき世界

ホワイトエンド

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序章 神が降臨した日

EP0-13 タイムリミット

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「なぜ立ち上がれるのです。」
神の声が聞こえる。
『答える必要は無い。』
謎の声が聞こえる。
『呼べ、我が力で。目の前の神が忌まわしいと封印した我が眷属を!』
なにかが体の中から溢れ出してくる。
その力に従い右手を差し出す。まるで扉を閉じている鍵を開くように。
「『いでよ憤怒の化身!サタン!』」
その言葉に呼応するかのように手を回す。
すると目の前に大きな門が現れた。
そしてその門がゆっくりと開き始めた。
神がそれに気づき対処をせんとした瞬間、それは現れた。
扉の開いた隙間から二つの異形の手が現れたのだ。
まるで開くのを待ちきれぬかのように。
主の呼びかけに応えるように。
その手によって扉は開かれた。
現れたその怪物は異形としか言い様が無かった。
黒と赤の体色にコウモリのような大きな翼、獣のような鋭い牙、そして大きな角。
二足で立つその姿に他の人間が見れば恐怖と嫌悪をあらわにするだろう。
その異形は現れ目の前の敵を見つけた瞬間襲いかかった。
神の手が振るわれる。だがそれも異形の体に受け止められる。
異形の攻撃が一撃、二撃と神の体を揺らす。
まだ、今の自分が戦うより勝ち目がある。そう確信したハイトが頭に浮かんだ力を行使しようとした瞬間、響いた。タイムリミットを告げるそれが。

「あともう少し早ければ間に合ったかもしれません。ですが、時間です。」
響くそれはこの部屋の真上にある大きな大きな鐘。
世界に日が変わることを告げる鐘だ。
鐘の音が一度、二度と鳴り響く度に神の力が異形を押し退けていく。
『撤退だ。』
頭の中に声が響く。
「なぜだ!あともう少しだろ!」
『世界始まりの日では我等の方が弱い。汝が万全ならば可能性はあったが今は不可能だ。』
「ぐっ……」
言われなくても分かっていた。
本来なら異形と共に連携をして神を仕留めるつもりだったのが一歩踏み出そうとした瞬間倒れそうになった、だから見ているだけだったのだから。
「だがどうやって!」
『門に飛び込め。』
「……分かった。」
『帰還せよサタン!我が新たな依代を連れて!』
ハイトの口から出たその言葉に異形が振り向きハイトを掴む。そしてそのまま門へと消えていった。

門をくぐる時に最後に見えたのはどこまでも憎たらしく見える神の笑った顔だった。
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