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コインランドリー物語

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「こんばんはー、乾燥機あいてるかなー」
と言いながら、幸二は、家で洗濯した洗濯物が入った大きなビニール袋を持ちながら、コインランドリーの自動ドアの入り口から、中に入っていった。
 そのコインランドリーには、いすに座って雑誌を読んでいる男性1人と女性1人がいたが、幸二は、無視され、2人は、無言のままだった。
 幸二は、2人に無視されても、平気な顔して、左側の5台の乾燥機のうちの一番はじっこの乾燥機の扉をあけ、持っていたビニール袋から洗濯物を取り出し、乾燥機の中に拡げながら入れた。
 そのあと、小銭入れから100円玉を3枚取り出し、コイン投入口から3枚とも入れた。
 その乾燥機は、10分100円で、幸二は、100円玉を3枚入れたので、30分の乾燥機は作動するのである。
 幸二は、すでにそのコインランドリーには、何回か来ていて、30分でちょうど良く乾燥されることを知っていた。
 そのコインランドリーは、3か月ほど前にでき、もとは、お弁当屋さんだったところである。コインランドリーのオーナーは、向かいのコンビニのオーナーさんである。
コインランドリーの横には、もう一つのお弁当屋さんがあり、そのお弁当屋さんは、お弁当をつくるためのちょっとした工場を持っていた。
 向かいのコンビニには、毎朝、お弁当屋さんの工場で働くネパールから来た女性が3人、コーヒーを買いに来ていた。
 「ナマステ」
と言いながら、サンエイ科学研究所の所長の市山博士は、コンビニにコーヒーを買いに来ていた3人の女性にネパール語でこんにちはとあいさつした。
市山博士もアイスコーヒーを買いに来たのである。
「サンジェンチャ」
と1人の女性がネパール語でお元気ですかと言い、
「サンジェンチュ」
と市山博士は、ネパール語で元気ですと言った。
 3人の女性はコーヒーを買って、向かいのお弁当の工場に戻るとき、
「フェリベトゥンラ」
と市山博士は、ネパール語で、また会いましょうと言いながら、アイスコーヒーを販売機から取り出した。
 3年ほど前に、市山博士は、コンビニのオーナーから、ある相談を受けていた。
コンビニのオーナーにネパールから来た女性から、ネパールには、なかなか帰ることができないので、なんかいい方法はないかと言われていたので、コンビニのオーナーは、いつもアイスコーヒーを買いにきていた市山博士に、そのことを言った。
「市山さん、ネパールの子たちがネパールに帰ることができるいい方法はないでしょうか」
とオーナーさんは、市山博士に聞いた。
すると、市山博士は、
「いい方法があるよ」
と言い、
「最近、ぼくの研究所で開発したいいものがあるんです」
「それは、超小型ブラックホールジョイントというものなんです」
そう、得意げに市山博士は、コンビニのオーナーさんに言った。
オーナーさんは、
「それは、どういうものなんですか」
と言い、市山博士は、説明を始めた。
「オーナーさんは、重力が空間を曲げるっていうのを聞いたことがあると思うのですが、宇宙には、ブラックホールというものがあり、空間を曲げてしまうものなんです。
そのブラックホールを、ある物質を超高圧で圧縮することにより、超小型のブラックホールを作り出し、その超小型のブラックホールにより、空間を曲げ、ある場所と、遠隔の場所を接続するジョイントを開発することに成功したのです」
「超小型ブラックホールジョイントは、扉の所に設置し、そのジョイントの設定ダイヤルを、接続したい場所の緯度と経度を設定することにより、その設定した場所に空間が接続されるのです」
「その超小型ブラックホールジョイントを使って、ネパールの緯度と経度に設定すれば、その扉からネパールに行ったり来たりすることができいいと思います」
と市山博士は、得意になって、オーナーさんに説明した。
オーナーさんは、
「向かいのお弁当屋さんがしめたあとに、コインランドリーを作ろうと思っているんです」
と言い、
「そのコインランドリーの裏の扉にその超小型ブラックホールジョイントを付けることにしましょう」
 1年前に、オーナーさんが向かいのお弁当屋さんから場所の権利を買い、コインランドリーにして、3か月ほど前にオープンした。
 幸二は、今日も、洗濯物を大きなビニール袋に入れて、そのコインランドリーに来ていた。
入り口から1人のネパールの女性が入ってきて、洗濯物を持ってきたわけでもなく、そのコインランドリーの裏の扉から、出て行った。
しばらくして、もう一人のネパールからの女性が、やはり洗濯物を持たずに入り口から入ってきて、裏の扉から出て行った。
 幸二は、裏の扉が気になり、裏の扉を開けてみた。
すると、大きな山に囲まれた風景が現れた。
そこは、ネパールだった。

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