相対性理論について

ヤマシヤスヒロ

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相対性理論について

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「今日の話、おもしろかったね」 
と、山下君は、満足した顔をして、大津君に言った。 
「そうそう、ポアンカレとアインシュタインの違い」 
と、大津君も、満足した顔をして、山下君に言った。 
「相対性理論、おもしろいね」 
山下君と、大津君は、2人で声をそろえて、言ったもんだから、2人で、思わず吹き出してしまった。
 山下君と大津君は、サンエイ科学研究所の所長の市山博士の講演を聴いて、教室から出てきたところである。
「まだ、次の授業まで時間があるから、カフェテリアでコーヒーでも飲まない?」
と、山下君は、明るい顔で大津君に言った。
「いいねー、コーヒー、行くか」
と、大津君も、明るい顔で山下君に言った。
「でも、ポアンカレもおしいところまで考えていたんだね」
「ポアンカレは、相対性原理の観点から、ニュートン力学におけるガリレイ変換のもつ重要な意味を認識していて、マックスウェルの方程式を共変に保つためにはガリレイ変換を拡張してローレンツ変換にしなければならないことを明確に把握していたんだってね」
と、山下君は、コーヒーカップを右手に持ちながら、遠くの方を見るような目で大津君に言った。
「そうだね。しかしポアンカレにとってローレンツ変換はあくまでマックスウェルーローレンツの電気力学に密着したもので、ポアンカレはそれが物理法則全般への普遍性をもつとは考えなかったんだそうだね」
「そのことは、今日の講演で参考文献にあげられていたこの岩波講座、現代物理学の基礎2の11ページに書かれているんだ」
と、大津君は、その参考文献を開きながら、山下君に言った。
「でも、アインシュタインは、違ったんだよね」
と、大津君は、コーヒーを一口飲んで、山下君に言った。
「そうなんだ」
と、山下君も、コーヒーを一口飲んで、大津君に言った。
「アインシュタインは、ローレンツ変換による物理法則の共変性を要請することによって、特殊相対性理論を完成したんだ」
と、大津君は、参考文献の9ページを開きながら、山下君に言った。
「そうなんだ」
と、山下君は、コーヒーカップをテーブルの上に置いて、大津君に言った。
「市山博士の、その後の説明が分かりやすかったよね」
と、大津君は、山下君に言った。
また、大津君は、講演会で配布された資料を見ながら、
「このポアンカレとアインシュタインの発想の違いを、市山博士の説明では、アインシュタインは、特許局での仕事で発明の特許性についての考え方が身についているため、発明が、特許性を持つには、新規性のほかに進歩性、すなわち、その当時どうだったかわからないが、現在の特許法では「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が、特許出願前において公然と知られた発明に基づいて容易に発明することができたときは、その発明については、特許を受けることができない。」ということがあるため、飛躍が必要なのであるという考え方、になじんでおり、
ローレンツ変換に対しても、ポアンカレと異なり、アインシュタインは、発想の飛躍ができたのではないかと思うと言っていましたね」
「アインシュタインが特許局に勤めていたころの特許法を調べる必要もあるが」
と資料には、書かれているね」
と、山下君に言った。
「ほんと、特許の勉強も重要だね」
と山下君と、大津君は、2人で、声をそろえて、言ったもんだから、また、思わず吹き出してしまった。
 その日の夜、大津君も、アインシュタインのまねをして、発想の飛躍をしようと、現代物理学の基礎の相対性理論の章を開きながら考えた。
「相対性理論では、物体は、光速を超えることはできないが、」
「たとえば、ローレンツ収縮を説明する式では、物体の速度が光速になると物体の長さはゼロになり、光速を超えると虚数になる」
「ぼくは、その虚数も認めることにしよう」
「そう、その虚数になったとたん、空間の穴になると考えることにしよう」
「質量も光速を超えると虚数になるが、空間の穴と考えることでいいことにしよう」
「こういう考えって、ぼくも発想の飛躍をしたことになるかな」
と、大津君は、考えがまとまり、その夜は、ぐっすり眠ることができた。


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