日光の家

ヤマシヤスヒロ

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日光の家

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「向かいの空き地に家が建つみたいわね」
 と中村さんの奥さんは、隣の家に住む山田さんの奥さんに言った。
「そうみたいわね」 
「うわさでは、なんでも東京に住んでる学者さんが建てる家らしいわよ」
 と山田さんの奥さんは、中村さんの奥さんに、手で口をおさえながら、ひそひそと話した。
 その空き地は、日光の東照宮から歩いて20分ほどのところにある空き地である。
 何か月かして、その空き地に、大きな家が建って次の日、
「もう、だれかいるわね」
と、中村さんの奥さんは、向かいにできた家の中を、のぞきながら、山田さんの奥さんに言った。
「そうみたいわね、いつ来たのかしら」
と山田さんの奥さんは、中村さんの奥さんに、手で口をおさえながら、ひそひそと話した。
 その日の午後、中村さんの家のチャイムがなった。
中村さんの奥さんが玄関に出ていくと、一人の60歳ぐらいの学者さんっぽい男性が立っていた。
「こんにちは、市山といいますが、今度、ときどき、向かいの家に来ることがありますので、よろしくお願いします」
と、男性は、中村さんの奥さんに言った。
「あら、向かいの家にひっこされてきたのですね」
「中村といいます。こちらこそ、よろしくお願いします」
と、中村さんの奥さんは、玄関に立っている男性に言った。
 そのあと、隣の山田さんの家のチャイムがなった。
山田さんの奥さんが玄関に出ていくと、一人の60歳ぐらいの学者さんっぽい男性が立っていた。
「こんにちは、市山といいますが、今度、ときどき、向かいの家に来ることがありますので、よろしくお願いします」
と、男性は、山田さんの奥さんに言った。
「あら、向かいの家にひっこされてきたのですね」
「山田といいます。こちらこそ、よろしくお願いします」
と、山田さんの奥さんは、玄関に立っている男性に言った。
 その日の夕方、中村さんの奥さんと山田さんの奥さんが、立ち話をしていた。
「向かいの家の人、来たわよ、あいさつに」
と中村さんの奥さんは、山田さんの奥さんに言った。
「来た来た、うちにも、来たわよ」
と、山田さんの奥さんは、中村さんの奥さんに、手で口をおさえながら、ひそひそと話した。
「市山さんって言っていたわね。でも、引っ越してきたのかしら」
と中村さんの奥さんは、山田さんの奥さんに言って、続けて言った。
「でも、今度、ときどき、向かいの家に来ることがありますって、言ってたわよね」
「別荘なのかしら」
と中村さんの奥さんは言った。
「そうよね。別荘なのよね、きっと」
と山田さんの奥さんは言って、2人ともそれぞれの家に戻った。
その次の日、中村さんの奥さんと山田さんの奥さんは、立ち話をしていた。
「でも、ふしぎよね、引越し屋さんも来ないし、また、市山さんていう人も、朝、家の中に玄関から入った様子もないけど、また、夜も帰った様子もないけど、夜は、だれもいなかったようだけど、いつのまにか、家の中にいるのよね」
と中村さんの奥さんは、山田さんの奥さんに言った。
「ふしぎよねー」
と山田さんの奥さんも、中村さんの奥さんに、今度は、手で口をおさえないで言った。
 向かいの家を建てた人は、サンエイ科学研究所の所長の市山博士であり、ブラックホールの研究を行っていて、重力が空間を曲げるということを応用するために、ブラックホールを、ある物質を超高圧で圧縮することにより、超小型のブラックホールを作り出し、その超小型のブラックホールにより、空間を曲げ、ある場所と、遠隔の場所を接続するジョイントを開発することに成功したのである。
 そのジョイントの設定ダイヤルを、接続したい場所の緯度と経度を設定することにより、その設定した場所に空間が接続されるというものである。
 市山博士は、超小型ブラックホールジョイントを日光の家の部屋の中にある扉の所に設置し、また、東京の自宅にも設置し、日光の家と東京の自宅の空間を接続していたのである。
 それで、市山博士のあいさつは、
「今度、ときどき、向かいの家に来ることがありますので、よろしくお願いします」
というあいさつだったのである。


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