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異次元のなんとか対策ってなーに

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 「大津くん、これって、何も対策をやらないってことよね」
 と友子は、テレビを見ながら、大津君に言った。
 「なんでー」 
と大津君は言った。 
「だって、異次元のなんとか対策って言ってるのよ」
「異次元だから、現実の社会の次元ではないってことなのよ」 
と、友子は、いっしょにテレビを見ている大津君に言った。
友子は、続けて、
「大津くん、この異次元って用語なによ」
と、大津君の顔を見ながら、少し怒り口調で言った。
「うーん、そうだよね、なんだろうね」
と、大津君は、言った。
 友子は、大津君が週3回行っている大学の研究室の1年先輩で、おとなしくまじめな大津君が気に入っていて、ときどき、大津君を自分のマンションにさそって、コーヒーをいっしょに飲んでいた。
 その日も、友子のマンションで、2人で、コーヒーを飲みながらテレビを見ていたのである。
 次の日、大津君は、助手として働いているサンエイ科学研究所の自分の席で、パソコンに向かって書類を書いていた。
 この日は、コーヒータイムになっても、大津君は、コーヒーを飲みに来なかったので、所長の市山博士は、大津君の席に行って、パソコンの画面をのぞきこみ、
「なんか、おもしろいことを考えついたのですか」
と市山博士は、ニヤニヤしながら、大津君に言った。
「そうなんです。実は、昨日、先輩に言われて、異次元のなんとか対策ってどういうこと、ということで考えてたんですが、よく分からないので、ちょっともっといい用語を思いつき、ちょっとネットで調べているんです」
と大津君は、市山博士の方に向き直って、言った。
「そうですよね、異次元のなんとか対策ってよく分かりませんよね」
と市山博士は、難しい顔をして大津君を見て言った。
「そうなんです」
「それで、異次元ではなく、実次元というのはどうかなーと」
「それにより、現実の社会に対する対策というのが強調できると思うのですが」
「それで、ネットで調べたんですが、実次元という用語は数学や数理物理での用語であるんですね。でもちょっと難しくて」
「でも、異次元というより、実次元って言った方が、実社会、現実の社会を表しているような気がするんですが」
と、大津君は、市山博士に説明した。
「そうですね」
と市山博士は、大津君におだやかな顔で言った。
 市山博士は、大津君に、言った。
「まあ、あまりまじめに対策をとる気がないような気がするよね、異次元という用語だと」
と市山博士は、言い、
「そうですよねー」
と大津君は、言い、市山博士と大津君は、コーヒーを飲みながら、なんか笑い出しそうになった。
 こうして、サンエイ科学研究所のコーヒータイムは、終わりました。


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