【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

文字の大きさ
56 / 274

56 命を繋ぐために箱庭師が用意したもの(下)

しおりを挟む
――カイルside――

アイテムボックスから最初に取り出したのは、レイスさんへとリディアから託されたアクセサリーだ。
レイスさんは箱を開けると、見事な青いバラの髪留めに目を見開き、俺の方を見た。


「初めからお話させてもらいます。実は懇意にしている付与師ではなく、俺の大事な女性が付与師スキルも持っているんです。店のアイテムやネイルサロン・サルビアのネイルも、彼女が一人で作っています」
「それは……」
「俺の大事な人は、あなた方を応援しています。死んで欲しくないと、五体満足で帰ってこれるようにしてあげたいと。こちらは彼女がレイスさんの為に作った身代わりの華です」


レイスさんもナナノさんもハスノさんも、一種の芸術品のような青いバラのアクセサリーに目を見開き、その後レイスさんは強く目を閉じると絞り出す声で「ありがとう」と告げた。
今、国が抱えている付与師たちは、冒険者ではなく騎士団に付与アイテムを率先して渡すように指示を出している。
故に、レイスさん達のような冒険者が付与アクセサリーを持つ事は、とても困難な状況下にあった。


「それと、こちらは同じく俺の大事な女性が作ったお守りです」
「これはっ!」
「「ロストテクノロジー持ち……?」」


流石に『神々の護符』を目にすれば、必然的にばれてしまうのは仕方ないにしろ、俺は質問には答えず微笑むだけにした。


「こちらの護符を30個用意してます。出来れば雪の園の方々が信頼できる朝の露のメンバーにも渡して差し上げてください。一瞬でも逃げられる隙が出来れば助かる確率が上がります」
「カイルくん……」
「まだあります」
「いや、もうロストテクノロジー持ちと言う事が分かった以上、何も驚かないよ」
「安心しました。こちらは『エリクサー』です。負った傷を癒し体力と魔力を瞬時に全回復しますが、一人二回までが使用限度ですので、一人につき二本所持して頂ければと思います」
「本当に何からなにまで……」
「最後にですが」
「「「!?」」」


そう言って、アイテムボックスから取り出した12本の青い瓶に入ったポーションに、三人は顔を見合わせた。


「こちらは、彼女がスキルを上げに上げまくった結果、作ることが可能になったモノで、多分王国内で此れを作れる、または所持しているのは今のところ俺と彼女だけです。そのアイテムを雪の園の方々にお渡しします」
「それで……そのポーションは?」
「はい、『破損部位修復ポーション』と言う名のポーションです」


流石に三人は言葉を失った。
俺だって最初はそうだった。
冒険譚で賢者が作った、もしくは聖女が作ったとされるポーションで、おとぎ話の世界のアイテムだとずっと思っていた。
だが違った。
効果は絶大だった。


「実は、ネイリストたちへの依頼の際、騙し打ちのような依頼を受けて向かった先で、両腕や両足を失った娼婦を私が買い取り、このアイテムを使いました。結果、皆さんの失われていた足や腕は復活し、体力も一番元気だったころの体力にまで戻りました。さらに言えば、心の破損……と言えば良いのでしょうか。傷ついた心すら多少なりと緩和させることが可能なアイテムです」
「それは……」
「奇跡のポーション」
「おとぎ話じゃ……」
「目の前にあるこの12本がその奇跡のポーションです。これをあなた方、雪の園の皆さんの命を守る為に使って欲しい。あなた方は得難い人達です。これからの未来を生きて欲しいと俺達は願っています。どうか受け取ってください」
「「「―――……」」」


三人は次第に顔を歪め、ナナノとハスノは涙を零して泣き始め、レイスさんは唇を噛みしめると深々と頭を下げた。
暫く言葉はなかった。
三人は肩を揺らし、何かを受け止めるのに必死の様子で……俺も言葉が出なかった。
それでも、レイスさんは声を絞り出すように――……。


「………道具店サルビアに関わる皆さんに……心からの感謝をっ」
「「――ありがとうっ!」」
「また皆で笑い合いたいですからね。きっと彼女もそう思っているはずです。彼女を紹介したいところですが、何分引き籠りでして。あなた方の言葉を彼女に伝えます。でもきっとこう言うでしょうね」
「……なんと?」
「『あなた方のお帰りをお待ちしております』……と、愛する彼女なら言うでしょう」


途端、レイスさんからも涙が溢れ、嗚咽を零して泣き始めてしまった。
ナナノとハスノも同じだ。
両手で顔を覆い、大粒の涙が幾つもテーブルに落ちていく。

誰だって死ぬのは怖い。
死ぬ可能性の方が高い場所へ行くんだ……生きて帰れると言う希望が薄い者から死んでいく……それが冒険者の世界だ。
そこを引き上げる為にも、過剰と言われようともアイテムを渡したことは、きっと意味がある。
雪の園の皆は、必ず生きて帰ってくる。必ず。


「と言う訳ですので、俺の大事な女性はロストテクノロジー持ちではありますが、国の管轄外にいます。彼女もそれを望んでいます。是非、内緒にして頂けると良いのですが」
「内緒にしよう! 此処まで私たちの命を心配してくれる素晴らしい女性だ。この事は墓場にまで持って行こう!」
「私も約束する」
「私も」
「有難うございます!」
「全く……道具店サルビアには毎度驚かされる。良い店主に、良い店員、そして――優しい道具を作る君の愛する女性」
「道具店サルビアは」
「思いやりと優しさで出来ている」
「今後もそうであれるよう、気を引き締める想いです」


そう言って微笑むと、レイスさんは早速『身代わりの華』を装着し、『神々の護符』をナナノとハスノは5枚、他をレイスさんが鞄に入れていた。
きっと残りは朝の露のメンバーと分け合うのだろう。
『エリクサー』も一人二つずつ手に取り、『破損部位修復ポーション』は一人四つを鞄に入れ、涙を拭うと満面の笑みを見せてくれた。


「勝てる気しかしないな。何があろうとも」
「生きて帰ってくる」
「帰りを待ってて欲しい」
「ええ、帰ってきた時は皆さんでちょっと良い紅茶でも飲みましょう。秘蔵の紅茶があるんです」
「それは楽しみだ!」
「紅茶好き」
「楽しみが出来た」
「お菓子も用意してますから、どうぞ、行ってらっしゃいませ!」
「行ってくる!」
「ナナノはチョコレートがいい!」
「ハスノはバタークッキー!」
「ご用意しておきますね!」


こうして、雪の園のメンバーはお店に入ってきた時の表情とは打って変わって、生命力に溢れたと言うべきか、何時もの覇気に戻ったというべきか。
マントを翻して帰宅した彼らの無事を、帰りを、勝利を願った夜だった。
そしてその頃、池鏡の前では――。




◆◆◆


「カイルの好きな女性って、わたくしの事でしたの!?」
「リディアちゃん……何を今さら」
「皆さんにバレバレ状態ですよ? 気が付かなかったのはリディア姉さんだけです」
「ええ、此処にいる私たちも、てっきりお二人は付き合っているのだとばかり」
「らぶらぶね」
「らぶらぶだったわ」
「ひああああああああああ!!」


そんなやり取りがされていることを、俺はまだ知る由も無かった。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

平凡なサラリーマンが異世界に行ったら魔術師になりました~科学者に投資したら異世界への扉が開発されたので、スローライフを満喫しようと思います~

金色のクレヨン@釣りするWeb作家
ファンタジー
夏井カナタはどこにでもいるような平凡なサラリーマン。 そんな彼が資金援助した研究者が異世界に通じる装置=扉の開発に成功して、援助の見返りとして異世界に行けることになった。 カナタは準備のために会社を辞めて、異世界の言語を学んだりして準備を進める。 やがて、扉を通過して異世界に着いたカナタは魔術学校に興味をもって入学する。 魔術の適性があったカナタはエルフに弟子入りして、魔術師として成長を遂げる。 これは文化も風習も違う異世界で戦ったり、旅をしたりする男の物語。 エルフやドワーフが出てきたり、国同士の争いやモンスターとの戦いがあったりします。 第二章からシリアスな展開、やや残酷な描写が増えていきます。 旅と冒険、バトル、成長などの要素がメインです。 ノベルピア、カクヨム、小説家になろうにも掲載

【バフ】しかできない無能ちゃん。クランから追放されたら、全員を【バフ】する苦行から解放される。自分一人だけ【バフ】したら、なんか最強でした

北川ニキタ
ファンタジー
ニーニャは【バフ】と呼ばれる支援スキルしか持ってなかった。 おかげで戦闘には一切参加できない無能。 それがクラン内でのニーニャの評価だった。 最終的にクランはニーニャを使い物にならないと判断し、追放することに決めた。 ニーニャをダンジョン内に放置したまま、クランメンバーたちは去っていく。 戦えないニーニャはダンジョン内で生き残ることは不可能と誰もが思っていた。 そして、ニーニャ自身魔物を前にして、生きるのを諦めたとき―― 『スキル【バフ】がレベル99になりました。カンストしましたので、スキルが進化します』 天の声が聞こえたのである。 そして、ニーニャを追放したクランは後に崩壊することとなった。 そう誰も気がついていなかった。 ニーニャがクラン全員を常に【バフ】していたことに。 最初だけ暗いですが、基本ほのぼのです。

転生幼女の攻略法〜最強チートの異世界日記〜

みおな
ファンタジー
 私の名前は、瀬尾あかり。 37歳、日本人。性別、女。職業は一般事務員。容姿は10人並み。趣味は、物語を書くこと。  そう!私は、今流行りのラノベをスマホで書くことを趣味にしている、ごくごく普通のOLである。  今日も、いつも通りに仕事を終え、いつも通りに帰りにスーパーで惣菜を買って、いつも通りに1人で食事をする予定だった。  それなのに、どうして私は道路に倒れているんだろう?後ろからぶつかってきた男に刺されたと気付いたのは、もう意識がなくなる寸前だった。  そして、目覚めた時ー

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...