【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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180 薬師からみた色々なこと。

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――薬師side――


今日から見学としてやってきた薬師の卵は、まだ8歳と9歳の姉妹だった。
対応は僕に任せられたけれど、二人は緊張した様子で「宜しくお願いします」と頭を下げてくれた。


「はじめまして、僕は薬師見習いのラキュアスです。僕もあなた達と同じように保護された子供の一人ですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、母と共に保護されました。薬師に関しては、文字の読み書きや計算が出来た為、コツコツと失敗を重ねながらスキルを上げてきたんです。お二人はまだ文字や計算は進んでいませんよね」
「「はい」」
「薬師に必要なのは勉強もさることながら、薬を調べるために文字の読み書きは必須になります。薬を作る為には計算が必須になります。ですので、まだ調合などはさせられませんが、見学をしながらどんな仕事なのかを覚えてくださいね」
「「はい!」」


そう、薬師の仕事は文字の読み書きや計算だけではなく、薬の種類の多さ等もシッカリ覚えなくてはならないし、どの症状にどの薬を渡すのかも覚えなくてはならなくて、他のスキルの人たちより、覚えることが数段多い。
僕の後ろについてマスクをつけ、薬の調合を見る二人に、僕は話しかけることにした。


「今作っている薬は、今から箱庭の外は秋から冬に向かいます。そうなると増える病気はなんでしょう?」
「かぜ?」
「その通りです。この薬は咳止めです。錠剤の咳止めもありますが、僕はまだ錠剤にするスキルがもう少し足りないので、粉薬を担当しています。粉薬でなければ飲めないお年寄りや子供もいるので、大事な仕事ですよ」
「薬なんて高価なもの、私たち飲んだことないし」
「これからは箱庭で病気になれば飲めるようになりますよ。命は大事ですから」
「「有難うございます」」
「そして、その薬を貴方たちも作れるようになれば、あなた達が今度は感謝の言葉を言われる立場になります。薬師の心得に『金を稼ぐより命を繋げ』と言う言葉があります。僕たちは金儲けがしたくて薬を作っているんじゃないんです。病気で苦しむ人たちの命を繋ぐための薬を作っています」
「金を稼ぐより」
「命をつなぐ……?」
「そうですよ。お友達や仲間が死にそうになっていたら、助けたいと思うでしょう?」
「「はい」」
「それを、当たり前に、沢山の人にする事が命を繋ぐことです。確かにお金は多少頂きますが、多くを頂くことはしません。薬の材料が高価なものは高い値段になりますが、それでも、それが絶対に必要なほどに悪い人には、分割でも払って頂けるのならお出ししますしね」
「ぶんかつ?」
「少しずつお金を頂くと言う事です」
「なるほど」


まだまだ知識が少ない彼女たちには、分らない事は多いでしょうが、これから少しずつ知っていけばいい事ばかりです。
知識は遅れて知っても問題はありませんし、恥ずかしい事ではありません。
知っている人、知らない人がいて当たり前ですし、知らないからと言って馬鹿にする人がいるとしたら、心が寂しい人なんでしょうね。


「わたしたち、なにもまだしらなくて」
「おんなのこはあぶないから、外に余りでちゃいけないって言われてて」
「でしたら、少しずつ覚えていきましょう。焦らなくても大丈夫ですよ。知識も知恵も、少しずつ覚えて貯えて行けばいいんです。でも、薬の調合だけは間違えてはいけません。人の命にかかわります」
「「はい」」
「その為には、本を読めるようになったり、数字に強くなったり、まずは初歩が出来てからで構いませんよ。それがあなた方の武器になります」
「武器……ですか?」
「ええ。僕も始めた頃は良く解らない言葉があって苦労したんです。苦労したけれど、それが今に繋がっているのなら、それはやっていい努力だと思います。そういう積み重ねがとても大事だと思いますし、相手を思いやる心こそが、人間には必要なのだと思います。相手を思いやる心が無くなった人間は、ただの暴走する凶器と同じですから」


病気には、目に見えない病気と見える病気があります。
目に見えない病気こそ厄介なもので、特に、人を苦しめてやろうとか、自分の正義こそが全てだと思う様な人種と言うのは少なからずいます。
そう言う人を見てきたドミノさん達から言わせれば、ソレは病気と変わらないのだと。

治る病気ならいざ知らず、人の性格までは治る事は難しいと言われています。
一度ついた癖のようなそれは、濁った性格までは綺麗には治らないのだそうです。
それでも、環境さえ変われば、少しずつ変わる事は出来るのだと、そう教えてくれました。


「どんな時も、相手の事をまず考えて、どういう経緯で、どうして病気になったのかを聞くことも大事です。どうしても変わることのできない職業関係もあるでしょうが、その為に、ある程度でも治せるのなら、薬とは必要ですね」
「相手の立場になるってこと?」
「ええ、相手の立場になって考えるという事を辞めてしまえば、それはタダの独り善がりに過ぎませんからね。僕たち薬師が相手の立場を考えなくなることは、決して許さる事ではありません。心に常に優しさと思いやりを持っていなければならないんです」
「「難しいです……」」
「要は、常に優しくありましょう。他人に優しくしましょう。と言う事ですよ」


言葉使いもそうですよね。
相手を想いやる優しい言葉使いをすれば、相手も優しく返してくれます。
けれど、冷たい言葉や傷つける言葉を使えば、それは往々にして自分に返ってきます。
言葉とは刃物です。
だからこそ、傷つけない様に気を使わねばならない事も多いのです。
とは言っても、それが出来る人間は少ないのでしょうが……。


「人にやさしくしても、傷つけてくる人っている」
「優しさを踏みつけてくる人もいるわ」
「そうですね、そう言う人は、心が寂しい人なんです。治ると良いですねと思っていると良いですよ。あなた方についた傷はあるかも知れませんが、優しさを踏みにじる相手とは、今後一切関わらないと決めておけばいいんです」
「それでも病気を治して欲しいって言われたら?」
「お薬は出します。経過も見ます。それで本当に治るのなら薬師として嬉しい事はありません。ですが、そうではなく、何度も悪化するようでしたら『当店では治すことは不可能の様です』と、別の薬師に掛かる事をお勧めしますね」
「切り捨てるの?」
「場合によっては、ですね。お客様の態度も大事なんですよ。自分が一番偉い等と思っている方には、相応の対応をするしかないでしょう?」
「「うん」」
「此方としては、シッカリ治って頂きたいと思って考えて薬をお出ししても、何度も文句を言われたら、治すことが出来ない病気なのだと思い、別の薬局に行って貰うのも一つの手なんですよ」


まぁ、そこまで酷い人は来ないとは思いたいですが、どうなるかは分かりませんからね。
薬局の為にも、薬局にくるお客様の為にも、お引き取りして貰う事もあるでしょう。


「薬師ってたいへんな仕事なのね」
「わたしたちも出来るかしら?」
「まずは勉強からですね。そこから薬師用の本を読んで更に勉強して、調合を重ねて勉強して……。薬師とは勉強の積み重ねですよ」
「「頑張ります」」
「ええ、一緒に頑張りましょう」


そう言うと粉の咳薬が完成し、二人に薬を紙に包んで貰いました。
せめて一つくらいは仕事をして貰いたかったのもありますしね。
二人は四苦八苦しながら薬を丁寧に紙に包むと、僕の指示を待っていました。


「綺麗に薬が包まれていますね、一つ、薬師としての仕事が完了です。お二人がこの薬を作れるようになり、お薬を出せるようになるのを待ってますよ」
「「はい!」」
「優しい心を忘れず、思いやりを忘れず、一緒に命を繋いで行きましょうね」


それが、薬師と言う仕事なのです。
優しさを、相手への思いやりを、傷つける言葉使いではなく、包み込む言葉使いを。
突き放した言葉使いや、馬鹿にした言葉使いだけは絶対に僕も許しませんが、そういう相手ばかりではないのだと信じたい気持ちも強いんです。
あなた方はまだ薬師としてスタートも出来ないかも知れないけれど、あなた達二人の成長を、隣で見て、僕自身も成長していけることを、心より楽しみにしていますよ。
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