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第四章 国民の為の諸々も終わり、自分の引き際を知る。

53 どっちの道に進んでも……ならば、俺は国王であることを辞める。

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 平たく言えば――金貨の要求だった。
 金貨1000枚と言う法外な要求で、飲めない場合は異端審問に掛けるという内容。
 自分の金貨で払えなくはない。
 それで問題なく過ごせるのならそれに越したことは無いが――。


「脅しだな」
「脅しですね」
「テリサバース教会は何かと金貨を要求するが、これは法外すぎますぞ」
「だが払わなければ異端審問だ。何をもって異端とするのかも気になるが」
「異端諮問に掛けられたスキルを封印されるんですよね?」


 ――確かにそれは困る。
『天候を操る程度の能力』を封印されると色々とこの周辺の国々さえも困るのだ。
 そこも目を付けての脅しだろう。
 やり方が汚い……。


「金貨は支払う」
「兄上!?」
「だが、これっきりにして貰わねばならないな。是非テリサバース教会の者が来てその辺の書面を残して頂きたいと書こう。それくらいは許されるはずだ」
「それくらいしか……異端審問を避ける術はないでしょうな」
「その上で更に金貨を要求して異端諮問を掛けるというのは無いとは思うが。相手がテリサバース宗教では何とも言えないな」
「何とか出来ないのでしょうか?」
「神の御威光ですと言う名目が欲しいんだろう。その上で金貨も欲しい。図々しい神だな」


 そう言って溜息を吐くと、羊皮紙を持って来てもらいテリサバース教会への返事を書く。
 金貨は払うが無論そちらから来て貰い、書面にてこれ以上金貨を要求しない書面を書いて貰う事をお願いする書面だ。
 一国の王が移動するというのは難しいのを流石のテリサバース教会も分かっている事だろう。
 印を押し、部屋にある魔道具にてテリサバース教会の総本部に書簡を送り、先ずは様子を見るしかない。
 金貨で解決できるならそれに越したことは無いが――そう思い一週間後返事が届いた。
 どうやら案を飲んで貰えるらしい。
 それもそうだろう。金貨1000枚と言えば国家予算と同じかそれ以上だ。
 それを払うというのだからテリサバース教会としては手をこまねいて喜んでいる事だろう。
 コッチとしては異端審問に掛けられてスキル封印をされるくらいなら支払うだけの価値があると思って支払う訳だが――。

 それから2週間後、テリサバース教会の大司教が多くの部下を引き連れやってきた訳だが、金貨1000枚の入った袋を見ると笑顔で「確かに受け取りました」と笑顔で口にしているが胡散臭い。


「続いて、更に金貨の要求をしないという書簡が此方となります」
「中を拝見しても?」
「どうぞ」


 その言葉にサファール宰相が書簡を受け取り俺が中を見ると、確かにこれ以上の金貨の要求はしないという旨は書かれていた。
 これならば安心はできるか? と思ったのだがどうにも胸騒ぎがする。
 これでは足りない気がしたのだ。


「では、二度と異端審問に掛けられる……と言う事もないのですね?」
「それは解りません」
「何故です」
「貴方が『ロストテクノロジー』持ちだからですよ」


 思わぬ言葉に眉を寄せると、大司教は首を横に振りロストテクノロジーの事を語り始めた。
 元々ロストテクノロジーを持つ者は膨大な力を以ており、世界の均等を崩す恐れがあるからテリサバース教会が隔離しているらしい。
 確かに膨大な知識の上で成り立つロストテクノロジーだが、それを隔離する為に協会がロストテクノロジー持ちを集めているとは思いもしなかった。


「ロストテクノロジー持ちと言うだけで異端審問に掛けられるのか? 一国の王をか?」
「その可能性は否定できません。ですが一国の王の場合、異端審問を掛けるというのはまた難しいのも事実。そこで我々が行う事はただ一つ――【シュノベザール王国を異端の国として名を広める事】です」
「異端の国。異端者が国王だからか」
「その通りです」
「な! 馬鹿げておりますぞそれは!!」


『異端の国』と言うのは差別用語でもある訳だが、異端の国と仲良く和平協定等している場合、周囲の国もまた異端者と繋がっているとして同等の扱いを受ける事となるのだ。
 その場合、周辺国からの外貨を稼ぐことは不可能となり、国交が閉ざされる上に外交もできないという八方塞になる可能性があるのだ。


「……つまり、俺が国王でなくなった場合はどうする」
「おや、国王をお辞めになるんですか?」
「もしもの場合だ。その結果を聞いておくのも別に悪い事ではないだろう」
「そうですね。異端者である者が国王でなくなった場合、その国は異端の国と言う呼び名は無くなるでしょう。そしてロストテクノロジー持ちと言う事でテリサバース教会に来て頂きます」
「監視される訳だな?」
「ええ、ロストテクノロジーとは恐ろしい力ですからね」
「どのみち、金貨を払っても異端の国と言う汚名を着せられ、それが嫌なら国王を辞めてテリサバース教会にて隔離されろと言うのが本音だったのだろう?」
「それはテリサバース女神の御威光ですので」
「だが、俺がどこかの国に亡命した場合はどうなる」
「亡命国で貴方を探し、連れ戻します」
「そうか……話は分かった。金貨を持って帰るといい」


 つまり、最初からこの国は『異端の国』にして俺をどうにかしてテリサバース教会に隔離したい事だけは解った。
 テリサバースの者たちが部屋を出ると、怒りで震えるサファール宰相に「シュリウスを呼べ」と口にして俺は立ち上がる。


「それから、アツシ兄上にも連絡をする。亡命するなら神々の国の方が安全だからな」
「ぼ、亡命なさるんですか!?」
「俺のやるべき事は大体終わった。後は時折この国にあるアツシ兄上の拠点で話が出来れば問題はない。ただ、国には王が必要だ。そこはシュリウスに任せる。そしてこのテリサバース教会の言った言葉を全国民に伝える義務もある。そこまでやってから……俺は神々の島にリゼルと共に亡命する」
「しかし!! 何も悪い事をしていないのにこの扱いはあんまりです!!」
「異端の国では外交も外貨を稼ぐ事も出来ないのはお前も知っているだろう。今から市場が出来てこれからと言う時なのだ。ここから先はシュリウスにでもできる。国は富み、民は飢えることがなくなった。王とは飾りであり象徴であればいいと先日話していた所だ。その王が弟に変わっても問題はない」


 そう伝えるとサファール宰相は頭を抱えていたが、直ぐにシュリウスを呼んでくれた。
 俺もアツシ兄上に事の内容を伝えると、とんでもない勢いでやってきた。
 無論シュリウスもファルナもだ。
 リゼルは驚いた様子で来ていたし、これまでの話をすると全員が憤っていた。
 しかし、どうする事も出来ないという事は世の中にはある。
『逃げるが勝ちだが……』と言う奴だ。

 それに、俺が神々の島に亡命すれば、島への天候は元に戻して奴らが入れなくすることは可能だった。
 それもまた大きい利点でもある。


「と、言う事なんだが、どうだろうか?」


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