【☆完結☆】僕の妻は異世界人で、世紀末覇者のようなマッスルボディの可愛らしい妻です。

寿明結未(旧・うどん五段)

文字の大きさ
2 / 33

02 物理的に胃袋を掴もうとする異世界人はやっぱり怖い。

しおりを挟む
その後――。
ピッチピチの20歳、彼氏募集中のマリリンは鼻歌を歌いながらアイテムボックスから使い込まれた肉切り包丁を取り出し、庭で猪の解体を楽しんでいた。
元居た世界とは違う空気……違う空、目に映る全てが新しい。
異世界と簡単に行き来が出来ることも大きな収穫だった。きっとマリリンの兄であるジャックと、その友人であるマイケルも喜び勇んで異世界を旅するだろう。
だがその為には、マリリンにはやるべきことがあった。

この異世界のルールを覚えると言う事だ。
マリリンの住む世界でも、国境を渡って違う国に行けば、その国独自のルールと言うものは必ず存在する。
そして、そのルールを破ることは決して許されない事なのだ。

それに、マリリンがこの異世界にきてから得ることが出来たスキルは多くない。
故に、多くの事を理解することが肝心で、最も優先度が高い問題でもあった。
いや、違う――。
最も優先すべきことであり、最も知りたい情報……その人物を思い出しただけで、マリリンの頬はポッと赤く染まった。


「……おぉ、愛しのカズマ。なんというベビーフェイス。
そっと握るだけでポッキリ折れてしまいそうな細い身体に守りたくなるような小ささよ……。
神秘的な黒い髪と黒い瞳、そして透き通るような白い肌……美の化身だ。まさに私の夫に相応しい。いやいや、もう私の夫になるしかない。そのために存在するような美しい青年だ。
まずは彼の心を握りつぶす為にも私に夢中になって貰わねば。
男は胃袋を掴めと兄さんは言っていたが、どうすればカズマの小さき口に拳をねじ込んで胃袋を掴めるだろうか? 部位的に中々難しいな。寧ろ殺さない様に掴むというのがまた難易度の高い。
やはり男性の胃袋を掴むというのは、ある程度のスキルが無ければ難しいのだろうか? 
兄さんやマイケルさんで練習しておけば良かったな。よし、今度慣れるまで練習させてもらおう」


マリリンの恐ろしい言葉に森にいた鳥は一斉に飛び立ち、異世界にいるジャックとマイケルは命の危機を察し旅に出ることを決意するのだが、この時のマリリンには知る由もなかった。
ちなみにカズマは確かにマリリンよりは小さいが、身長は日本人男性の平均値だし、近所の農家の手伝いや家の掃除等をしつつ筋トレもしているので、そこそこの筋肉はシッカリとついている。
まぁ、それでもマリリンには遠く及ばないのだが。


切り分けた猪を丁寧にアイテムボックスに入れたマリリンは、愛しのカズマの生活する家に、ちゃんと靴を脱いで入った。
僅かな音すら聞き分けるマリリンは難なくカズマ母の許へと向かい、キッチンを見て驚く。


「おぉ……魔石もなしに色々なものが動いているとは……古代文明にはこのような仕掛けの物が多く存在したとは聞いたことがあるが、そうか、この異世界は古代か!」
「まぁ! 古代だったら素敵ね! だとしたらマリちゃんは、未来から来た女の子ね!」


『女の子』という言葉に、マリリンは打ち震えた。
正にバイブレーション、マナーモード。
今まで兄とマイケルからは「可愛らしい女の子」だと言われたことはあったが、他の人からは一度たりとも言われたことがなかったのだ。

やだ……義母様っ! 私を女の子として認めてくれているのだな!!
これはまさに嫁に来て欲しいと……つまりはそう言う事!!
マリリンの頭は、色んな意味で男女のお付き合いという工程をすっ飛ばした。


「義母様!! 私、良き妻になってカズマを物理的にも支えます!!」
「まぁ!! それはとても頼もしいわね!!」
「それだけではないぞ! 体の欠損も瞬時に治す秘薬、あらゆる病を浄化する秘薬、毛髪が気になり始めた男性に大人気! ハゲを治す秘薬もある!!」


トン・トン・タァ――ン! と三つの秘薬を並べたその時だった。
台所をコッソリとのぞき込むカズマ父と目が合った。


「……マリちゃん」
「なんでしょう」
「……ハゲを治す秘薬……貰える?」


小さい声を絞り出しながら、そして若干目をそらしながらも手を差し伸べてきたカズマ父にマリリンは優しく微笑み、両手でそっと秘薬を渡した……。


「でもカズマは学生だから結婚はまだ先になるわねぇ……。この不景気で就職活動に苦労しなければいいけれど」
「それこそ心配無用さ。私が働けばよい」
「そんな……ダメよマリちゃん。カズマが立派なヒモになってしまうわ」
「ノンノン! 義母様それは違う!! この私を愛してくれるカズマを養う為ならば、国の一つや二つ乗っ取ることも潰すことも簡単な事だ! 王の座すらカズマに喜んでプレゼントしようじゃないか!」


色々スケールが大きくなっているが、マリリンは本気だった。
そして忘れてはならない。
この会話を、カズマ本人が知らない事も。


「おぉ……っ こんなに血が滾り、心が騒ぐのは久しぶりだ。これが恋!? これが愛!? いいや、これこそが私が長年追い求めてきた、女の幸せと言う謎の解明か!! 異世界……なんと素晴らしい世界なんだ!! 私の求めていた男性はこの異世界にいたのだ!! 何という幸運! 何という幸福!!」
「次代も時空も色々捻じ曲げて、やっと得られた真実なのね!! 素敵!!」


――ただし、カズマはマリリンとの関係について同意は一切していないが。


そんな二人の様子を、寂しくなった頭から若々しく戻った頭になったカズマ父は恐怖を感じながら震えていた。
女子の恋愛トークの恐怖、男子が踏み入ってはイケナイ危険領域。
カズマ父は一人息子の身を案じる事しか出来なかった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています

六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった! 『推しのバッドエンドを阻止したい』 そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。 推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?! ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱ ◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!  皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*) (外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

おばさんは、ひっそり暮らしたい

波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。 たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。 さて、生きるには働かなければならない。 「仕方がない、ご飯屋にするか」 栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。 「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」 意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。 騎士サイド追加しました。2023/05/23 番外編を不定期ですが始めました。

処理中です...