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45 トップシークレットな二つの話①

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 人形を大事にするあの神父のような人間もいれば、人形を物のように扱う人間もいる。
 解り切っていた事だけれど、やはりいい気はしない。
 そこで、モシュダール国王陛下に連絡を入れて今のシャーロック町の現状を伝えた上で、教会の神父とシスター人形への内容を伝えた所、王都から騎士団が見張ってくれることになった。

 騎士団とテリサバース教会は仲が悪いらしい。
 と言うより、規律厳しい騎士団に、神父たちがとても苦手意識をもっているのだとか。
 一種の嫌がらせである。
 でも、そのお陰でテリサバース教会の神父たちによる横暴な態度は落ち着いたというより、かなりの我慢をさせられているようで、数名の神父は耐え切れず王都に戻ったという話も聞いて留飲が少し下がる。

 そして功を成したのか分からないが、3カ月後――テリサバース教会の総本山から『騎士団がいては聖女が見つからない』と言う苦情が来たそうで、その際にシャーロット町で起きた内容をズラッと纏め上げた書類をテリサバース教会の総本山に送りつけたモシュダール国王に、大司教は慌てふためいたそうだ。

『そのような事実ありません、事実無根です!』と言う言葉に対し、【シャーロック町は既に我慢の限界である事】と、【一体教会はどういう状況になっているのか】と言う怒りの書簡を更に出した事で事実だと知った大司教は一旦シャーロック町から神父を戻すことを決定した。

 決定した途端翌日には尻尾を巻くように逃げて行ったという神官たちの話はシャーロック町では笑い種になっており、本当に嫌われていたのが良く分かる。
 そして――。


「なんの成果一つも上げられずに戻った訳だから、それなりにお咎めはありそうですがね」
「聖女様のいるとされている町でそこまで嫌われたら、とてもじゃないけどねぇ?」
「いい気味だわ」
「そもそも、神官らしくないのよ。まるで野獣だわ」
「確かにのう……」
「で、これから先どの様な動きの可能性があると思われますか?」


 そう人形保護施設で話をしている俺達家族に苦笑いをするコウさんだったが、シャルロットは「もっと追い詰めてやりたいですわね」と口にしており、それに付いては全員が同意した。
 教会のやり方は一般市民への被害を鑑みても酷いものがある。
 うやむやにさせる訳には行かない。


「何か楽しい教会の弱点ってありませんかしら? ねぇ? アンク?」
「まだトーマが聖者と分かった訳ではないからな……。分かりそうになるのなら……爆弾を落としてやろう」
「何か知ってますのね? 狡いですわ!」
「だが、俺も良い話を聞けた。そうか、城の騎士団と教会は仲が悪いのか」
「ええ、その様ですよ」
「それは後々で使えそうだ」


 そう言って満足そうに珈琲を飲むアンクさんに、シャルロットさんは「教えて下さいませ?」と言っていたが「今言えば面白みがないだろう?」と不敵に笑うアンクさん。
 何やら本当に大きな爆弾を持っているようですね。
 テリサバース教会の弱みを何か握っている……と言う事でしょうが、今は言うべき時ではないと判断と言った所でしょうか。
 しかし――。


「聖女探しって、まるで魔女狩りされてる気分ですね」
「トーマはそう思うのかい?」
「ええ、教会の人たちの目が何というか……異常です」
「まぁ、長年探し求めている聖女ですものねぇ……」
「このまま何事も無ければいいですが」


 そう言ってお茶を貰い溜息をついた俺だったが、翌週とんでもない知らせが届いた。
 なんでも【大人も含めてスキルチェックのし直し】をするとシャーロック町に通達があったのだ。
 これは非常に不味い。
 何処まで自分のスキルが見られてしまうか分からない……。
 そこで、その知らせを告げに人形保護施設に向かい、相談してみた所眉を寄せて「不味いな」と口にしたのはアンクさんだった。


「やはり、称号が出てしまうんでしょうか?」
「出るな」
「うわぁ……」


 俺は思わず頭を抱えた。
 テリサバース教会の連中に連れていかれるなんて真っ平ごめんです!!


「だが、相手の目を欺くというか、別の方に向けさせることは可能だ」
「そうなんですか?」
「あちらに火を放てばいい」
「と言いますと?」
「モシュダール国王に俺とシャルロットから手紙を出してやろう」
「あ、はい」


 そう言うとシャーロットと話をつけて来ると言ってアンクさんは出て行き、暫くすると意気揚々としたシャルロットさんとアンクさんがやってきて、施設のマークのついた紙を取り出すと何やら話し合いつつ書いている様子。
 どうやら陛下をお呼び出しする手紙らしい。
 こちら側から呼び出す事は初めてな為、事態は直ぐに動いた。
 翌日の朝にはお忍びでモシュダール国王がお越しになり、アンクさんとシャルロットさんとの会談が始まったのです。


「教会の暴走は流石に見過ごせない。俺達の知っている聖女様と言うのは隠れて過ごされたいらしい」
「やはり聖女様はいるのか!! しかも隠れてとは?」
「一般人に紛れて生活したいと仰ってますわ」
「なんと……」
「でも、それが駄目だというのなら、この国から出て行くとも」


 俺はそんな言葉は一言も言ってはいませんが、これには陛下も慌てた様子でした。
 するとシャルロットさんはクスクスと笑いだし、「それに……」と口にすると――。


「今国で奪われた人形30体、それに加えて昔からの行方不明人形50体余り、何処に集められていると思いまして?」
「……もしや!」
「そんな所に聖女様を連れて行って大丈夫かしら? 地下牢の入り口は大聖堂右側階段横からですわ」
「何故それを」
「だってわたくしが居た所ですもの。わたくしのいたお部屋が、今はそうなっておりますわ。そうね、元大臣クラスの大物たちも足蹴なく通っているようですわ。テリサバース総本部に」


 そうシャルロットさんが口にするとモシュダール国王陛下は頭を抱え、大きく溜息を吐いた。


「そのような事……絶対にテリサバース教会で起きてはならぬ事件ではありませんか!!」
「ああ、その通りだ。聖女様はその事にとても心を痛めている。無論、シャーロック町のシスター人形が暴行を加えられ、神父も大怪我をしたという話にもだ」
「…………」
「そのような輩がいる場所に聖女様が戻りたがるとでも? 馬鹿馬鹿しい、反対に隠れたいに決まっているだろう」
「なるほど、直ぐに調査いたします!!」
「もう一度言いますわ。聖女様は隠れて過ごしたいんですの。お分かり? スキルボードなんてしたくありませんの。お分かりかしら?」
「……その聖女様が何方かは、教えては貰えないのですよね?」
「「トップシークレット」」
「……分かりました」


 そう言うとモシュダール国王は立ち上がり、俺とモリシュに戻る事を告げて俺達は外へと向かう。
 そして陛下は直ぐに騎士団を大勢引き連れ、テリサバース教会の総本山へ乗り込む決意を口にした。


「きっと世界が荒れる可能性もある。だが、今間違いを正さねば大変なことになる」
「そうですね。それと、聖女様が本当に要るのかいないのかと言う話ですが」
「うむ、何か知っているだろうか?」
「【聖女様からの、陛下へのお願いを聞いて貰うお礼】として、受け取っている物があります。こちらをどうぞお納めください」


 そう言うと、鞄の中から綺麗な絹の布地に包まれた世界樹の実を取り出すとモシュダール国王に手渡し、中身を見て「もしや!」と叫ばれた。


「もし、テリサバース教会が文句を言ったり駄々を捏ねる場合、その世界樹の実が役に立つでしょう」
「嗚呼っ!! やはり聖女様はいらっしゃるのだな! 少しでもお会いしてみたい!」
「彼女は隠れて生活したいそうです。俺でも流石に陛下相手でも口には出来ません」
「そうか……だが、確かに聖女様の御心受け取った」


 こうして城へと帰って行った陛下たち。
 さて、テリサバース教会……どうなるかな?


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