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15 駄肉女神、執着と呪いは紙一重と学習する。

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――その日の夜から、エルグランド様と一緒の寝室で寝るようになった。
神々とは寝る時裸になって寝るものだけど、私は裸で寝るのには抵抗があった。
ゆったりとしたワンピースタイプの服に入浴後着替え、エルグランド様の待つ寝室に向かうと、言うまでもなく彼は裸で横になっていた。


「待っていたぞフィフィ」
「エルグランド様……」
「さぁ、服をぬ、」
「いえ、このままで寝ます。裸で寝るのは抵抗があるので」
「……そうか」


ションボリしている。あからさまにションボリしている。
だが気にせず私はベッドに横になり布団に潜り込むと、やはり子供の園で働いていた時のボロ小屋での生活とここでの生活だと、贅沢をしすぎているような気がしてならない。
それが神の妻になった言う証と言われればそれまでなのだが――落ち着かない。
何世紀もボロ小屋で生きてきたのだ、雨はしのげても風はしのげないようなボロ小屋で。
今の生活は言うなれば、外の雑草が温室で大事に育てられているかのような、それくらいの違いがあるのだ。
故に落ち着かない……。


「フィフィ?」
「なんです?」
「そんな隅っこで寝なくても」
「貴方が裸で寝ているからです」
「だが、神々とは普通裸で寝るだろう?」
「私は服を着て寝ます。それに近いとウッカリ手がモノに触れたら立ち直れません」
「そんな大げさな。フィフィ専用なのに」
「その様な専用品はいりません。おやすみなさい」


起きていたらアーダコーダと喋ってきそうだったのでサッサと寝るに限る。
流石に太陽神でも夢の世界にまでは入ってこれまい。
しかし、時の流れとは残酷だな……。
あんなに健気で可愛らしい子供の神だったのに、今ではフェロモンむき出しの最高位の太陽神にまで育つなんて……誰が想像しただろうか。
そもそも選びたい放題の癖に駄肉を選ぶなよ、駄肉を。
そんな事を思いつつうつらうつらとし始めると、スッと手が伸びてきたのが分かった。
一瞬殺気を放つと手は止まった。よしよし。

はぁ、早く子供の園に行ける日が来ればいいんだけど……。
やっぱりあの日お別れを言えなかったのが一番ショックだわ。
子供達は元気にしているかしら。
そんな事ばかりを考え、隣で血走った眼でこちらを見ているエルグランド様に全く気が付くことも無く、スヤスヤと眠りについた。


――翌朝目覚めると、エルグランド様が燃え尽きていた。
何と言うか、燃え尽きたぜ……真っ白に。と言うセリフが似合う姿で燃え尽きてきた。
下半身はシッカリ隠れていたのでホッとしたが、妙に燃え尽きている。
寝てるのか? それとも永遠の眠りについたのか?


「エルグランド様?」
「……はっ!」
「おはようございます?」
「おはようフィフィ、よく眠れたかい?」
「ええ、エルグランド様は随分とやつれましたね」
「そうでもないさ。少々夜にハッスルしただけだ」


燃え尽きる程どこでハッスルしたんだろうか。
聞かぬが仏だろう。
変につついて藪蛇を出しては元も子もない。


「それでは部屋で着替えてきますね」
「フィフィ」
「何でしょう?」
「君は寝顔すらも女神なのか?」
「女神ですが?」
「いや、女神なんだが」
「一体何を寝ぼけているんです?」
「あ、うん」
「エルグランド様も早く着替えてくださいね。時は金なり、仕事ですよ仕事!」


そう言うとベッドから降りて自室に戻ると、さっさと着替えを済ませて髪を整える。
豊穣の女神は総じて若草の様な色の髪をしているが、私も同じように若草色の髪だ。
子供達に引っ張られぬように肩まで短くはしているが、今後は女神らしく伸ばしても良いだろう。
しかし、神脈詰まりか……。
命に別条がないとはいえ、それが原因で神格が上がらなかったなんて思いもよらなかった。
長い事子供の園にいたせいか、神脈が滞ってしまったようだ。
仕方がないとはいえ、今後改善できるのなら改善したい。
なんかこう、リンパ詰まりみたいなものだろうか?
詰まりが取れる時痛くないといいな~等と思いつつ髪を整えていると、タイリアとエルナが部屋に入ってきた。

基本的に神とは寝なくとも平気な生き物ではあるが、下っ端は睡眠が重要になるのだ。
無論、タイリアもエルナも上級女神な為、睡眠などは必要ない。


「おはようございますフィフィ様」
「おはようフィフィ。よく眠れた?」
「ええ、起きたら隣でエルグランド様が燃え尽きたようになっていたわ」
「あはははは! まぁ、手を出さなかっただけエライと褒めてやったらどうだ?」
「そうですとも、男神とは愛する女性に触れたい生き物なんですよ?」
「ああ、寝入りそうになったときに気配を感じたので殺気を放ったんですよ。そしたら手を引っ込めてくれました」
「ブハッ うける!」
「普通の女神では到底出来ない芸当ですね。何しろ相手は最高位の太陽神。普通なら恭しく何でも従うのですが……フィフィ様を見ていると、エルグランド様も子供なのですね」
「エルグランド様のオムツを交換していた時代からいる女神ですよ? 私くらい古参の下っ端女神になると、遠慮と言うモノがなくなるのかもしれません」


小さい頃はあんなにも可愛かったのに……時間の流れとは残酷なものだ。
更に残念なのは、あれだけの美男子ならばお相手はより取り見取りだろうに、何故こんな駄肉女神を選んだのか……そこがとっても残念だ。


「こんな駄肉よりも、美しい女神を妻に向かえれば、さぞかしかわいい子が生まれただろうに……」
「何をおっしゃいますやら。神々とは何かに執着すると一途になるじゃありませんか」
「特に太陽神は一つに決めると執着凄いらしいからな。それがフィフィだったってだけだろ?」
「……え?」
「もしや、知らなかったのですか?」
「神々の間じゃ有名だぜ? 太陽神の神々の執着」
「え?」
「一度『コレ』と決めたら絶対離れないですし、一度執着すると止められませんし」
「特に力のある太陽神の執着は凄いらしいな。その最上位の太陽神がエルグランド様な訳だけど、そのエルグランド様の唯一の執着がフィフィ、お前らしいぞ?」
「え―――……それ、呪いですか?」
「「呪い……」」


あれ? 呪いじゃないの?
そもそも執着されるような真似をしたことも記憶も殆どありませんけど、過去のアレだって事故を未然に防ぐ為ならば、下っ端豊穣の女神ならすると思いますけど?
何せ太陽神の力は強いですから、子供神が太陽神の子供の攻撃に耐えられるとは思いませんし。


「まぁ、執着は呪いにも似て……るか?」
「まぁ、神によっては呪いと言う方もいらっしゃいますが」
「まぁ! 私と同じように呪いって言う方もいるんですね! 気が合いそうです!」


一度そう言う神と会ってみたい!!
そう口にすると大慌てで二人から駄目だと言われた為、渋々諦めることにした。
しかし、何故そこまで慌てて駄目だと言うのだろうか?


「良いですかフィフィ様。太陽神の執着を悪く言う事はご法度なんです。それを平然と言ってのける神とは、月の神です。太陽と月は相反する方々ですので……」
「太陽神と月神は仲の悪い事で有名なんだ」
「例にもれず、エルグランド様も月神とは仲が悪くて……」
「へぇ……」
「烈火のごとくお怒りになられると思うので、言うのだけは避けてくださいね?」
「アタシたちの防御でもフィフィを守れる自信はないかな?」
「命の保証がないってことですね、分りました」


自殺願望はないもんね。
エルグランド様に月神の事を聞くのはやめよう。
そう言えばうちの子供の園にも月神の子供は来たことが無いな。
どう言うタイプの子供なのかはちょっと気になるけれど、縁がないのなら仕方ない。
その後エルナさんのお水を飲んでから気合を入れると仕事場へと急いだのだけれど、中庭を抜ける際に思わぬ出会いがあった。
それは――。
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