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8 新作と今後の予定
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悪魔の討伐が完了し、ガレウスの荒い運転で再びエデンに帰還した。カリナの力を認めたクラウスとは終始和やかな雰囲気で会話が弾んだのだった。
そして今は謁見の間。カシューがクラウスに話しかけている。
「カリナの実力はどうだった? クラウスよ」
「はっ、見事な召喚術に魔法剣士としての腕前でした。私の考えが至りませんでした」
カシューはくすりと笑い、カリナの方を見た。
「わかればよい。私の目が節穴ではないということがわかっただろう?」
「そ、それは勿論でございます。陛下の決断に素直に従わなかった私の責任でございます」
跪いて深々と頭を下げるクラウス。何はともあれ、これでカリナに無駄に反発する者はいなくなったのである。
「ふむ、まあお前も近衛騎士として見ず知らずの者を私に近づけるのを危惧していたのであろう。だが、もう心配は無用だ。私はこの後カリナと執務室で今後のことについて話がある。カリナよ良いな? それとレミリアとガレウスもご苦労だった。下がっても良いぞ」
「承知した、カシュー王よ」
「「はっ、ありがとうございます!」」
いつもの王と配下のロールプレイを済ませ、レミリア達は頭を下げた。そのままカシューに連れられて執務室に移動する。
◆◆◆
ソファーに二人で向かい合って腰掛けると、カシューが口を開いた。
「そろそろお昼だね。何か持って来させよう。それと……」
手元にあったベルを鳴らすと、王直属のメイド隊が扉を開けて「失礼します」と入室して来た。カシューは昼食の準備と何やら隊長のリアに耳打ちした。
「畏まりました。ではカリナ様はお連れ致しますね」
「お、おい、何を言った?」
カリナが青ざめた顔をすると、カシューはにこやかに笑い、「いってらっしゃい」と手を振った。そのままカリナはメイド隊達に引きずられて、侍女達の部屋に連れていかれた。
「何だなんだ?」
そこでリアが取り出して来たのは新作の衣装だった。昨日の今日で余りにも早い仕事である。そのまま拒否権はないと自覚したカリナは着せ替え人形と化すのであった。
「これは……、また派手な衣装だな……」
頭にはメイドの被るようなヒラヒラのヘッドドレス、身体の前方が大きく空いた、袖にリボンがたくさんついたピンクのコートに、インナーはバストの上から膝上までの長さの黒と赤のボディコンの様なワンピース。下はガーターベルトに黒い膝上までの同色のストッキング。またしても侍女たちの趣味丸出しの衣装を着せられてしまった。
「うんうん、今回のも力作ですよ。やはり元が良いと何でも似合いますね。はぁー、満足です」
侍女達数人がかりで着せ替えられたので、カリナはぐったりした。反対にメイド隊は大満足でほくほくしている。
着替えが終わるとカシューの待つ執務室へと再び案内された。そこにはすでに用意された豪華なランチが並んでいた。
「やあ、お帰り。先に頂いてるよ。いやー、しかし今回も派手でファンシーな衣装だね。リア達張り切ってたから」
はぁ、と溜め息を吐いて。ソファーに腰掛けるカリナ。目の前には美味しそうな料理が並んでいる。
「これがここに戻る度に毎回続くのか? 私にこういう趣味はないんだぞ」
「おや、もう「俺」とは言わないんだね。でもその方が女の子らしくていいんじゃないかな? さすがに俺っ娘は癖が強過ぎるもんね」
「いや、ルナフレアとの約束でな。女言葉は使わなくてもいいから、一人称だけは「私」にしなさいってさ」
ニヤニヤと笑いながら、カシューは「私」と言うカリナを見た。
「君でも側仕えには甘いんだね。まあもうNPCじゃないから普通に可愛らしい女の子だもんね」
「別にそういうのじゃないんだけどさ、長いこと一人にさせてしまった罪悪感もあったから、それくらいは聞いてやりたいと思ったんだよ。あ、そうそう、妖精の加護の更新がカーズじゃなくてもできたんだよ。同じアカウントだからなのか、中身が同一人物だからなのかは謎なんだけどな」
「へー、それは興味深いね。VAOが現実になって色々なものが変化したのかもしれないなあ。まあもうカーズには戻れないんだし、良かったんじゃない? その加護は状態異常完全無効でしょ? 僕も冒険するときは欲しいなあ」
そう言って二人はカリナの右手の甲に刻まれている妖精の加護の紋章を見た。普通のプレイをしていても滅多にお目に掛かれない妖精族の、生涯ただ一人にしか与えられない加護である。どんなレアアイテムよりも貴重で価値がある。定期的に更新しなければ、効力が弱まるのが難点ではあるが。
「で、話は変わるけど、悪魔から何か情報を得られたかい?」
うっ、とカリナは言葉に詰まった。力を示すのに意識が行き過ぎていて、聖衣を纏って一撃で息の根を止めたとは言いづらい。
「あ、いや、それはだな……」
「ほう、その反応は何かを誤魔化しているときだね。どんだけ付き合い長いと思ってるのさ? どうせテンション上がって一撃でぶっ飛ばしたんでしょ?」
カシューにあっさりと見抜かれ、肩を落とすカリナ。
「面目ない。まさか一撃で終わるとは思わなくてさ。瀕死状態にしたら色々聞き出そうかと思ったんだけど……」
「はい、嘘ー! ユニコーンの聖衣まで纏って戦ったんでしょ? そりゃ下位の悪魔じゃ一撃だって」
「そこまで知っているとは、報告が早過ぎないか?」
「ガレウスから車の通信でさわりは聞いてたし、その後は君がお着替え中にクラウスとレミリアからの報告でね」
「ああー、我ながら力加減を間違えた。だが仕方ない。また悪魔はどこかしらに現れるだろ? この二日でもう二体と遭遇したんだ。確かに何かしらの異常が発生しているのは間違いないだろうからな。私も次は気を付けよう。でも階級が公爵とかになったら手加減はできないぞ。そんなことしたらこっちがやられる可能性もある」
悪魔は貴族階級を持っている。当然の様に上の位になるほど強さが跳ね上がる。カリナが昨日、今朝と相手にしたのは伯爵に子爵だった。下位から中位程度の、悪魔にしては雑魚である。それでも普通のプレイヤーにはかなりの強敵ではあるのだが。
「まあ次に出会ったときは何らかの情報を得られる様にするよ。簡単に喋るとは思わないけどな。さて、冷めないうちに私も頂くとしようかな」
出された料理に舌鼓を打つ。VAO時代にはただの体力回復アイテムだった料理だが、味が付いて腹に溜まるとしっかりと空腹が満たされる。
「美味しいだろう? うちの侍女達は多芸だからね」
「そうだな、まさかゲーム内で本当の食事を味わうことになるとはね。しかし、こういう生理現象まであると長時間ダンジョンで狩りなんてできなくなるな。空腹にトイレに、本当の肉体だから必ず疲労感もあるだろうしな」
「まあそうだね。今となってはこの食事が僕にとっては楽しみの一つだしね。本来がゲームのアバターだからか太ったりはしないし。元NPC達は普通に太ったりするみたいだけど」
一通り食事を終えると、今後の予定についての話題になった。誰をどの順番でどこを探すのかということである。
「まずは回復手段は必要だよね。聖女であり僧侶のサティアかな。どこか当てはあるのかい?」
「お前が言い出したことなのに何の手掛かりも掴んでいないのかよ。んー、そうだな。初期五大国の一つ、ここから東にあるルミナス聖光国に行ってみようかと思ってる。あそこは聖職者が多い国だ。サティアがいる可能性も高い」
このVAOの世界には巨大な大陸の中心部に騎士国アレキサンド、東にルミナス聖光国、北に陰陽国ヨルシカ、南にマギナ魔法国、西に武大国アーシェラという初期五大国が存在する。PCは初期チュートリアルで自分のキャラの育成方針にあった初期大国を選ぶ。剣士や騎士ならアレキサンド、魔法使いならマギナというように、そこで自身の成長方針を決めるのである。ちなみにここエデンは中央大陸の騎士国アレキサンドの南に位置している。
「なるほどね、それぞれの特性に合った初期五大国を訪ねて回るってことだね。いいんじゃないかな? 何かしら手掛かりは掴めるかもしれないしね」
「そうだろ? まあ長い旅になりそうだけど」
「ところで冒険者ギルドのカードは持ってるかい?」
「ん? ああ、一応持ってるぞ。ほら」
アイテムボックスからソロ活動時代に使っていたギルドのカードを取り出してカシューに見せる。
「Aランクか……、でもこれはもう使えないよ」
「え? 何でだよ? 苦労してここまで上げたのに」
「100年経ってるんだよ? ギルドの体系も変わってるし、そんな昔の冒険者が今も現役とは思わないでしょ。古いAランクカードを持った少女がギルドに現れたら、何事だと思われるよ。それに他国に入るには最低でもCランクのギルド証が必要になる」
100年の歴史は色々と変化を及ぼしていることを、カリナは改めて思い知った。
「マジか……、いきなり詰んだぞ。最低ランクはFか? チマチマ上げていったら時間がいくらあっても足りないぞ」
「うーん、まあそれはこっちで何とかするから気にしなくていいよ。とりあえず明日は城下のギルドに行ってみるといい。それにこの国の変化もしっかりと歩いて見てほしいからね」
この年月の間、カシューには様々な苦労があったのだろう。そこまで急ぐ旅ではない。ゆっくりと世界の変化を目にしながら旅をするのも悪くないだろうとカリナは思った。
「わかった。ならギルドの件は任せる。城下でお勧めの場所とかあるのか?」
エデン王国は城を中心にして南には居住区、東に商業区、北に工業区、そして西には未来ある冒険者や兵士を育てる学園がある。ギルドは商業区の中にあるとのことである。
カシューからの説明を聞き、明日はゆっくりと散策でもしてみるかと考えるカリナだった。食後のスイーツと紅茶を味わっていると、カシューがテーブルで何か書簡を書き始め、それに国王の印を押してからカリナに手渡した。
「それをギルド職員に渡せば大丈夫だから。じゃあ今日はもう解散にしようかな」
「何だ、まだ昼だろ。話題ならたくさんあるってのに」
そう言うカリナにカシューはデスクに山積みになった書類の束を指差した。
「ああー、国王陛下は大変でございますね……」
「何なら手伝ってくれてもいいんだよ? まあアステリオンが手伝いに来るんだけどね。ってことで今日はもうお開きなんだよね。また何かあったら使いの者を寄こすから、君も部屋でゆっくりするといいよ。ルナフレアとももう少ししたらしばらく会えなくなるからね」
「むぅ、そうか。ならば仕方ないな。手伝うのは御免だし、今日はもう休むよ。お疲れ様、根を詰め過ぎない様にな」
ソファーから立ち上がり、左手をひらひらとさせながらカリナは執務室を後にした。まだ日は高いが、今日は討伐もあったし、疲れてはいないが魔力はそれなりに消費した。ならばゆっくりと休ませてもらうとしよう。
「それに、ルナフレアともこれまで会えなかった分色々と話したいしな」
目立つファンシーな衣装を新たに身に着けたカリナは周囲からの「可愛い」「何だかセクシーな衣装だ」「小さいけど美しい」などというひそひそ話を耳にしながら自室へと戻って行った。
そして今は謁見の間。カシューがクラウスに話しかけている。
「カリナの実力はどうだった? クラウスよ」
「はっ、見事な召喚術に魔法剣士としての腕前でした。私の考えが至りませんでした」
カシューはくすりと笑い、カリナの方を見た。
「わかればよい。私の目が節穴ではないということがわかっただろう?」
「そ、それは勿論でございます。陛下の決断に素直に従わなかった私の責任でございます」
跪いて深々と頭を下げるクラウス。何はともあれ、これでカリナに無駄に反発する者はいなくなったのである。
「ふむ、まあお前も近衛騎士として見ず知らずの者を私に近づけるのを危惧していたのであろう。だが、もう心配は無用だ。私はこの後カリナと執務室で今後のことについて話がある。カリナよ良いな? それとレミリアとガレウスもご苦労だった。下がっても良いぞ」
「承知した、カシュー王よ」
「「はっ、ありがとうございます!」」
いつもの王と配下のロールプレイを済ませ、レミリア達は頭を下げた。そのままカシューに連れられて執務室に移動する。
◆◆◆
ソファーに二人で向かい合って腰掛けると、カシューが口を開いた。
「そろそろお昼だね。何か持って来させよう。それと……」
手元にあったベルを鳴らすと、王直属のメイド隊が扉を開けて「失礼します」と入室して来た。カシューは昼食の準備と何やら隊長のリアに耳打ちした。
「畏まりました。ではカリナ様はお連れ致しますね」
「お、おい、何を言った?」
カリナが青ざめた顔をすると、カシューはにこやかに笑い、「いってらっしゃい」と手を振った。そのままカリナはメイド隊達に引きずられて、侍女達の部屋に連れていかれた。
「何だなんだ?」
そこでリアが取り出して来たのは新作の衣装だった。昨日の今日で余りにも早い仕事である。そのまま拒否権はないと自覚したカリナは着せ替え人形と化すのであった。
「これは……、また派手な衣装だな……」
頭にはメイドの被るようなヒラヒラのヘッドドレス、身体の前方が大きく空いた、袖にリボンがたくさんついたピンクのコートに、インナーはバストの上から膝上までの長さの黒と赤のボディコンの様なワンピース。下はガーターベルトに黒い膝上までの同色のストッキング。またしても侍女たちの趣味丸出しの衣装を着せられてしまった。
「うんうん、今回のも力作ですよ。やはり元が良いと何でも似合いますね。はぁー、満足です」
侍女達数人がかりで着せ替えられたので、カリナはぐったりした。反対にメイド隊は大満足でほくほくしている。
着替えが終わるとカシューの待つ執務室へと再び案内された。そこにはすでに用意された豪華なランチが並んでいた。
「やあ、お帰り。先に頂いてるよ。いやー、しかし今回も派手でファンシーな衣装だね。リア達張り切ってたから」
はぁ、と溜め息を吐いて。ソファーに腰掛けるカリナ。目の前には美味しそうな料理が並んでいる。
「これがここに戻る度に毎回続くのか? 私にこういう趣味はないんだぞ」
「おや、もう「俺」とは言わないんだね。でもその方が女の子らしくていいんじゃないかな? さすがに俺っ娘は癖が強過ぎるもんね」
「いや、ルナフレアとの約束でな。女言葉は使わなくてもいいから、一人称だけは「私」にしなさいってさ」
ニヤニヤと笑いながら、カシューは「私」と言うカリナを見た。
「君でも側仕えには甘いんだね。まあもうNPCじゃないから普通に可愛らしい女の子だもんね」
「別にそういうのじゃないんだけどさ、長いこと一人にさせてしまった罪悪感もあったから、それくらいは聞いてやりたいと思ったんだよ。あ、そうそう、妖精の加護の更新がカーズじゃなくてもできたんだよ。同じアカウントだからなのか、中身が同一人物だからなのかは謎なんだけどな」
「へー、それは興味深いね。VAOが現実になって色々なものが変化したのかもしれないなあ。まあもうカーズには戻れないんだし、良かったんじゃない? その加護は状態異常完全無効でしょ? 僕も冒険するときは欲しいなあ」
そう言って二人はカリナの右手の甲に刻まれている妖精の加護の紋章を見た。普通のプレイをしていても滅多にお目に掛かれない妖精族の、生涯ただ一人にしか与えられない加護である。どんなレアアイテムよりも貴重で価値がある。定期的に更新しなければ、効力が弱まるのが難点ではあるが。
「で、話は変わるけど、悪魔から何か情報を得られたかい?」
うっ、とカリナは言葉に詰まった。力を示すのに意識が行き過ぎていて、聖衣を纏って一撃で息の根を止めたとは言いづらい。
「あ、いや、それはだな……」
「ほう、その反応は何かを誤魔化しているときだね。どんだけ付き合い長いと思ってるのさ? どうせテンション上がって一撃でぶっ飛ばしたんでしょ?」
カシューにあっさりと見抜かれ、肩を落とすカリナ。
「面目ない。まさか一撃で終わるとは思わなくてさ。瀕死状態にしたら色々聞き出そうかと思ったんだけど……」
「はい、嘘ー! ユニコーンの聖衣まで纏って戦ったんでしょ? そりゃ下位の悪魔じゃ一撃だって」
「そこまで知っているとは、報告が早過ぎないか?」
「ガレウスから車の通信でさわりは聞いてたし、その後は君がお着替え中にクラウスとレミリアからの報告でね」
「ああー、我ながら力加減を間違えた。だが仕方ない。また悪魔はどこかしらに現れるだろ? この二日でもう二体と遭遇したんだ。確かに何かしらの異常が発生しているのは間違いないだろうからな。私も次は気を付けよう。でも階級が公爵とかになったら手加減はできないぞ。そんなことしたらこっちがやられる可能性もある」
悪魔は貴族階級を持っている。当然の様に上の位になるほど強さが跳ね上がる。カリナが昨日、今朝と相手にしたのは伯爵に子爵だった。下位から中位程度の、悪魔にしては雑魚である。それでも普通のプレイヤーにはかなりの強敵ではあるのだが。
「まあ次に出会ったときは何らかの情報を得られる様にするよ。簡単に喋るとは思わないけどな。さて、冷めないうちに私も頂くとしようかな」
出された料理に舌鼓を打つ。VAO時代にはただの体力回復アイテムだった料理だが、味が付いて腹に溜まるとしっかりと空腹が満たされる。
「美味しいだろう? うちの侍女達は多芸だからね」
「そうだな、まさかゲーム内で本当の食事を味わうことになるとはね。しかし、こういう生理現象まであると長時間ダンジョンで狩りなんてできなくなるな。空腹にトイレに、本当の肉体だから必ず疲労感もあるだろうしな」
「まあそうだね。今となってはこの食事が僕にとっては楽しみの一つだしね。本来がゲームのアバターだからか太ったりはしないし。元NPC達は普通に太ったりするみたいだけど」
一通り食事を終えると、今後の予定についての話題になった。誰をどの順番でどこを探すのかということである。
「まずは回復手段は必要だよね。聖女であり僧侶のサティアかな。どこか当てはあるのかい?」
「お前が言い出したことなのに何の手掛かりも掴んでいないのかよ。んー、そうだな。初期五大国の一つ、ここから東にあるルミナス聖光国に行ってみようかと思ってる。あそこは聖職者が多い国だ。サティアがいる可能性も高い」
このVAOの世界には巨大な大陸の中心部に騎士国アレキサンド、東にルミナス聖光国、北に陰陽国ヨルシカ、南にマギナ魔法国、西に武大国アーシェラという初期五大国が存在する。PCは初期チュートリアルで自分のキャラの育成方針にあった初期大国を選ぶ。剣士や騎士ならアレキサンド、魔法使いならマギナというように、そこで自身の成長方針を決めるのである。ちなみにここエデンは中央大陸の騎士国アレキサンドの南に位置している。
「なるほどね、それぞれの特性に合った初期五大国を訪ねて回るってことだね。いいんじゃないかな? 何かしら手掛かりは掴めるかもしれないしね」
「そうだろ? まあ長い旅になりそうだけど」
「ところで冒険者ギルドのカードは持ってるかい?」
「ん? ああ、一応持ってるぞ。ほら」
アイテムボックスからソロ活動時代に使っていたギルドのカードを取り出してカシューに見せる。
「Aランクか……、でもこれはもう使えないよ」
「え? 何でだよ? 苦労してここまで上げたのに」
「100年経ってるんだよ? ギルドの体系も変わってるし、そんな昔の冒険者が今も現役とは思わないでしょ。古いAランクカードを持った少女がギルドに現れたら、何事だと思われるよ。それに他国に入るには最低でもCランクのギルド証が必要になる」
100年の歴史は色々と変化を及ぼしていることを、カリナは改めて思い知った。
「マジか……、いきなり詰んだぞ。最低ランクはFか? チマチマ上げていったら時間がいくらあっても足りないぞ」
「うーん、まあそれはこっちで何とかするから気にしなくていいよ。とりあえず明日は城下のギルドに行ってみるといい。それにこの国の変化もしっかりと歩いて見てほしいからね」
この年月の間、カシューには様々な苦労があったのだろう。そこまで急ぐ旅ではない。ゆっくりと世界の変化を目にしながら旅をするのも悪くないだろうとカリナは思った。
「わかった。ならギルドの件は任せる。城下でお勧めの場所とかあるのか?」
エデン王国は城を中心にして南には居住区、東に商業区、北に工業区、そして西には未来ある冒険者や兵士を育てる学園がある。ギルドは商業区の中にあるとのことである。
カシューからの説明を聞き、明日はゆっくりと散策でもしてみるかと考えるカリナだった。食後のスイーツと紅茶を味わっていると、カシューがテーブルで何か書簡を書き始め、それに国王の印を押してからカリナに手渡した。
「それをギルド職員に渡せば大丈夫だから。じゃあ今日はもう解散にしようかな」
「何だ、まだ昼だろ。話題ならたくさんあるってのに」
そう言うカリナにカシューはデスクに山積みになった書類の束を指差した。
「ああー、国王陛下は大変でございますね……」
「何なら手伝ってくれてもいいんだよ? まあアステリオンが手伝いに来るんだけどね。ってことで今日はもうお開きなんだよね。また何かあったら使いの者を寄こすから、君も部屋でゆっくりするといいよ。ルナフレアとももう少ししたらしばらく会えなくなるからね」
「むぅ、そうか。ならば仕方ないな。手伝うのは御免だし、今日はもう休むよ。お疲れ様、根を詰め過ぎない様にな」
ソファーから立ち上がり、左手をひらひらとさせながらカリナは執務室を後にした。まだ日は高いが、今日は討伐もあったし、疲れてはいないが魔力はそれなりに消費した。ならばゆっくりと休ませてもらうとしよう。
「それに、ルナフレアともこれまで会えなかった分色々と話したいしな」
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