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第一章 転生と新世界
7 Not Predicted the Attack
しおりを挟む目が覚める。穏やかな陽気に日の光が眩しい。結構長く、それもかなりぐっすりと寝ていたようだ。太陽が既に高く昇っている。
「昨日は転生初日から結構飛ばしたもんな…」
思ったよりも疲れていたのかもしれないな、夜もアリアと話してたし。と独り言ちてからふわああーっと欠伸をして上体を起こし、両手を上にして伸びをしてから、両肩をぐるぐると動かした。
「でも気持ちいいな、こんな気持ちのいい寝起きは久しぶりな気がする」
大自然の中で心地良い朝を迎えるなんて思わなかった。頭の中もスッキリしていて力が漲るようだ。この感覚、もう長らく忘れていた。夢見が悪くて魘されることもない、寝起きに心が不安定で薬を飲むこともない。素晴らしく気持ちがいい。
「超気持ちいい! 何も言えねえー!」
思わず某アスリートの発言が出る。やっぱ鬱なんて拗らせたらダメだね、意味なくしんどいんだし。かかった本人にしか分からないだろうけどさ。シスコンやらブラコンやらロリコンやらを拗らせる方がまだマシだ、元気なんだし。生暖かい目で見られるだけだしな(笑)
さて、まだ街までは数キロってとこだけど、のんびりと行くか。横に伸ばした腕をもう一方の腕の肘で支え、上半身をねじる。軽いストレッチだ。だが何かにつっかえて腕がねじりにくい。
ムニュリ…。自分の胸部に何かある。スライムか? いや、結界も張ってるし、気配遮断で気配は消している。うん、幻覚だな。もう一方の腕も同様にストレッチがてらにぐっとねじる。
ムニュリ…。まただ、胸というか服の中になんかいる。仕方なく胸元を見ながら手でまさぐる。
ムニュリ×2。うん、知ってた。引っ張らなくてもいいよって思ったろ? いーや引っ張るね! 認めたくないんだからな! とりあえず立ち上がろう、まあまだ焦る時間じゃない。視線を落とし、落とせない…。だって足元が見えないんだぜ? それに視線も少し縮んでいるような高さだ。
ふっふっふ、おっぱいだよ、ウェーイ! とでも言うと思ったかコノヤロー! 何なんだこのご立派様は? 我ながらけしからん! 仕方ない、下も確認しよう、お約束ってやつだ、手を伸ばす。……ない。グッバイ・マイサン。今までありがとう…とか言ってる場合じゃない! もう焦ってもいい時間だボケー! 女性化している、怖え…。尻もムチムチしてなんかデカくなってるし…。全体的に身体が柔らかい。
「おい、アリア! アリアー!」
念話を送る。
『ふぁ~ぃ、おはようございます』
「うん、おはよう、じゃなくって! 何で女性化してるんだよ!」
MP切れしてる訳でもない、何でだ? 俺の聖剣エクスカリバーが消えてる。
『ん…? あーなるほどですねー』
「なるほどって、なんだよ?」
『まだ寝てるときまで魔力操作が行えてないみたいですね。だから体が無自覚に消耗が少ない方向へ、要するに女性側に引っ張られたんでしょうねー』
「マジかよ、上手くなるまでうかつに人前で寝れないじゃないか」
絶対にヤバい、うたた寝するのもヤバい、もしPTなんて組んで泊りがけとかになるととてもヤバい。
『おぉ~、やっぱり女性体の方が凹凸が綺麗に見えて服が映えますねー! ボンキュッボンでエモエモですー(笑)』
こいつ、意味わかって使ってねーだろ。オッサンか、この昭和風味の女神め! こいつはその内チョベリバとか言いそうだ。だが体型が変わってるのに装備は苦しくなってない。背丈も少し縮んで胸も尻もでかくなってるのに。その体型にピッタリフィットしている。俺専用か、なるほどね。どっちにしても問題はそこじゃない。
「エモくねーわ! とりあえずどうやったら戻れるんだ?」
こいつの悪ふざけなノリに付き合ってはならない。早く戻りたい。
『そうですね~、意識を集中して魔力で自分の体の~』
「「「キャーーーーーーー!!!」」」
叫び声!? いや悲鳴? わからないが誰かが襲われている?
「探知、鷹の目、千里眼!」
アホ毛がピコピコと反応する。探索範囲を約1kmまで伸ばし、新しく得た<鷹の目>これは上空から見下ろすように周囲を俯瞰できるスキル、さらに<千里眼>、視野を遠くまで飛ばして目の前にいるようにターゲットがはっきり見えるスキルだ。覗き放題とか思ってるだろ? だが俺は紳士。そんなお約束には使わないよ? フリでもないぞ。
今俺の脳内には3つの映像が同時に展開されている。普通の人間なら負荷に耐えられずに脳が焼き切れる情報量だ。だがこの女神の因子を持つ体と並列同時思考により、その程度は負荷にすらならない。
「見つけた! ここから約300m、全部で15人程度、こちらへ向かっている街道の上だ。何やら賊っぽい奴らに豪華な馬車が襲われてる。いくぞ!」
俺は街とは反対側に街道をダッシュした。
<スキル瞬歩、精神耐性SSが発動します。ペガサスブーツへの魔力充填完了、<光歩>に進化します。更に3つのスキルの並列起動により、並列同時思考が<並列同時思考加速>へ進化します>
最初に持っていた加速スキル空歩が更新されてできた瞬歩、しかも装備と呼応して進化したぞ。スキル獲得には何かしらの前提条件があるのかも知れないな。すげー速い! これなら数秒で着く。更に並列同時思考加速で情報処理能力がよりスムーズに出来ているようだ。
『カーズさんそのままの格好でいいんですかー? 女の子の姿のままですよー』
いいわけがない、だが目の前で大変なことが起きているんだ。時間がない。
「よくはないけど、人命救助優先だ!」
まだ護衛の二人がやられただけだ。生命反応は小さいが、生きてる。残りは御者と、馬車の中には、煌びやかな白いドレスの少女と侍女らしき女性が二人、それと老紳士ってとこか。お目付け役とか世話係みたいな執事っぽい服装だ。約3秒弱、現場に着く、この脚力にスキルとブーツ、半端ないな。俺はまだ気配遮断を発動したままだ。気取られてもいない。馬車を背に護衛二人の倒れた目の前に位置取る。いつでも対応できるし、どういう状況なのか分析してみるとするか。
『カーズさん損な性格してますねー。まあそういうところがお姉ちゃん的には素敵ですけどー』
やれやれといった感じの念話が響く。損ってなんだ? てかお姉ちゃんとかまた言ってるよ。
「そうか? 誰かを助けるのに理由はいらないだろ? だが対人戦か、どうしようか?」
『考えるより先に体が動いちゃいましたねー。まさかノープランですか?』
「面目ない、でも仕方ないだろ。助けられる力があるなら使うべきだ。わかってて見て見ぬ振りとか、俺には無理だ」
『そういうとこですよ。全くー』
どういうとこだ? まあ今は関係ない。
「出来れば殺さずに捕獲したい、どうしたらいいと思う?」
『鞘で打撃するだけで十分です、それでも加減しないと死ぬでしょうね。だから思いっきり手加減してください。ですが、正義を司る女神の眼前で暴行とは、舐めてますね。原型が残っていれば切り捨てても構いませんよ。アストラリアの名の下、断罪を許可致します!』
「OK、手加減はするけど死んでも仕方ないってことだな。ただ頭は捕らえて尋問する。いいか?」
『許可します。全員魔獣の輪廻に送ってやって下さい!』
盗賊たちの品性の欠片もない粗野な声が響く。全部で9人、モブ賊A~Hと頭Aとしよう。
「おうコラァ、王女様よー! 護衛は片づけたぞー、出て来ねーのなら次は御者かお付きの奴らが同じ目に遭うぜ!」
「お頭ー、どうしますかー!? さっさと殺っちゃいましょうや、王女を殺れば報酬ガッポリなんでしょ?」
「おい、デカい声で騒ぐんじゃねー! ここは街道だ、他の通行人が通る可能性が高い。さっさと男は殺せ、女はたっぷり可愛がってから売り飛ばす! それに王女は殺すなって言ったろうが馬鹿野郎、依頼者に引き渡さなきゃなんねぇ」
王女様がいるのか? ほう、おそらくあのドレスの子だな。しかも計画的犯行ぽい。報酬とか言ってたしな。背後に依頼した黒幕がいるし、内通者がいるなこれは。侍女の女性2人も王女付きだけあって単なるメイドじゃないだろうな、美人だし。とりあえず敵の鑑定するか。しかしこんなテンプレな盗賊って、マジで存在するんだなあ。自分達で死亡フラグ立ててりゃ世話ないぜ。
「賊どもはレベル15~20程度だな、頭が26か。俺の半分以下だ。ステータスも桁が2つ程違う。護衛は、12と14、王族の護衛が務まるレベルじゃないだろ…。これも陰謀を感じるな…」
『カーズさん捕えればわかります! とりあえずこのモブ共に天誅してあげましょう!』
「ラジャ、じゃあせっかくだし正義の女神の騎士っぽくロープレしますか(笑)」
『はい、楽しみですねー!』
「いくぞ!」
気配遮断を解く。盗賊達は当然のことに狼狽え始める。そりゃそうだ、倒された護衛の後ろに襲うはずの馬車を守るように背にしながら、突然何者かが現れたのだ。しかも見た目は10代後半に見える不思議な全身黒尽くめの装備をした美しい女性。驚くに決まっている。男のままで来たかったけどね。どのみち女とは思われるだろうけどさ。とにかく、昨日1日中戦ってたし、何だろう、落ち着き? 自信かな。そういう感覚がある。負けるわけがない、と。
「な、ななな何だこいつは!? いきなり現れやがったぞ。どこからいつ出てきたんだ!」
さっきからだよ、本当に典型的なモブ反応をする…。めんどくさいなー。
「すぐ助けるから、待っててね」
俺は振り向いてから、馬車の中で侍女2人にしがみ付かれながら震えている王女様らしき人に笑顔でひらひらと手を振った。でも何だか執事のじいさんは怪訝な目で俺を見てくる。何だろうな?
「さてと、お前たち。武器を捨てて投降するなら命の保証はしてやる。だがもしやると言うならここからは俺が相手をしよう。誰かを襲うってことは当然自分達もやられる可能性があると自覚しているんだろ?」
俺は倒れた護衛2人に回復魔法を使う。<ヒーラ>、所謂ヒールの上位魔法だ。傷も体力も全回復した2人は驚いて起き上がる。致命傷を負っていたのだ、無理もない。
「おぉ…傷が、ありがとうお嬢ちゃん、助かったよ。だが危険だ、下がっていてくれるか!」
またやられるよ、多勢に無勢だし。さっきやられたばっかだろうに。学習してくれ。また回復を使うのも面倒だ。…そしてお嬢ちゃん呼びはやめて欲しい。
「いやあんたたちは馬車を守ってくれ、撃ち漏らす場合もあるからな」
護衛の騎士達は怪訝な顔を見合わせ、更に俺を見下ろしながら話しかけてくる。今は体のサイズが10㎝は縮んでるしな…。
「そうか、お嬢ちゃんは俺らよりも遥かに上の実力があるようだ。だが1人じゃ危険だ、我々も一緒にー」
「悪いけど実力不足だ。さっき殺されかけたばっかりだろ? 頼むから馬車の守りに専念してくれ」
済まないや、頼むと言いながら、護衛達はしぶしぶ引き下がる。
「おいおいおいー! 何をごちゃごちゃやってんだぁー! 調子に乗りやがってこの女ァー-!」
軽く煽っただけでこれか、やれやれ、品性の欠片もない脳内偏差値0だな。それに、やっぱ今は女性体だ、言われても仕方ないが、こいつらに言われるのは正直イラっと来るな。
「乗ってんのはお前らだろ? でどうするんだ、投降か? それとも俺と戦って散るか?」
いちいちしょうもない煽りにすげー食いつくなあ。盗賊共は怒髪天ってやつだ、意味なくキレて、こういう奴らマジ嫌い。どっかの世紀末であべしひでぶしてもらいたい。丁度良くモヒカンもいるじゃないか(笑)
「何笑ってんだコラァ! ぶっ殺すぞ!!! 散るかだあー!? お洒落な言い方しやがって!」
「お頭ァー、こいつどうしますかぁー!?」
「ぶっ殺してやれと言いたいとこだが、よく見りゃ上玉だ、捕えて売りさばく! その前に可愛がってやれ!」
「だとよー、じゃあお言葉に甘えて楽しませてもらうぜー! いくぞ野郎共ー!!!」
うわあ気持ち悪い! 野郎共の全身を舐め回す様な視線が刺さる。さっさと片づけて男に戻ろう。
「ヒャッハー! これでも食らいやがれー!」
ヒャッハーって言う奴初めて見た(笑) モブAが曲刀を振りかざす。どうやら本当に相手の実力が分からないらしい。まあこちらは偽装Sに隠蔽Sもしてる、俺の本当のステータスなんてモブ共に鑑定スキルがあったとしても視えていないだろう。今回は自分の防御性能とステータスの確認だ。おあつらえ向きに同じ人間。9人もいるし、途中でめんどくさくなったら魔法で一気にボコろう。
<明鏡止水、未来視が発動します>
ピシィッ!
左手の親指と人差し指で曲刀を掴む。そしてそれを筋力のみで
バキィィン!
と握りつぶした。
「な、こいつっ!?素手で俺の武器を! どうなってやがる!?」
モブAが戦慄している。そりゃそうだ、素手で刃物を砕くとか普通にありえないだろ。
「さあどうなってるんだろうなっ!」
武器を握り潰したままモブAの鳩尾に右足裏で手加減してキック。だが20m程先の大木まで吹っ飛び木の幹にめり込んだ。
「ぐはああああああああぁっ!!!」
「やべっ、殺したかも」
『ドンマイですカーズさん、そのまま俺TUEEEEEしちゃって下さい! 見てるだけで気持ちいいのでー!』
本音ダダ洩れ、こいつ多分(*´Д`)ハァハァしてるな。女神だろ、倫理観とかないの?
「野郎! これでも喰らえぇー!」
モブB登場、今度は巨漢で手斧か、さっきよりは威力ありそうだな。てか今は野郎じゃないんだよねー。
「魔力のヴェールの効果を見たい。どうすればいい?」
『魔力をドレスに収束するようにコントロールして下さい。込めた魔力量で効果が倍加します』
「OK!」
可視出来るほどの魔力がバトルドレスに流れ込む。うむ喰らってやろうじゃないか。
ガキィイイイイイーーーン!
とは言ってもやっぱり直撃する瞬間は怖いので片目だけ閉じてしまった。だがモブBの打ち下ろしは俺の胸元に当たる約20㎝手前で止められ、手斧にヒビが入る。なるほどこれが防御ヴェールの効果範囲か。魔力量で広げることも狭めることも出来そうだな。しかーし、こいつおっぱい狙いやがったな! 殺そう。俺は生前父親を通り魔に殺されている。だからこの手の輩には悪いけど慈悲の心などない。それにおっぱいは世界遺産なのだ。
「なっ! こいつの体どうなってんだ!? 武器が届かねえー-!!」
「知らなくていいぜっ!」
ドゴンッ!!
左手のドラゴングローブで左わき腹に軽くフックを一撃! 込めた魔力はほんのわずか、火の魔力だ。衝撃追加の竜の息吹が火を噴き、モブBは内臓を焼かれながら無言のまま仰向けに倒れる。相当手加減したのに…。やっぱこのナックルは危険だな。
「仕方ねぇ!!! お前ら全員でかかれっ! 殺す気でやれぇー!!!」
まだ実力差が分からないとは…。もはや馬鹿を通り越して哀れだな。 俺はアストラリアソードを抜き、足元の地面に突き刺した。厳重にアリアがかけた偽装や隠蔽で、周囲にはそれが粗末な剣にしか見えていない。
「何だぁー? そのナマクラは! そんなので斬れると思ってるのかぁー? 舐めてんじゃねえぞ!!」
モブCが喚く。うざい。いちいち吠えないで欲しい。寝起きの頭に響くんだよ。
「ああ、この剣か。やっぱお前たち程度にはナマクラに見えるんだな。心配するな、このナマクラが理解出来ないお前らにはこれで十分だ。」
俺はアストラリアソードを抜き取った鞘を腰から抜き、賊共に向けた。
「鞘でやるってのかぁ!!! 馬鹿にしやがって…、いくぞお前らぁー!!!」
モブCとともに残りが向かってくる。さてどうしたもんかな…。
『カーズさん、あれを使いましょう。丁度女性体だし威力は上昇していますよ』
「あれか…、ぶっちゃけ気は乗らないけど。試すのにはおあつらえ向きだな」
『眼、瞳に魔力を集中させて下さい!』
目を閉じて闇の魔力を眼に集める。明鏡止水の真っただ中、全てはスローモーションだ。そして目を開くとともに自分に向かってくる賊共を視界に収める。
「魔眼解放 <魅了>!」
カアッ!
俺の両目が禍々しい赤い光を放つ。視界に入った賊共は一斉に動きを止め、その場で目の焦点も合わない様子でふらふらとし始める。
『カーズさん、どんな効果を追加したんですかー?』
「まあ見てたらわかるよ。つっ…!」
目に負荷をかけ過ぎた、両目から涙の様に血がつーっと流れる。まだ加減が難しいな、ヒールかけておくか。おっと、そろそろだ。
「うおおおおぉ! なんだこの化け物はぁあああ!!!!」
「お前は誰だぁあああ!! よるんじゃねぇええええ!!!」
『…なるほどー幻覚による同士討ちですねー。えげつないですねーもう』
頭Aは対象から外してある。残りの賊共は目の前の仲間がおぞましい存在に見えるようなチャームをかけた。賊同士の潰し合い。そして残った3人に鞘をバッティングのようにぶんぶん振るってヘイヘーイ、っとしばき回した。鞘もオリハルコン、えげつない鈍器だ。モブの殲滅完了。後ろでわなわなと震える賊の頭A。残りはこいつだけだ。
「さてどうする? お前の部下は全員仲良くお昼寝だ。大人しく投降しろ。なら命までは取らん」
震えながらも、頭Aは覚悟を決めた様に大剣を構えた。てか早く投降してくんないかな。ぶっちゃけもうめんどくせーんだよ。
「ふざけるな! こんな女一人にやられるなんて…。誇りある暁の盗賊団の名折れだ! 部下の仇も取らせてもらう!」
あーあ、やる気だよこのオッサン…。悪いけどそれは蛮勇って言うんだ。状況も把握できないんだな。しかも暁の賊? 超絶にダサい、名前負け感が半端ない。それに、…犯罪者のくせに誇りだと? ふざけるなよ、こういう奴らに俺の父さんは殺されたんだ。ふつふつと怒りが込み上げてくる。
「そうか、ならかかって来い、そのしょうもない犯罪者の誇りごと粉砕してやるよ」
「言われなくとも…、いくぞ! 武技、豪撃!」
頭Aが何やらスキルを放った。どの道俺にはスローモーションだ。止まって見える。鑑定、どうやら力まかせの一撃らしい。未来視で既に軌道も見えている。俺はわざと紙一重でかわし、地面に叩きつけられた大剣の上に着地した。うん、軽い。体が軽すぎる。
「これで終わりかな?」
頭Aはもはや口をパクパクして、声も出ないようだ。
「じゃあここまでだな。受けろ、神狼の牙を! アストラリア流ソードスキル」
鞘だけだが普通の人間には上下から同時に剣閃が襲うのが理解できるかすらわかりはしない。まして回避など不可!
「フェンリル・ファング」
ズガガッ!!!
頭Aの右肩に上から、左脇に下からの衝撃がヒットする。神狼の牙で噛み砕かれた一撃に感じられる2連撃。
「ぐ…がはっぁ…」
頭Aは悶絶してその場に倒れこんだ。もう剣を振るうことは不可能だろう。左右の肩を潰したのだ。
『カーズさんお疲れ様ですー。鞘でスキル撃っちゃうなんて前代未聞ですねー。正義の女神の騎士ロープレも決まってましたよー、(*´艸`*)うふふ』
「我ながらね。まあまあ面白かったよロールプレイ。相手も大したことなかったし。さてこいつらどうしようか?」
全員無力化。半数が死亡。頭Aは生け捕りだ。
『聖魔法の拘束で縛りましょう。残りは氷の牢で凍らせてストレージに入れておきましょう。犯罪者であればギルドから報奨金がもらえますし。頭Aからは情報を聞きたいのでしょー?』
とりあえず拘束した頭Aを残して全員凍らせて異次元収納庫にポイポイっと突っ込んだ。生き物もそのまま入れられるとか、このスキルが最強なんじゃね?
「よし、完了。まずは馬車の中の様子でも見てみるか、もう辺りに仲間は居ないようだし」
アホ毛も反応しない。俺は何故か呆気にとられている表情の護衛騎士2人の間を通り、馬車の中を覗き込んで王女様に声をかけることにした。
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巻き込まれると言うか、自分からも面倒ごとに首を突っ込んでしまう主人公です
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