OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第一章 転生と新世界

11  冒険者登録試験 その2

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 俺はエリック、ここリチェスターのBランク冒険者だ。それなりに修羅場もくぐって来たしこの中じゃあ屈指の実力があるつもりだ。この2日ほど街の周辺からあまり魔物が出て来ない。仕方なく他の冒険者仲間や、腐れ縁のユズリハ達とギルドで馬鹿な話しをしながら暇を潰して過ごしていた。

 その時スラっとした華奢な体格の小さい女の子が登録にやってきた。だが本当は男らしい、驚いた。どう見てもここにいる女冒険者じゃあ勝負にもならないほどの美貌だ。しかもどの魔法の属性も使えるらしい。それが本当ならとんでもない奴だ。しかも魔力量測定器のクリスタルを粉々に破壊するほどの魔力。ユズリハの奴も気になっているようだし、俺も暇していたところだ。だから気になって剣技の試験官を買って出た。実際に手合わせすれば実力がわかるってもんだ。しばし会話を交わしたが、落ち着いていて悪い奴じゃなさそうだった。嘘をついている素振りもないし、そこまでの威圧感もない、化け物染みているのは魔力だけなのか? 腰に2本の片手剣、これが得物か。普通の剣に見えるが恐らくかなりの業物だ。右に差しているってことは左利きか。どんな剣技を使ってくるのか楽しみだった。だが俺はすぐに軽い気持ちだった自分を後悔することになる。

「殺されるなよ」

 軽口を叩いたギルマスのじいさん。だがそれが本当に心からの言葉だったんだと、俺はすぐに理解した。左手に剣を持ったままその手を下に投げ出し、ほぼ棒立ちのまま俺の眼前にいる華奢な少女のような男、カーズ。隙だらけの構えだ、だが全く隙がねえ。どうなってやがる? そしてもし剣を合わせたらその瞬間に俺は死ぬ。何故かはわからない、どう攻撃を仕掛けても死のイメージしか湧かない。何なんだこいつは! ここまで<死>という明確なイメージを持つなど、これまでの経験でも全くない。お、こいつ強いなとか、精々そんな程度だ。じいさんは一目見ただけでこいつの実力を感じたって訳か。あのジジイ食えねえぜ。違和感を覚えつつも、それを払拭しようと俺は渾身の攻撃を繰り出した。試験レベルではない斬撃を何度も重ねた。当たらねえ! 不思議なのは俺が斬るつもりの空間から先に移動されてしまうということだ。まるでもう知っているかのような回避行動。とんでもねえ! しかも途中からは目を瞑りやがった。なのに当たらない。俺は全斬撃を渾身の力とスピードで放っているんだ。それをここまで躱されたことなどない。振るう全ての斬撃が空を切る。しかもその場からほとんど移動すらしねえ。俺がここまでの次元に到達できるのか? 否、イメージすら湧かない。どんな修行をしたらここまでになれるんだ?

 最後の手段だ、武技アーツ真空斬。俺の武技の中では一番のスピードと攻撃範囲を持つ。さすがに同じ場所に留まってはいられないはずだ。躱されるのはもう分かった、だが大きく移動して回避した後なら話は別だ。必ず捕らえる! やはり予想通り回避してきた。左に出てくることに賭けた。賭けは俺の勝ちだ。遂に俺の剣がこいつを捕らえた! だが普通は刃で受けるもんだ。獲物の大きさがまるで違う。だがこいつは脆いはずの剣の腹で受けやがった。しかも筋力も相当だ。押し切れねえどころかびくともしない。武器ごとぶった切るつもりだったんだ、だがこいつは左手一本で受けた。この細い体のどこにこんなパワーがある? そしてその瞬間だった。剣に剣を絡め捕られるような感覚。動けねえ、何をされてるんだ?

「アストラリア流ソードスキル」

 その言葉を聞いた瞬間俺の大剣にとんでもない威力の何かが撃ち込まれた。全く見えねえ、どう動かれたのかもわからん。だがその刹那の瞬間にあいつは目の前からも消えた。俺が目にしたのは共に死線を潜り抜けてきた愛用の大剣《バスタードソード》が砕かれ、剣の柄だけを俺は握りしめていたということだけだった。

「アームズ・ブレイク」

 背後から声がした。武器を破壊するような技だったようだ。こいつは俺の体に傷一つ付けることなく戦闘不能にした。いや、あんな技をまともに喰らえば俺自体が木端微塵になっている。そうか、俺を殺さないように武器だけを狙っていたのか…。完敗だ。あまりの実力差に悔しさすら湧かねえ。寧ろ清々しいくらいだ。

「ありがとう、本気で戦ってくれて。戦い方を色々学ばせてもらった、礼を言う」

 差し出した手を掴むと軽々と立ち上がらされた。すげえ。言葉が出ねえぜ。それだけの技量がありながら人を見下した素振りもない。なんてデカい奴だ、気に入った! こいつと行動すれば俺はもっと強くなれるかもしれない。

「エリック、恥ずかしいからもういいって!」

 テンションが上がって肩車し、さらにギルドの連中に誇らしげに紹介してしまった。カーズ、すげえ奴だ、こいつがいれば危険な依頼も挑戦出来るに違いない。早く上のランクまで来て欲しいものだ。いや、こいつならあっさり俺なんざ抜いてしまうだろうぜ。

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 さて、次は魔法の試験だ。担当はさっきのユズリハとかいうハーフエルフだったな。しかしただ魔法を見せるだけなのになぜこれだけのギャラリーが残っているんだか。エリックも外野に混じってニカニカしながらこっちを見ているし。こんなん見てもつまらないだろうに、みんなそこまで暇なのかよ?

「じゃあ今から魔法の試験をするわね。準備はいいかしら、カーズ」

「ああ、問題ない」

 コントロールさえ気を付ければ問題ないはずだ。

「じゃあこの舞台から向こうの端にある大岩に向かって魔法を撃ってもらうわ。どの属性が一番得意?」

 そんなこと言われてもなあ、どの属性も熟練度を上げるために満遍なく使ってたし…。特にないな。

「特にこれと言って得手不得手はないな。どの属性でもそれなりには撃てる」

 うん、嘘は言ってない。そこそこ練習したし。

「そうね、じゃあ私が言った属性の魔法の初級攻撃魔法を撃ってもらうことにしましょう」

「わかった。何でも言ってくれ」

「うーん、じゃあ最初は火属性でお願いね」

「分かった」

 分かったとはいえ、初級に該当する攻撃魔法ってどれなんだ? 最初から満遍なくある程度覚えていたしな。アリアが寝てるのが悪い、とりあえず適当なの撃っとくか。前に突き出した左手に炎をイメージした魔力を送る。的の大岩、てかどっから持って来たんだあれ? そこまでは20~30mってとこか、届かなかったら困るしそれなりに力を籠めた方がいいな。俺のかざした左手に炎の塊が燃え上がる、そこに燃え盛り爆発するイメージを込め同時に魔力を注ぐ。「魔法はイメージの具現化ですよー、イメージが強いほど魔法の威力は上がりますからねー」と、アリアが言ってたし。このまま魔力を注いでいくぞ…。うん、バランスボールくらいの大きさになったし、爆発させるイメージもバッチリだ。あとはこいつを的目掛けて放つだけだ。

「よっと!」

 ゴゴゴゴゴゴゴー--------ドォオオオオオン!!!ドカアアアアアアアアァン!!!!

 撃ち出した炎は…よし、ちゃんと的の大岩に命中したぞ! コントロールも我ながら良く出来た。これならOKだろ。

「やったよ。あれ?」

 隣にいたユズリハは腰を抜かし、見物客はシーーーーーンとしている。あれ、なんか間違ったか?

「ななな、何よ今の魔法は?!!! 初級魔法でいいって言ったじゃない!!!」

「え? ファイアボールだけど…。初級じゃないのか?」

「「「「「おおおおおー----い!!!! 何だそりゃー----!!!!」」」」」

 何だかギャラリーがうるさいな。ちゃんと的に当てたじゃないか。ユズリハも何で腰抜かしているんだ? 魔導士なんだから彼女もあれくらいできるんじゃないか? 俺はよく分からないので顎に手をやって、うーん、と考えてみたが…、わからん。とりあえず的に当てたし、問題ないだろ。

「あれがファイアボールですって! あの威力下手したらSランクの幻のエクスプロージョンじゃない! どうなってんのよ、この子は~~!!!」

「あたたたた!!! 痛い、ユズリハ痛いよ!!!」

 なぜか俺は今ユズリハにヘッドロックを決められている。魔力ヴェールも切っているから頭をぐりぐりされるとさすがに痛い。ムニュムニュとおっぱいにも当たるし、なんだ? ご褒美か?

「初級って言ったでしょーが! 加減ってのを知らないの?! この子は~~~!!!」

 ぐりぐりぐりぐり!!! 痛い。

「痛い痛い、しかもおっぱいで息が出来ないって! ちょ、ユズリハ!」

 はあはあ、と息を荒くしながらようやくヘッドロックを解いてくれた。何なんだ一体。まあとりあえずおっぱいはありがとう。最高だね、おっぱい。世界遺産万歳! 心の中で拝んでおこう。まだひりひりする頭を押さえながら彼女の方を見た。

「カーズ、あのね、どうやってあんな魔力をつぎ込んだの? ファイアボールをあんな大爆発するような威力で撃てるわけがないでしょうが! しかも無詠唱で撃ったでしょ、なのになんであんな威力になるのよ!」

 そんなこと言われてもなあ。何だか怒られている。アリアに習った通りに撃っただけなんだけどな。普通の人間の魔法とは違うのか? 後で文句言ってやるからな、あのぐうたら女神め。

「いやー、師匠に習った通りに撃っただけだよ。どこかおかしかったのか?」

 まだひりひりする頭を擦りながら、ユズリハに尋ねる。

「アンタの師匠って何者なのよ…。普通は発動させる魔法に意味を持たせるためにその魔法名を呼ぶの、そしたらその魔法に見合った量の魔力から魔法が生成されて、媒介にしてる杖とかものから魔法が発動するもんなの!!! 常識よ!!! しかも杖とかもなしに発動とか!!!」

「えー、そうなのか? 師匠からはイメージを魔力で具現化してそこに魔力を注いで撃てって言われたんだけど…」

「ダメだわ、この子…。規格外過ぎて…しかも常識がなさすぎる。的もなくなっちゃうし、ハァ…」

 確かに大岩は木端微塵だ、まだ煙が立ち上っている。うーん、このまま試験が続行できないのは困るな。

「じゃあ的を作って来るよ」

「は、はい???」

 とりあえず的があった場所まで移動し。氷の大岩を創るイメージで氷の牢アイス・ロックを使った。イメージ通りさっきあった大岩と同じくらいの氷山が出来た。よし、これで試験も続行可能だろう。

「的作ったよ、ユズリハ。じゃあ試験を続けてくれ」

 ユズリハは凍ったようにピクリともしない。どうしたんだ?

「おーい、どうしたんだ? 続きやってくれよ。次は何の魔法だ?」

 腕をぐりんぐりん回して、やる気があることを伝える。

「あ、あ--、そうね。続きって、カーズ! アンタ反対属性の魔法普通に使ったわね! しかもあんな氷柱というか氷山じゃない! どうなってんのよ!?」

「どうやってって、アイス・ロック氷の檻を大きくしただけだよ。ちゃんと的になってるだろ、それに簡単に溶けることも砕けたりもしないぞ」

 ユズリハはこれでもかって程の溜息を吐く。何だろう、試験中止か? それは困る。お金が稼げないじゃないか。参ったぞ。不合格って、美味いものを食べてって言ってたアリアに怒られるな。うるさいだろうなー、まずいなあ。

「いいえ、もう試験は充分よ」

「えっ、じゃあ不合格なのか。それは困るんだけど。再試験とかできるのか?」

「ハァーーーーー、逆よ逆! あんな芸当世界中探してもいないかも知れないレベルよ。寧ろ私が教えてもらいたいわよ」

「えっ、じゃあ…」

「マリーさ--ん! 私が判断できるレベルじゃないでーす! もう合格でいいですよねー!?」

 マリーさんが腕で大きく〇を作った。良かった、合格らしい。ほっと胸を撫で下ろす。そしてまた外野がカーズコールを始めた。そしてその輪に取り囲まれて空中にぽいぽい投げられる。胴上げか? 俺何かに優勝したのか?? よくわからないが、みんな楽しそうだしいいか。俺はそう思って、みんなの気が済むまでぽいぽいとなすがままに宙を舞っていた。

「面白い子だのう。しかも途轍もない魔力量に逆の属性の魔法を苦も無く発動させるとは…」

 とりあえずアリアが居眠りこいたせいだ。あの駄女神絶対あとで文句言ってやるからな。俺はこの世界の常識がわからないんだ、ほったらかすな! と。



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