OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

文字の大きさ
23 / 133
第二章 王国奪還・記憶の煌き

21  黒く蠢く悪意

しおりを挟む


「オロス、アーヤ王女の暗殺に失敗しただと! 一体どういうことだ!」

 激高した表情で怒鳴りつけるまだ20代後半の男。国の政務を一手に任され、若くして宰相の位まで上り詰めた天才と言われるヨーゴレ・キアラ。しかし若くしてその才能を発揮するも、それ以上の権力、王族にはなれないことが野心家の彼には我慢ならなかった。

「くくく、どうやら中立都市の方で邪魔が入ったようで。更に帰還中も中々やり手の冒険者共が護衛に就いているようですな。いやはや、ゴロツキ共には荷が重かったようですなあ」

 オロスと呼ばれた男は愉快であるかのように笑う。その動きはどう見ても人間の動作にしては薄気味悪いものだ。もちろん魔人が入れ代わったものだ。本物は既にカーズ達に保護されている。

「おのれ、腐った王族共が…。運がいいことだな」

 どれだけのことを成し得ようとも、世襲制である王家を差し置いて自らが王になるなど不可能なことだ。ただの穀潰し、王族に生まれたということで何もかもが約束されている。何の苦労もせずに王位を継ぎ、そんな奴らに頭を下げ続けなければいけない。次の王に相応しいのは自分のような人間であるという狂った自意識。そんな彼が魔人に付け込まれるのはある意味当然の末路だったのだろう。

「くくっ、どの道あの小娘もここに帰ってきます。恐らく証拠の類を持ってね。如何にして切り抜けるおつもりですかな。監視につけていた私の部下も捕らえられたようで、いやいや、中々の手練れですなあ。お見事お見事」

 オロスを名乗るその男はこの混乱を楽しむようにヨーゴレを煽る。

「お前の案に乗ってやったというのに、このままでは王女が帰還したら全て終わりだ。何か案はないのか?」

「ではまた騎士団を使いますかな? ここのところの不況もあって国民の王家への不満は高まっておりますしなあ。まあその状況を作ったのは貴方ですがね、くくく」

「騎士団をどうするつもりだ? 下級騎士を無理矢理護衛に任命させたことで内部で分裂も起きているのだぞ」

「くくく、ではその不満分子共、あの女副団長には軍を率いて遠征に出てもらうことにしましょう。魔王領の調査という名目でね。国王の命もあとわずか、騎士団が分裂すれば大魔強襲スタンピードの守りは手薄になる。その混乱に乗じて国民の不満を逸らすために全ての責任を王家に負わせ、抹殺すれば良いではないですかな? 宰相殿。そうすればあとは騎士団長達にその抹殺任務を出せば済む、くくく。そして貴方は国を悪の王家から解放した英雄、次期国王にもなれましょうぞ」

「それは使えるかもしれんが、大魔強襲スタンピードで国が滅んでは何にもならん。それはわかっているのか?」

「寧ろ一度滅んでしまう方が都合が良いのでは? それを建て直してこその新国王でありましょう」

「…ならばその案は採用だ、残る団長カマーセともう一人の副団長メーロスに王族抹殺は任せる。だがその前にアーヤ王女の帰還の件だ。王城に入れた時点で不利なのだぞ」

 焦りを滲ませるヨーゴレ、しかしその顔には最早生気は感じられない。常に魔人の瘴気を側で浴び続けているのだ。まだ人間の形を保っていられるのは己の執念の力である。

「ならばその冒険者共を王女暗殺未遂の濡れ衣を着せ、王城前で先に捕らえてしまいますかな? そうすればあとは小娘がいかに騒ごうが問題にはなりますまい」

「仕方ない、当初の予定とは筋書きが変わってしまったが…。アーヤ王女を暗殺し、それを中立都市の責任とし、混乱と対立を起こす。その混乱に乗じて王族を暗殺、そして最年少のニコラス皇子を傀儡王にするといった計画だ」

「くくく…、でもそれでは貴方が王という地位には上がれないでしょう。寧ろこれが良かったのでは?」

 ニヤニヤと顔を歪めて笑う魔人。そうこれだ、人間共の悪意を増長し国を内部から腐らせる。ただ武力で潰すのでは面白くない。同族での殺し合い、そこから巻き起こる負の感情。これほど美味なものはない。そしてその感情を集め、魔王復活の贄とする。どう転ぼうが愉悦に違いない。所詮は冒険者数人、国家権力でどうとでもなる。国の内部に侵入し、権力者を操って混乱を巻き起こす、これが堪らないのだ。

「フッ、そうだな…。王もお前が手配した医者の手筈で毒を食らっている、あと余命幾許もない。王が死ねば混乱は免れん。次期国王は第一子のレオンハルトだろうが、戴冠するまでの時間を稼ぐうちに大魔強襲スタンピードが起こる。あの死にぞこないの王には何もできまいよ、はーはっは!」

「お気持ちは決まりましたかな? では騎士団に手を回しておきましょう。反抗分子には国を出てもらいましょうぞ。魔王領には魔王がおらずとも危険な奴らが大勢おる、ただでは済まぬでしょうからな」

「では任せる、アーヤ王女が帰還したと同時に冒険者共は拘束。あとはお前の闇魔法でどうとでもできよう」

「くくく、わかっていらっしゃる。ではそのように手筈は整えておきましょう。くくく」

 不気味な笑い声が響く宰相の部屋で、醜い悪意が蠢き始めた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「何ですって!? こんな時期に魔王領の調査?! どうなってるのよ、説明しなさい!!」

 騎士団の副団長を務める1人、クレア・アーデス。女性でありながら卓越した剣技とその清廉さ、美しさも併せ持つ。彼女の台頭により、女性の騎士志願者が増加したほどの支持や信頼を国民や部下からも得ている。その彼女が怒りに任せ詰め寄っているのはもう一人の副団長メーロス・シレハだ。見習いから着々と任務をこなし続け副団長まで上り詰めた、クレアとは正反対のような男だ。

「どうと言われてもな、王家や宰相殿からの直々の依頼任務なのだよ。騎士団の手練れの軍勢を連れて調査をして欲しいということだ。魔王が復活するという噂があってな、真偽のほどを調査して欲しいとのことだ」

 淡々とした口調で任務を伝えるメーロス。それがクレアを更にイラつかせる。大魔強襲スタンピードが起こるのも近いと言われる中、大軍を連れてわざわざそんな場所に遠征をする意味が分からない。そうなれば王国を守る戦力は半減だ、滅ぼされるかもしれないというこの切羽詰まった時期にたかだか噂如きの真偽を調査など冗談ではない。しかも魔王領は超危険地帯、無事で帰れる保証もない。この時期に戦力を減らす理由が見つからないのだ。

「ふざけないで! なぜ今なのよ! 大魔強襲スタンピードに備えることが最重要事項よ!」

 激高するクレア、だが面倒くさそうに対応するメーロス。

「では王家に反旗を翻すということになりかねませんな。騎士の王家への忠誠は絶対のもの、それを貴女は否定すると? これは問題になりますな」

「くっ…。王家に対してそんな振る舞いをする気はない。だけどこの任務は大魔強襲スタンピードの後でも問題ないでしょう! なぜ今なのかが私には理解できないと言っているの!」

 相手が年上の男であっても、同じ副団長。だがなぜこんな風に覇気のない者がその地位に就いているのか甚だ疑問だ。納得がいかない、だが任務を無視することはクレアの騎士としての振る舞いに対し、他の騎士たちに混乱を招くことになりかねない。

「私は王家直々の任務を貴女に一任するということを伝えたに過ぎんよ。私に疑問を言われても困るとしか言えないのだよ」

 この男の事務的な態度にも腹が立つ、つい最近も理解できない任務があった、王族、アーヤ王女の護衛任務に新米騎士2人が任命されたということだ。まるで襲ってくれと言わんばかりの任命。一体何が起こっているというのか。

「わかったわ…、任務はこなす。でもなるべく早く帰還させてもらいます。帰ってきたら国が滅びてるなんて、冗談じゃないから」

「では明日、明朝に手勢500人を連れて出発してもらうよ。異議は認めん。これは王家からの重要任務であるということを肝に銘じてもらいたい」

「そんなに早く!? 今から準備を整えても間に合うかどうかよ!? …まあいいわ、さっさと終わらせて来る」

「うむ、気をつけてな」

「ふん!」

 能面のような無表情な男に一瞥をくれると、クレアは騎士団の詰め所、その幹部室を後にした。

「一体何がどうなっているの? 続けて不可解な任務。まるで王国を手薄にしろって言われてる気分だわ」

 クレアは不信感を募らせながらも遠征の準備に取り掛からざるを得なかった。

「ふぅ、反抗的な小娘だ」

「まあそう言ってやるな、メーロス。忠誠心が厚いってのは騎士に向いてるってことだしな」

 後ろから大柄な男が姿を現す。騎士団長のカマーセ・ヌーイだ。

「しかし宰相の奴も思い切ったことを考えるもんだ」

「団長…、このままあの男に協力しても大丈夫なのでしょうか?」

「さあな、どの道俺らにはあの男の部下から呪いがかけられてる。従うしかねえさ、これまで散々こき使ってくれた王家に復讐するいい機会だしな」

「まあそれは私も同意しますね」

「まずはアーヤ王女の帰還の際に同行している冒険者共を捕縛だ。暗殺未遂でな、街中で派手にやれ。殺しても構わん。やべえ奴がいるなら俺が出張るしよ」

「団長が手を下すまでもないでしょう。数で一気に制圧しますよ」

「そうだな、それに中立都市の冒険者はAランクが1人いるだけって程度だ。どうやらそいつらは昇格試験を受けにも来るそうだが、ギルドのことなんざどうでもいい。さっさと片づけたら王城で殺戮ショーだ。俺らも酒池肉林の生活が待ってるんだぜ。前座はさっさと終わらせて王宮に突入だ」

「承知しました。恐らくクレアとは行き違いになってくれるでしょうしね」

「そういうことだ、あの嬢ちゃんは魔王領でお陀仏だ。邪魔は入らんさ。ハッハッハ!」

 騎士とは思えない悪意と欲望の籠った2人の男の笑い声がもはや誰もいなくなった詰め所に響いた。


------------------------------------------------------------------------------------------------

   こう、悪い奴の思考レベルで文章を考えるのってキツイですね、
   イロモノキャラならいくらでもかけるのになあー

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...