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第二章 王国奪還・記憶の煌き
24 二人の死闘・限界を超えろ!
しおりを挟む黒く重々しい空気が周囲を包む。オロスから姿を奪った恐らくは上位の魔人、その悪魔から呪いの様に埋め込まれた悪を具現化したような因子。倒れた元団長格の2人の体からその禍々しい瘴気が立ち昇る。
「クカカ、マダ…終ワランゾ…」
全身をドス黒く染め、赤く目を光らせながらのそりと立ち上がるカマーセ。
「ククク、我ラハ…王家ヘト…復讐ヲハタス…」
同様に立ち上がるメーロス。もはや人間だった面影も確固たる意識すらもない。悪意そのものが蠢いているのだ。体中から瘴気をまき散らし、辺り一帯を黒く染め上げていく。周囲の人達はそれに飲まれて苦しみ始める。
「エリック、魔力を全身に!」
「おう、くっ…確かにこいつらと向き合ってるだけで吐き気がするぜ。あの2人から対処法を聞いてなけりゃヤバかったな」
2人は精神を集中させ、全身に魔力の防御膜を張り巡らせる。
「クレアさん、周囲の人達を非難させて! 悪意に飲まれるわ!」
「魔力が使える奴は自分の周囲に魔力を張れ! 気分が悪くなるぜ!」
2人の大声の指示を聞き、恐怖を振るい去って全力で魔力を張るクレア。そしてそのまま騎士団に指示を出す。
「この2人の言った通りだ! 魔力でガードしろ! そして周囲の人々の避難に回れ! 決して近づけるな!!」
「「「「ハッ!!!」」」
クレアの声で我に返った騎士達は各々の魔力を発動させ、周囲の人々の避難へと駆け出した。だがクレアは2人の背中から目が離せなかった。
「あの2人に何かあれば私が戦わなくてはならん。しかし何だあの姿は、彼らはもはや人ですらなくなってしまったというのか…」
だがその責任感のみで留まろうとするクレアにユズリハが叫ぶ。
「クレアさん下がって!! 近くに寄るだけでも危険よ!!」
「…っ、ああ、済まない、そうさせてもらう。お二人共、ご武運を!!」
彼らがそこまで言うのだ、大人しく引き下がるしかない。自分の無力さに歯ぎしりしながら後ろへ避難するクレア。
「さてこれからがメインディッシュってことだな」
「食べ物に例えたくはないわね」
2人が武器を構える。
「アリアさんの指示通りいくぜ!」
構えた武器に聖属性の魔力を纏わせる。訓練の成果だ。本来魔導士のユズリハはもちろんのこと、エリックも魔力コントロールは鍛錬してきた。
「こいつらは正気を失ってる、ゾンビと同じよ。手数で圧倒する!!」
「おおおおおおお!!! いくぜー!!」
「ハアアアアアッ!!!!」
バルムンクとグングニルによる斬撃の乱舞、魔人共に反撃の隙を与えない程のスピードで切り刻む! だが斬った先から黒いオーラの様なものが噴き出し、回復していく魔人。超速再生、元騎士団長格だけあってしぶとい。離れた場所から見守るクレアにも攻めているのに劣勢なのは見て取れた。何度斬撃を重ねただろうか、数十分は一方的に切り刻んだはずだ。
「チッ、切りがねえな」
「全くよ」
さすがに肩で息をしながら、同時に一旦距離を取る。普通の攻撃では意味がない。瞬時に再生される。もっと高威力の一撃で蹴りをつけなければ全て徒労に終わる。2人にはそれが理解できていた。
「クカカ、ナラバ…コチラ…ノ番ダナ…」
「ククク…、闇に…飲マレヨ…」
不自然な動きで歩み始める魔人共、そして自らの体から真っ黒な剣を抜き出した。ドロドロと蠢くような不気味な剣。絶対に触れるのはマズイ、戦闘経験の長い2人には一瞬でそれが理解できた。
「何だありゃ、どこから剣を? しかもなんつう禍々しいオーラだ」
「やることは同じよ、それに切り札も練習してきたんでしょ?」
「ああ、そうだな。負ける気はしねえし、負けるわけにもいかねえ。燃える展開だぜ!」
ガキィン!!!
地面を滑るように移動してきた魔人達とそれぞれ刃を交える2人。だが魔人達の持つ剣から腐食するような黒い何かが互いの武器を侵食してくる。長く鍔迫り合いをするのはマズイ。
ギィン!!
ユズリハが距離を取る、エリックは全力で二体の魔人を薙ぎ払う。
「エリック下がって!」
「おう!!」
これまでに何度もやってきた連携。ユズリハから魔力が立ち昇る。
「止まりなさい!!!」
地面に魔力を込めた片手を叩きつける! その瞬間魔人達が底なし沼の様に変化した地面に飲まれる! <ボトムレス・スワンプ>文字通りの底なし沼を作り出し、相手の足止めをする地属性の魔法だ。更にそこから氷柱状の鋭利な弾丸の様な雨が降り注ぐ!
ズガガガガガガガガ!!!!!!
「「グアアアアア!!!」」
<アイシクル・レイン>賊共に放った広範囲なものではなく魔人2体に集中させるように氷柱が次々に襲い掛かる!!!
ドオオオオオオンンッツツ!!!!
更に連続で火魔法の<フレイム・バースト>! 氷雪系で凍り付いた体に一気に高火力の炎の爆撃が襲う!! 温度差を見事に利用した魔法の連撃! 逆属性を使いこなせるようになってユズリハの魔法戦闘は攻撃手段の幅が大きく広がったのだ。
「「ギィイアアアア!!!!」」
物理的な攻撃よりは効果はあるようだが、消滅させる程の致命打にはならない。このまま攻めあぐねていてはいずれ魔力が枯渇する。通常の魔物程度なら今ので一つの大群くらい殲滅できたであろう威力だが、魔人相手では決め手に欠ける。
「クカカ…、モウ…終ワリカ…」
「クククク…、貴様…ラニチカラ…ナドナイ、魔人…トナッタ我ラハ…無敵、マサニ最強!」
こいつらは下位の魔人、無理矢理魂を汚染されて死肉となった肉塊に過ぎない。悪意が人型となって瘴気をまき散らしているだけだ。だがこれほどまでに厄介とは。想定以上の化け物だ、時間をかけた分だけ不利になる。更に周囲にまき散らす瘴気でこのままでは街が飲まれ、一般市民にも被害が出るのは間違いない。2人は覚悟を決めた。
「けっ、他力本願が最強を語るんじゃねえ!」
「そうね、次で決めるわよ!」
成功するかは分からない。本番でやるのはこれが初めて、ぶっつけ本番だ。だがバトルジャンキーな2人にとっては燃える展開、寧ろ武者震いすらする。
「1体は任せろ、残りは頼むぜ」
「アンタこそ撃ち漏らさないようにね」
ズルズルとこちらへ歩みを進める魔人達。だが軽口を叩き合う2人には笑いが込み上げてくる。カーズが言っていた、「逆境こそ燃えるだろ?」と。アリアが言っていた、「奥の手を放つ力は残しておくようにね」と。ならば今がその瞬間だ!
「うおおおおおおおおおお!!!!」
「ハアアアアアアアアアア!!!!」
残った全魔力を集中させ練り上げる! 2人の体から魔力が渦を巻き立ち昇る! 命さえも燃焼させる程の闘志!
「見せてやるぜ、アリアさんに近づくために俺なりに鍛錬した成果を!」
「私もカーズの戦い方から盗ませてもらった切り札よ!」
全魔力を集中させバルムンクへと注ぎ込むエリック。
「無駄無駄ムダムダムダァアアアアー!!!!」
「クカカカカカァアーーー!!!」
ゲラゲラとこちらを舐めて笑い声を上げる魔人の一体に狙いを定める。
「いくぜ!! うおおおおおおおお!!!!」
魔力を収束させたバルムンクの黒い刀身がが光り輝く!
「喰らいなっ!!! アリアさんの大剣技! シューティング・スターズ!!!!」
全力で突進するエリックを横目に見ながら、両手に魔力をありったけ注ぎ込む!!
「左手からホーリーランス! 右手からブラック・ボルト!」
カッ!!
2つの相反する属性を両手を合わせ合成する。「魔法はイメージですよー」アリアの言葉が浮かぶ。
「ならこれが今の私に出来る最強のイメージ!! 聖魔融合! 消滅しろ! 合体魔法ホーリーブラックボルト!!!」
互いが研鑽を続けた、その2人の奥義が魔人を捕らえる!!!
「うおおおおおお!!!!!」
人間の力では使いこなすことは不可能なアストラリア流。エリックが強靭なフィジカルを誇っていても、その負荷に全身が悲鳴を上げる。血液が沸騰し、筋線維がブチブチと切れる強烈な痛みが走る!
「ここで命を賭けられないってんなら、俺達はその程度ってことだああああ!!!」
ズドドドドドドドドドドッオオオオオッ!!!!!!!
合計10発、脳がスパークする程の全魔力と肉体の限界を超えてつぎ込んだ今できる最大の打突技!
「グギャアアアアアアア!!!!!!!」
魔人とはいえ魔力を高圧縮させた威力の高速の攻撃で全身を貫かれればひとたまりもない! カマーセだった魔人は魔力の光に飲まれ蒸発するように消滅した。
カーズの魔法を融合させるという常識外れ過ぎる突飛な発想に、それを可能とする高等技術。追いつこうと必死に積み重ねた高レベルの魔力コントロール! 白く輝く光の槍にバチバチと纏わりつく様な黒い稲妻! 触れたもの全てを消滅させる聖魔融合、この一撃でMPは底をつくだろう。渾身の力で発射した合体魔法が魔人メーロスの土手っ腹に直撃する! それでもまだしぶとく蠢く魔人。そこから遠隔の魔力操作で魔人の腹を貫いた状態の合体魔法に、残された全ての魔力で爆発するイメージを注ぐ!
「ハァッ!! 散れ!!!」
ドオオオオオオオオオオオオオオンンッッツ!!!!
突き刺さったまま爆発するホーリー・ブラックボルト、最後に遠隔操作でフレイム・バーストを発動させた! 3属性の融合といってもいいだろう。メーロスだったものは欠片も残さず塵となって消滅した。
「へへっ、やったな」
「ははは、アンタもね」
最後の力で軽口を叩き合う。
「悪い、カーズ、あとは頼むぜ…」
「カーズ、アリアさんゴメン…」
全身が悲鳴を上げ、皮膚から血を噴き出しながら倒れるエリック。魔力を使い果たし、その場に崩れ落ちるユズリハ。2人共既に意識はなかった…。
「すぐに治癒魔導士達を集めろ!! この方たちを絶対に死なせてはならん!!」
クレアの士気の下、まとまりを取り戻した騎士団の迅速な処置で2人の治療は即座に始められた。これで一命は取り留められる。
「何という闘志、任された任を全うする凄まじい意思だ…。…私も見習わなければならない。とにかくこっちは何とかなったぞ、カーズ殿、アリア殿。済まないが王城を頼む。この2人は必ず助ける!」
クレアは城の方角を向き、両手を合わせ祈るのだった…。
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