OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第二章 王国奪還・記憶の煌き

29  彩られる思い・神衣と奥義の力

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 階段を息を切らしながら駆け上る。目指すは玉座の間。城の外から見た、中央の上部にある玉座の間から聞こえる爆発音や衝撃音、それに中からも外からもおそらくは魔法による破壊の衝撃が光となって何度も見えた。合流したクレアを始めとした騎士団に囲まれて見つめていた彼らの戦いの凄まじさが外まで伝わって来た。そしてそれらの衝撃的な光景が、私の記憶の蓋を抉じ開けたのだ。思い出した本当の名前、でも名字はもう記憶のどこにも残っていない。引き止めてくる周囲の制止を振り切って1人で彼のもとにただ走った。

「あなたはこれから元気な体に生まれ変わって私の世界で幸せに暮らしてもらいますねー。いつかあなたの運命の人が現れるまでは前世の全ての記憶は封印させてもらいますけどね。その人に会えばあなたの記憶のカギは徐々に外れます。感動的な再会を期待していて下さいねー」

 アリアさんはあのときの女神様、この世界の唯一神アストラリア様だったのですね。そして、彼に会ってから私は不思議な夢を見るようになった。隣に越してきた、いつも家で静かに過ごすしかなかった私を日の光の下に連れ出してくれた一つ年下の男の子。私の心の中にスッと入ってきて、生意気なことばっかり言って。最初は「何よ、私の方がお姉さんなのに」って思ってたっけ。彼の明るさに触れていると元気になれた。いつの間にか一緒にいることが当たり前になっていた。あの中世の様な街並み、中心部に綺麗な時計台があったあの街で。

 小さくて体が弱かったから、よくいじめられたりからかわれた。外に出るということはそういうこと。でもそんな人達を片っ端からやっつけてくれた。暴力はダメって言ったのに…「彩を傷つけたんだ、こいつらはぶっ飛ばされて当然だ」って自分よりも大きい相手にも怯まず向かっていって、「彩は俺が守るから、心配すんな」って。

 そんな君に子供心でも恋をするなんてあっという間だった。「俺がプロになって大金を稼いだら、彩の病気を治してやるからな」って地元のプロチームのジュニア選手になって、ああそうか、確かおじさんは若い頃プロ選手をしてたって聞いたな。小さい体で堂々とピッチに立つ君は大きく見えた。大柄な相手にも躊躇なく言いたいことを言って、ゲームを支配するその姿はまるで司令塔で王様みたいだった。努力を惜しまず、どんなときでも堂々として、自信たっぷり。なのに負けたら大泣きして。いつも真っ直ぐで全力な君にいつも励まされたんだ。きっと夢を叶えて私を救ってくれるって、いつの間にか君に依存し過ぎるようになっちゃったんだ。

「プロになって、この国に帰って来るから」

 お父さんが亡くなって、お母さんが心配だからっていうのは理解してたのに、君と離れるのが嫌で嫌で我が儘を言って困らせちゃったよね。傍に君が居なくなってからは毎日泣いてたなあ。沈んだ気持ちで空虚な毎日を過ごしていたせいで病気が悪化したんだ。母親から「これから来てくれる」って聞いたときは嬉しかった。大怪我をしてプロになれなかったって聞いてたけど、会えるだけで良かった。でももう私に時間は残ってなかったんだ。本当は「ありがとう」って言いたかったのに、最後に言えたのは「ごめんね」だった。

 この世界でも君に助けられちゃったね。あんなに美人になっちゃって。ズルいよ、いつだって君は。ここまで旅を一緒にしてきて、あの判断力や発想、リーダーシップ、いつもみんなに頼られて、楽しそうに囲まれて、しかも無自覚にモテてさ。「カーズ様って素敵ですよね、姫様」侍女がそんなことを言ってきたんだよ、もうムカつく! 作戦も全部君が立てて、全部上手くいって、きっともうそうなんだろうなって確信みたいなものがあった。

 化け物と対峙してボロボロになってたのを見たとき、気が付けば君を助けたくて体が勝手に動いちゃったんだ。今迄どれだけ助けてもらったか、守ってもらったか、全部思い出しちゃったんだもの。

「彩ああああああ!!!!」

 泣きながら抱き起こしてくれた。やっぱりナギくんだったんだ。記憶、きっと私みたいに封印されてたのかな? だってずっと呼んでくれなかったし。

「何で、俺なんかを助けたんだ…」

 当たり前だよ、今まで何度も助けてくれたじゃない。それにこんな世界に来てまで出会えたんだから、きっとまた会えるよ。泣き虫なのは変わらないんだ、悲しませてごめんね…。そこで私の意識は途絶えた。

 真っ暗な暗闇、覚えがある。また死んじゃったんだ…私。でも彼を助けることが出来たし、運命の人か、本当に出会えるなんて。本当はもっと一緒に居たかったけど…仕方ないよね。そう諦めていたときに彼の声が聞こえた。

 「我が名はカーズ。正義と公平を司る女神アストラリアの神格を受け継ぎし者。この者に我が心血を通して神格を与え、使徒と成さん。新たな永き生を我が傍らにて共に過ごせ! ここに血の盟約を完了する!」

 暗闇から引き戻される。彼が与えてくれた神格を通して、前世の記憶が私の中に流れ込んできた。そっか、心を病んじゃったんだね。ずっと苦しかったんだ。私のせいだね。あんなに強い心を持ってたのに、私が君の人生で重荷になっちゃったんだ。ごめんね、君を残して居なくなって。でも最期くらいは顔を見たかったのに、バカ…。だけど本当に救ってくれるなんて…、ありがとう。やっぱり君は私の運命の人、なんだね。目を開けるとボロボロの体で私を抱きしめてくる。暖かい。君の温もりを感じるのは一体いつ振りなんだろう。もう離れ離れになることもないんだ、ありがとう、私を見つけてくれて。ぎゅっと抱きしめ返すことができた。体から力が溢れてくる。君が与えてくれた神格が私の中で暖かく輝くのを感じるよ。もう絶対に放さないから…。

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 俺の神気の高まりに呼応するように身に着けているボロボロになったバトルドレスが修復され変化していく。黒衣のようだった色が、輝く様な真紅に変化し、体を守るような銀色に輝く鎧のようなものが現れる。心臓を覆うようなブレストプレート、ショルダーガードにブーツや腰回りにも白銀のような白く輝く神秘的な金属のようなものに覆われていく。二の腕に肘、そしていつの間にか再生している右腕。その腕の両袖の上にも腕から手の甲までを覆うガントレット。頭にもカチューシャをするような位置に同様のサークレットが装着されている。何だこれは? 自分の体を見て驚く。

『それが神気を解放した神々が纏うことができる神衣カムイと呼ばれるものです! 防御性能は勿論、あらゆる耐性を備え、神気の高まりに応じて装着者の力を無限に高めてくれるのです!』

 神衣をマジマジと見つめる、神々しい白銀に赤いデザインが施された神の衣。傷ついた体から痛みも消えて傷も塞がっている。

「確かにこれはすごい…。失った力も蘇るようだ…」

 失ったはずの右手を握ったり開いたりして指を動かしてみる。

『ですが一つ問題があります。神衣を纏う程の神気を放つ今の状態では、地上の素材や鉱石で出来た武器は手にするだけで耐えきれずに粉々になります。それが例えオリハルコンであっても。ですから、カーズの神器はまたいつか創るとして、今は私の神器をお貸しします』

「わかった、力を貸してくれ。それに今の状態ならアリアの力をこっちに引き寄せることだって可能なはずだろ?」

『ええ、私を呼んで下さい!」

「ああ、わかった。来い! アリア!!!」

 俺の背後に両手を組んで祈るような巨大なアリアの姿のオーラが浮かぶ。そして俺の目の前にまるで光でできているかのような剣が具現化される。つばの部分に天秤が形どられた、十字架のような剣だ。

『それが私の神器<クローチェ・オブ・リーブラ天秤の十字架>。もうずっと封印してきた正義と公平を司る聖剣です。さあ手に取って振るうのです! 悪を消し去るために!』

「ああ、ありがたく使わせてもらうぜ、姉さん!」

 左手で輝く聖剣の柄を握る。

「な、何だ、その神気は!? それに神衣を纏うなど、ただの眷属が出来る芸当ではない! カーズ、お前は神格を初めて燃焼させてそこまでの神気を使いこなせるというのか!?」

 パズズが驚きの声を上げている。鑑定、レベル3270か、アリアより低いじゃないか。義骸じゃなければこいつはアリアには勝てなかったんだな。

「知らねえよ、使いこなすってのがどんなことなのかもわからないしな!」

 ブンッ!!!

 クローチェ・オブ・リーブラを無造作に振るう。

 ゴオオオオオッ!!!

「うおっ?!!」
 
 放たれた神気の籠った剣閃を辛うじて躱すパズズ。こいつ、漸く移動したな。

「何だ今のは…? 何という技だ!?」

「は? 技でも何でもねーよ。振るっただけだ。ただの剣圧だよ」

 こいつビビってやがるな。今のでもう分かった。

「じゃあ色々と御高説ありがとうよ。アンタは結構話せる奴だと思ったけど、俺の愛する人や姉を傷つけた罪は贖ってもらう」

「ガハハハ! 神気を使えるようになったといって調子に乗るなよ! 小僧が!」

「だから言っただろ、俺みたいな奴がそんな力を手にしたら調子に乗るって。さあ正義の女神の剣による断罪の時間だ。神の闘技、お前を最小粒子まで粉々にしてやるよ」

 聖剣を両手で持ち、頭上高く構える。

「正義だと? 片腹痛い、どの世界の歴史を見ても正義が殺した数は悪よりもはるかに多いのだ!」

 なんだ、今更哲学でも語ろうってのか? 

「知ったこっちゃねえ。別にそれが正しいとして悪の方が多いってことだろうが? それにそんな大それた大義なんかねえよ。俺はただ俺の護りたいものの為に剣を抜く。それが俺にとっての正義だ!」

 神気を聖剣に集める。魔力コントロールと変わらないな。

「小癪な小僧め! ならばこちらも神気を最大限にまで高めた一撃を放ってくれるわ! 喰らえ! ファイナル・デスティネーション死の終着点!!!」

 邪悪な黒い神気を発するパズズから雷を纏う竜巻の様なものが撃ち出される、なるほど風と嵐の神に相応しい技だな。だが、お前をぶっ飛ばす奥義は既に決めてある!

『カーズ! いきますよ!』

「アストラリア流ソードスキル・奥義!」

 限界まで高めた神気を振り下ろした剣先から一気に放出する!!!

「アストラリア・エクスキューション!!!!」

 カカッ!!! ドオオオオオオオオオオオオーーーン!!!

「ぐ、おおおおおおおおお!!! 何だこの威力は!!! 貴様アストラリア、こいつにどれほどの神格を与えたのだ! いや、まさか特異点?!! くくく、だがカーズよ、神殺しをするということがどれほどの大罪か後悔するがいい!! ぐはあああああああああああああああああ!!!!!!」

 ファイナル・デスティネーションを粉砕し極大のレーザー光線のような波動がパズズを飲み込む! そのまま止まらない光の一閃は玉座の間の壁に巨大な穴を空けて突き抜け、遥か空高くまでパズズを消滅させながら消えていった。そこから見える空はもう明るくなり始めている。俺は一晩中戦っていたのか…?

「神殺しだと? うるせえよ、テメーなんざ神でもなんでもねえ、ただの悪党だろうが。誰が後悔なんざするか!」

『やりましたねー、邪神を消滅させるとは。これは天上の神々も驚きですねー、きっといいものくれるかも知れませんよー?』

 こいつ、いつものお気楽モードに戻ってやがるな。しかし、邪神とはいえ神相手にこれは、完全にOVERKILLだぜ。奥義、とんでもない威力だ。あ、ダメだもう限界…。

「そうか、まあ今はそんなことはどうでもいいや、疲れた。寝る」

 急激に力を使い果たした俺はその場に倒れ、眠るように意識を失った。






「ふふ、結局君は無茶してばっかりだね」

 アーヤは過去を懐かしむように呟いた。

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