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第三章 大奥義書グラン・グリモワール

47  鏡面世界

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さあ答えは見つかるのか?

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 輝く大鏡の前に立つ。だが何かが変だ。目の前に立っている自分の姿が映らない。鏡じゃないのか? 何も映らない鏡? いや、俺の後ろのコロシアムの風景は映っている。俺だけが映っていないのだ。気味が悪いな…。

「何なんだ? 今度は謎解きか?」

 どうしろってんだ? 壊す…のは違う気がする。ひとしきり周囲も裏側も調べてみた。鑑定もしてみたが、特に何もない…。表向きは只の鏡だ。表向きは…、俺だけが映らない鏡。こういうのもある意味テンプレか…、こういう時は…

「嫌な予感しかしないが…、時間を無駄にできない。仕方ないか…」

 手の平で鏡面に触れる。

 カッ!!!

「ちっ、やっぱりかよ!」

 触れたと同時に鏡が眩く光り、中へと吸い込まれる! 目を開けて周囲を見ると、先程のコロシアムの破壊場所が逆になっている。これは…、所謂鏡面世界って言う奴か? 俺自身は…? 変化していないな。ちゃんと鞘が右側にある。鏡にもう一度触れても…、やはりか、戻れない。鏡に背を向けて少し離れてから周囲をもう一度見渡す。アホ毛探知も反応はない。あー、もうわけがわからん! 胡坐をかいてその場に座り込む。

「くそっ、何が真実の答えだ。何もねーじゃねえかよ! しかも出られないときた…」

 不満をぶちまける。

 ゴンッ! 頭に衝撃が走る。げんこつ?

「痛ってえー! 誰だ!?」

 アホ毛探知には何も反応はなかったってのに。前方に転がるようにして距離を取ってから飛び起き上がり、振り返る。

「なっ…!?」

「おーおー、敵地でのんびり胡坐とは…。テメーはやっぱバカだな」

「まあまあ、久しぶりに会えたと思ったらこんなに美人になってるなんてー!」

 え? この人達は…? いや、俺の記憶の中の姿よりも若いが…、間違う訳がない。

「と、父さんに、母さん…? なのか…」

「ああ? 親の顔を忘れるたあいい度胸じゃねえか、ナギト。しかし、本当に別人みたいになってやがるな。折角俺に似てイケメンだったってのによー」

 そうだった、死んで美化し過ぎてたけどこういう人だった。個別特訓という名目で何度も死ぬほどしごかれたもんだ。

「いや、俺はどっちかって言うと母さん似だったぞ。そんなやからみたいな顔してなかったよ」

 もう死んでるから好きな年齢の見た目なのか? 若い、恐らく今の俺と同じくらいの20歳程度の見た目に見える。しかも茶髪にロン毛とか、現役時代かよ、もうキムタクですらしてねーぞ。

「そうねー、元々女の子っぽい顔だったものねー。でも今は完全に美女になっちゃってるのねー。不思議ねー」

 そしてこの緊張感の全くない、ゆるふわなほんわかした女性は…、一色美和子、間違いなく母さんだ。同じく若い見た目になってるな。

「で、何で2人がここにいるんだよ? もしかして俺みたいに転生したとか、そういうことなのか? アリアめ…、聞いてないぞ」

 あのポンコツのことだ、余計なことをしてる可能性もあり得る。

「あ? 俺らは死んでるぞ。ただ輪廻転生して新しく人生送るのが面倒だからよ、母さんと一緒にのんびりしてんだよあの世で。そしたらテメーが色々しょうもないことで悩んでるとかでよー、無理矢理ここに呼び出されたんだよ、めんどくせー」

「くっ、何だよそれ…、折角久々に会えたってのに…、う、くっ…」

 ダメだ、勝手に涙が溢れて来る…。だが…、ひとしきり泣いたら落ち着いた。

「あらあら、いつまで経っても泣き虫ねー」

「情けねえなテメーは、そんなんだから過去の自分とやらに負けんだよ」

「何でそんなこと知ってるんだよ?」

「色々と神様ってのが教えてくれたんだよ。全く知りたくもねーってのに。お前や彩ちゃんの因果とか運命とかな。確かに客観的に聞いたらしんどい話だったけどよ、そんなんに負けてるテメーが一番ダセえ!」

 このクソ親父…、相変わらず好き勝手言いやがるな。

「おい、そんな言い草はないだろ…。アンタが殺されてから大変だったんだぞ」

「あははー、まあねぇー」

 この人は良くも悪くも相変わらずぽわぽわしてるな…。

「そう、それだ。俺は別に後悔してねえよ。犯人は俺が現役の時に立見席から暴言吐きやがったから飛び蹴りしてやったアウェーの客だ。巻き込まれた人には悪かったけどな、そんな後先一々気にしてピッチに立てるかよ」

「カントナかよ…。それで刺されちゃ世話ないだろ」

「んで、俺が居なくなったからって何で帰国しやがった? それに俺の残した現役の時の遺産で彩ちゃんの病気くらい治せただろうがよ? しかも破格の待遇蹴って後進国に帰りやがって。それで怪我してプロも彩ちゃんも失って、バカなのかテメーは? 俺よりも遥かにポテンシャルもあったってのに、かーもったいねえ!」

 この野郎聞いてねえ。

「それは父さんが必死に自分の足で稼いだ金だろ、俺が勝手にしていいものじゃない。自分の力で助けたかったんだよ」

「ハッ、ガキがいっちょ前のこと言いやがる。そういうのが甘いってんだよ。金に良いも悪いもあるか、さっさと彩ちゃん治して、プレーに集中、あのまま残ってトップチームに上がってりゃ良かったものを。テメーは母さんを理由にして逃げたんだよ」

「はあ?! 母さんの心配して何が悪いってんだよ、それに悪質なタックルで大怪我したんだ、仕方ないだろ! 残ってても同じ目にあったかもしれねえだろうが」

「あーあー、ガキが吠えやがる。テメーは全く成長してねえな。母さんは大人なんだよ、自分で何でも決められる、それをお前がついて来るから負担になったのがわからねえのか? 悪質なタックルだあ? タックルなんざどれも悪質に決まってんだろうが、そんなこともわからねえのか、やっぱバカだなテメーは」

「この野郎…、幾ら父親でも言い過ぎじゃねーのか? 折角また会えたってのに…」

 コイツの為に悪人に腹立ててたのが馬鹿らしくなってきた。

「いいや、まだ言い足りねー。要はテメーが因果とか運命とかそういう訳わからねーもんに負けてるのが悪い。プロになれなかったのも、彩ちゃんを結果的に殺したのも、その後鬱拗らせたのもテメーが精神的に弱いのが悪い。自分に厳しいのはいいけどな、そんな自分に酔ってんじゃねえ。結果よりも過程の努力に優越感感じてんじゃねーよ。そのくせ他者には甘い、タックル喰らわしてきた奴はキッチリ殺したんだろうな?」

 好き勝手言いやがって…、もうキレた。

「おうコラ、クソ親父、久々に会えて嬉しかったってのに…。そこまで好き勝手言われたらさすがに頭に来る、表に出ろコラァ!!」

「おう上等だ、テメーこそ表に出ろバカ息子が!」

「もうここはお外よー、2人共ー」

 ブレないな…、この人は。

「ほう、ちゃんと感情的になれるじゃねえか。テメー、生意気にも常に理知的に振舞おうとしてやがるだろ? でもな、それがお前の色々な才能や力を無駄に押さえ付けて雁字搦めにしてんだよ。お前がガキの頃、ピッチで笑いながら相手に容赦しねえプレー、その本能的な部分に俺は将来性を感じてたのによ。彩ちゃんと仲良くなってからは段々丸くなりやがった。いつの間にか感情を押さえ付けるようにな。そのせいでプレーにムラが大きくなって安定しなくなった。もったいねえ。だがな、ここに来て闘い方は変わったかもしれねえが、お前の闘いを見て気付いたぜ、お前の本能は敵と闘うときに溢れ出して来てるはずだ。ゾクゾクするだろ? 敵と闘うとき、押さえつけてるようでもアドレナリンが噴き出してんだろ? それがテメーの本能だ、闘争本能と言ってもいい、そいつを飼い慣らさずにお前は相手と闘う理由をわざわざ考える。だから自分の負の感情とやらに負けるんだよ。相手の事情なんざ一々考えてんじゃねえ! 敵に同情すんな、テメーは相手が負けたら死ぬってわかってたらドフリーでもシュートを外してやんのか?」

「なるほど…、そうかもな。確かに強い奴と闘うときは楽しいよ。それが俺の本能か、あの感覚…、色々合点がいったぜ。でもな、魔物ならまだしも、気に入らないとか敵だからってだけで問答無用でぶった斬りたくないんだよ。それが甘いってんなら別に甘くて結構だよ。斬るべき相手はキッチリ斬ってやるからよ」

「ハッ、甘え甘え、お前はあんころ餅か?」

「うるせえ、せめてチョコレートパフェって言え」

「どっちも甘いわよー」

 うん、そうだね。被せちまったよ。

「おい、ナギト、刀一本貸せ。テメーがそんな風に甘い奴に育ったのは俺のミスだ、それを父親としてぶった斬ってやるよ」

「この野郎…、いいぜ、使えるんならな。"許可する"、行け、女神刀」

 腰から鞘ごと一本抜き、許可する。パシッ、予備の女神刀が親父の右手に収まる。

「ほう、こりゃあ良い刀だな。こいつでテメーの根性叩き直してやらあ」

「そりゃあ俺の師匠が創った一品だからな。それに一々うるせー、今時ロン毛とか流行らねーんだよ。若い時のキムタクか? 実年齢考えろ! あと、母さんは離れててくれ」

「ハン、テメーこそなんだそのツインテールは? 女神様の神格貰ってツンデレにでもなったのか?」

「ツインテ=ツンデレとか思ってる時点でバカなんだよ。好きでなったんじゃねえ。つうかそんなの扱えんのかよ? 悪いけど剣技で俺に勝てると思ってんのか? 貰いもんの体とはいえ普通の人間が俺に勝てるとか思うなよ」

「何でわざわざ鏡面世界にいると思ってんだ? ここじゃお前の能力は俺の中に鏡の様に映し出されて全く互角になってんだよ。能力差はねえ。それに俺も剣の神様ってのに色々暇潰しに習ってんだよ、バカ息子をボコるためにな! 天才過ぎてもう免許皆伝だけどよ。だが俺は魔法ってのは苦手だ、剣に魔力を纏わせる程度だ。純粋に剣のみで、テメーの精神的にクソなところを全部否定してやるよ」

 女神刀を抜く親父。ジーパンにTシャツ、スニーカーとか舐めた格好してやがる。

「いいぜ、後悔すんなよクソ親父、いや、一色刃更士バサト!」

 物騒な名前だぜ、父親ながら。確かに鑑定しても俺と全く同じパラメータだ。装備補正も含めて。そして明鏡止水や未来視が発動しない。いいだろう、さっさと終わらせてやる。チキッ、抜刀術の構えを取る。

「ほお、抜刀術か。おら、撃って来やがれ」

「アストラリア流抜刀術」

 衝撃波が空を斬る!

「飛天!」

 ザシュッ! 

 刃更士の左肩をかすめる。

「ほらな、わざと外すと思ってたぜ。それが甘いってんだよ!」

 ドンッ! ガギィン!!

 突っ込んで来た刃更士の刃を受け止める。

「くっ、速っ!」

「そりゃあお前自身のスピードだからな!」

 しかも思いっ切り脳天に唐竹割りしてきやがった。

「テメエ、殺す気かよ…」

「当たり前だろうが、息子だろうが今は敵だ。敵にかける情けなんかねえんだよ!」

 ガギィ! ギギギギギィン!!!

 互いの刀が何度も交差する。力もスピードも同じ、先読みも出来ないとなるとこれ程厄介だとは。これは俺と闘った奴らが感じてたことなんだろうな。

「オラオラァッ!!」

 ギギィイン!!!

「くっ…!」

 防ぐのに手一杯だ。

「ほらな、テメーは俺を出来る限り傷つけないようにして、どうやって戦闘不能にしようか考えてやがる。だからそうなるんだよ。だがな、俺はお前を殺すつもりで刀振るってんだよ! それが今の互いの戦況の違いだ。情けをかけてる余裕があんのか? また過去の自分に負けてえのか!?」

 ガキィ!! ドゴッ!

「ぐふっ!」

 刀を防いだところに鳩尾に蹴りが入る。筋力も同じだけあって効くな…。何発も喰らっていては持たない。

「相手と同じ土俵で闘ってどうすんだ? 魔法はどうした? 俺は苦手ってわざわざ教えてやっただろうが!?」

「ちっ、そんなん卑怯だろうが!」

 確かに魔法を、極大のヤツをぶっ放せば遠距離から仕留められるだろう。だが俺は剣で勝負したいんだよ。

「テメーは筋金入りのバカだな。敵相手に卑怯もクソもねーだろうが!」

 ガイィン!! ガガガッ!!

「アンタを、父親を心の底から敵だと思えるかよ!」

「じゃあ過去の自分も敵だと思えねーな」

 ギィン!!

「アイツは別だ!!」

「目の前の敵に情けかけてる奴が何言ってやがる。いつまでもそんな甘いこと言って剣を交えるってんなら、殺すぞ…!」

 ゾワッ…!

「何つー殺気を向けやがる…」

 これが俺の探している答えだってのか…? いや、そんなはずがない。くそっ、迷いが増えてばっかりだ。そうか、やはりまだ俺は迷いが晴れていないのか…? 記憶を乗り越えただけじゃ足りないってのか。ならこの闘いで掴むしかないってのか、神の試練…嫌なことをさせやがるぜ。





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まさかの親父を斬れるのか?
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