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第四章 混沌の時代・7つの特異点
72 メキア奪還・予期せぬ危機
しおりを挟む「魔神器の二柱はカーズとアヤちゃんに消されましたよ。アーシェス、次はあなたの番です」
「シタとミトゥムがあんな人間如きに敗れるとは…。でもねアリア、勝ち誇るのはまだ早い! 私が貴様らを全て片付ければいいだけのこと!」
ギィン!
アーシェスの薙ぎ払いをガードしながらくるりと後ろへ跳ぶアリア。
「最早この状況が覆らないことがわからないあなたではないでしょう。大人しく投降するなら、今迄のよしみで命は助けますよ。大人しく天界で裁きを受けなさい」
「黙れ! あらゆる世界の人類共に復讐するまで私は止まらない! よくも豊穣の女神であった私を貶めてくれたものよ……!!」
お、これは心理的に揺さ振るチャンスだな。
(アリア、俺が奴と話すときの俺の天秤を見てブラフかどうか確認しろよ)
(ええ、わかっていますよ。駆け引きですね)
これはファーレ戦での反省から、俺達二人で決めていたことだ。俺の言動がブラフだとわかっていればアリアは躊躇しなくて済む。
「じゃあその神話や逸話が神々によって創られたものだとしたらどうする? お前のその姿は俺が以前いた世界の逸話の影響が大きい。人々を敢えて煽動し、諍いを起こす原因となる宗教を創り出し、その中でお前をそんな姿に変えたのは、その世界の神々がやったことだ」
「カーズ……、貴様、どういうことだ?!」
よし、食いついたな…。アリアとずっと剣を交えていた影響で、肩で息をし、体にも刀傷が多く刻まれている。精神的に揺さ振れば冷静さは失われ、勝率は更に上がる。
「お前は何も知らずに大奥義書、グラン・グリモワールになぞった行動をとっていたのか? そう言った逸話や神話の類は神々が、いやもしかしたら魔神達によって創り出されたものだと言ってんだよ」
「何の話だ?! 私を貶めたのは人類共。それに間違いはない!」
「結果だけ見れば煽られた人々の信仰心の影響だとは言えるだろうさ。だが、その世界の管轄を任された神々が原初の7色の魔神に成り代わっているという可能性が非常に高い。狂った伝承は、お前らみたいな神々を仲違いさせようと目論む奴らが創り上げた、でっち上げってことなんだよ。今ゼニウスのオッサンに調べて貰っているがな。お前らは人類の勝手な妄想ではなく、天界に敵対する魔神達の手によって創られた宗教で煽動された人類の信仰によるところが大きい。俺もそうだが、人間は弱いし完全じゃない。辛い時に縋る神が実在するかの様に仕組まれれば、それに縋りたくなるもんだ。神でありながらそんなこともわからないのか? 本当の敵はそんな風に人類の歴史を改竄したりした魔神ってことだ。それでもまだ、こんな下らない茶番を続けるのか? それこそ魔神共の思うツボだろ? 今ならまだ戻れる、馬鹿な真似をせずに投降しろ」
やはり動揺しているな。落ち着きがない様子が見て取れるくらいだ。
「……フッ、ククッ…、アハハハハハッ!!! 今更そんなことを聞かされても、私の数千年に及ぶ怨嗟と憎悪は消えはしない! 煽動されたとしても人類がそれをしなければ良かっただけのこと! 全ての人類を消した後に、その魔神共も葬ってくれる!!!」
まあ今更後には引けないだろうな。こんなのは予想の範囲内。それに俺はこいつを許すつもりはない。いくら自分が苦しんだとしても、それを無関係な何も知らない人々に復讐というお題目で押し付けるなど筋が通っていない。自分がされて嫌だったことを他者に行うなど、愚かにも程がある。俺はそういう連中が大嫌いだ。
……じゃあこれは俺の今迄の出来事からの推測だが、カマかけに心理的に揺さ振るには丁度いい。当たらずも遠からずだろうしな。
「恐らくルシキファーレはその魔神共と高確率で繋がっていると思うけどな。大奥義書という知識を遊戯の様に持ち込んだのはあいつだろ? お前とバアルゼビュートは都合良く同じ様な境遇で貶められて、その書物にも悪魔として記されている。お前らは体のいい手駒として利用されているってことだろうな。そんなあいつを、まさか信用しているなんて馬鹿なことが言えるのか?」
「なっ…!? ファーレが……?! 確かにあの世界の知識を遊戯として持ち込んだのはファーレ…。だとしたら私達は……?!」
完全に揺らいだな、今が好機!
(今だ、いけ! アリア!)
(ええ、キッチリとブラフに掛かりましたね!)
「アストラリア流ソードスキル!」
ガギギギィイイイン!!! バキィイイイイーーン!!!
「エレメント・アームズ・ブレイク! 10スラッシュ!!!」
10連斬の全属性と武器破壊の複合技が、二柱を失って弱体化したアマウシュムガルアンナを完全に破壊した!
「ぐっ、私のアシュラガンナがっ!!? おのれ…アストラリアにカーズ! 受けろ! 魔眼解放・魅了!!!」
アーシェスのオレンジの双眸が怪しく輝く! こちらにまで魔力を飛ばして来たか、だが無駄だ。魔眼の魔力を断ち切ったのは俺の創造魔法なんだぜ! 前方に左手をかざし、魔力の波長を断ち切る!
「パーフェクト・キャンセル!!!」
パキィイイン!!
「おのれ…魔眼までも無効化するとは…。厄介極まりない特異点が…」
勿論俺も魔眼を発動して相殺したけどな。堕ちてもさすがは神、魔法だけじゃ危なかったところだ。
「使いたくはなかったですが、カーズまでも狙うとは…。そこまで堕ちたのなら最早救い難い、私の魔眼を受けなさい! 解放・石化!!!」
カッ!!! バチチチチィッ!! ビシッ……、ビキキキキィ……!!!
懸命に抵抗しようとしたアーシェスの魔眼の威力を上回る、石化の魔眼! 全身完全に石化とまではいかなかったが、体の自由を奪い、翼や角、魔神衣が粉々に石化して砕け散る。これがアリアのもう一つの魔眼・石化か…。神話のメドゥーサなど霞んで見える程の、神をも抑え込む凄まじい威力だ。足首まで石化し、最早アーシェスはその場から身動きも取れなくなった。
「ぐあああああああ!!! これ程の魔眼を隠し持っていたとは……、くっ…、ハァ、ハァ…いつの間にこれ程の力を……うぐっ?!」
「日々の研鑽と努力です。カーズならこう言うでしょうね…」
「ああ、全くその通りだよ。神でも力に胡坐掻いてる様な奴はな、努力を惜しまない者の前には膝を着くしかないってことだ」
「ククク…、アハハハハハッ!!! まさか若造と、特異点とは言え人間の小僧にここまでやられるとは……。ならば道連れよ…、我が神気と魔力の最大の一撃を受けるがいい! ドラコーン・ケイモーン・ノテロス!!!」
束縛に必死で抵抗し、アーシェスの手から風と水の魔力に神気を纏った巨大なドラゴンの形状をした魔力撃が放たれる!
「今こそ受けよ! 正義の女神による断罪の一撃を! アストラリア流ソードスキル・奥義!」
「アリアを守れ! 展開しろ、スペル・イーター・改!」
頭上に掲げたクローチェ・オブ・リーブラを振り下ろそうとするアリアの前に、巨大な魔法陣を展開する! これは神気をも吸収する改良型のスペル・イーター。自らも神気を全力で放っていなければ使えないのが難点だけどな。
ドンッ!!!
奴の最後の一撃を吸収した巨大魔法陣の横を爆発的な速度で駆け抜け、一瞬で零距離まで迫ったアリアが、頭上高く掲げた神器をアーシェタボロスに叩きつける!!!
「アストラリア・エクスキューション・ゼロ!!!」
ドゴオオオゥッ!!! ドパアアアアアアアンッ!!!
「く…、ぐああああ!! おのれええええ!! 人類に、それに味方する愚かな神々め…!!! 貴様らもいつか自らの愚かさに気付くときが来るのだ!!! そして私の様な闇に翻弄された者達が必ず現れる、光あるところに闇は必ず存在するのだからな!!! がはっ、ぐはああああああああああああああ!!!」
バキィイイイイン!!!
粉々に砕け散ったアーシェスと共に燦々と輝く小さな欠片がアリアの体に降り注ぐ。
「それが、神格…なのか…?」
「ええ…。これはカーズ、あなたが彼女の気を逸らし、心理的に揺さ振りを掛けた故の勝利。あなたがこの神格を受け取って下さい」
「…いや、アリアが斃したんだ。それにお前は俺に神格の半分を渡してくれたんだろ? それはアリアが受け取るに相応しい。あいつも元々はまともな奴だったんだろうしな。お前が受け取ってやれよ」
「そうですか…。そう言うとは思ってましたよ。ではありがたく貰い受けましょう」
そう言ったアリアの中に、アーシェスの粉々になった神格が光の粒子となって吸い込まれていく。アリアから放たれている神気がこれまでよりも大きくなった。これが神格を奪うということか……。PTを組んでいる俺に視えているアリアのステータスが急激に上昇していく。
<レベルアップしました。スキルの更新を行います>
「俺達のレベルもみんな上がったはずだ。さっさと法王に奴隷制度の撤回を宣言させよう」
「ええ……、急ぎましょう。さようなら…アーシェス、またいつか……」
階下へ急ぎ、蹲っている法王を回復させる。ここから先は唯一神であるアリアの手腕に任せるとしよう。俺は他のまだ調子が悪そうな人々を回復させて回ることにした。みんなの御陰で犠牲者達の対処は早く済んでいる。そこまで酷い状態の人はいないな。
ビーッ! ビーッ!
「何だ?!」
突然、警告音の様な音と共に、PT間の情報がわかるウインドウが開いた。PTを組んでいる全員の状態が一目でわかる便利なものだが、今迄自動的にそれが開くことなどなかった。エリユズがクラーチ王国で魔人相手に苦戦していた時でもこんなことはなかったはず…。何が起きているんだ?
「アリア、アヤ、来てくれ!」
俺の様子がいつもと違うことに気付いたのだろう。二人が急いで側にやって来る。
「カーズ、どうしたの?」
「PTのウインドウ…、これは?!」
「急にPT情報がわかる、このステータスみたいなウインドウが開いたんだ。警告音の様なものも鳴った。どういうことなんだ?」
「誰かに異変が起きたのかも知れません…。リーダーのあなたにその通知が来たのでしょう」
「カーズ、メンバーの状況を確認しよう!」
上からメンバーの一覧が表示されている。カーズ、アリア、エリック、ユズリハ、アヤ…。そして下にスクロールさせると、ディードの名前が赤く点滅している。
「ディード?! 一体何があったんだ?!」
「名前をタップして確認しましょう!」
ディード・シルフィル 状態:瀕死・麻痺・毒
「どういうことだ?! それ程の強敵が来たのか? クソ親父は何やってやがる!!」
「まずいよ! HPも一桁近くまで減ってるし、自動回復も機能してないみたい!」
「今のあの子が簡単に負ける様なことはないはずなのに…。今すぐ行きましょう!」
アリアめ、こういう情況になるとすぐにテンパるところは変わらないな。冷静になれ。
「待て、お前はこういう時こそ落ち着け。ここは俺と消耗の少ないイヴァだけで行く。アヤもルティも、お前も消耗してるだろ。狙われている可能性があるアガシャを連れて行く訳にはいかない、ダカルーのばーちゃんは龍人族のことが第一だ。片付けたらすぐに魔王領に向かう。こういう時の為にPTメンバーの位置に転移できる創造魔法は創ってある。この神鉄の建物から出れば使えるはずだ。お前は先ずここの問題を片付けてくれ。アヤも連れて行きたいが、神気で闘える人材が減るのは戦力的にもマズイ。それにディードに里に向かう様に言ったのは俺だ…。責任は俺にある」
「わかりました…。私はここで自分の為すべきことを為しましょう。頼みます」
「カーズ、ディードはもう大切な仲間だから…。どんなことをしても救ってあげて!」
「ああ、イヴァ、行くぞ! ついて来てくれ!」
ジャンヌのところにいたイヴァが此方へとやって来る。
「んー、何かよくわからないけどわかったのさー」
「ここは任せる、魔王領で落ち合おう!」
「「ええ!」」
ダッシュで階段を駆け降り、建物から出る!
「イヴァ、俺に掴っとけよ」
イヴァが俺の腕にしがみ付く。普通は訪れたことがない場所に転移は出来ないが、サーシャとルクスが神気の波長から俺達を補測して転移して来たことがあった。それをヒントに、PTメンバーのところへすぐ飛べるこの魔法を創造しておいたんだ。
「いくぞ、PTリンク・テレポート!」
シュンッ!
俺達がその魔法で転移したとき、一瞬見えなくなったPT情報ウインドウ。それが映していたディードの状態が、死亡に変わっていた。彼女に里の守りを任せた、自分の浅薄さと大丈夫だと決めてかかっていた判断を俺は悔やむことになる。
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