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第五章 冒険者の高みへ・蠢き始める凶星達
91 アリアの贖罪・大迷宮に挑め
しおりを挟む「喰らいな! マルクスリオ流大剣スキル、キャノン・クラッシャー!」
ドゴオオオオオオオオオッ!!!
エリックが大地に魔力のオーラで刀身を巨大にしたフラガラッハを叩き付ける!
「アハハハハハッ!!! コズミック・エクスプロージョン!!!」
ズガアアアアアアアアン!!!
ユズリハの魔導銃から極大魔法が撃ち出される!
「消えなさい! アストラリア流連接剣スキル、ネビュラ・スパイラル!!!」
ザシュシュッ!! ズヴァアアアアア!!!
ディードのライトローズ・ウィングからは、敵の群れを飲み込んでズタズタに斬り裂く竜巻の雲の様な剣技が炸裂する! 各々が放った技の威力に、目の前のベヒーモス達は次々と数を減らしていく。
まあ、この三人は問題ないな。やり過ぎ注意くらいにしとこう。エリユズの二人にディードも加わっているから火力は充分だ。このまま一気に押し返して貰おう。
(三人共ご苦労さん、地形をあんまり変えるなよー。そのまま大迷宮まで押し返してくれ)
(((了解!)))
(俺はこのまま戦況を見て回る。後で落ち合おう)
返事が返って来た。南門に近づくベヒーモスはもういない。アヤと母さんは遠距離からバフなどの援護や、回り込んで来た敵をキッチリと潰している。東門のイヴァと親父の様子も道中の敵と一緒に見ておくか。こっちは数もそう多くない。もう勝負が着く頃だな。
・
・
・
「聖剣技・風龍演武!!!」
スパパパパーーンッ!!!
風の魔力を纏った剣閃が数発放たれると、残っていたベヒーモス達は紙切れの様に斬り裂かれて消滅した。ほう、あれが風の剣技か。すっげえ切れ味だな。その内また聖剣技は見せて貰おう、学ぶ点もあるだろうしな。親父も目の前の敵を斬り伏せたところだ。
フェリスに乗ったままイヴァを回収するために下降する。
「お疲れさーん、ま、あんなのじゃ相手にもならないか」
「カーズ、ナイスタイミングなのさー」
「おう、こっちは終わったぜ。南に比べると敵も少なかったしよー」
「最初から心配はしてないよ。取り敢えずけしかけて来た悪魔は消した。だが、恐らく大迷宮内に何か異変がある。イヴァ、俺達はこのまま大迷宮に向かうぞ。親父は暫くここを守ってくれ。母さんにも南門を守って貰うつもりだ」
「あいよ、じゃあ適当に様子見たら南門に行く。母さんに伝えといてくれ」
「OK、じゃあイヴァ、フェリスの背に乗ってくれ。南門に行くぞ」
「わかったのさー」
ひょいっと不死鳥の背に乗るイヴァ。
「じゃあまた後程。PTリンク・テレポート」
シュンッ!!
「全く、親遣いが荒い息子を持ったもんだぜ」
バサトは刀を仕舞いながら独り言ちた。
フッ!
南門前到着。もう敵の大軍はかなり押し返されている。勝負アリだな。そしてどうやら城壁に上がって此方を見物している連中がいる。千里眼、やっぱリチェスターとクラーチ組か。こっちの力を知ってるから堂々と見に来ているが、何かあっても自己責任でお願いします。
「アヤ、母さん、お疲れ様。親父はもう暫くしたらここに来る。アヤ、大迷宮に行くぞ。母さんは親父が来るまで一応警戒だけはしといてくれ」
「うん、また大迷宮だね。イヴァみたいな誰かが眠っているのかな?」
「どうだろう? あの悪魔の様子だと余り良さげな感じはしないな」
「ハイハーイ、じゃあ母さんはここでお父さんを待ってるわねー」
アヤもフェリスの背に乗って、敵の群れの最前線まで飛翔した。大迷宮前で大暴れするヨルムの巨体に、アガシャとフェンリルのリンクスも混ざっている。そしてエリック達が大軍を押し返したので挟撃する形になっている。さて、じゃあ俺もこの掃討戦に加わるか。
「フェリス、上からの援護は任せる。いくぞ、二人共!」
「任せよ」
「うん!」
「なのさー!」
三人揃ってベヒーモスの大軍の真ん中に着地する。じゃあさっさと大暴れして終わらせてやるぜ! アリアは何やらグリフォンと言い合っているみたいだし。放っておこう。自業自得だしな。まあ余りにも状況が悪いなら援護に行ってやるか。ノイズ・コレクトをアリア達の近くに展開しておく。
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「だからー、『ごめんなさい』って言ってるじゃないですかー」
「女神アストラリアよ、我が同胞を『装備の素材にする』の一言で大量に殺戮したことは『ごめんなさい』で済むことではないぞ。我が呪縛を解放してくれたことには素直に礼を言わせて貰うがな」
アリアがカーズの創造魔法を使って、隷属の首輪は砕いた。が、グリフォンが正気に戻ったときに目にしたのは、数千年前にこの世界を自由に飛び回っていた自分の同胞を片っ端から惨殺した、この世界の唯一神の女神アストラリア。感謝はすれども、簡単に仲直りとはいくはずもない。
アリアのせいで、グリフォン達は幻獣界に逃げ込むことになったのである。この念鎖は根深い上に、ずっとアリアからの謝罪はなかった。そう簡単に許せるはずもない。
「だからー、『ごめんなさい』って言ってるじゃないですかー」
「さっきからずっとそれしか言わぬではないか! 本当に謝罪する気があるのか?!」
「ありますよー。だからー、『ごめんなさい』って言ってるじゃないですかー」
下で暴れているカーズには勿論そのやり取りは聞こえていた。そして呆れていた。あれじゃあ謝罪というより、相手の神経を逆撫でするだけだ、さすが神であるだけあって、こいつも自分の行動が何でも正しいという感性が備わっているんだろうなと。
仕方ない、このままじゃ口論で千日戦争だ。カーズは味方に残りを任せ、再びフェリスの背に乗って、アリアの下へと向かった。
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「おいこら、バカ女神。何やってやがる? いい加減にちゃんと詫びを入れろ。そんなふざけたテンプレ謝罪で上手くいくはずないだろ?」
「カーズ、他の幻獣は……って、もう召喚獣にしてるとは……。全くあなたはとんでもないですね。いつも想像の斜め上を行きますねー」
「お前結構余裕あんな。さっさとグリフォンに詫び入れろ。俺も一緒に謝ってやるから!」
「む……? その澄み切った神気のオーラ。其方が件の特異点か……?」
「あー、はい。なんか大袈裟になってるけど。俺はカーズだ。よろしく」
「ふむ、この女神よりは話が通じるみたいだな」
巨大なグリフォン、恐らく口調からして長か何かだろうな。
「申し訳ない。こいつはヴァカなんだよ。ほら頭を下げるのが先だ。口で取り繕っても意味がねえ。態度で示せ」
グイッとアリアの後頭部を押さえ付けて、二人で土下座の形で謝罪する。
「済まない。俺達もグリフォンの素材から創られた装備は大切に使わせて貰っている。そういう意味では同罪だ。申し訳ありませんでした!」
「申し訳…ございませーん……」
こいつー、ちゃんと謝れよな。
「フッ、クアーカッカッカ! 神に土下座をさせるとは、カーズよやはり其方は面白い特異点の様だな。その言葉に嘘偽りがないか、これからは其方と共に在ろう。我が真名はグリフ、グリフォンの長である」
カッ!
光の粒子となって俺の体、神格へと吸い込まれた。またかよ、召喚獣増えすぎだろ。
「いやー、良かったですねー。一件落着です。頭を下げた甲斐がありますねー」
「おいこらバカ女神、俺が来なかったらずっと平行線だっただろうが。『ごめんなさい』で済む程軽くねーだろ。神なら謝罪くらいはちゃんとしろよな」
「はーい、ごめんなさーい」
「お前絶対反省してねーだろ?」
「してまーす」
「軽いんだよ!」
まあアリアはこういうやつだ。こいつなりに頑張って謝罪をしたんだろうな。誠意は全く感じられないが……。
「まあいい、お前の頭の中身は俺にはどうしようもないしな」
「ひどーい、カーズ酷いですよー」
「事実だろ。グリフとはまた俺も話しておく。まずは残った敵の殲滅と大迷宮だ。内部に何か視えるか?」
「いや、さすがに迷宮内は厳しいですねー。靄が掛かった様な感覚です」
「やっぱお前のスキルは肝心な時に使えないこと山の如しだな」
「ああー! またその史上類を見ない罵倒を使いましたね!」
「事実を言ったまでだ。ほら行くぞ。フェリス、大迷宮前まで飛んでくれ」
「了解した」
アリアを回収してヨルムがいる場所まで飛ぶ。俺達がコントしてる間に敵はほとんど討伐されている。ホント、頼りになる仲間達だな。数万はいた巨大なベヒーモスは残り僅か。大迷宮からはまだ湧いてくるが、内部に突入して蹴散らせば終わりだ。
「おりゃああ!!!」
ザンッ!
エリックの一撃で地上に残ったベヒーモスは全て処理した。討伐完了。後はヨルムが塞いでいる大迷宮内部を探索して潰せば終わりだ。フェリスの背から飛び降りる。
「みんなお疲れ様。でもまだ大迷宮内にはうじゃうじゃいる。これが外に溢れたらまた同じことになる。内部に入って殲滅するぞ」
フェリスとヨルムを地上での監視役として残し、アガシャはリンクスを連れて、俺達は第九大迷宮へと突入した。やはり入り口付近は、以前ディードが説明してくれたように階段が造られている。魔石収拾の為だな。だが湧き出して来たベヒーモスはルキフゲに召喚されたものだったのだろう。消滅しても何も落とさなかった。
迷宮内のベヒーモスや他の魔物を斬り伏せながら、他の魔物からは魔石がドロップした、俺達は前回と似た様な作りのダンジョンを最下層まで進んだ。やはり下層に行くにつれて瘴気が濃くなっていく。魔力と神気の鎧装を分厚く纏い、ガードする。
辿り着いた最下層にはやはり巨大な魔石が地下に埋もれていた。そしてその魔石が割れており、内部からどす黒い瘴気が噴き出している。
「アリア、内部はどうなっているんだ?」
「イヴァの時と同様ですね。やはり魔神らしき男性、種族は魔族ですか…。それが眠っているようです」
「どうする? 見たところイヴァの時みたいに呪われた何かを持っている訳じゃない」
「そうですね……。このまま結界で封印して眠っていて貰う方が安全でしょうね……」
「そうだな、触らぬ神に何とやらだ。危険な魔神の可能性もあるしな」
『俺様の眠りを妨げるのは貴様らか? 折角気分良く寝ていたのを先程の悪魔と言い、やかましい!』
全員の頭の中に念話が聞こえた。おっとこいつはヤバそうな雰囲気がするな。
「俺達はアンタの眠りを妨げるつもりはない。そのままゆっくり寝ててくれ」
『最早遅い、永い眠りから完全に目が覚めたわ! 生きて帰れると思うなよ、貴様ら!』
魔神が目を開く。黒い輝きを放つ切れ長の目に、額には一本の角。長い金髪に、黒い軽鎧を纏っている。そいつがスーッと魔石の中から浮かび上がって来る。
「俺様の名はローズルキー。巨人の血を引きし魔族であり七色の魔神に見出されし魔神だ。目覚めの運動がてらに貴様らの神格を喰らってやろう。来い、魔神剣レーヴァテインよ!」
奴の右手に巨大な炎の大剣が現れる。
「レーヴァテインにローズルという別名、最後の文字を合わせれば北欧神話の悪神ロキだ! こいつはタチが悪い! みんな神衣を纏え!」
さてどうする? こいつはイヴァとは違う。高慢な神話のロキそのままだ、要は危険な魔神、ここで討ち取らせて貰う!
「おりゃあ!!!」
ガキィイイイン!!!
「ハッ!!」
ギギィン!!
エリックとユズリハの攻撃が弾かれた。レベルは2580だが、神気を完全にコントロールできる相手に、神衣を纏えないこの二人では分が悪い。
「下がれ、二人共まだ神衣を纏えないんだろ!?」
「だからこそだ、練習台には調度いい!」
「こいつとの闘いで掴んでやるわ!」
なるほど、実戦に勝る稽古はない。いざとなれば俺達が出張ればいいしな、ここは二人の成長に任せるとするか。
「みんな距離を取れ、二人の邪魔にならない様に!」
全員が最下層入り口辺りに退避、そこに俺とアリアで多重神気結界を張った。もう転移以外では逃げ場もない。
俺達は二人の闘いを見守ることにした。
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