OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

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第六章 魔神討伐・神々の業

117 原初の七色

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 バベイル帝国がニルヴァーナ全土に宣戦布告する数日前。

 地球。カーズ達のいるニルヴァ―ナとは過去の超大破壊オーバードライヴによって切り離された、別次元に存在する世界。派遣されて来た神々を惨殺し、それに取って代わった原初の七色の魔神達が息を潜める、混沌の世界でもある。

 冥界での闘いの後、ルシキファーレはその彼らの下を訪れていた。亜空間内部で長年身を隠していた魔神達は、ゼニウスの訪問後一同に集まり、これから起こるであろう神魔大戦に向けての準備を着々と行って来た。

 円卓に座る七人の原初の魔神。その一角に座ったファーレが彼らに話し始める。

「準備は着々と進んでいるようだね? でも今の天界は混乱だらけだよ。そこまで念入りにする必要もないだろうさ。大いなる意思は私達の味方だろうしね」

 黒い髪に角、漆黒の衣装に身を纏った黒の魔神ズヴァルト。両足を組んでテーブルに投げ出した男がそれに答える。

「ハハハッ、折角永い時間をかけて、この世界で憎悪や混沌を増幅させてきたんだ。宗教とやらは便利だったな。神の存在を匂わすだけで人間は勝手に争ってくれる。俺達の力が以前よりも遥かに強くなったのは人間様様だ。もう少し遊んでも良かったんだがな」

 それに賛同するかの様に赤毛に赤い角、派手な真紅のドレスを纏った赤の女魔神ヴェルメリオも口を開く。

「そうね、でもどうせなら派手にいかないと。赤い血飛沫の様に派手にね」

 青く輝く髪に角を持ち、あらゆる武具に精通した青の魔神カラジオスも言葉を紡ぐ。

「そのために授かった力があるだろう? 大いなる意思は前回、神の陣営に手を差し伸べた。今回は我等が奴に与えられた力でこの世界の過去の英霊達を蘇らせ、魔の神格を与えることで配下を増やすことができたのだからな」
「ほう、それでどんな英霊を喚び出したんだい? 地球にはその手の英雄譚が山程あるだろうからね。私にグラン・グリモワールを教えてくれたのも君達なのだから」

 魔神達の動向を知るべく、探りを入れるファーレ。

「フン、貴様は堕天したとは言え、元々は神の陣営。他の連中は知らんが、余は完全に信用したわけではない。先の神魔大戦では神の側で最大の戦果を挙げた貴様を信じることは難しいと知れ。現に堕天した二人の神々はあっさりと消されたではないか?」

 緑の魔神ベルロードがファーレに鋭い敵意をぶつける。だが、ファーレはそれをどこ吹く風の様に受け流す。

「フフッ、まあすぐに信用しろとは言わないさ。それに信用してくれとも言ってはいないからね。あくまでも利害の一致だよ」
「まあまあ、ケンカはやめようよー。ウチは仲良くやりたいなー。折角ファーレちゃんも加わってくれたんだしー。それにウチはどの道あんまり神魔大戦には興味ないしさー」

 やる気なさそうに銀髪の頭に後ろ手を組んで、椅子に凭れ掛る白銀の女魔神ジルヴァラが言う。この中では一番幼い見た目をしている。

「傘下に加えたのはキャメロットのアーサー、北欧のジークフリード、裏切りの魔女メディア、ロンドンのジャック・ザ・リッパー、征服者アレキサンダー、最強の人間と言われた中華の呂布、まだまだいくらでもいる。戦力に不足はない。だが儂は一対一で強者と渡り合いたいものだ」

 黄金の魔神クリューソス。武人気質で強者との闘いを好む、渋い外見をした巨漢の魔神である。

「へえ、人間の中にもそれなりの者がいるとはね。さすが大世界の大元になっている世界だ。ああ、そう言えばニルヴァーナで面白いことが起こっているよ。大虐殺を免れた超科学を発展させた国がいる。神の中にも気まぐれを起こす輩がいるものだね。このままだとどの道滅ぼされる。でも上手く使えば『反抗者』達の力を見ることが出来るかも知れないよ」

 ファーレのその言葉に、遊び心を刺激された紫の女魔神ヴィオレがうずうずとし始める。

「それは面白そうね。今の天界の戦力も知りたいもの。折角だし、悪魔共も一緒に踊らせてあげようかしら。この前ニルヴァーナにこっそり遊びに行ったときに、面白い駒も拾ったのよね。あたしは乗るわ。適当に英霊魔神を連れて行くから、邪魔しないでよね」
「貴様は相変わらず暇が嫌いなようだな。だがこの世界でやったほどの異常な宗教戦争みたいに派手なことはするなよ。俺達の存在をまだその『反抗者』達や神々に知られるわけにはいかんからな。戦力を固めてバラバラの天界を蹂躙するのが俺の望みだ。そしてそれは俺達魔神の存在意義でもある。刺激に飢えているとはいえ、くれぐれもそれの邪魔はするんじゃねーぞ」

 黒のズヴァルトが口を歪める。しかしながら、既にその存在をカーズに見抜かれてしまっていることを彼は知らない。

「行くのなら『反抗者』の一人、神特異点のカーズには気を付けることだね。下手すると死ぬよ。私も彼には痛い目を見たからね」
「へえ……、ただの人族がねえ? まああたしは楽しめるならそれでいいわ。じゃあ早速その何だっけ?」
「バベイル帝国だよ。取り入るつもりかい?」
「そりゃあお祭りには参加しないとね。早速行ってくるわ、もう一回言うけど私の邪魔はしないでよ?」

 釘を刺すヴィオレ。だが誰も異を唱える者はいない。好きにしろという雰囲気の中で、紫のヴィオレは数人の手勢を連れてニルヴァーナへ、そのバベイル帝国へと転移した。

「少々じゃじゃ馬が過ぎるな。今更だがやり過ぎてその世界を壊滅させないことだ。いや、言うだけ無駄か。あの目立ちたがりがしゃしゃり出ては、我等のことも筒抜けになるだろうからな」

 緑のベルロードの言葉に、円卓の空間には魔神達の嘲笑が響き渡った。

「では調度いい。ここではもうやることもなくなった。このままでもこの世界は緩やかに滅びるだろう。我等は魔界にでも身を隠すとしよう」
「えー、陰気臭いなー。もっと華やかな場所ないのー?」
「文句を言うな、ジル。儂等は魔神。無駄に瘴気を撒き散らして居場所を特定されるわけにもいかぬかからな。神魔大戦までは我慢することだ」
「まあ、クリュじいがそう言うなら仕方ないかー」
 
 青のカラジオスの言葉に不満を垂れる白銀のジルヴァラだが、黄金のクリューソスに宥められる。

「いいだろう、では魔界に拠点を移すとするか。あそこには且つての魔王の居城があったはずだ。そこを頂くとしよう。行くぞ」

 黒のズヴァルトの一任で、七色の魔神達とファーレは魔界へと転移した。
 
(さあ、どうするカーズ? 今回は一筋縄ではいかないかも知れないよ。君の成長を祈っているからね)


 その日、地球から神と宗教と言う概念が消えた……
 





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「あれから既に3日が過ぎた。だがどの国も私達に頭を下げる気はないようだな。愚かなことだ、自ら破滅の道を選ぶとは。いつの世も人間とは愚鈍な生き物だということか……。我らに歯向かう科学力もないというのに」

 魔王領にある塔の一室から、視界に映る世界を目にしながらイグナーツはそう言い放った。傍らには冷凍睡眠コールドスリープから目覚めた数人の側近達が付き従っている。そしてその後ろの豪華なソファーには、紫の露出の多い衣装に身を包んだ七色の魔神の一人、ヴィオレが暇そうに座っている。アメジストの様なロングヘアに吸い込まれそうな輝きの妖艶な瞳。両側頭部からは羊の様な巻き角が生えている。

「最初から都市部を破壊すれば良かったのに。何でわざわざ威嚇射撃を外してやったの? 慈悲の心って奴かしら? 私にはよくわからない感情ね。この原初の七色の魔神が一人、紫のヴィオレにはね」

 やれやれと首を振るヴィオレ。それを見た側近達が舌打ちをする。

「やめておけ、お前達。彼女の御陰で悪魔、魔人共を味方に付けることができたのだ。彼女の影響下にあることで私達は瘴気の侵食を受けずに済んでいるのだからな」
「しかし、イグナーツ様が頭を下げなくても良いことでしょう?!」
「元来神とは傲岸不遜ごうがんふそんなものだ。そういうものだと理解しておけば良い」
「皇帝陛下がそう仰るのであれば……」

 渋々と引き下がる側近達。それを下らなそうに眺めてヴィオレは口を開いた。

「もう待つのは飽きたわ。イグナーツ、さっさと各国を攻撃してやりなさい。どうせ誰も使者を寄こして来たりしないわよ。ここ魔王領は危険地帯。普通の人間が入って来れる場所ではないわ。拠点を建てる場所は選ぶべきだったわね」
「なるほど、危険地帯……。それは良いことですな、ヴィオレ様。それならばここは難攻不落の要塞も同じ。攻め込まれる不安はない。だが我らはここから幾らでも攻撃はできる。では、私も待つのに飽きてきたところです。もう一度世界中に、改めて宣戦布告と参りましょう」

 使えるものは何でも使う。それが例え如何に卑怯で冷酷で非常であろうとも。そうやってこの男は過去の動乱の帝国で成り上がり、帝位に就いたのだ。今ここに気まぐれでいる原初の紫の魔神が如何に危険な存在であろうとも、利用価値があるのなら利用するのがこのイグナーツという男である。

「ええ、退屈させないでね。さっさと人間達の卑陋ひろうな闘いを見せて頂戴」

 ニヤニヤと嗤う女魔神に側近達は恐怖を覚えた。彼女の背後に控えている悪魔達も同様に、原初の魔神から発せられる神気に恐れ慄いたのだった。

(さあ来なさい、神特異点のカーズとやら。私達が遊んであげるわ)

 ヴィオレの薄ら笑いが響く中で、イグナーツは全世界への通信装置を起動させた。





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 ニルヴァーナの天上にイグナーツの姿が映し出される。最後通告のつもりなのだろうな。だが俺達はクラーチでこの瞬間を待っていた。昔の電話の様な造りをした通信魔導具に神々が力を注ぐ。これでヤツの一方的な通信ではなく、此方からも返信が可能となる。世界中の指導者達と神々にバベイル帝国に対して牽制してもらう。俺も勿論喋らせて貰うつもりだけどな。

『この世界の諸君、ごきげんは如何かな。数日の猶予は与えてやったにも拘わらず、誰一人として使者は来ていない。愚かなものだ、前回は慈悲を与えて都市の中心を攻撃するのは避けてやったというのに。諸君らは我が帝国に抗うと言うのだな? 傲慢な神々の非道を教えてやったというのに、まだ神の慈悲にでも縋るつもりか? 君達には失望したぞ。我々は改めて全世界に宣戦布告する。頭を垂れるなら早い方が良いぞ。さあ、受けたまえ!』

 窓の外に見える空を白いレーザーが飛び交い、各国を攻撃するが、神気の結界にあっさりと弾かれて四散する。所詮は人間の兵器、分厚い神気の壁を突破できるはずがない。
 だが、マジで容赦なくやってくれたな。これからは正当防衛の時間だ。先ずは世界の指導者達に話してもらおう。行け、クラーチ王。

『イグナーツとやら、私は西大陸ウエストラントクラーチ王国の国王フィリップだ。残念だろうが、この世界には貴様の様な国に頭を垂れて、惨めに命乞いをする国などいない。今の攻撃もどの国々にも届きはしなかったとわかっているだろう。貴様が身勝手に非道と断じた神々とその闘士達がこの世界を守る為に存在するのだ。滅ぶのは貴様の勝手な帝国とやらだ。我々も徹底抗戦する。宣戦布告、後悔するでないぞ!』

 部屋の人々から拍手が巻き起こる。しかし、逆に他国のあの国際会議以降に戻って来た指導者達からは『言うことがなくなった』、『全部喋りやがって』とブーイングも上がる。まあ手っ取り早く終わるならそれでいいんだけどな。

『……なるほど、それが諸君らの答えなのだな? どうやって通信技術を発達させたのかは知らぬが、面白い。神の結界とやらがいつまで持つか、今から全世界にここ魔王領から総攻撃を始める。首を洗って待っているがいい!』

 狼狽した様子のイグナーツの映像が映し出される。でもまだまだ焦って貰うぜ。

『世界の方々、私の声が聞こえますか? 私はこの世界ニルヴァーナの唯一神アストラリアです。私達神々は且つて世界を破滅に導いた人間達を殲滅したことがあります。ですが、それは人々がかの帝国の様に科学を暴走させて破滅の道を進んだからです。今この平和なニルヴァーナで暮らしていれば、過去の悲劇が繰り返されることなどありません。そして、私もそれを望んでいない。全ての人達よ、信じて下さい。正義と公平を司る女神の名の下に、この世界に再び厄災を齎そうとする悪を討つ。これは神々の業。私達神々が必ず決着をつけます。皆さんは安心していて下さい』

 サーシャ達が展開してくれた星の目スター・アイの映像で、全世界の人々が盛り上がっているのが視える。さすがだ、これで不安に駆られることはない。最後に俺が煽らせて貰う。
 アリアとハイタッチして場所を代わってもらい、魔導具の通信機を発動させる。

『神が自ら人間の側に付くなど……。我々は世界の害悪と言うわけか。良いだろう、我々の側にも魔の神が付いている。条件は同じということだ、後悔するでないぞ!』

 段々余裕がなくなって来てんじゃねーか。ダメ押しだ。

『魔神とも組むとは、ただいい様に利用されてるだけだな。馬鹿じゃねーのか? それにケンカを売って来たのはそっちだ。言い返されて逆ギレしてんじゃねーよ。世界のみんな、俺はSSランク冒険者のカーズだ。放映を見てくれた人達もいるだろう。こいつは俺達がぶっ潰してやる。俺にとっては神々の業なんて大層な大義じゃない。単なる侵略者から俺はこの世界を、大切な人達を護りたいから剣を抜く。今を生きる人達にとってこいつらは邪魔だ。売られたケンカは俺達が買ってやるぜ。お前らこそ首を洗って待っていろ、バベイル帝国にイグナーツとやら!』
「「「「「おおおおおおおおおおお!!!!!」」」」」

 部屋のみんなから歓声が巻き起こる。このくらいわかり易くていいんだよ。さあ、魔王領に乗り込むだけだぜ。
 忌々し気なイグナーツの映像が消える。もうお前が何を言おうが無駄だ。語彙力もなくなって来てたからな。
 世界の人達が熱狂しているのが視える。期待には応えないといけない。絶対に負けられないし、負ける気もない。

「じゃあ行こうぜ、みんな」
「カーズ、本当に神々の業を背負わせてしまっていいのですか……?」
「アリア、そんな大義の前にあいつらはただの敵だ。容赦する気はない。それに少しはそれを被らせてくれって言っただろ」
「……わかりました。どうせ言い出したら聞かないですしね」

 溜息を吐くが、すぐにアリアは切り替えてくれた様だ。迷いはなさそうだな。

「俺らにとってもあれは神の業だが、お前らがそう言う気持ちならありがたく受け取るぜ」
「そうね、今からは一方的に殲滅するのみ。魔神も絡んでいるのなら容赦はできないわね」
「正直巻き込みたくはないけど、この世界に生きる人間にとっては死活問題でしょうからね。だったらあなた達の力を遠慮なく借りるとするわ」

 ルクスにサーシャ、ティミスも異論はありそうでないということかな。複雑なんだろうけど、俺達が譲らなかったからな。

「みんなも準備はいいか?」

 アヤ、エリック、ユズリハ、アガシャ、ディード、アジーンにチェトレ、そしてイヴァの顔を見る。

「もうとっくに覚悟は決めてあるから」
「当たり前だぜ。あの時の借りを返してやらあ」
「悪即殺の時間よ」
「奴らは危険です。会話も意味を成さないのなら、やるしかありません」
「わたくしはカーズ様の向かう戦場には必ずご一緒致します」
「俺の封印された右腕が疼きますねぶごげええ!」

 チェトレのパンチがアジーンに炸裂した。こいつはどこまで残念なんだ?

「バカはともかく、世界の観測者として、当然私も行くからね」
「ボクも勿論行くのさー。剣聖の剣の錆にしてやるのさー。なーぶちー?」
「時来てるぞ」

 イヴァはずっとぶちを頭に乗せている。勿論召喚獣達にも来てもらうけど。親父はどうするかな? ちらっとクソ親父の方を見る。

「あー、俺も行きてえが、今回は要人警護だ。神気結界内に入り込めることはないだろうが、万が一の為に控えとくぜ。ナギト、遠慮せずぶっ放して来やがれ」

 親父にしてはまともなことを言ってるな。だが魔神やらを相手にするのはさすがにもう荷が重いからな。俺達で掃討して来るか。

「ああ、わかった。じゃあ行こうみんな!」
「「「「「「「「「「「「「「応!!!」」」」」」」」」」」」」」


 世界の要人達が見守る中、俺達は魔王領へと転移した。





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