OVERKILL(オーバーキル) ~世界が変わろうと巻き込まれ体質は変わらない~

KAZUDONA

文字の大きさ
132 / 133
第七章 神の処刑場

125 予期せぬ再会・迫る魔軍

しおりを挟む
 どういうことだ? なぜここにリーシャが。あの空間の歪は間違いなくここに飛ばされて来たのだとわかるが……。

「何者だ?!」

 周囲の警備兵達が騒ぎ始めるが、それを制す。

「彼女、リーシャは俺の友人だ。なぜこんな場所に飛ばされて来たかはわからないが、敵じゃない。矛を収めてくれ」

 国王が止めよという指示を出し、警備兵達は引いて行った。まだその場にしゃがみ込んでいる彼女に近づき、手を差し伸べて起こす。

「やっぱりカーズだよね? 良かった生きてたんだね」
「ああ、カーズだ。リーシャはどうしてこんなところに? それに俺が生きていたとは?」
「世界中に行方不明の捜索願の張り紙が出されてるんだよ。もう数か月くらい前からだけど……。でもここが何処かはわからないけど生きてたんだね。良かったー」

 深く溜息を落とすリーシャ。数か月前? 俺はつい一週間程前にこの世界に放り出されてきたはず……。もしかしたらニルヴァーナとは時間の流れが異なるのか? だとしたらまずいな、ここに長居するわけにはいかない。一刻も早く元の世界に帰らなくてはならない。

「まあ、俺はちゃんと生きてるよ。魔神との闘いの中、ここに飛ばされてしまった。何とかして帰る方法を見つけないといけない」
「私も魔法の演習授業に行く途中にね、ヴォルカとシュティーナと歩いてたらいきなり目の前に黒い空間が広がって……」
「?! まさかあの二人まで?」
「ううん、二人を助けようとして突き飛ばしたら私だけが吸い込まれちゃって……。体は無事みたいだけど、ここは何処なの?」
「ここはニルヴァーナじゃない。神の処刑場とかいう全くの異世界だ。俺もこの世界の影響で本当の力が出せない状態だ。そして何の因果か知らないが、この世界を救う勇者とやらにされてしまった。恐らく俺をここに封じ込めた黒幕の思惑だろうな。君をここに飛ばしたのも、俺に縁のある人間を一緒にしてどうするのか見て楽しんでいるんだろう」
「……そんな……。じゃあもう戻れないの?」
「今のところは何とも言えない。だが自分を楽しませたら帰らせてやらなくもないとか言ってやがった。だから今は目の前のことを一つ一つこなすしかないのかも知れない。……君を巻き込んですまない」

 頭を下げる。俺に任務とはいえ関わってしまったせいだ。これからも俺に関わった誰かが飛ばされて来る可能性もある。

「大丈夫だよ。私一人だったら途方に暮れていたかも知れないけど……。カーズが一緒だし、心強いよ。いつかリチェスターに遊びに行こうかと思ってたけど、こんなにも早く再開できるとは思わなかったしね。その黒幕が誰かわからないけど、さっさとこの世界を救って一緒にニルヴァーナに帰ろうよ」
「そうだな……、だが悪魔共と闘う危険な旅に君を連れて行くわけにはいかない。ここにいれば安心だ。この国で待っていてくれないか? 守りながら闘うとなると何があるかわからないしな」
「……うーん、カーズはそう言うと思ってたけどね。私と組んだ簡易PTっていうの解除するの忘れてたでしょ? そのせいで学院で討伐した相手とか、その後の変な帝国との闘いとかで得た経験値は私に入って来てたんだよ。実戦経験は足りないかも知れないけど、レベルは1000超えてるんだから。足手まといになんてならないから、私も一緒に行く。旅の間に色々と教えてくれると嬉しいなー」

 悪戯っ子の様ににやっと笑うリーシャ。あー、うん、これはまた俺のうっかりのせいだな。仕方ない。それに一緒にいないと帰還する機会があったときにすぐに連れて来れないかも知れないしな……。それにそれだけレベルがあるなら足手まといになることはないか。魔力鎧装ガイソウやら立ち合いは俺が残りのエルフとドワーフの二人にも教えればいいだけのことだ。

「……わかったよ。じゃあこれからよろしく頼む、リーシャ」
「えへへー、任されました。必ず一緒に帰ろうね、カーズ」

 差し出された手を握って握手する。学院のときから押しが強かったもんなあ。てことで、此方をじっと見ていたルナフレアとボルケンも呼んで事情を説明した。二人もそれだけのレベルがあるんならと承諾してくれた。ま、ゲームの魔王討伐なんて基本四人PTだもんな。王道っちゃ王道だ。

「思いがけず強い仲間が増えましたわね。私はエルフのルナフレア。これからよろしくお願いしますわ、リーシャ」
「俺はボルケンだ。よろしく、人間の嬢ちゃん。しかし、異世界から助っ人を呼ぶとはさすが勇者カーズだな。しかし、彼女の武器はどうするんだ? 見たところ、そのすげー防具以外は武器らしきものが見当たらないが……」
「そうか、しまったな……。まあ暫くはこいつを使ってくれ。オリハルコン製のソードとダガーだ。またその内武具創造で何かしら作ることにしよう」

 異次元倉庫ストレージから予備のアストラリアソードとアストラリアダガーを取り出してリーシャに譲った。これでひと先ずは大丈夫か。そして剣を折ってしまったアレクサーにもクレイモア大剣を投げて渡してやった。城を守護する戦力が武器がないのは困るしね。頭を下げて来るアレクサー。切れ味が危険だから気を付ける様に注意をしておいた。

「オリハルコンの武器をそんなに持ってるのか? とんでもねえな……」

 さすがドワーフ。そういう職人的なことには食いつくか。まあ俺じゃなくてアリアがすごいだけなんだけどね。アヤにアリア達も捜索願を出しているということは俺のことを探してくれているのだろう。みんなの為にも早く帰還しなくてはいけない。ゼニウスのオッサン辺りが何かしらしてくれることを祈っておくか……。

「ああ、まあね。二人の武器も必要なら一応一通りはあるけど」
「私は魔法職なので杖と、魔力が尽きたとき用に弓矢を持っていますが、今のところは問題ありませんわ。もし破損したときにはお願いするかもですが」
「そうだな、俺も一度は使ってみたいが先祖代々のこのバトルアクスがある。いかれたときには頼むぜ、カーズ」
「そうか、二人がそれでいいならそのときでいいか」

 無闇に渡す物でもなかったか。愛用の武器があるならそれが一番だしな。そんなことを思っていたら、広間に衛兵が駆け込んで来た。

「大変です! 悪魔です! 悪魔が軍勢を連れて現れました!」

 その言葉に緊張が走る。しかし国王ギュスターヴは落ち着き払った声で応答する。

「規模は? 悪魔ということは魔軍か? 指揮官はどいつだ?」
「ハッ、戦力はおよそ三万。指揮官は四天王のマモンです。恐らく勇者出現をどこからか嗅ぎ付けて攻めて来たに違いありません。そして此方の戦力は三千がいいところかと……」
「むぅ……、10倍の戦力差とは……。勇者カーズ達よ、何とかならぬか?」

 そりゃそうなるよね。まあ勇者業は派遣みたいなもんだ。それにそんなこと関係なく困っている人達がいるなら救うのが俺のモットーだしな。誰とも知れない俺を城で匿ってくれた恩もある。それにその魔軍をぶっ飛ばすのが帰還に繋がっているのなら、やるしかない。

「いいでしょう。これまで何度も大魔強襲スタンピードに敵の大軍を退けて来たんだ。任せて下さい」
「私も行く!」
「勿論私も行きますわ」
「勇者のお手並み拝見ってとこだな!」

 PTの仲間も一緒だ。何とかしてみよう。

「わかった行こう。城の兵力は後ろで撃ち漏らしを叩いてくれ。俺達が前に出る!」
「頼む……、勇者カーズよ……」

 三人に捕まって貰い、城門前に転移する。驚いているがそれどころじゃない。先ずは敵の戦力鑑定だ。城門前の道は広いが左右を山脈に囲まれて峡谷の様になっている。接敵までは約30分てところか……。

千里眼せんりがん鷹の目ホーク・アイが発動します>
 
 最後尾に飛んでいる悪魔を発見。こいつがマモンか。確かソロモン72柱の序列7位、梟の顔に狼の身体、蛇の尻尾を持つ非常に強靭な悪魔とか言う奴だ。腕も翼になっていて、手足には鋭い爪が付いている。てか序盤の街に四天王、四天王とか口にするのも恥ずかしいな、そんな奴が攻めて来たらダメだろ。ゲームバランス崩壊してるじゃねーか。いや、これはリアルか。まあ来るならぶっ飛ばすまでだ。
 40の軍団を率いる地獄の侯爵。いや、ここでは魔界のか。その軍団もこの一軍に紛れているんだろう。魔物以外に異形の魔人、悪魔がわんさかといやがる。キリスト教に於ける七つの大罪での『貪欲、強欲:Greed』を司る。その由来はアモン自身が金銀財宝に貪欲で、人間にも同様の影響力を及ぼす為である。且つて斃したアモンともその受け持つ性質や姿から同一の存在、とする解釈もある。
 貴金属、希土類の採掘を人間に教えたともいわれる。中世ヨーロッパでは、教会への助力を惜しむ者への非難に、七つの大罪の『貪欲』つまりマモンを利用した形跡が残されている。現在に至っても人間は相も変わらず貴金属、希土類に価値を見出したままであり、時には採掘権を巡って紛争すら起こす。人が人たらんと貪欲でいる限り、マモンの嘲笑が止む瞬間は、永遠に訪れることは無いのかもしれない。そして現在過去未来を知り、人の間に不和を招いたり逆に和解させる能力もあるとか。そんな奴だったな。
 まあそんなことはどうでもいい。悪魔は祓うのみだ。

 ドゴゴゴゴゴゴゴ……!!!

 アース・ウォール大地の壁で城門前に高さ20m程の障壁を設置。これで空を飛ぶ魔物以外は容易に近づけない。その上に四人で立ち、闘気を集中して高める。先ずは雑魚共を一気に薙ぎ払う!

ドラグ・スレイヤー竜殺砲!!!」

 両の掌を合わせ、そこに集中した闘気のエネルギーを一気に解き放つ!

 ドギャアアアアアアア!!! 

「「「「「グギャアアアアアアアアアアア!!!」」」」」
「「「「「おおおおー!!!」」」」」

 軌道を変えて峡谷の隅々まで照射。残るは数千匹程度。大将首を取れば終わる。三人と後方の兵士達から歓声が上がる。

「空中の敵はリーシャとルナフレアの魔法に任せる。ボルケンは壁に近づいた敵を蹴散らしてくれ」
「「わかったわ!」」
「おし、ってお前さんはどうするんだ?」
「俺は大将首だ。さっさと終わらせてやるぜ!」

 近寄って来る空飛ぶ魔物を吹き飛ばしながら、一直線に飛翔。最後尾の空中で驚いた表情をしているマモンと相対した。さあ、とっとと片付けてやるぜ。今更悪魔如きに苦戦してる場合じゃないんだよ。


------------------------------------------------------------------------------------------------
四天王(笑)をさっさと片付けろ
お読み頂きありがとうございます。
ハートやお星様を頂けると喜びます。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

処理中です...