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第一話 上京
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東京へ向かう新幹線はもう一時間ほどで到着するところだった。そのなかではひどく痩せた青年が一人、大きなボストンバッグを抱えている。白い骨格と青い血管を浮かべた手のひらをぎゅっと固く握りしめて。
その青年、遠野空音(とおのくおん)はようやく長旅を終え、事前に連絡があった東京駅からの在来線の乗り方を復習する。自身が幼い頃東京に住んでいたと言うのは亡くなった祖母から聞いた話だが、幼すぎて覚えてはいない。祖母の死後、遠縁の宮池(みやいけ)の家に引き取られてからはまるで邪魔者の様に扱われる日々だった。宮池の父母が空音を引き取ったのはすべて祖母の財産目当てだ。未成年である空音の代わりに管理すると調子の良いことを言って、結局大半を無断に使われてしまった。それに気が付いたのはここ一年くらいだったから、もう空音にはどうすることも出来ない。
東京駅について指定された電車に乗り換える。そこからまた一時間ほどして手紙に書いてあった住所の最寄り駅についた。これから空音が行くのは藤篠清月(ふじしのせいげつ)という名の男の家。宮池の父の友人で莫大な財産を持つ資産家らしい。なんでもその男が空音を自らの跡継ぎに、将来的には養子として引き取りたいと言っているのだと。父も母もこれは光栄な話だと言って空音の意志など関係なくすぐに進めてしまった。
当たり前だ、生来の病弱な身体が災いして幼い頃からろくに学校に通えず、通信制高校を卒業しても寝込むことも多く働くことすら出来なくて、日々自宅の家事を手伝うばかりだった空音を正当な理由で手放すことが出来るのだ。それに多分、藤篠のほうからいくらかの金銭ももらっているのだろう。
しかし、空音にとっては知らない男だ。藤篠と言う男の方も血が繋がっていないどころか会ったこともない空音を跡継ぎに選ぶなんてまず普通の感覚では考えられない。それでも、宮池の家を半ば追い出される形で出てきてしまった今、空音の行く先は藤篠のもとしかない。
駅前には都心から離れた小さな駅には不釣り合いな黒い高級外車が止まっている。誰かの迎えなのだろうか、そう思って空音がすれ違った瞬間、その外車の窓が開く。
「遠野空音くんかい?」
「えっ……そうです、けど」
「遠くから見てもすぐわかったよ、想像以上に細くて美しい。はじめまして、藤篠清月です」
「あ……! は、はじめ、まして」
運転席にいたのは上品な三十代くらいの整った顔をしている若い男。上等なスーツを着ていて、短髪の黒髪にかけているサングラスを少しずらし、切れ長の目で笑う。写真も見たことがなかったから空音はここで初めて彼の顔を知った。
「後ろ、乗って。君を迎えに来たんだ」
「あ、そんな……」
「私の家は少し山奥の分かりづらいところにあってね、歩いて行くと何かと大変だから」
「そうなんですか……じゃあ、お、お邪魔します」
車の中は想像以上に広く革張りのシートは張りがあってふっくらとしてまだ新しく清潔で、頻繁に手入れされているのはよくわかった。
「東京までは遠かっただろう? 長旅をさせてしまって悪かったね」
「いえ、新幹線のチケットありがとうございました。指定席だったから座れたし、窓際で景色を見ながらのんびりと来ることが出来ました」
「それはよかった、富士山は見れた?」
「はい。僕、本物の富士山初めて見ました」
「はは、それはよかった」
落ち着いた声で優しい話し方をする男だった。この男が資産家、でもそれなりの財産を持っているのなら車の運転手くらい雇うのではないだろうか。
「運転は荒くないかい?」
「あ、大丈夫です」
「私の数少ない趣味なんだ、車の運転は。でもこういったことは才能だからね、私にとっては慣れた道でも慣れていない君にとっては疲れてしまうかもしれない。自分が丁寧な運転をできる自信がないんだよ」
「そんな……気を遣わないでください」
「君を見初めたのは私だ。大切な人は、大事に扱わないと」
「見初め……な、なんで僕なんです? 僕はあなたと血縁があるわけでもないのに、どうして僕を選んだんですか」
「君があまりに美しかったからだよ」
「う、美しいって……冗談はやめてください」
空音は自身の見た目が人を引き付けるようなものだとは思っていなかった。顔は万人並みだし特に背が高いわけでもない。女性から声をかけられたことだってなかった。
「冗談なものか、君は君の価値がわかっていない」
車は国道を走り、わき道に入って行った。緩やかな坂を上っていると、その先に一軒の大きな屋敷がある。庭が広く、遠目から見ても手入れされ鮮やかな花が咲いていた。
「あのおうち、ですか?」
「そう、亡き父が知り合いから買い取ったものでね。しかし私一人で住むには少し広すぎた。部屋数だけはあるんだ、君も気に入ってもらえると良いのだけれど」
車を駐車場に置き、藤篠は車から降りた空音の肩を抱く。驚いた空音がびくりと身体を震わせると小さく謝って手を離し、彼は玄関の引き戸を開ける。そこでは一人の着物姿の中年の女性が深く頭を下げていた。
「おかえりなさいませ、清月さま」
「ただいま、磯井(いそい)。この子が例の……」
「遠野空音さまでいらっしゃいますね? ようこそ、いらっしゃいました。家事を担っております磯井と申します」
「は、はじめまして……」
慣れない環境におどおどとしてしまっている空音に、磯井は表情を変えなかった。まるで人形のような顔をして静かに頭を下げている。
「清月さま、ご夕食は何時ごろにいたしましょうか?」
「そうだな、せっかく空音が来てくれたんだ。ゆっくり時間をとりたい。六時頃でどうだい?」
「承知しました」
「あ、あの、藤篠さん……!」
「ん、なんだい?」
「ぼ、僕は……その、食べられるものが少なくて、一緒に夕食とかは、その……」
「それは、その痩せた身体と関係があるのかな?」
空音の痩せ方は同じ年頃の青年らと比べると確実に度を越していた。シャツから透ける骨格それぞれが白く薄い皮膚に包まれ飛び出していて、長い袖から見える手首は棒のように細い。首筋はげっそりと筋張っていて顔は小さいのに目はやけに大きく、人形のそれくらいにくっきりと際立っている。その体型が明らかに標準体重よりも下回っている細さであることは遠目で見るだけでもわかっていた。それが遠野空音の現在だ。
「……ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないよ。私はそんな君を理解したいんだ。君の痩せた身体は美しい」
「そんな……」
「痩せていたいんだろう? だから、食べない。そうでなければここまで痩せるはずはないのだから」
「……」
藤篠の言葉は真実だった。空音は痩せていたかった、しかしそんなことを言うと宮池の家では嫌な顔をされるので、ただ折を見ては気分が悪くて食欲がないと言って食べることに消極的な態度で通すしかなく、しかしそれで彼らはいつもの空音の体調不良だろうと思い特に病院に連れて行くわけでもなかったから、空音の身体は日に日に痩せて行くばかりで……。
「私は君を否定したいわけじゃない。むしろ肯定しているんだよ」
「どういう意味ですか?」
「痩せていたいのなら痩せ続けなさい。骨格の透けた薄い身体、良いじゃないか、世間では過度な痩せをよしとしない傾向も増えてきたがね、私は痩せた身体が好きなんだ。太ることを拒否した結果のストイックさ、葛藤、そして結果を達成する。それは美しい行為だと思うよ。そんな純粋さを君に見たから、私は君をこの家に呼んだんだ」
藤篠は懐から一枚のスナップ写真を取り出す。数か月前の宮池の家で過ごす空音の姿があった、今ではこの時よりさらに痩せている。しかし誰がこの写真を撮ったのだろうか、室内の写真だったからおそらく親類縁者の類で間違いはないだろうが。
「君には素質がある。骨格からして華奢なのだろう。君の願うまま、そして私のためにももっと痩せてくれないか?」
***
空音だって、元からそこまで痩せていることに固執していたわけではなかった。幼い頃から痩せた体型ではあったが祖母がそれを気にして食事をせっせと作っていてくれた頃はここまで痩せていなかったし、宮池の家に行ってからも気まずさを感じながらも三食ちゃんと食べていた。
昨年の冬のことだ。雪が降るほどの寒い日が続き空音は風邪をひいてしまった。しかし季節の変わり目にはいつも風邪をひくし、と熱が出ても気にせずに家の仕事をこなしているうちに空音は風邪をこじらせてしまった。高熱と咳が止まらなくなるころにはその病状は肺炎にまで達し、病院に救急搬送されるほどのことになる。
入院してもなかなか回復に至らず、結局一か月ほど寝たきりの状態が続いた。その間ほとんど食事を食べられなかった空音の身体は、下がらない熱と酷い咳に苦しんだこともありげっそりと体重が落ち痩せやつれてしまっていた。退院し自宅療養することになった頃、いつも着ていた服がどれも大きくぶかぶかになってしまっていたことから、ふと気になって洗面台のところにある体重計で体重を測ってみた。
「え……っ」
空音自身も絶句したのは無理もない、体重は入院前に測った体重より七キロほど減っていたからだ。もともと太っていたならともかく、痩せていた空音にとって七キロと言う体重は大きなものだった。
空音はそのまま風呂場に行き、自分の身体を観察する。鏡に映ったその身体は骨と言う骨が浮きだして、腰回りは肉付きは薄くくっきりとした骨盤の形があらわになって。あばら骨はくっきりとして簡単に数えられるものだったし、胸元はげっそりと肉が削げ落ち薄すぎた。鎖骨はもう肩まで飛び出すように浮かんでいる。
普通の感覚であればそんな自分の身体を見たら絶望して少しでも肉付きをよくするように心がけるだろう。しかし、空音はこの身体を良いものと思ってしまった。自分の力でそぎ落とした肉、代わりにもともと生まれ持った骨格がそこに現れた。無駄なものがなくなった身体が自分にとってとても良いもののように感じてしまったのだ。軽い運動くらいじゃここまで痩せることは容易ではないだろう。しかしそれを手に入れた自分というものの自己肯定感は上がって行く。望んだとしても誰もが滅多に手に入れられるものではない。
「……もっと」
もっとだ、もっと痩せたい。誰にも言えないその願望は空音の心の中で大きくなって行く。もっと痩せて骨の浮いた身体を見てみたい。自分の力でこの身体を体型を管理するのだ。欲に任せて堕落して暮らしているものにはたどり着けないところへ。空音は特別になりたかった。
***
空音の与えられた部屋は二階の景色の良い窓がついていた。ふっくらとした布団と高級なベッド。本棚付きの木製ライディングデスクもある。一階は見た感じ畳張りの和室が多かったように感じたが、空音の部屋は洋室だった。空っぽの洋ダンスにボストンバッグに入れて来た数日分の着替えを入れる。空音の荷物はもうそれで全てだった。宮池の家に残してきたものも多少あるが多分すぐに処分されてしまうのだろう。
長旅の疲れから真新しいベッドに遠慮しつつも横たわってみることにする。今まで使っていた薄い布団は身体中の骨が当たって痛かったけれど、与えられたベッドは厚みもあり柔らかですぐにうとうとと眠くなってしまった。
藤篠は空音が痩せることを望んでいた。つまり空音の価値を認めてくれたのだ。彼の本意がどこにあるのかはまだ全て理解したわけではなかったが、少なくとも無理矢理食べ物を食べさせられなくてすみそうでほっとしている。宮池の家にいた時は空音自身が食事を作った日は、少量を味見代わりに口にして残りは全て家族に食べさせていた。日々さらに痩せて行く空音には気がつかない。彼らはそれほどに空音に興味はなかったのだ。
しかし痩せるのを喜ぶ一方で明らかな栄養不足は空音に酷い体調不良をもたらした。体力がないからすぐに疲れてしまい長い間起き上がっていられない。頻繁に貧血を起こして気を失って倒れたことも少なくなかった。鏡に映る顔色も日々血の気がなくなってゆき、もともと色白だったせいでこの頃では常に蒼白で幽霊のよう。頬もげっそりと痩せている。
風邪も一度ひくとなかなか治らなくなった。起き上がることも出来ない高熱にうなされ寝込んでしまい、息も出来ないほどの酷い咳は気管支を壊して血痰を吐き出すまで痛めつける。やがて少しずつ持ち直して、ようやく日常生活に復帰することが出来るようになった頃にはまた空音はさらに痩せてしまっていた。
***
赤い、赤い光が部屋中を照らしている。まるで血のような赤が夕陽のものだと気が付くまで時間がかかった。どうやら空音は小一時間ほど眠ってしまっていたらしい。ゆっくりと起き上がると腹部に違和感を感じた。空腹が過ぎたのか、吐き気がして胃が少し気持ち悪い。しかし食欲は湧いてはいなくてむしろ何も食べたくない。でも今日は朝から何も食べていなくてせめて多少の水分はとったほうがいいのはわかっていた。
「空音さま」
ドアをノックする音とともに先ほどの磯井の声がした。空音はベッドから立ち上がりドアを開けて応じると夕食の時間だという。あまり食べたくないとは伝えたはずだが、この家にやって来て初めての食事だし、席に着くことだけでもしたほうが良いだろう。
磯井に案内されたのは広い畳張りの和室だった。障子を開けると庭の美しい花々が見える。すでに藤篠は席に着いていて空音が来るとにこりと笑った。
「やあ、少し休めたかい?」
「はい、あんなに良いお部屋をありがとうございます。本当に僕が使っても良いんですか?」
「君のために家具も上等なものを選んで揃えたんだよ。遠慮せずに使いなさい」
そして夕食が始まる。藤篠の食卓には新鮮な刺身の盛り合わせと野菜の小鉢がいくつか、それに湯豆腐が添えてある。彼の年齢を考えると幾分あっさりとしたものだった。一方で空音の食卓には野菜スープとおかゆが用意してある。器も小さく、今の空音でも食べることはそれほど難しいものではない。
「量が多かったら残しても構わないよ。君が食べられそうなものを磯井が考えたんだ」
「あ、ありがとうございます……その、いただきます」
一口目は勇気がいるものだった。胸がつかえてどうしても食欲が出ない。このぐらいの量なら食べても太らないはずなのだが、少しでも自分の体内に質量があるものを入れてしまうことが嫌なのだ。でも、せっかく用意してもらったもの。今までは空音自身が食事を作ることが多かったから自分の分は作らずにすんでいたのだが。
野菜スープを一口、薄味で何も食べていない胃に優しい味がする。具も柔らかに煮込んであって、咀嚼して飲み込むのは予想以上に抵抗がなかった。次におかゆをくちにする。隣に添えてあったのは大きな梅干し。はちみつでつけたものなのか、酸味はそれほど強くない。おかゆ自体にもうっすらと塩味がついていて、こちらも素直に食べることが出来た。
「食べられるかい?」
「はい、えっと、美味しいです」
「はは、それはよかった。もし足りないようだったらおかわりがあるからね」
「はい、ありがとうございます」
磯井が部屋から出て行った。藤篠と二人きりになると、空音はその沈黙に何を話したらよいのかわからなくなってしまった。藤篠は上品な食べ方をする。空音も出来るだけ音を立てないように静かに食事をいただいた。
「あの、藤篠さん」
「清月」
「えっ……」
「ともに暮らすのに名字で呼ぶなんてよそよそしいじゃないか。私のことは名前で呼びなさい、空音。私は藤篠清月、清月と呼んでくれて構わないよ」
「清月、さん……」
「そう」
藤篠、改め清月はにこりと満足そうな笑顔で返す。その瞬間に空音は清月とここでこれからずっとともに暮らすことになるのだと実感する。この家では、果たして本当に大切にしてもらえるのだろうか。粗末な扱いしか受けてこなかった自分はずっと価値のないものだと思い続けて来た。そんな自分が、こんな立派なお屋敷で。
「清月さん、本当に僕はここにいて良いんですか?」
「もちろんだよ、私が君を選んだのだから」
***
その晩、空音は眠れない夜を過ごしていた。ベッドに横たわってからしばらくして胸やけがして腹部の違和感が強くなった。気持ち悪い……夕食で食べたものがまだそのまま消化されず残っているような苦しさがあり、また食べやすいものだったせいか少し食べすぎてしまったという後悔が心の中に残って消えなかった。
食べなければよかった、カロリー的には大したものではなかったはずだがこんなに重苦しく残っているということは、いまの空音の身体には必要がないものだったのだろう。腹部のチクチクとした違和感は次第にこみあがって来るものに変わって来た。
このままでは吐いてしまう、空音はふらりと起き上がって壁伝いに二階にもあるトイレに向かう。その時突然吐き気が強くなった。空音は慌ててトイレのドアを閉める余裕もなくそのまま急ぎ駆け込んで嘔吐する。
「ゲホッ! うぇっ、え、ぇえ……ッ! ゴホッ、ゴフッ!」
びちゃびちゃと嫌な音を立てて吐瀉物を吐き戻した。しかし何度吐いてもまだ気持ち悪さが残っている。空音は息をするのも必死なくらいに嘔吐し続けた。背中は冷や汗でびっしょりだった。
「げぇ、え、……ッ! はぁ、はぁ、は……っ」
トイレの壁に寄りかかり、空音は意識朦朧としていた。今日食べたものはほとんど全て吐き戻してしまった気がする。もうこの程度のものも自分の身体は消化することができないのか……。
きっとまた痩せただろう、それは空音にとって喜ばしいことではあるがほんの少しの恐ろしさも含んでいた。
そんな空音の背中をじっと離れたところから見ていた人物がいる。清月だ、彼は寝間着姿で苦しむ空音を見て黙ったまま口元だけで静かに笑った。
新しい生活の始まりは、まだ順調なものとは言えないようで、長い夜はまだ朝を迎える気配はない。
その青年、遠野空音(とおのくおん)はようやく長旅を終え、事前に連絡があった東京駅からの在来線の乗り方を復習する。自身が幼い頃東京に住んでいたと言うのは亡くなった祖母から聞いた話だが、幼すぎて覚えてはいない。祖母の死後、遠縁の宮池(みやいけ)の家に引き取られてからはまるで邪魔者の様に扱われる日々だった。宮池の父母が空音を引き取ったのはすべて祖母の財産目当てだ。未成年である空音の代わりに管理すると調子の良いことを言って、結局大半を無断に使われてしまった。それに気が付いたのはここ一年くらいだったから、もう空音にはどうすることも出来ない。
東京駅について指定された電車に乗り換える。そこからまた一時間ほどして手紙に書いてあった住所の最寄り駅についた。これから空音が行くのは藤篠清月(ふじしのせいげつ)という名の男の家。宮池の父の友人で莫大な財産を持つ資産家らしい。なんでもその男が空音を自らの跡継ぎに、将来的には養子として引き取りたいと言っているのだと。父も母もこれは光栄な話だと言って空音の意志など関係なくすぐに進めてしまった。
当たり前だ、生来の病弱な身体が災いして幼い頃からろくに学校に通えず、通信制高校を卒業しても寝込むことも多く働くことすら出来なくて、日々自宅の家事を手伝うばかりだった空音を正当な理由で手放すことが出来るのだ。それに多分、藤篠のほうからいくらかの金銭ももらっているのだろう。
しかし、空音にとっては知らない男だ。藤篠と言う男の方も血が繋がっていないどころか会ったこともない空音を跡継ぎに選ぶなんてまず普通の感覚では考えられない。それでも、宮池の家を半ば追い出される形で出てきてしまった今、空音の行く先は藤篠のもとしかない。
駅前には都心から離れた小さな駅には不釣り合いな黒い高級外車が止まっている。誰かの迎えなのだろうか、そう思って空音がすれ違った瞬間、その外車の窓が開く。
「遠野空音くんかい?」
「えっ……そうです、けど」
「遠くから見てもすぐわかったよ、想像以上に細くて美しい。はじめまして、藤篠清月です」
「あ……! は、はじめ、まして」
運転席にいたのは上品な三十代くらいの整った顔をしている若い男。上等なスーツを着ていて、短髪の黒髪にかけているサングラスを少しずらし、切れ長の目で笑う。写真も見たことがなかったから空音はここで初めて彼の顔を知った。
「後ろ、乗って。君を迎えに来たんだ」
「あ、そんな……」
「私の家は少し山奥の分かりづらいところにあってね、歩いて行くと何かと大変だから」
「そうなんですか……じゃあ、お、お邪魔します」
車の中は想像以上に広く革張りのシートは張りがあってふっくらとしてまだ新しく清潔で、頻繁に手入れされているのはよくわかった。
「東京までは遠かっただろう? 長旅をさせてしまって悪かったね」
「いえ、新幹線のチケットありがとうございました。指定席だったから座れたし、窓際で景色を見ながらのんびりと来ることが出来ました」
「それはよかった、富士山は見れた?」
「はい。僕、本物の富士山初めて見ました」
「はは、それはよかった」
落ち着いた声で優しい話し方をする男だった。この男が資産家、でもそれなりの財産を持っているのなら車の運転手くらい雇うのではないだろうか。
「運転は荒くないかい?」
「あ、大丈夫です」
「私の数少ない趣味なんだ、車の運転は。でもこういったことは才能だからね、私にとっては慣れた道でも慣れていない君にとっては疲れてしまうかもしれない。自分が丁寧な運転をできる自信がないんだよ」
「そんな……気を遣わないでください」
「君を見初めたのは私だ。大切な人は、大事に扱わないと」
「見初め……な、なんで僕なんです? 僕はあなたと血縁があるわけでもないのに、どうして僕を選んだんですか」
「君があまりに美しかったからだよ」
「う、美しいって……冗談はやめてください」
空音は自身の見た目が人を引き付けるようなものだとは思っていなかった。顔は万人並みだし特に背が高いわけでもない。女性から声をかけられたことだってなかった。
「冗談なものか、君は君の価値がわかっていない」
車は国道を走り、わき道に入って行った。緩やかな坂を上っていると、その先に一軒の大きな屋敷がある。庭が広く、遠目から見ても手入れされ鮮やかな花が咲いていた。
「あのおうち、ですか?」
「そう、亡き父が知り合いから買い取ったものでね。しかし私一人で住むには少し広すぎた。部屋数だけはあるんだ、君も気に入ってもらえると良いのだけれど」
車を駐車場に置き、藤篠は車から降りた空音の肩を抱く。驚いた空音がびくりと身体を震わせると小さく謝って手を離し、彼は玄関の引き戸を開ける。そこでは一人の着物姿の中年の女性が深く頭を下げていた。
「おかえりなさいませ、清月さま」
「ただいま、磯井(いそい)。この子が例の……」
「遠野空音さまでいらっしゃいますね? ようこそ、いらっしゃいました。家事を担っております磯井と申します」
「は、はじめまして……」
慣れない環境におどおどとしてしまっている空音に、磯井は表情を変えなかった。まるで人形のような顔をして静かに頭を下げている。
「清月さま、ご夕食は何時ごろにいたしましょうか?」
「そうだな、せっかく空音が来てくれたんだ。ゆっくり時間をとりたい。六時頃でどうだい?」
「承知しました」
「あ、あの、藤篠さん……!」
「ん、なんだい?」
「ぼ、僕は……その、食べられるものが少なくて、一緒に夕食とかは、その……」
「それは、その痩せた身体と関係があるのかな?」
空音の痩せ方は同じ年頃の青年らと比べると確実に度を越していた。シャツから透ける骨格それぞれが白く薄い皮膚に包まれ飛び出していて、長い袖から見える手首は棒のように細い。首筋はげっそりと筋張っていて顔は小さいのに目はやけに大きく、人形のそれくらいにくっきりと際立っている。その体型が明らかに標準体重よりも下回っている細さであることは遠目で見るだけでもわかっていた。それが遠野空音の現在だ。
「……ごめんなさい」
「いや、謝ることじゃないよ。私はそんな君を理解したいんだ。君の痩せた身体は美しい」
「そんな……」
「痩せていたいんだろう? だから、食べない。そうでなければここまで痩せるはずはないのだから」
「……」
藤篠の言葉は真実だった。空音は痩せていたかった、しかしそんなことを言うと宮池の家では嫌な顔をされるので、ただ折を見ては気分が悪くて食欲がないと言って食べることに消極的な態度で通すしかなく、しかしそれで彼らはいつもの空音の体調不良だろうと思い特に病院に連れて行くわけでもなかったから、空音の身体は日に日に痩せて行くばかりで……。
「私は君を否定したいわけじゃない。むしろ肯定しているんだよ」
「どういう意味ですか?」
「痩せていたいのなら痩せ続けなさい。骨格の透けた薄い身体、良いじゃないか、世間では過度な痩せをよしとしない傾向も増えてきたがね、私は痩せた身体が好きなんだ。太ることを拒否した結果のストイックさ、葛藤、そして結果を達成する。それは美しい行為だと思うよ。そんな純粋さを君に見たから、私は君をこの家に呼んだんだ」
藤篠は懐から一枚のスナップ写真を取り出す。数か月前の宮池の家で過ごす空音の姿があった、今ではこの時よりさらに痩せている。しかし誰がこの写真を撮ったのだろうか、室内の写真だったからおそらく親類縁者の類で間違いはないだろうが。
「君には素質がある。骨格からして華奢なのだろう。君の願うまま、そして私のためにももっと痩せてくれないか?」
***
空音だって、元からそこまで痩せていることに固執していたわけではなかった。幼い頃から痩せた体型ではあったが祖母がそれを気にして食事をせっせと作っていてくれた頃はここまで痩せていなかったし、宮池の家に行ってからも気まずさを感じながらも三食ちゃんと食べていた。
昨年の冬のことだ。雪が降るほどの寒い日が続き空音は風邪をひいてしまった。しかし季節の変わり目にはいつも風邪をひくし、と熱が出ても気にせずに家の仕事をこなしているうちに空音は風邪をこじらせてしまった。高熱と咳が止まらなくなるころにはその病状は肺炎にまで達し、病院に救急搬送されるほどのことになる。
入院してもなかなか回復に至らず、結局一か月ほど寝たきりの状態が続いた。その間ほとんど食事を食べられなかった空音の身体は、下がらない熱と酷い咳に苦しんだこともありげっそりと体重が落ち痩せやつれてしまっていた。退院し自宅療養することになった頃、いつも着ていた服がどれも大きくぶかぶかになってしまっていたことから、ふと気になって洗面台のところにある体重計で体重を測ってみた。
「え……っ」
空音自身も絶句したのは無理もない、体重は入院前に測った体重より七キロほど減っていたからだ。もともと太っていたならともかく、痩せていた空音にとって七キロと言う体重は大きなものだった。
空音はそのまま風呂場に行き、自分の身体を観察する。鏡に映ったその身体は骨と言う骨が浮きだして、腰回りは肉付きは薄くくっきりとした骨盤の形があらわになって。あばら骨はくっきりとして簡単に数えられるものだったし、胸元はげっそりと肉が削げ落ち薄すぎた。鎖骨はもう肩まで飛び出すように浮かんでいる。
普通の感覚であればそんな自分の身体を見たら絶望して少しでも肉付きをよくするように心がけるだろう。しかし、空音はこの身体を良いものと思ってしまった。自分の力でそぎ落とした肉、代わりにもともと生まれ持った骨格がそこに現れた。無駄なものがなくなった身体が自分にとってとても良いもののように感じてしまったのだ。軽い運動くらいじゃここまで痩せることは容易ではないだろう。しかしそれを手に入れた自分というものの自己肯定感は上がって行く。望んだとしても誰もが滅多に手に入れられるものではない。
「……もっと」
もっとだ、もっと痩せたい。誰にも言えないその願望は空音の心の中で大きくなって行く。もっと痩せて骨の浮いた身体を見てみたい。自分の力でこの身体を体型を管理するのだ。欲に任せて堕落して暮らしているものにはたどり着けないところへ。空音は特別になりたかった。
***
空音の与えられた部屋は二階の景色の良い窓がついていた。ふっくらとした布団と高級なベッド。本棚付きの木製ライディングデスクもある。一階は見た感じ畳張りの和室が多かったように感じたが、空音の部屋は洋室だった。空っぽの洋ダンスにボストンバッグに入れて来た数日分の着替えを入れる。空音の荷物はもうそれで全てだった。宮池の家に残してきたものも多少あるが多分すぐに処分されてしまうのだろう。
長旅の疲れから真新しいベッドに遠慮しつつも横たわってみることにする。今まで使っていた薄い布団は身体中の骨が当たって痛かったけれど、与えられたベッドは厚みもあり柔らかですぐにうとうとと眠くなってしまった。
藤篠は空音が痩せることを望んでいた。つまり空音の価値を認めてくれたのだ。彼の本意がどこにあるのかはまだ全て理解したわけではなかったが、少なくとも無理矢理食べ物を食べさせられなくてすみそうでほっとしている。宮池の家にいた時は空音自身が食事を作った日は、少量を味見代わりに口にして残りは全て家族に食べさせていた。日々さらに痩せて行く空音には気がつかない。彼らはそれほどに空音に興味はなかったのだ。
しかし痩せるのを喜ぶ一方で明らかな栄養不足は空音に酷い体調不良をもたらした。体力がないからすぐに疲れてしまい長い間起き上がっていられない。頻繁に貧血を起こして気を失って倒れたことも少なくなかった。鏡に映る顔色も日々血の気がなくなってゆき、もともと色白だったせいでこの頃では常に蒼白で幽霊のよう。頬もげっそりと痩せている。
風邪も一度ひくとなかなか治らなくなった。起き上がることも出来ない高熱にうなされ寝込んでしまい、息も出来ないほどの酷い咳は気管支を壊して血痰を吐き出すまで痛めつける。やがて少しずつ持ち直して、ようやく日常生活に復帰することが出来るようになった頃にはまた空音はさらに痩せてしまっていた。
***
赤い、赤い光が部屋中を照らしている。まるで血のような赤が夕陽のものだと気が付くまで時間がかかった。どうやら空音は小一時間ほど眠ってしまっていたらしい。ゆっくりと起き上がると腹部に違和感を感じた。空腹が過ぎたのか、吐き気がして胃が少し気持ち悪い。しかし食欲は湧いてはいなくてむしろ何も食べたくない。でも今日は朝から何も食べていなくてせめて多少の水分はとったほうがいいのはわかっていた。
「空音さま」
ドアをノックする音とともに先ほどの磯井の声がした。空音はベッドから立ち上がりドアを開けて応じると夕食の時間だという。あまり食べたくないとは伝えたはずだが、この家にやって来て初めての食事だし、席に着くことだけでもしたほうが良いだろう。
磯井に案内されたのは広い畳張りの和室だった。障子を開けると庭の美しい花々が見える。すでに藤篠は席に着いていて空音が来るとにこりと笑った。
「やあ、少し休めたかい?」
「はい、あんなに良いお部屋をありがとうございます。本当に僕が使っても良いんですか?」
「君のために家具も上等なものを選んで揃えたんだよ。遠慮せずに使いなさい」
そして夕食が始まる。藤篠の食卓には新鮮な刺身の盛り合わせと野菜の小鉢がいくつか、それに湯豆腐が添えてある。彼の年齢を考えると幾分あっさりとしたものだった。一方で空音の食卓には野菜スープとおかゆが用意してある。器も小さく、今の空音でも食べることはそれほど難しいものではない。
「量が多かったら残しても構わないよ。君が食べられそうなものを磯井が考えたんだ」
「あ、ありがとうございます……その、いただきます」
一口目は勇気がいるものだった。胸がつかえてどうしても食欲が出ない。このぐらいの量なら食べても太らないはずなのだが、少しでも自分の体内に質量があるものを入れてしまうことが嫌なのだ。でも、せっかく用意してもらったもの。今までは空音自身が食事を作ることが多かったから自分の分は作らずにすんでいたのだが。
野菜スープを一口、薄味で何も食べていない胃に優しい味がする。具も柔らかに煮込んであって、咀嚼して飲み込むのは予想以上に抵抗がなかった。次におかゆをくちにする。隣に添えてあったのは大きな梅干し。はちみつでつけたものなのか、酸味はそれほど強くない。おかゆ自体にもうっすらと塩味がついていて、こちらも素直に食べることが出来た。
「食べられるかい?」
「はい、えっと、美味しいです」
「はは、それはよかった。もし足りないようだったらおかわりがあるからね」
「はい、ありがとうございます」
磯井が部屋から出て行った。藤篠と二人きりになると、空音はその沈黙に何を話したらよいのかわからなくなってしまった。藤篠は上品な食べ方をする。空音も出来るだけ音を立てないように静かに食事をいただいた。
「あの、藤篠さん」
「清月」
「えっ……」
「ともに暮らすのに名字で呼ぶなんてよそよそしいじゃないか。私のことは名前で呼びなさい、空音。私は藤篠清月、清月と呼んでくれて構わないよ」
「清月、さん……」
「そう」
藤篠、改め清月はにこりと満足そうな笑顔で返す。その瞬間に空音は清月とここでこれからずっとともに暮らすことになるのだと実感する。この家では、果たして本当に大切にしてもらえるのだろうか。粗末な扱いしか受けてこなかった自分はずっと価値のないものだと思い続けて来た。そんな自分が、こんな立派なお屋敷で。
「清月さん、本当に僕はここにいて良いんですか?」
「もちろんだよ、私が君を選んだのだから」
***
その晩、空音は眠れない夜を過ごしていた。ベッドに横たわってからしばらくして胸やけがして腹部の違和感が強くなった。気持ち悪い……夕食で食べたものがまだそのまま消化されず残っているような苦しさがあり、また食べやすいものだったせいか少し食べすぎてしまったという後悔が心の中に残って消えなかった。
食べなければよかった、カロリー的には大したものではなかったはずだがこんなに重苦しく残っているということは、いまの空音の身体には必要がないものだったのだろう。腹部のチクチクとした違和感は次第にこみあがって来るものに変わって来た。
このままでは吐いてしまう、空音はふらりと起き上がって壁伝いに二階にもあるトイレに向かう。その時突然吐き気が強くなった。空音は慌ててトイレのドアを閉める余裕もなくそのまま急ぎ駆け込んで嘔吐する。
「ゲホッ! うぇっ、え、ぇえ……ッ! ゴホッ、ゴフッ!」
びちゃびちゃと嫌な音を立てて吐瀉物を吐き戻した。しかし何度吐いてもまだ気持ち悪さが残っている。空音は息をするのも必死なくらいに嘔吐し続けた。背中は冷や汗でびっしょりだった。
「げぇ、え、……ッ! はぁ、はぁ、は……っ」
トイレの壁に寄りかかり、空音は意識朦朧としていた。今日食べたものはほとんど全て吐き戻してしまった気がする。もうこの程度のものも自分の身体は消化することができないのか……。
きっとまた痩せただろう、それは空音にとって喜ばしいことではあるがほんの少しの恐ろしさも含んでいた。
そんな空音の背中をじっと離れたところから見ていた人物がいる。清月だ、彼は寝間着姿で苦しむ空音を見て黙ったまま口元だけで静かに笑った。
新しい生活の始まりは、まだ順調なものとは言えないようで、長い夜はまだ朝を迎える気配はない。
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