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弐章
いずなと真実。
しおりを挟む「文芸部? いずなとうい先生は元同級生……ってことですか?」
うい先生は、それまでの笑顔とは一変。どこか物憂げな雰囲気を纏う。
「そう。だから、いずなちゃんが殺人事件に巻き込まれて命を落とした時は、すごく悲しくて……泣いたわ。それはもう、泣いた」
うい先生は眼尻に雫を溜め、悲しみを滲み出す。
こんな顔をする、うい先生を俺は初めて見た。
「いずなについて、俺はまだ何も知りません。でも……、いずながもしも、誰かの助けを必要とした時、誰かが側に居てあげなくちゃならない。それが出来るのは俺しかいないんじゃないか、不思議とそんな感じがするんです。だから……だから、その時の為に、いずなの身に何が起きたのか俺に教えてくれませんか?」
半分勢いに任せて口を出た言葉。
少しキザで自分でも格好つけすぎたと、顔に熱が上っていくのが感じられる。そんな言葉。
けれども、不思議と。この発言に対して後悔はしていない。
そして気づくと、うい先生の表情はいつもの笑顔に戻っていた。
「うん! アラタ君ならそう言ってくれると信じてた!」
そして、うい先生はその時のことを思い出しながら、ゆっくりと噛み締めるようにいずなの生前のこと、いずなの身に起きたこと、そして今の状況のこと、一つずつ丁寧に教えてくれた。
〈和泉いずな〉は十八歳の時、〈伊波いづな〉の名義で小説家として、デビューを果たした。家庭環境に恵まれていなかった彼女は、執筆活動を心の拠り所としていた。小説家として大成し、数多の傑作を世に送り出し続け、デビューから八年が経ったある日、その事件は起きた。
二六歳となった彼女は、雑誌やテレビ等のメディア露出も増え、その頃には稀代の美人作家として話題になっていった。しかし、人前で見せる笑顔とは裏腹に彼女は、ストーカーの被害に悩まされていた。
その日もいつものように出版社での編集会議を終え、帰宅する途中だった。闇夜のなか彼女は何者かに襲われたのだ。凶器は刃物。動機は不明。急所を一撃だったそうだ。その犯人は事件から二年経ったが、未だに捕まっていない。人気作家の突然の死ということで、ファンを始めとした各方面へのパニックが起きることを避けるため、関係者各位で話し合いの場が持たれ、〈伊波いづな〉の電撃引退という形で場は収められた。
うい先生から聞いた話を簡単にまとめると、事件の顛末はこんな感じだ。しかし、これで終わりではない。
そう……現れたのだ。
当の〈和泉いずな〉が。
肉体を持たぬ、霊体という形となって……。
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