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空っぽの中身

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いつの間にか 風は私の側にいて

空には ひっきりなしに彗星が流れていた

こんな時  思い出すのは 叶えられなかった小さな望みたちのこと⋯




❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。

幼い頃⋯ 一番星を見付けたくて 夕日が落ちるまで遊んでいたのに

その時が来たことも忘れて 

もうどれが 一番星なのか分からなくなってしまったり

❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。


お菓子のおまけが楽しみで

小さな箱の何が出てくるか分からないワクワクが

私の好奇心を より一層 掻き立てた

けれど 本当に楽しいのは開ける手前まで⋯

中身が分かってしまえば  どんなに欲しかった物も不思議と色褪せて見えた

本当に欲しかったものは きっと⋯ おまけではなかった

❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。


魔法のステッキは 魔法が使えないこと⋯

猫を飼いたかったのに 犬がいたこと⋯

上手になりたかったのに なれなかったこと⋯


いつまで経っても私は 無力なままだったこと⋯


赦せなかったのは 何の役にも立たないと思っていた自分だったんだ


「あぁ  なんだか空っぽだったこと⋯ 思い出したな 」

『 ふーん⋯  じゃぁ それはサナじゃないね 』

「 ん? どーして?」

『 だって中身がないんでしょ? 何処に行ってたの? 』


あぁ そうか⋯ 隠してしまったのは [ 私自身 ] で

仕舞ってしまったのも私だったのか⋯ 

心の奥の森にある一軒家に 閉じ込めたまま

鍵を掛けてしまったのかもしれない



ただ⋯ 言えばよかっんだ⋯  悲しめばよかったんだ

ホントは 望んでいたことがあったんだと⋯ 

私の望みは罪でも何でもないのだと⋯ 



箱の中に入ってないのは⋯  きっと⋯



「 しおり⋯ ありがとう 」

『 なにが? へーんなの! 』

と言いながらも しおりの嬉しさは顔中に溢れていた

꙳☄︎⋆꙳ ꙳☄︎ ꙳☄︎⋆꙳ ꙳☄︎ ꙳☄︎⋆꙳ ꙳☄︎ ꙳☄︎⋆꙳ ꙳☄︎

『 パンパカパーンっ!きーたよっ! 』

勢いよく現れたのは まさかのエンピツ

呼んでないのに エンピツ⋯ 

『 え?なんなの? その引き具合は⋯ 』エンピツ

『 いい頃合い⋯ だから 来れたん⋯ だ⋯ よ 』エンピツ

少しアタフタしたエンピツが言った

「 エンピツ⋯ 今 いいとこだったんだよ 」

「 でも何故か エンピツが 来て⋯ この場がファンシーになったね 」

『 褒めてるの? それ 褒めてるの? 』エンピツ

何も変わらない しおりだけが風と戯れていた

エンピツは呟き出した

『 ありのままを全肯定しろ! 』

『 あなたの空箱 満たします 』

あ⋯  ん? ⋯  あの呪文のような言葉は! まさか!

『 そう! 私が書いたフレーズだ! 』エンピツ

え? 書いたの? 言ってるんじゃなくて?

口に出せず  あんぐりした顎のまま 私が頭で考えていたことに

答えるエンピツ

「 え? え? いつから?書いてるの? 」やっと声に出せた

『 サナが この夢に入る前からだよ! 』エンピツ

「 ⋯!!」「 っはーーーー?! 」

エンピツは語る

《 しおりが 過去⋯ 現在⋯ 未来⋯ その全てに存在している 》という下りを持ち出し

自分も同じ存在だし⋯ 

なにより《 夢とは そんなもの 》

という なんとも曖昧なニュアンスで締めくくった

「 なんで?どーして? 」

「 空っぽの私が分かったの? 」

「 ⋯ あ 」

そうか⋯ エンピツは私の一部だ

そして しおりも⋯

『 ピンポーンっ! 』エンピツ

「 てか 反応  古っ!」

『 サナの一部だしね 』シオリ

眉間にシワを寄せ 抗議の眼差しを向ける私を見て

二人は笑った


『  くなっ⋯  ら いつ ⋯  おいで! 』

え? 何?  何て言ったの?

二人の顔がボヤけていく

𖤣𖠿𖤣𖥧𖥣。𖥧 𖧧𖤣𖥧𖥣。𖥧 𖧧𖤣𖠿𖤣



柔らかくて白んだ光が 瞼に触れて

私は目覚めた

ここは 私の部屋

長い長い夢を見ていた気がするのに なんだか心地いい空気

カーテンを少しだけ引いたら 朝靄が大地を潤していた

忘れてる? 

そんなわけない

これは よくある物語ではない

これは私の物語でもあれば あなたの物語でもあるのだから

世界は私の一部で⋯ 私は あなたの一部なのだから


❁⃘*.゚ 分からなくなったら いつでも おいで ❁⃘*.゚



おしまい
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