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3章
兎
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「……話、と。」
少女はそう不敵に微笑む。
「貴女は誰?」
「うらか?うらの名は深雪麻友だぞ」
悪戯っぽく少女はそう言う。
「……ハァ。全くもうッ、深雪君の妹さんなわけ?」
「全くもうも何も全くもってうらは深雪の妹ぞよ?」
「コッチに訊いて来るなッ」
弄んでいる。二階堂凛奈は、高校生にして見た目小学生高学年のこの少女に弄ばれていた。
「うにぃーーー。やっぱりお前面白いなッ」
「で、貴女の年はいくつなの?」
「うにゅ?うらの年は……」
目の前の少女はそう言って口籠る。
先程までからかわれていた凛奈にとってこの少女の意外な一面はなんとも喜ばしいというか、小気味のいい事であった。
「ほら、ほら、早く言いなさいよ。お嬢ちゃんの年はいくつ~?」
かなり犯罪臭の染み込んだ問い掛けをしている女子高校生の姿があった、凛奈だった。
迷子の子供を助けてあげようとする様な優しい台詞とは相違しその口振りはいかにも胡散臭く、姑の様であった。
「うに、うにゅ」
苦悶の声が少女から漏れる。
「ほれほれ~」
しかしどこか可愛げなその仕草に凛奈は問詰を留めない。
少女の頬っぺたを指で挟む。プニプニとした感触が、先程のものとはまた違った小気味の良さが、幸福感が凛奈を問詰する事を留めない。
「忘れたッ」
凛奈がその感触を完食しようとした時、間食の様に辺鄙な回答が頬っぺた___少女から返って来る。
「へ?」
凛奈はそう素っ頓狂な声を出した。
「……貴女って意外とお粗末なのね。」
「お粗末様でした」
「なんでちょっと嬉しそうなのよッ」
素っ頓狂な、辺鄙な少女はそう答えた。
「私が貴女くらいの頃はもう少ししっかりしていたと思うのだけれども……」
「姑の十七見た者がない、とはこの事だな!」
罵詈雑言。
罵詈讒謗。
この二人の弥次喜多はそう言った。
「失礼な事を言うなッ!私はだいたいまだ十五歳です!」
「何をいうか!うぬの精神年齢はとうに老齢を重ねておるぞ!」
精神の荒み方はな、子憎たらしく少女はぼそりとそう言った。
「……?結局バカにしてるじゃないの!老齢ってのは謙遜で使う言葉なのよ!全く……自分こそ変に人擦れして」
自分の事を棚に上げてそう言う少女に対して凛奈はそう言う。
「次から次へと人を馬鹿にする事を棚から取って来た様に……全くもう、最近の若者は」
「その言葉は古代から老人のものだと言われているあたりからうぬの人擦れした、いや荒廃した精神の在りようが容易に分かるな……それこそ棚からぼた餅を取る様に」
「そんな見え見えの罠には引っ掛からないわよ。ええ私は分別のしっかりとした大人ですから子供の些細なミスを、揚げ足を貴女の様に取る事はしませんとも。」
棚からぼた餅。
凛奈はしかし、小馬鹿にした様にその小さく整った鼻を鳴らすのだった。
「それで話を戻すようで悪いのじゃが……」
少しも悪びれる様子もなく、無視して少女はそう続けた。
「ロリに無視された……」がっくりとした様に凛奈はそう心の中で肩を落とした。
「それで、何よ」
しかし、凛奈にとってもこの本質に立ち戻るという話の流れは好ましいモノであった為、そう相槌を打つ。
「うらは深雪麻友ではないッ」
にこやかにソレはそう言って微笑んだ。
その微笑みは造花の様であった。
「正確に言えばうらは借りているのだ。この少女の体を」
「深雪麻友の体の中にある心___魂や人格といった部分をうらが掌握しているのだ」
トランス、その言葉が凛奈の口から溢れる。
「そうじゃ!まあ、体を間借りしているわけじゃ」
目の前のソレは造花を振りまきながらそう言う。造花の体をくるりと風に任せる。
「安心せいッ、この子はまだしゃんと生きておるよ」
どこか引き攣っているのだろう、いや引き攣っている凛奈の顔をその瞳に映して少女はそう言った。
「舅の物で愛婿もてなす、そうじゃな!」
ソレは剽軽にそう言う。しかし喜多八は相槌を打たなかった、打てなかった。
「貴女は魔王なの?」
恐る恐る凛奈はそう訊いた。
「うむ!話が早くて助かる」
それが、その事がもし真実だとしたら、本当だとしたら……
「君はなんて残酷なんだ……」
凛奈はそう呟いていた。
「そうさ……これは六花が、深雪六花が僕と契約した事なんだよ!」
その残酷な真実とは裏腹に、凛奈の願いとは裏腹に少女はどこか嬉しそうに、蕩ける様にしてそう言った。
「そろそろお別れだ。この子の事を宜しく頼んだよ。」
ソレは下卑た笑みを怪しく浮かべていた。
「お姉ちゃん?」
春秋の元凛奈は少女を抱き寄せていた。
「ごめんね……ごめんなさいね」
月はもう西の空に消えていた。
「ごめんなさいね」
冷たい朝日が東の空には昇っていた。
少女はそう不敵に微笑む。
「貴女は誰?」
「うらか?うらの名は深雪麻友だぞ」
悪戯っぽく少女はそう言う。
「……ハァ。全くもうッ、深雪君の妹さんなわけ?」
「全くもうも何も全くもってうらは深雪の妹ぞよ?」
「コッチに訊いて来るなッ」
弄んでいる。二階堂凛奈は、高校生にして見た目小学生高学年のこの少女に弄ばれていた。
「うにぃーーー。やっぱりお前面白いなッ」
「で、貴女の年はいくつなの?」
「うにゅ?うらの年は……」
目の前の少女はそう言って口籠る。
先程までからかわれていた凛奈にとってこの少女の意外な一面はなんとも喜ばしいというか、小気味のいい事であった。
「ほら、ほら、早く言いなさいよ。お嬢ちゃんの年はいくつ~?」
かなり犯罪臭の染み込んだ問い掛けをしている女子高校生の姿があった、凛奈だった。
迷子の子供を助けてあげようとする様な優しい台詞とは相違しその口振りはいかにも胡散臭く、姑の様であった。
「うに、うにゅ」
苦悶の声が少女から漏れる。
「ほれほれ~」
しかしどこか可愛げなその仕草に凛奈は問詰を留めない。
少女の頬っぺたを指で挟む。プニプニとした感触が、先程のものとはまた違った小気味の良さが、幸福感が凛奈を問詰する事を留めない。
「忘れたッ」
凛奈がその感触を完食しようとした時、間食の様に辺鄙な回答が頬っぺた___少女から返って来る。
「へ?」
凛奈はそう素っ頓狂な声を出した。
「……貴女って意外とお粗末なのね。」
「お粗末様でした」
「なんでちょっと嬉しそうなのよッ」
素っ頓狂な、辺鄙な少女はそう答えた。
「私が貴女くらいの頃はもう少ししっかりしていたと思うのだけれども……」
「姑の十七見た者がない、とはこの事だな!」
罵詈雑言。
罵詈讒謗。
この二人の弥次喜多はそう言った。
「失礼な事を言うなッ!私はだいたいまだ十五歳です!」
「何をいうか!うぬの精神年齢はとうに老齢を重ねておるぞ!」
精神の荒み方はな、子憎たらしく少女はぼそりとそう言った。
「……?結局バカにしてるじゃないの!老齢ってのは謙遜で使う言葉なのよ!全く……自分こそ変に人擦れして」
自分の事を棚に上げてそう言う少女に対して凛奈はそう言う。
「次から次へと人を馬鹿にする事を棚から取って来た様に……全くもう、最近の若者は」
「その言葉は古代から老人のものだと言われているあたりからうぬの人擦れした、いや荒廃した精神の在りようが容易に分かるな……それこそ棚からぼた餅を取る様に」
「そんな見え見えの罠には引っ掛からないわよ。ええ私は分別のしっかりとした大人ですから子供の些細なミスを、揚げ足を貴女の様に取る事はしませんとも。」
棚からぼた餅。
凛奈はしかし、小馬鹿にした様にその小さく整った鼻を鳴らすのだった。
「それで話を戻すようで悪いのじゃが……」
少しも悪びれる様子もなく、無視して少女はそう続けた。
「ロリに無視された……」がっくりとした様に凛奈はそう心の中で肩を落とした。
「それで、何よ」
しかし、凛奈にとってもこの本質に立ち戻るという話の流れは好ましいモノであった為、そう相槌を打つ。
「うらは深雪麻友ではないッ」
にこやかにソレはそう言って微笑んだ。
その微笑みは造花の様であった。
「正確に言えばうらは借りているのだ。この少女の体を」
「深雪麻友の体の中にある心___魂や人格といった部分をうらが掌握しているのだ」
トランス、その言葉が凛奈の口から溢れる。
「そうじゃ!まあ、体を間借りしているわけじゃ」
目の前のソレは造花を振りまきながらそう言う。造花の体をくるりと風に任せる。
「安心せいッ、この子はまだしゃんと生きておるよ」
どこか引き攣っているのだろう、いや引き攣っている凛奈の顔をその瞳に映して少女はそう言った。
「舅の物で愛婿もてなす、そうじゃな!」
ソレは剽軽にそう言う。しかし喜多八は相槌を打たなかった、打てなかった。
「貴女は魔王なの?」
恐る恐る凛奈はそう訊いた。
「うむ!話が早くて助かる」
それが、その事がもし真実だとしたら、本当だとしたら……
「君はなんて残酷なんだ……」
凛奈はそう呟いていた。
「そうさ……これは六花が、深雪六花が僕と契約した事なんだよ!」
その残酷な真実とは裏腹に、凛奈の願いとは裏腹に少女はどこか嬉しそうに、蕩ける様にしてそう言った。
「そろそろお別れだ。この子の事を宜しく頼んだよ。」
ソレは下卑た笑みを怪しく浮かべていた。
「お姉ちゃん?」
春秋の元凛奈は少女を抱き寄せていた。
「ごめんね……ごめんなさいね」
月はもう西の空に消えていた。
「ごめんなさいね」
冷たい朝日が東の空には昇っていた。
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