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3章
試し切り
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「おおう、よりにもよってソイツを選ぶとは……目が肥えているじゃないか」
燻んだ天井。頭が痛い。鋭い痛みが襲い、頭を重く感じさせる。
「ん?」
何かやけに柔らかい感触が六花の頭部にある。
「ぐ、グレートヒェン?!」
彼女の膝に頭を埋め、その頭部に彼女の乳房を乗せた六花の姿があった。
というか膝枕されていた。
「具合はいかがですか、お客様?」
大してそれを気にも止めていない様子で彼女はそう言う。
異性として全く意識されていないのか、そう思い六花は少しばかり落胆した。
と言っても、彼の中の彼女の父である部分も彼女の事を異性としてはあまり見ていないのだけれど……
「それにしても、どうしてこの刀が曰く付きなんだ?」
片手に握られた。抜き身の秋水を見ながら六花はそう尋ねる。
それは彼が夢の中で獲得したものとそっくりだった。どれも同じに見えたのだけれども。それこそ彼が軽度の先端恐怖症になりそうな位に。
「いや、曰くなんて無い。ただソイツが創られた順番が珍しいだけさ」
「順番?」
「そう。ソイツは俺が十三番目に創った刀だからな」
13____517。
「いや、単に穿ちすぎかな。まあ、時として事実は小説よりも奇なりというだろ?」
奇、鬼。確かに穿ちすぎだ。
「まあ、悪魔と鬼は違うモノだけれど、似ているしね」
見透かした様に店主はそう言う。この男にはどちらの声が聴こえているのだろう?
「でも俺、刀なんか使えないよ」
「ああ、それなら心配ご無用。何故なら君はキチンと扱えていたじゃないか____僕と戦った時」
確かに六花はあの時刀を扱っていた。けれどもそれは単なるビギナーズラックだろう。
「いいや、違う。君が振るったんじゃない」
「応えたのさ。刀が君にね」
畏まって男はそう言う。
「応える?兵器が?それこそ可笑しいだろ。だって兵器は制御出来るから兵器なんだぜ?持ち主の願いに応える兵器なんてもう生物だろ?」
サタンの姿が浮かぶ。彼女は確かに言っていたのだ。『何を願うかは人間次第』と。
「まあ、言葉の綾だ。さて、百聞は一見にしかず、そう言うだろ?」
ゆっくりと手元にあった刀を抜刀しながら男はそう言う。
「試し切りとしようじゃないか」
「全く……お前は」
一体どこのソシャゲだ!一々戦闘しなきゃ話を出来ないのか!
「それじゃあ、行くよ」
やおら立ち上がった六花に目掛けて男はそう言う。
まだ、頭は痛い。むしろ刀を振るう度にその程度は増す。なんだか聖人みたいだ。
「ちょっ、待てよ」
飛躍。一打ちとは比べものにならない勢いで男は斬り掛かってくる。
「ほら、キチンと君の腕は動いているじゃないか」
ゼンマイ仕掛けの人形の様に、六花の腕は、否刀はそれらに反応していた。
「クソッ」
突っ込んで行く。その幅実に二メートル程。抜き身の真剣が飛び交うには余りにも狭い。
「?!」
先端が六花の目睫に現れる。
発射。刹那にしてそれは戦闘機の様に発射された。
「ほう。これを避けるのか」
次々と襲い掛かる。
「‘危ねぇ」
六花の回避した最初のソレは後ろのグレートヒェンの顔のすぐ隣の壁に突き刺さる。
血が流れる。しかし、その切れ味からか、細胞は切断に気付いていない。
一、二、三。百から先は数えていない。
六花が避け、グレートヒェンはその拳をもってして直撃を機械的に免れる。
「うん。良いじゃないか」
カラン、男は降参する様に刀を地に落とした。
「でも、余りソレを使い過ぎるなよ……戻って来れなくなるからな」
打ち合い終了。その合図だった。
「君には未だ影響が残っているんだから」
猪突猛進。六花は闘牛の様に無我夢中で斬りかかる。
切断した____かに思えた。
「?!」
「一流の金屋は擦り傷すら作らないんだよ。書道家みたいだよね。まあ、刀はキチンと創るけど」
見透かした様に、そう言われた。
「落ち着いたかい?」
「あ、ああ」
刀傷は六花に見事に返っていた。
「それじゃあもう行け」
六花の傷は次第に治って行く。きっと先程の摩訶不思議な攻撃はマナによるものなのだろう。
しかし、その傷は一体どこに消えるのだろうか、そんな事を思いながら六花はただ男を見上げた。
「我が名はベルフェゴール。『怠惰』を司る大悪魔さ」
「いずれ、また。殺しに来い」
猿の腰掛け。そう書かれた看板の前に二人は放り出されていた。
「ユダの、ユダの子孫の元へ参りましょう」
グレートヒェンがそう言った。
燻んだ天井。頭が痛い。鋭い痛みが襲い、頭を重く感じさせる。
「ん?」
何かやけに柔らかい感触が六花の頭部にある。
「ぐ、グレートヒェン?!」
彼女の膝に頭を埋め、その頭部に彼女の乳房を乗せた六花の姿があった。
というか膝枕されていた。
「具合はいかがですか、お客様?」
大してそれを気にも止めていない様子で彼女はそう言う。
異性として全く意識されていないのか、そう思い六花は少しばかり落胆した。
と言っても、彼の中の彼女の父である部分も彼女の事を異性としてはあまり見ていないのだけれど……
「それにしても、どうしてこの刀が曰く付きなんだ?」
片手に握られた。抜き身の秋水を見ながら六花はそう尋ねる。
それは彼が夢の中で獲得したものとそっくりだった。どれも同じに見えたのだけれども。それこそ彼が軽度の先端恐怖症になりそうな位に。
「いや、曰くなんて無い。ただソイツが創られた順番が珍しいだけさ」
「順番?」
「そう。ソイツは俺が十三番目に創った刀だからな」
13____517。
「いや、単に穿ちすぎかな。まあ、時として事実は小説よりも奇なりというだろ?」
奇、鬼。確かに穿ちすぎだ。
「まあ、悪魔と鬼は違うモノだけれど、似ているしね」
見透かした様に店主はそう言う。この男にはどちらの声が聴こえているのだろう?
「でも俺、刀なんか使えないよ」
「ああ、それなら心配ご無用。何故なら君はキチンと扱えていたじゃないか____僕と戦った時」
確かに六花はあの時刀を扱っていた。けれどもそれは単なるビギナーズラックだろう。
「いいや、違う。君が振るったんじゃない」
「応えたのさ。刀が君にね」
畏まって男はそう言う。
「応える?兵器が?それこそ可笑しいだろ。だって兵器は制御出来るから兵器なんだぜ?持ち主の願いに応える兵器なんてもう生物だろ?」
サタンの姿が浮かぶ。彼女は確かに言っていたのだ。『何を願うかは人間次第』と。
「まあ、言葉の綾だ。さて、百聞は一見にしかず、そう言うだろ?」
ゆっくりと手元にあった刀を抜刀しながら男はそう言う。
「試し切りとしようじゃないか」
「全く……お前は」
一体どこのソシャゲだ!一々戦闘しなきゃ話を出来ないのか!
「それじゃあ、行くよ」
やおら立ち上がった六花に目掛けて男はそう言う。
まだ、頭は痛い。むしろ刀を振るう度にその程度は増す。なんだか聖人みたいだ。
「ちょっ、待てよ」
飛躍。一打ちとは比べものにならない勢いで男は斬り掛かってくる。
「ほら、キチンと君の腕は動いているじゃないか」
ゼンマイ仕掛けの人形の様に、六花の腕は、否刀はそれらに反応していた。
「クソッ」
突っ込んで行く。その幅実に二メートル程。抜き身の真剣が飛び交うには余りにも狭い。
「?!」
先端が六花の目睫に現れる。
発射。刹那にしてそれは戦闘機の様に発射された。
「ほう。これを避けるのか」
次々と襲い掛かる。
「‘危ねぇ」
六花の回避した最初のソレは後ろのグレートヒェンの顔のすぐ隣の壁に突き刺さる。
血が流れる。しかし、その切れ味からか、細胞は切断に気付いていない。
一、二、三。百から先は数えていない。
六花が避け、グレートヒェンはその拳をもってして直撃を機械的に免れる。
「うん。良いじゃないか」
カラン、男は降参する様に刀を地に落とした。
「でも、余りソレを使い過ぎるなよ……戻って来れなくなるからな」
打ち合い終了。その合図だった。
「君には未だ影響が残っているんだから」
猪突猛進。六花は闘牛の様に無我夢中で斬りかかる。
切断した____かに思えた。
「?!」
「一流の金屋は擦り傷すら作らないんだよ。書道家みたいだよね。まあ、刀はキチンと創るけど」
見透かした様に、そう言われた。
「落ち着いたかい?」
「あ、ああ」
刀傷は六花に見事に返っていた。
「それじゃあもう行け」
六花の傷は次第に治って行く。きっと先程の摩訶不思議な攻撃はマナによるものなのだろう。
しかし、その傷は一体どこに消えるのだろうか、そんな事を思いながら六花はただ男を見上げた。
「我が名はベルフェゴール。『怠惰』を司る大悪魔さ」
「いずれ、また。殺しに来い」
猿の腰掛け。そう書かれた看板の前に二人は放り出されていた。
「ユダの、ユダの子孫の元へ参りましょう」
グレートヒェンがそう言った。
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