地球

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地球 前編

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「急げ!もう時間がないぞ!」
「急いでますよ、先輩…!」
息を切らせながら高層ビルの階段を駆け上がって行く二人の男が居た。
一人は肩から大きなショルダーバッグを、もう一人は大きなハンディカメラを抱えながら…。
   彼らは某大手TVカメラマンだった。
「先輩…ちょっと休ませて下さい…。まさかエレベーターが止まってるなんてきいてませんでしたよ…」
「弱音を吐くな!もう時間が無いんだ!ここまで来て諦めるな!もうすぐ屋上だ…頑張れ!俺も疲れてるんだから喋らすな…」
二人の男は急いでいた。
電源の切れたエレベーターを使えず、ひたすら階段を駆け上がっていた。高層ビルの屋上を目指して…。
数時間前…
「ダメだ、ここも封鎖されてる!なんでこんなに早いんだ!まだ五時間も前じゃねぇか!」
「だから昨日言ったでしょう
前日から泊り込みましょうって。なのに先輩が彼女とデートなんかしてるから…」
「仕方ないだろう、彼女の居ないお前には分からんだろうが、今が一番大事な時なんだ…、ダメだ、こっちももう封鎖されてる!」
二人の男は白いバンで走り回っていた。封鎖されたニューヨークのマンハッタンを…。
-ニュースをお伝えします-
電気屋の商ウインドウに並べられたテレビにニュースがながれていた。
「今日は一体どんな一日となるのでしょうか…。数日前からお伝えしている隕石の落下がいよいよ今日の午後三時となりました。マンハッタン島の中心街に落ちて来る全長数mの隕石!私たちはこれから衝撃的な瞬間を目の当たりにしようとしています!」
   けたたましく鳴り渡るサイレンの音…。普段ならタクシーでごった返す道路を軍隊の車両や警察、消防の車が所狭しと走り回っていた。隕石の落下による被害を考え、落下地点より半径三キロ圏内を立ち入り禁止区域として、道路の封鎖が行われていたのである。そんな中を掻い潜り、二人の男達は落下地点より数十メートル離れた所にある三十階建てのビルの屋上を目指していたのだった。
   数分後、息も絶え絶えになりながら、ようやく二人の男は屋上に辿り着いた。
「急げ…後十五分で落ちてくるぞ…」
「了解です…」
二人は休む間もなくカメラのセットアップを始めた。手慣れた手付きでものの数分でセット完了。
「よしっ!」
先輩と呼ばれていた男がカメラを担ぎ、気合いをいれて立ち上がり安全柵を乗り越えた。もう一人の男はカメラマンの助手であり、万が一に備えて命綱を繋ぎ自分も小型のハンディカメラを持ちながら柵を乗り越え先輩の後を追った。そして数分後、
   「先輩!来ました!」
助手が興奮して空を指差したその先に、赤く燃え盛る隕石が現れた。真っ直ぐにこちらに向かってきているのがわかった。普通なら恐怖に襲われるところなのだが、二人は興奮で息を荒げるのだった。何故なら、この撮影が上手く行けば百万ドルの報酬を約束されていたからである。カメラマンは躊躇することなく隕石にカメラを向けた!
「よしっ!いいぞ!さあ来い来い…!」緊張で乾き切った喉に生唾がしみる…。
   隕石はゴウゴウと大気を切り裂く轟音を立てながら高層ビルの谷間をすり抜けて地面に激突!
   爆音が鳴り響き、衝撃でガラス窓が割れ、止まっていた車を数台吹き飛ばした!大爆発!…かと思いカメラマン達は一瞬身を屈めたが、以外にも隕石は数台の車を吹き飛ばした程度で、煙と蒸気を立ち上げながらアスファルトの地面にめり込んだだけだったのである。数百メートルのクレーターでも出来るものかと期待していた男達は、あまりのあっけなさに少し拍子抜けしたのだった。
「先輩、この映像で百万ドルもらえますかねぇ…」
「まいったな…苦労してここまで来たのに、やれやれだ…」男達は落胆しながらタバコに火をつけるのだった。
   数分後、軍隊と警察車両が到着しはじめ、騒がしくなり始めた。上空ではヘリが旋回し、地上では装甲車両が落下地点へと集まって来ていた。
   一台の装甲車が落下地点から二十mほど離れた場所で止まった。その後に続き、数台の装甲車も停車し、数十人の軍人達が隕石へと駆け寄って行った。カメラマン達はついでのような感じでそんな様子を撮影し始めた。
   見ると軍人達も、余りの被害の少なさに呆気にとられた様子だった…。そんな中、一人の将校らしき男が隕石へと歩み寄り始め、後に部下達も続いて行った。
   道路の中央に煙を立ち上げながら、めり込んだ直径数メートルの隕石…。
近づいて行く軍人達…。ただそれだけ…、ただそれだけの映像を撮る為にカメラマン達はカメラを回し続けた…。バカバカしい…、そう思い撮影を辞めようと思った次の瞬間!隕石から突然黒い影が飛び出した!いや、飛び出したというよりも、隕石自体が突然立ち上がったのである。まるで丸まっていた人間が立ち上がるように…。
   突然の出来事に軍人達はあわてふためき散りじりに散開した。その場に立ち尽くす者もおり、完全に混乱している様子だった。勿論カメラマン達は興奮してカメラを回し続けた。
「スクープだぞこいつは!」
   隕石は全身の焼け焦げを振るい落とすように全身を振るわせ、その実態を露わにした。
   その身体は、人間のように両手両足があり、身長が三mを超えているほどの巨体だった。人間のように見えたのだが、カメラをズームにするとその様相の異様さに恐怖を感じた。手足が異様に長く両手に槍のような尖った爪を持ち、頭部が無く胸の辺りに顔があり、口は肩まで避けているほどの大きさで、鋭利な牙を持っていたのである。
「怪物…」
   カメラマンは思わずつぶやいた。
「グオォォ!」
   怪物は唸り声をあげながら辺りを見回し、逃げ遅れて立ち竦む兵士の一人に目を付けた様子だった。まるで獲物を見つけた肉食獣の様に…。
   兵士も慌てて銃を構えて身構えたのだが、慌てて一人の将校らしき男が全員に発砲を禁止するような素振りで逃げ遅れた兵士の元へ駆け寄って行ったのである。
   何を喋っているのかは聞こえなかったが、将校がモンスターを生け捕りにしようと目論んでいる様子がカメラマンにも伝わってきた。
   それに合わせるように他の兵士達は平静を取り戻し、モンスターを取り囲み包囲した。
   見たこともない生物を目の前にしながらも、見事な統率力と行動力だった。さすがはプロ集団である。モンスターも少し怯んだ様子に感じ取れた。
   将校は恐る恐るだが、敵ではない…危害はくわえない…と言うような身振り素振りでモンスターとの距離を詰めて行った。ライオンに素手で向かって行くような無謀な行動にも見て取れるのだが、とても勇気のある行動にも見て取れた。
   モンスターは少し身構えた感じの体勢だったが、動く様子もなく、攻撃もしてこなかった。三m、二m、どんどん距離を詰める将校…。どうやって生け捕りにするのかと息を飲んだその次の瞬間!モンスターが将校へと飛び掛かった!
   一瞬の出来事だった…。将校は首から上を食い千切られ、血しぶきをあげながら崩れ倒れたのである。
「うわぁぁ!」
   静寂に包まれたオフィス街に奇声が上がり銃声が鳴り響いた…。
   そしてその夜、その映像はテレビで放送され世界中を震撼させる事となった。
   人類がずっと見続けた夢、そして探し求めて来た地球外生命体の存在、そしてついにその存在が露わになった歴史的瞬間がそこにはあった。新時代の幕開けを喜ぶべき一大事件なのだが、決して友好的とは言えない地球外生命体の存在を知ることで、人々は危機感を感じる事となったのである。
   世界各国で緊急会議が開かれ、国レベルの学会なども各地で開かれた。
「現在確認されている数だけでも数百、今後更に増える可能性は十分に考えられ、各国で早急に対応策をとっていただきたいと思います。しかしながら我々の技術力を駆使すれば、九十八パーセントの確率で落下地点の予測は可能でありますので、万が一見逃してしまうという心配は無いと思います。しかし、何度も申しますがあのモンスターは必ずや人類の脅威となるということを十分にご理解頂いたうえで、一匹残らず駆除するのが我々の目的であると言う事を十分にお忘れにならないようにお願い致します。何度も申しますが、生け捕りなどという浅はかな考えは是非ともなさらないことを各国の皆様方にくれぐれもお願い申し上げます…」
   数ヶ月に及ぶ世界中の首脳が集まった会議で出た結論だった。
「今こそ全人類が一つとなり、力を合わせる時です!地球人どうしの醜い争いをやめ、全人類でこの未曾有の危機に打ち勝とうではありませんか!」
   世界各国で国民に呼び掛けたメッセージがテレビやラジオ、インターネットなどを通じて流された。
   
   それから半年の月日が過ぎた…。
   「緊急ニュースをお伝えします。国防省の発表によりますと、よいよ明日の十時三十七分東京都墨田区に、続けて十一時三十分に大阪府枚方市に隕石モンスターが落下します。当初より予定されていた自衛隊による掃討作戦が展開されますので、付近の住民の皆様は自衛隊並びに警察、消防の指示に従い安全な場所に避難を始めて下さい」
   世界各地で隕石モンスターの襲来が始まっていた。日本ではこれが初めてであり、人々は緊張と恐怖で不安に包まれていた。
   隕石の落下予想地点では自衛隊による包囲網が張り巡らされていた。落下予想地点を中心に三重の円を描くように戦車、装甲車など含めておよそ数千人の自衛官が配置された。たった一匹のモンスターにやり過ぎ、税金の無駄遣いなどという避難の声も一部で上がっていたが、国の威信をかけたこの戦いに反発する声などなんの意味もなかった。
   そして、東京と大阪に襲来した隕石モンスターは難なく撃退に成功したのだった。日本だけではなく、世界中に飛来した隕石モンスターも順調に退治され、人々は歓喜しそして安堵した。

   数週間後、とある天体観測所
「今後の飛来に十分に注意って、ここに務めて二十年、まさかこんな事をするとは夢にも思ってなかったよ」
「全く同感ですね、モンスターの襲来なんて今時映画にもならないですからね、ははは」
「まったくだな、ははは …ん?」
   沢山の計器やモニターの並ぶ中、男は一台の計器の異常に目を向けた。
「まさか…、こんなこと…」男は呟きデータに目を凝らした。
「室長…、これってまさか…」
二人の男は目を疑い驚愕したのだった。そこに表れたデータにより、数千にも及ぶ隕石が地球を目指している事が判明したのである。
   世界各地でも観測報告がなされた。
隕石モンスター、その数およそ数十万と…。

   再び世界各地で緊急事態宣言が発令された。
   各国首脳が集まり、一層の団結力を確認しあったが、余りの数の多さに今後起こりうる事態の予測は不可能だった。落下地点の予測はできるものの、全てのモンスターを排除する事は軍隊だけでは困難と考えられ、全ての国民に重火器が配給される事となった。
   隕石群到着まで一年数ヶ月の間、各国は武器製造に追われることとなったのである。
   そして一年の時が流れ、世界各地で軍隊は強化され、成人男性限定という事で、国民にも武器が配給され終わっていた。訓練を受け、武器を手にしたすべての国民は勝利を信じ、その日を待ち続けるのだった…。
   そして、いよいよその時がやって来た。
「こちらマースステーション、隕石群の接近をレーダーで確認!射程圏内まで後三十秒…、核弾頭ミサイル防衛作動、秒読みに入る」
人類も黙って襲撃を待ち続けていた訳ではない。各国が力を合わせ、火星と月面に軍事基地を造り、人類最強の武器で迎え撃つ準備はできていたのである。
「三、二、一、発射!」
火星軌道上の人口衛星より数十発の核ミサイルが発射された。同時に別の人口衛星からも核ミサイルが発射!
   数十発のミサイルは漆黒の闇の中に迫り来るモンスターを壊滅すべく、人類の希望を乗せて飛び去って行った!
「着弾まであと二十秒…十秒…」
漆黒の闇の中、チカチカと幾つもの閃光が確認された。
   「着弾確認!」
   ステーション内に歓声が湧き上がった。人類最強最悪の武器がそのとてつもない破壊力を躊躇する事なく発揮したのである。一発で大都市をも破壊する威力を持った核ミサイルが数十発も同時に爆発したのだ。
   レーダーで確認をすると、モンスター群の中に幾つもの空洞ができていることが確認された。歓声が湧き上がり意気揚々とする中、次の標的に向けて準備が進められたのだが…、レーダーで映し出されたその光景に皆どよめきだしたのだった。それもそのはず、隕石モンスターは爆風で飛ばされ軌道を外れただけで、全く数を減らしてはいなかったのである。隕石モンスター達は直ぐに群れを元に戻し、何事も無かったかの如く地球を目指すのだった…。
「こちらマースステーション!こちらマースステーション!隕石モンスター群の壊滅に失敗!壊滅は不可能!繰り返す、隕石モンスター群の壊滅は不可能だ!」興奮して叫ぶ男の声が、マースステーションより地球全土の防衛基地、並びにルナベースに届いた…。
   成功を信じて尽力してきた軍人や科学者達は、落胆し言葉を失った…。
   宇宙空間を平然と漂う隕石モンスター達、その実態は余りにも謎が多すぎた…。
   数分後、マースステーションとの通信が途絶えた…。悲しみと絶望の中、ルナベースからも最後の望みをかけて核ミサイルが全弾発射された。
   しかし数分後、望みも虚しくルナベースからの通信も途絶えたのだった。
   そして、地球全土に緊急事態命令が発令された。
   「すべての国民は戦闘体制の準備を」と…。
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