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プロローグ
降臨(2)
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「陛下!」
「お兄様!」
国王が金色の光の中から現れた人を抱えて皆のところに戻ると、待っていた四人が説明を求めるような眼差しを向けてくる。
「光の球の中に人が現れたので、腕をのばして受けとめた。」
「金色の光の中から現れたということは、聖女様ですか?」
国王の言葉を聞き、ディルクが訊ねてくるが、答えるのは難しい。
国王が抱えている人物を見た四人も考えこんでしまう。
国王が抱えている人物の髪は、艶のある綺麗な黒髪だった。
毛先が少しカールしていて、柔らかそうである。
魅力的なのだが、問題は長さだった。
横髪は耳が見えるほど短い。
後ろ髪も襟につかないほど短い。
肌も日焼けしていて健康的なのだが、少年に見えなくもない。
この国では女性は室内で過ごすことが多く、外に出る際も日焼け防止のために日傘を用いている。
庶民では女性の日焼けは珍しくないのだが、どうしても自分たちを基準に考えてしまう。
そして服装は、白いシャツの上に見慣れない形の臙脂色を基調としたストライプ柄のクラヴァットのような物(ネクタイ)をしている。
その上に着ているのは紺色の上着で、下はダークグレーのボトムスを履いている。
上着の形もボトムスの形も、この国の物とは異なる。
異国の資料でもこのような形の服装は見た覚えがないので、やはり異世界から来た人間なのかもしれない。
髪型や服装などは男性のようだが、異世界では女性でもこのような髪形や服装をするのかもしれない。
もしくは、男装の麗人という可能性もある。
そう思えるほど、(この国の基準でいえば)男性にしては華奢で小柄だった。
ただ、女性にしては体の丸みが感じられないのだが、まだ発達途上なのかもしれない。
ゆとりのあるデザインの服なので、体のラインがわからない。
そして、お腹の上には赤と白のバックがのっており、背中には黒いリュックを背負っている。
お腹の上のバックは女物のようだが、背中のリュックは男物のようだ。
一体、どっちなんだ!?
「聖女って、女だよな?」
オスカルがぼそっと訊ねる。
「聖なる女性だから、やはり女性でしょうね。少なくとも、今までの聖女様は全員女性だったと思いますよ。そのような視点で歴史書を確認したことはないので、断言はできませんが・・・」
オスカルの疑問に答えた後、ディルクは自身の疑念について続ける。
「もし、聖女様でなかったとしたら、他にどのような可能性があるか・・・服装からして異世界人のような気はしますが、他国からの侵入者の可能性も考えておかなければなりませんね。髪の色から考えられる可能性は・・・」
「黒髪といえば、西の大陸に住む魔族が黒髪にルビーのような赤い瞳をしていると文献で読んだことがあるわ。あとは、闇の精霊王の加護を受けた一族の中にも、黒髪の人がいるらしいわ。まあ、魔族や闇の精霊に関係していなくても黒髪の人はいるし、南の島の方には黒髪で日焼けした肌の人が多いって聞くけど・・・」
ディルクに続いて、自分が知っている知識を王女が述べる。
魔族か・・・
国王は腕の中で眠る人の顔を見ながら、金色の光に近づいた時のことを思い出していた。
金色の光からは大きな力を感じたが、禍々しさは感じられなかった。
むしろ温かいものに包まれているような感覚で、体中がエネルギーに満ち溢れていくようだった。
国王自身の感覚は、聖なるものだと訴えているが、国王たる者、自分の主観だけで判断するわけにはいかない。
主観に囚われることなく、周囲の意見も聞きつつ客観的に判断していかなければならない。
「体を触って調べるわけにはいかないよな?」
オスカルが不用意な一言を漏らした瞬間、姉のシャルロッテによって鉄拳制裁が加えられる。
「ここは騎士団じゃない!!」
「聖女様だったら、どうするんです。そんな失礼なことできませんよ。」
ディルクもオスカルを諫めようとしたのだが、
「聖女様ではなくても、女性の体に触れるなんて許されないわよ。」
と、王女から指導が入る。
「別に男が触るって言ってるわけじゃなくて、姉さんが調べるとか・・・」
オスカルは制裁を加えられて涙目で訴えたが、
「そういう問題じゃない!!」
と、女性陣から再び指導が入ったのだった。
そして話し合った結果、王国を支える多忙な五人なので時間は惜しいのだが、光の中から来た人が目覚めるのを大人しく待つことになったのだった。
「お兄様!」
国王が金色の光の中から現れた人を抱えて皆のところに戻ると、待っていた四人が説明を求めるような眼差しを向けてくる。
「光の球の中に人が現れたので、腕をのばして受けとめた。」
「金色の光の中から現れたということは、聖女様ですか?」
国王の言葉を聞き、ディルクが訊ねてくるが、答えるのは難しい。
国王が抱えている人物を見た四人も考えこんでしまう。
国王が抱えている人物の髪は、艶のある綺麗な黒髪だった。
毛先が少しカールしていて、柔らかそうである。
魅力的なのだが、問題は長さだった。
横髪は耳が見えるほど短い。
後ろ髪も襟につかないほど短い。
肌も日焼けしていて健康的なのだが、少年に見えなくもない。
この国では女性は室内で過ごすことが多く、外に出る際も日焼け防止のために日傘を用いている。
庶民では女性の日焼けは珍しくないのだが、どうしても自分たちを基準に考えてしまう。
そして服装は、白いシャツの上に見慣れない形の臙脂色を基調としたストライプ柄のクラヴァットのような物(ネクタイ)をしている。
その上に着ているのは紺色の上着で、下はダークグレーのボトムスを履いている。
上着の形もボトムスの形も、この国の物とは異なる。
異国の資料でもこのような形の服装は見た覚えがないので、やはり異世界から来た人間なのかもしれない。
髪型や服装などは男性のようだが、異世界では女性でもこのような髪形や服装をするのかもしれない。
もしくは、男装の麗人という可能性もある。
そう思えるほど、(この国の基準でいえば)男性にしては華奢で小柄だった。
ただ、女性にしては体の丸みが感じられないのだが、まだ発達途上なのかもしれない。
ゆとりのあるデザインの服なので、体のラインがわからない。
そして、お腹の上には赤と白のバックがのっており、背中には黒いリュックを背負っている。
お腹の上のバックは女物のようだが、背中のリュックは男物のようだ。
一体、どっちなんだ!?
「聖女って、女だよな?」
オスカルがぼそっと訊ねる。
「聖なる女性だから、やはり女性でしょうね。少なくとも、今までの聖女様は全員女性だったと思いますよ。そのような視点で歴史書を確認したことはないので、断言はできませんが・・・」
オスカルの疑問に答えた後、ディルクは自身の疑念について続ける。
「もし、聖女様でなかったとしたら、他にどのような可能性があるか・・・服装からして異世界人のような気はしますが、他国からの侵入者の可能性も考えておかなければなりませんね。髪の色から考えられる可能性は・・・」
「黒髪といえば、西の大陸に住む魔族が黒髪にルビーのような赤い瞳をしていると文献で読んだことがあるわ。あとは、闇の精霊王の加護を受けた一族の中にも、黒髪の人がいるらしいわ。まあ、魔族や闇の精霊に関係していなくても黒髪の人はいるし、南の島の方には黒髪で日焼けした肌の人が多いって聞くけど・・・」
ディルクに続いて、自分が知っている知識を王女が述べる。
魔族か・・・
国王は腕の中で眠る人の顔を見ながら、金色の光に近づいた時のことを思い出していた。
金色の光からは大きな力を感じたが、禍々しさは感じられなかった。
むしろ温かいものに包まれているような感覚で、体中がエネルギーに満ち溢れていくようだった。
国王自身の感覚は、聖なるものだと訴えているが、国王たる者、自分の主観だけで判断するわけにはいかない。
主観に囚われることなく、周囲の意見も聞きつつ客観的に判断していかなければならない。
「体を触って調べるわけにはいかないよな?」
オスカルが不用意な一言を漏らした瞬間、姉のシャルロッテによって鉄拳制裁が加えられる。
「ここは騎士団じゃない!!」
「聖女様だったら、どうするんです。そんな失礼なことできませんよ。」
ディルクもオスカルを諫めようとしたのだが、
「聖女様ではなくても、女性の体に触れるなんて許されないわよ。」
と、王女から指導が入る。
「別に男が触るって言ってるわけじゃなくて、姉さんが調べるとか・・・」
オスカルは制裁を加えられて涙目で訴えたが、
「そういう問題じゃない!!」
と、女性陣から再び指導が入ったのだった。
そして話し合った結果、王国を支える多忙な五人なので時間は惜しいのだが、光の中から来た人が目覚めるのを大人しく待つことになったのだった。
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