プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

文字の大きさ
14 / 102

だから、俺は打つよ

しおりを挟む
――現在――

 互いに言葉を交わした後、再びぶつかり合うサンとフォン。そんな彼らを固唾を呑んで見守る観客たちがいた。

 それは、サンと共に来たクラウと、フォンに解放されたスアロだ。

 スアロは、クラウに縄を解いてもらった後、二人の闘いをじっと見つめていた。

「サンってこんなに強くなってたんだね」
「ああ、そうだな」

 ポツリとクラウがそう呟く。スアロは、その言葉に静かに同意する。

 きっと何かの拍子でサンの眠っていた獣の力が目覚めたのだろう。剣にともる炎を見ても正直何の獣なのかは判別がつかないが、急激に向上している身体能力を見て、何かしらの力を得ているのは間違いない。しかし、もともと獣の身体能力を得れば強くなるとは思っていたが、今のサンの強さは、正直スアロの想像を遥かに超えていた。

 あのファルとか言う男も、相当のやり手な筈だ。しかし、サンはそんな彼の攻撃に怯むことなく、陽天流の型を平然と使いこなし、裁くことができている。

「これじゃあ、俺たちが入る暇はないじゃないか」

 スアロは、拳を握りしめてそう呟く。彼が強くなったと言っても、サンが今劣勢なのは間違いがなかった。二人の会話を聞くと、このフォンという男とサンは知り合いらしい。だから、サンも力を出し切ることができないのだろう。全くサンらしい理由である。

 だからこそ、この戦場に何か変化を起こす必要があった。そうしなければ、きっと緩やかに彼は負けてしまうだろう。しかし、そうは言っても、自分の実力では、彼らの間に入っても邪魔なだけである。
 ――やっぱり今の強さじゃ足りないじゃないか。

 スアロは強く歯を食いしばる。目の前の親友がこれほどまでに頑張っている。だというのに、自分には今何もすることができない。それがスアロにとっては歯痒くてしょうがなかった。

 それと同時に彼は、物陰からなんらかの不穏な気配を感じ取っていた。


「おい、ピグルいたぞ」

 同時刻、ここにも二人の戦いを固唾を飲んで見守る者がいた。それはアラシとピグルだ。彼らは結局は宿屋に向かった後主人からこの場所を聞き出し、たどり着くことができていた。

「やっとか、疲れたな~。あ、ほんとだ、ボスと誰かが戦っている。あれがイエナを倒したやつってこと?」
「まあそうだろうな、今すぐにでもイエナの仇を取らないと」

 するとアラシは、宿屋に預けていた狩猟道具の中から弓矢のようなものを取り出した。そこに彼は、自分の針をつけ、弓を構えようとする。

 前述したようにスアロは、両者の間に入っても邪魔になると思っていた。しかし、それは、どちらかに近距離武器で助太刀に入った場合だ。

 しかし、他に邪魔にならないように、どちらかに対して援護を行う事はできる。それは、両者の間合いの外からの遠距離攻撃。

「まさか、その弓を放つ気かよ~、アラシ。ボスが怒るぞ~」
「構うもんか。俺は、早くイエナを取り戻して4人で無事に帰りたい。もうボスにこんな危険な仕事させたくない。4人で生きるんだ。平和に暮らすんだ。だから俺は、打つよ。ピグル」

 そう言って弓を引くアラシ。スアロとの戦いでは、遠距離武器を構えている隙に逃げられるため使用しなかったが、アラシは弓の名手だった。今までも飛んで逃げる標的を何度も彼は弓で射止めたことがあった。

「分かった、分かったよ~。アラシ。大金持ってさ、4人で静かに暮らそう」
「ああ、そうだな。いくぞ! くらえ炎野郎が!!」

 真っ直ぐにサンに向かって放たれた弓矢。だが、彼はフォンとの戦いに夢中で気づく事はない。

 その時、一人だけ、敏感にその弓矢の存在を察知し、飛び出すがいた。遠距離からの射撃。常人の視力では捉えられないが、鳥人の目なら捉えることができる。

 しかし、タイミング的にも本来ならば誰が飛び出しても間に合うものではなかった。うねりをあげて、激しく空を裂く弓矢。それがサンにたどり着く前に彼を庇う事は、少しも迷わずに飛びださなければ、決して、距離的に届くものではなかった。

 だが彼は、間に合った、いや間に合ってしまったのだ。それは――。

 ――師と、彼らを守ると約束していたから。

翼を目一杯にはためかせ、飛び上がる彼。無慈悲にも鋭く真っ直ぐに凄まじい速度で突進していく弓矢。こんな両者が今、激しく交錯するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...