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だから、俺は打つよ
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――現在――
互いに言葉を交わした後、再びぶつかり合うサンとフォン。そんな彼らを固唾を呑んで見守る観客たちがいた。
それは、サンと共に来たクラウと、フォンに解放されたスアロだ。
スアロは、クラウに縄を解いてもらった後、二人の闘いをじっと見つめていた。
「サンってこんなに強くなってたんだね」
「ああ、そうだな」
ポツリとクラウがそう呟く。スアロは、その言葉に静かに同意する。
きっと何かの拍子でサンの眠っていた獣の力が目覚めたのだろう。剣にともる炎を見ても正直何の獣なのかは判別がつかないが、急激に向上している身体能力を見て、何かしらの力を得ているのは間違いない。しかし、もともと獣の身体能力を得れば強くなるとは思っていたが、今のサンの強さは、正直スアロの想像を遥かに超えていた。
あのファルとか言う男も、相当のやり手な筈だ。しかし、サンはそんな彼の攻撃に怯むことなく、陽天流の型を平然と使いこなし、裁くことができている。
「これじゃあ、俺たちが入る暇はないじゃないか」
スアロは、拳を握りしめてそう呟く。彼が強くなったと言っても、サンが今劣勢なのは間違いがなかった。二人の会話を聞くと、このフォンという男とサンは知り合いらしい。だから、サンも力を出し切ることができないのだろう。全くサンらしい理由である。
だからこそ、この戦場に何か変化を起こす必要があった。そうしなければ、きっと緩やかに彼は負けてしまうだろう。しかし、そうは言っても、自分の実力では、彼らの間に入っても邪魔なだけである。
――やっぱり今の強さじゃ足りないじゃないか。
スアロは強く歯を食いしばる。目の前の親友がこれほどまでに頑張っている。だというのに、自分には今何もすることができない。それがスアロにとっては歯痒くてしょうがなかった。
それと同時に彼は、物陰からなんらかの不穏な気配を感じ取っていた。
「おい、ピグルいたぞ」
同時刻、ここにも二人の戦いを固唾を飲んで見守る者がいた。それはアラシとピグルだ。彼らは結局は宿屋に向かった後主人からこの場所を聞き出し、たどり着くことができていた。
「やっとか、疲れたな~。あ、ほんとだ、ボスと誰かが戦っている。あれがイエナを倒したやつってこと?」
「まあそうだろうな、今すぐにでもイエナの仇を取らないと」
するとアラシは、宿屋に預けていた狩猟道具の中から弓矢のようなものを取り出した。そこに彼は、自分の針をつけ、弓を構えようとする。
前述したようにスアロは、両者の間に入っても邪魔になると思っていた。しかし、それは、どちらかに近距離武器で助太刀に入った場合だ。
しかし、他に邪魔にならないように、どちらかに対して援護を行う事はできる。それは、両者の間合いの外からの遠距離攻撃。
「まさか、その弓を放つ気かよ~、アラシ。ボスが怒るぞ~」
「構うもんか。俺は、早くイエナを取り戻して4人で無事に帰りたい。もうボスにこんな危険な仕事させたくない。4人で生きるんだ。平和に暮らすんだ。だから俺は、打つよ。ピグル」
そう言って弓を引くアラシ。スアロとの戦いでは、遠距離武器を構えている隙に逃げられるため使用しなかったが、アラシは弓の名手だった。今までも飛んで逃げる標的を何度も彼は弓で射止めたことがあった。
「分かった、分かったよ~。アラシ。大金持ってさ、4人で静かに暮らそう」
「ああ、そうだな。いくぞ! くらえ炎野郎が!!」
真っ直ぐにサンに向かって放たれた弓矢。だが、彼はフォンとの戦いに夢中で気づく事はない。
その時、一人だけ、敏感にその弓矢の存在を察知し、飛び出すがいた。遠距離からの射撃。常人の視力では捉えられないが、鳥人の目なら捉えることができる。
しかし、タイミング的にも本来ならば誰が飛び出しても間に合うものではなかった。うねりをあげて、激しく空を裂く弓矢。それがサンにたどり着く前に彼を庇う事は、少しも迷わずに飛びださなければ、決して、距離的に届くものではなかった。
だが彼は、間に合った、いや間に合ってしまったのだ。それは――。
――師と、彼らを守ると約束していたから。
翼を目一杯にはためかせ、飛び上がる彼。無慈悲にも鋭く真っ直ぐに凄まじい速度で突進していく弓矢。こんな両者が今、激しく交錯するのだった。
互いに言葉を交わした後、再びぶつかり合うサンとフォン。そんな彼らを固唾を呑んで見守る観客たちがいた。
それは、サンと共に来たクラウと、フォンに解放されたスアロだ。
スアロは、クラウに縄を解いてもらった後、二人の闘いをじっと見つめていた。
「サンってこんなに強くなってたんだね」
「ああ、そうだな」
ポツリとクラウがそう呟く。スアロは、その言葉に静かに同意する。
きっと何かの拍子でサンの眠っていた獣の力が目覚めたのだろう。剣にともる炎を見ても正直何の獣なのかは判別がつかないが、急激に向上している身体能力を見て、何かしらの力を得ているのは間違いない。しかし、もともと獣の身体能力を得れば強くなるとは思っていたが、今のサンの強さは、正直スアロの想像を遥かに超えていた。
あのファルとか言う男も、相当のやり手な筈だ。しかし、サンはそんな彼の攻撃に怯むことなく、陽天流の型を平然と使いこなし、裁くことができている。
「これじゃあ、俺たちが入る暇はないじゃないか」
スアロは、拳を握りしめてそう呟く。彼が強くなったと言っても、サンが今劣勢なのは間違いがなかった。二人の会話を聞くと、このフォンという男とサンは知り合いらしい。だから、サンも力を出し切ることができないのだろう。全くサンらしい理由である。
だからこそ、この戦場に何か変化を起こす必要があった。そうしなければ、きっと緩やかに彼は負けてしまうだろう。しかし、そうは言っても、自分の実力では、彼らの間に入っても邪魔なだけである。
――やっぱり今の強さじゃ足りないじゃないか。
スアロは強く歯を食いしばる。目の前の親友がこれほどまでに頑張っている。だというのに、自分には今何もすることができない。それがスアロにとっては歯痒くてしょうがなかった。
それと同時に彼は、物陰からなんらかの不穏な気配を感じ取っていた。
「おい、ピグルいたぞ」
同時刻、ここにも二人の戦いを固唾を飲んで見守る者がいた。それはアラシとピグルだ。彼らは結局は宿屋に向かった後主人からこの場所を聞き出し、たどり着くことができていた。
「やっとか、疲れたな~。あ、ほんとだ、ボスと誰かが戦っている。あれがイエナを倒したやつってこと?」
「まあそうだろうな、今すぐにでもイエナの仇を取らないと」
するとアラシは、宿屋に預けていた狩猟道具の中から弓矢のようなものを取り出した。そこに彼は、自分の針をつけ、弓を構えようとする。
前述したようにスアロは、両者の間に入っても邪魔になると思っていた。しかし、それは、どちらかに近距離武器で助太刀に入った場合だ。
しかし、他に邪魔にならないように、どちらかに対して援護を行う事はできる。それは、両者の間合いの外からの遠距離攻撃。
「まさか、その弓を放つ気かよ~、アラシ。ボスが怒るぞ~」
「構うもんか。俺は、早くイエナを取り戻して4人で無事に帰りたい。もうボスにこんな危険な仕事させたくない。4人で生きるんだ。平和に暮らすんだ。だから俺は、打つよ。ピグル」
そう言って弓を引くアラシ。スアロとの戦いでは、遠距離武器を構えている隙に逃げられるため使用しなかったが、アラシは弓の名手だった。今までも飛んで逃げる標的を何度も彼は弓で射止めたことがあった。
「分かった、分かったよ~。アラシ。大金持ってさ、4人で静かに暮らそう」
「ああ、そうだな。いくぞ! くらえ炎野郎が!!」
真っ直ぐにサンに向かって放たれた弓矢。だが、彼はフォンとの戦いに夢中で気づく事はない。
その時、一人だけ、敏感にその弓矢の存在を察知し、飛び出すがいた。遠距離からの射撃。常人の視力では捉えられないが、鳥人の目なら捉えることができる。
しかし、タイミング的にも本来ならば誰が飛び出しても間に合うものではなかった。うねりをあげて、激しく空を裂く弓矢。それがサンにたどり着く前に彼を庇う事は、少しも迷わずに飛びださなければ、決して、距離的に届くものではなかった。
だが彼は、間に合った、いや間に合ってしまったのだ。それは――。
――師と、彼らを守ると約束していたから。
翼を目一杯にはためかせ、飛び上がる彼。無慈悲にも鋭く真っ直ぐに凄まじい速度で突進していく弓矢。こんな両者が今、激しく交錯するのだった。
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