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そんな世界間違ってるんじゃないか
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――現在――
月明かりが、野原で佇むシェドを照らす。そんな中で、草の中をカサカサとかき分けて、やってくる一人の男がいた。シェドは、そんな男に声をかける。
「まさか、お前から急に呼び出されるなんて思わなかったよ。カニバル国国王のベアリオ殿」
すると、ベアリオと呼ばれた、23歳ほどの熊の獣人は、彼に対して照れたような笑みを浮かべる。
「ベアリオ殿なんてやめてくれよ。俺とシェドとの仲じゃないか」
「身分を弁えろと言ってるんだよ。仮にも今は戦争中なんだから、俺と会うために、わざわざ護衛もつけずにこんな夜の道を歩いてくるな」
「耳が痛いなぁ。いいじゃないか、幼き頃からの友人と会うぐらい。それに、カニバル軍最強の兵士がいるのに、護衛なんて必要ないだろ?」
「はっ、勝手にしろ」
相も変わらず、昔からの穏やかな目で見つめるベアリオに対して、シェドはこう言葉を返す。たしかにこの2人には、今ただの一兵士と国王として、身分に隔たりがある。しかし、それでもなお昔のように接してくれるベアリオに、シェドは、いつも心の中では感謝していた。
野原の真ん中、身分という垣根など捨てて、ただ星空を眺める2人。そんな中でベアリオが、ふとシェドに対して言葉を呟く。
「もうじきだな、もうじきこの戦争も終わるのか」
「まあまだ油断はできないけどな。でも、今度レプタリアの奴らが拠点としている、南の峠を落とせれば、一気に本陣に攻めやすくなる。そうすればもうこの戦争は勝ったも同然だ」
「勝てるのか、次の戦い」
「どうだろうな。戦力は五分だが、あの拠点を守ってるのは、レプタリア軍の中でも最強のゲッコウだ。正直、もう一策ほど後押しが欲しいところだが、まあなんとかなるとは思う」
「そうか」
ベアリオは空を見て、何かに想いを寄せる顔を浮かべる。そして、そんな彼の表情を見て、シェドは、彼がどんな言葉を言うか、察しがついた。
「なぁ、シェド。本当に支配していくしか、道はないのかなぁ」
そんな甘い言葉を吐く我らが国王に、シェドは大きくため息をつく。全く、自分より5つも年上だというのに、どうしてこの幼馴染は、そんな世迷いごとを吐いているのか。
「ベアリオ、何度も言ってるだろ。このところどんどん、グランディアの他の国も勢いを増してきてる。だからこそ、ここカニバルもどんどん支配する場所を広げなきゃ。お前がこそこそと、和平の道を探していることは知ってる。でももう、戦争は始まってるんだ。それに最初に仕掛けてきたのは、レプタリア国の方だ。向こうの自業自得だろ?」
「――ああ、そうだな」
ベアリオは、彼の言葉に対し、納得するような声を発した。しかし、しばらく沈黙が流れると、彼は、耐えきれなくなって、ポツポツと、己の気持ちをこぼす。
「なぁ、でもな、シェド。俺はさ、どうしても考えてしまうんだ。何かを守るために何かを奪わなきゃいけない、そんな世界間違ってるんじゃないかと。でも、それはしょうがないことなのかな」
「…………」
シェドは、そんな彼の問いにすぐに言葉を返すことができなかった。彼は、過去の経験から奪われる側の苦しさというものを知っている。そして、ベアリオもまた、若くして戦争にて親を失い、自分と同じ苦しみを背負うものの一人だった。
ただシェドは、それでも、自分が言わなきゃいけないことを分かっていた。自分が言わなくては、今、この国王の精神の軸がぶれて国民にも不安を与える。そうならないために、自分は自分の役割をこなさなくてはならなかった。
「しょうがないんだろ。きっと、そうするしかないんだ。何も奪われたくないなら、俺たちは強くならなきゃならない。個人としても、そして、一つの国としても。だからこそ俺たちは、戦うんだ。そうだろ?」
ベアリオは、どこか儚げな顔で星空を見上げながら、呟く。
「ああ、きっと、そうなんだろうな」
月明かりが、野原で佇むシェドを照らす。そんな中で、草の中をカサカサとかき分けて、やってくる一人の男がいた。シェドは、そんな男に声をかける。
「まさか、お前から急に呼び出されるなんて思わなかったよ。カニバル国国王のベアリオ殿」
すると、ベアリオと呼ばれた、23歳ほどの熊の獣人は、彼に対して照れたような笑みを浮かべる。
「ベアリオ殿なんてやめてくれよ。俺とシェドとの仲じゃないか」
「身分を弁えろと言ってるんだよ。仮にも今は戦争中なんだから、俺と会うために、わざわざ護衛もつけずにこんな夜の道を歩いてくるな」
「耳が痛いなぁ。いいじゃないか、幼き頃からの友人と会うぐらい。それに、カニバル軍最強の兵士がいるのに、護衛なんて必要ないだろ?」
「はっ、勝手にしろ」
相も変わらず、昔からの穏やかな目で見つめるベアリオに対して、シェドはこう言葉を返す。たしかにこの2人には、今ただの一兵士と国王として、身分に隔たりがある。しかし、それでもなお昔のように接してくれるベアリオに、シェドは、いつも心の中では感謝していた。
野原の真ん中、身分という垣根など捨てて、ただ星空を眺める2人。そんな中でベアリオが、ふとシェドに対して言葉を呟く。
「もうじきだな、もうじきこの戦争も終わるのか」
「まあまだ油断はできないけどな。でも、今度レプタリアの奴らが拠点としている、南の峠を落とせれば、一気に本陣に攻めやすくなる。そうすればもうこの戦争は勝ったも同然だ」
「勝てるのか、次の戦い」
「どうだろうな。戦力は五分だが、あの拠点を守ってるのは、レプタリア軍の中でも最強のゲッコウだ。正直、もう一策ほど後押しが欲しいところだが、まあなんとかなるとは思う」
「そうか」
ベアリオは空を見て、何かに想いを寄せる顔を浮かべる。そして、そんな彼の表情を見て、シェドは、彼がどんな言葉を言うか、察しがついた。
「なぁ、シェド。本当に支配していくしか、道はないのかなぁ」
そんな甘い言葉を吐く我らが国王に、シェドは大きくため息をつく。全く、自分より5つも年上だというのに、どうしてこの幼馴染は、そんな世迷いごとを吐いているのか。
「ベアリオ、何度も言ってるだろ。このところどんどん、グランディアの他の国も勢いを増してきてる。だからこそ、ここカニバルもどんどん支配する場所を広げなきゃ。お前がこそこそと、和平の道を探していることは知ってる。でももう、戦争は始まってるんだ。それに最初に仕掛けてきたのは、レプタリア国の方だ。向こうの自業自得だろ?」
「――ああ、そうだな」
ベアリオは、彼の言葉に対し、納得するような声を発した。しかし、しばらく沈黙が流れると、彼は、耐えきれなくなって、ポツポツと、己の気持ちをこぼす。
「なぁ、でもな、シェド。俺はさ、どうしても考えてしまうんだ。何かを守るために何かを奪わなきゃいけない、そんな世界間違ってるんじゃないかと。でも、それはしょうがないことなのかな」
「…………」
シェドは、そんな彼の問いにすぐに言葉を返すことができなかった。彼は、過去の経験から奪われる側の苦しさというものを知っている。そして、ベアリオもまた、若くして戦争にて親を失い、自分と同じ苦しみを背負うものの一人だった。
ただシェドは、それでも、自分が言わなきゃいけないことを分かっていた。自分が言わなくては、今、この国王の精神の軸がぶれて国民にも不安を与える。そうならないために、自分は自分の役割をこなさなくてはならなかった。
「しょうがないんだろ。きっと、そうするしかないんだ。何も奪われたくないなら、俺たちは強くならなきゃならない。個人としても、そして、一つの国としても。だからこそ俺たちは、戦うんだ。そうだろ?」
ベアリオは、どこか儚げな顔で星空を見上げながら、呟く。
「ああ、きっと、そうなんだろうな」
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