プロミネンス【旅立ちの章】

笹原うずら

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信念の差だろ

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 サンは、力強く目の前の男を見つめ、手にペンダントを当てながら言葉を投げる。

「カニバル軍シェド隊のサンだ」
「シェド隊のサン、ね。俺は、レプタリア国王アリゲイトだ。まあうちの王は国民の推薦で決まるから由緒ある血統ってわけじゃないんだがな。それよりもなんだよ。その敵対心剥き出しな目。まさかここでやる気なのか?」

そう言ってアリゲイトも背中の剣の持ち手に手を当てる。油断はしない。サンは気を引き締める。おそらく相手の方が格上。先手を取られたら確実に負けるのはこちらだ。

 サンは、アリゲイトの一挙一足に気を払いながら、言葉を返す。

「ここで闘うべきじゃないのはわかってる。多分今の俺は、あんたに勝てない。ただ俺はさ、あんたに聞きたいことがあるんだ。なぁ、アリゲイト。この戦争は、あんたが始めたんだろ」
「ああ、俺がこの戦争を始めた」

 アリゲイトはサンの目を見据えてサンの言葉を繰り返した。その中には決して後悔の色は見えなかった。

 サンは問う。

「なら教えてくれよ。なんであんたは戦争なんか始めたんだ。昼にレプタリアの獣人と話をした。その話を聞くに、レプタリアの国民だって戦争を望んでないじゃないか? それなのになんで?」

 するとアリゲイトは、サンに対してキョトンとした顔を浮かべた。

「お前、それを敵に聞くのか?」
「悪いのかよ」
「悪いも何もないだろう。するとお前はなんだ? 俺の理由を聞いたらお前は今の歩みを止めるのか? お前の信念はその程度なのか?」
「…………」

 サンは何も言葉を返すことなく押し黙る。信念。正直サンは、自分の中のそれがなんなのか、ゲッコウ戦の時から分からなくなっていた。目に映る全てを守る。もちろんそれは自分が固く誓った決意だ。けれど、この戦争において目に映る全てを守るっていうのは何をすることなのだろうか。

 何も言葉を発さないサンに対し、アリゲイトは続ける。

「なるほどな。報告書でレプタリア軍の部隊を一人でほとんど壊滅させたと見て何者かと思ったが、なんてことはない。ただの子どもじゃないか。それならここで世の中の厳しさを教えてやった方がいいな」

 すると、アリゲイトはゆっくりと背中の巨大な鞘から巨大な剣を抜き取る。ただしかし、その剣は随分と不思議な形をしていた。長方形の刀身に切れ味の鋭そうな刃が、そして、左側には、獣の牙のような歪に曲がった棘が一列に付けられていた。

「盗み見なんかよりずっと趣味の悪そうな剣だな。なんだよ、それ」
「これか? レプタリアで一番腕のいい鍛冶屋に造らせた斬烈剣ノコギリ。右側の斬刃は敵を斬り、左側の烈刃は、敵の肉を裂きちぎる。傷つけるものに傷つく言葉をかけるじゃねぇか。俺はこのデザイン気に入ってるんだぜ」
「そうかよ。それよりもなんだ。こんなところでそんな禍々しいもの出して、戦うつもりはないものと思ってたよ」
「当初はその予定だったさ。報告書にあるような強者とここで戦ったらハクダに被害が出るかも知れねぇからなぁ。だが、その心配はないと判断したわけだよ。俺は。今のお前を見るに、お前と俺じゃあ、そんな大層な勝負にはならないさ。ただ俺が対した手間もなくお前を捻り潰すだけだァ!」

 ノコギリを片手にサンの方へ突っ込んでくるアリゲイト。サンは、即座に『サンライズ』と唱えて刀を顕現させ、アリゲイトの一撃をガードする。

 しかし、武器と武器が触れ合った瞬間、アリゲイトに思い切り剣を振り切られ後方に吹き飛ばされる。そしてサンは、勢い余って後ろの建物に激突する。

 ――ズッガァァァァン。

「ぐっ、はァァ!!」

サンは、うめき声を上げアリゲイトの力に驚く。武器ごと人一人後方に弾き飛ばしただって。そんな馬鹿げた力聞いたことがない。ひょっとしたら眼前のこいつは、フォンすらも凌ぐ怪力なのかもしれない。しかし、ワニの獣人がグリフォンの獣人より力が強いなんてことあるのだろうか。

 ――なんて悩んでも仕方がないか。相手の方が力が強いなら、それを前提に戦うまでだ!

 とにかく、間合いが離れたのは、飛び道具を持つサンにとってはありがたい。サンは即座に立ち上がり虚空に向かって照型を繰り出す。

「陽天流五照型、飛炎・白夜!」

 四方八方に飛び交う円弧型の炎の斬撃がアリゲイトへと飛んでいく。しかし、アリゲイトは、その斬撃を難なく全て打ち落とし、それどころか間合いさえもつめて、サンに斬りかかった。また吹き飛ばされてはたまらない。サンはきつく刀を握りしめて、アリゲイトの攻撃を受ける。

 ――ガキィィィン。

 武器と武器が接触する音が夜の闇に響き渡る。歪な剣の向こう、アリゲイトは興味深い笑みを浮かべながらサンに向かって言葉を発する。

「ほぉ、すごいなぁ。急に現れた剣に、自由に発生させることができる炎。全部報告書の通りだぜ。うらましいかぎりだなぁ。そんな能力があったら俺たち爬虫類も冬に固まらなくてすむのになぁ」
「人の力を暖房がわりにつかうなよ。俺としてはあんたのその馬鹿力の方がよっぽど羨ましいけどな。なんだその力? ワニの能力かよ」
「……いや違うな。ワニの筋力補正は他のグランディアの獣の力とはそんなに変わらない。だがもしお前が俺の力に敵わないと思うなら、きっとそれは……信念の差だろ」

 剣を振り上げ、その後何度もサンに斬りかかるアリゲイト。サンは必死でその攻撃を力一杯に、受け止める。ただ流石にこれ以上サンもグランディアの獣人のパワーに振り回されるわけにはいかない。フォンとの戦いでサンも自身の弱点がパワーだということはわかっている。だからこそサンはカニバル軍で力自慢の兵に頼んで、密かに特訓していた。

 圧倒的な力を持つ剣士に対して、あの照型をぶつける特訓を。

「陽天流二照型、洛陽!!」

 ――ジャキィィィン。

 サンは、相手の剣を完全に見切り、その斜めから自身の刀を差し込む。そして敵の剣の軌道をずらし、攻撃を外させた後即座に、突きの姿勢に切り替える。

 そして、隙だらけの相手の体に、自身の技を叩き込む。

「陽天流一照型、木洩れ日!!」

 真っ直ぐにアリゲイトの体目掛けて突き出されるサンの木洩れ日。それは間違えなくアリゲイトの体をとらえた。

 しかし、それにもかかわらず、サンの木洩れ日はアリゲイトを少しも動かすことはなく、その突きは彼の体に剣先を突き立てて停止した。

 ――シュゥゥゥゥ。

 物体と物体の激しい衝突でわずかに煙が生じている。そんな煙が立ち上る中、アリゲイトは、サンに対し言葉を発する。

「何か、したか?」
「そんな……何でだよ。木洩れ日は確かに命中したはず」
「まあお前は悪くねぇよ。じゃあ、次は俺の番だな。唸れ、烈刃」
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