Photo,彼女の写真

稲葉 兎衣

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【回避】

10.ありがとう。

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理科室に血を流し倒れる首なしの死体タクミ、頭部は部屋の隅の方へと転がっている。灯りを求め二階へやって来たカヨとケイトは吸い込まれるかのように理科室へと足を踏み入れていた。

「ひゃっ!」
カヨは何かを見つけ咄嗟にケイトの背に隠れる。タクミの死体だった。ケイトは、目を瞑り俯き右手の拳で机を殴りつけた。元々切れていた傷が出血し手からは血が流れる。

「どれだけ…どれだけ俺を怒らせれば気が済むんだ!」
ケイトは何も無い空間に怒鳴る。
恐らく霊に向けてだろう。だが、その相手れいも何かに怒っている。
その理由に気づかなければここから出られない。

「!?」
突然扉の閉まる大きな音がした。


何かここから出られる手掛かりはないか?
三階で探索しているのはソウタとカオル、その最中にカオルはソウタにこう言った。

「ここには強い男の霊と女の霊がいる。他にもこの学舎内には一つ一つの力は弱いけどたくさん霊がいると思うんだよね…。」
と、それを聞いたソウタは驚いた表情でカオルの顔をじっと見つめた。カオルは、小さく首を傾げる。

「お兄ちゃんはどう思う…?」
「俺もカオルの言う通りだと思う。」
弟の想像以上に強まっている霊感、ここまで他人に影響を及ぼすものなのか?それとも彼が元々持っていた力なのか、どの理由であれソウタの不安が強まる一方である。一つの場に霊感が強い人間が集まればより多くの霊を呼んでしまうことになる。

ソウタの知る限りでは、元々この場にいた弱い霊は複数いた。だが、それは人に影響を及ぼさない程度の霊だ。

だが、とある人物が連れてきてしまった霊が一人いる。それが女の霊だ。その霊は酷くその人物に怨念を持っている。
だが、昨日実際に聞いた男の声…ここに元々居なかった強い怨念を持つ男の霊がまた現れた。

恐らく、引き付けられたのであろう。
ソウタ、カオル、サトリの三人の強い霊感に…。

「カオル、ここから早く離れないと」
「え、あ、うん。」
ソウタとカオルはサトリを探し駆け出した。


「出して!!なんで勝手に閉まるの!?」
「ちくしょーがっ!」
理科室に閉じ込められているはカヨとケイト、ここは二階である。ソウタとカオルは三階、サトリとユメコは四階にいる。閉じ込められている事に気づかれる可能性は低かった。

バチンッバチンッとラップ音、タクミを殺した例の奴がまだこの理科室に滞在していたのだ。微かに残っていた暗い場所に身を隠して…。

そして、ラップ音と共に蛍光灯の光は途切れ途切れになりまた消える。

「まさかっ、」
ケイトは勘づいた。
今度は俺たちの番なのではないかと、そう思うと脚がすくんで動きが鈍くなった。だがそれと同時に俺よりもそばに居るカヨだけでも逃がす方法はないか、そう考えるようになった。

感覚を頼りに扉に向かい力任せに開けようとする。だが、やはり開くことは無い。カヨは怯えながらケイトの側から離れようとはしなかった。

だが、突如カヨの悲鳴が聞こえる。
「なに、イヤッ、冷たい!」
カヨが腕を掴まれたのである。
それと同時に蛍光灯の光は段々と取り戻してきていた。そのおかげで霊の正体をケイトは目でとらえる事が出来るようになった。 

「俺たちを掴む事が出来るなら俺らからも掴む事が出来んだろ!!」
ケイトは、カヨを掴む男の霊を拳で殴りカヨから放す。ケイトは、カヨの手を握り自分の背へとやった。男の霊は、すぐに立ち上がりケイトを襲う。ケイトは近くにあった椅子で対抗しカヨに行った。

「早く逃げろ!」
と、だがカヨは困惑している。

「扉に向かって体当たりするんだよ!生きるんだ!何としてでもッ!」

「でも、ケイト先輩が、、」

「後でちゃんと行くから!」

「…う、うん。」
カヨは必死にひ弱な身体で扉に向かって体当たりをする。何度はじかれても立ち上がりもう一度、ケイトの痛みに苦しむ声が聞こえた。カヨは少し目をやるとケイトが左肩を霊に噛みつかれているのだ。ケイトは、右足で霊の腹部を蹴り肉を噛みちぎられるも自ら霊に立ち向かう。

「何してんだよッ!早く行くんだ!」
「う、ぅん。」
あの霊が弱っているからか扉の反発する念力の様なのが弱くなっているのを若干に感じるカヨ、精一杯の力を込めて体当たりした時、遂に扉が外れた。

「ケイトくん!!」
カヨが目を光らせケイトの方に顔を向けた時、ケイトは既に息絶え霊の手によって胸を貫かれていた。その霊の姿はまるで、やっとの思いで獲物を狩った野獣のようである。そして、今度はカヨに的を向けた。

「「来る」」
カヨは、すぐに走り出す。
今なら一階の靴箱の前の出入口の扉が開くのではないかと、ケイトが命を懸けて私が生き残るチャンスをくれたんだ。無駄にはできない。

生きてやる。

絶対に!生きてやる!!

その思いを込めてただ走った。

「出れる!絶対に!」
扉は目前だ。
カヨは、期待を込めて勢いよく扉を引いた。
だが、ガタガタガタ、、扉が開く気配はなかった。

「どうして、、」
ひんやりとした霊の手がカヨの首に触れた。
何か顔のようなモノが近づいてくるのが分かる。

カヨは、目に涙を零して最後に言った。
「ケイト先輩、ごめんね。」

そして、「ありがとう。」…と。


カヨは首から赤い血が流し膝を着いてそのまま前へと倒れ息絶えた。
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