落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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ブレンダムにて

覚悟を問う

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「お前ら二人はあのゴーレムを止めろ! あたしの家に武器があるから好きに使え!」

 ビーディーは“奴”と戦いながら、振り向きもせずリンネとレオンに指示を出す。
 しかしレオンの態度はなんとも煮え切らない。

「メル……」

 その視線はララと戦う妹に向けられていた。

「レオン! いいから行くわよ!」

 リンネが強引にレオンの腕を掴み、一度家の中へと連れ込む。
 それでも尚、レオンはどこか心ここにあらずといった様子だった。
 視線は外に向けられていて、まともに話せる様子ではない。

「……っ!」

 鋭く、乾いた音が室内に響く。
 はたいたのだ。
 リンネが、レオンの頬を。

「あんた、いい加減にしなさいよ」

 頬の痛みとリンネの低い声に、レオンは彼女の顔をようやく見やる。
 その蒼の瞳は、冷たくレオンの覚悟を問うていた。

「魔獣を狩る。あんたが言ったことよ。そのためには今何をすべきか、わかるわよね。それともここで曲げるの? その信念を」

 その問いかけに、レオンはようやく冷静さを取り戻す。
 レオンは手に持っていた短剣を改めて握りしめなおすと、真っ直ぐにリンネと目を合わせた。

「いや、曲げない。魔獣は狩る……たとえ、俺達兄妹に魔獣の血が流れていても」

 その言葉を聞いて、リンネは一つ瞬きをした。
 するとその瞳は、いつもの涼しげでどこか心地よい、いつもの蒼に戻っていた。

「……そう。それならいいの。さて、それじゃあ私は新しい剣を借りないと。とは言っても、散らかっててどこになにがあるのかわかりにくいのよね~……あ、この剣かなり良さそうね」

 言って、リンネは一振りの剣を手に取る。
 その鞘には、蒼の宝玉がはめ込まれていた。

「『座標転移ポイント・ワープ』」

 リンネが魔法を唱えると、剝き身の剣がその姿を現す。
 比較手細い刀身に薄っすらと浮かぶ涼しげな蒼が、なんともリンネに似合っていた。

「手になじむ……よし、これに決めたわ」

 レオンには、鞘に剣を納めるリンネの姿が、なんだか以前よりも頼もしく、そしてさらに美しく見えた。

「ありがとう、リンネ」

 不意に投げかけられた感謝に、リンネはなんだか気恥ずかしくなって少しだけ頬を赤くした。
 だけど、照れ隠しなんてしない。

「いいわよ、別に。またあんたが迷った時は私がひっぱたいてやるわ」

 そう言っていたずらっぽく笑うリンネは、鞘の宝玉よりも綺麗に輝いていた。
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