落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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ブレンダムにて

起床

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 目を覚ますと、レオンはお世辞にも綺麗とは言えないベッドの上で横になっていた。
 まず目に映ったのは、そんなベッドの横で椅子に座っているリンネの横顔。
 覚醒しきらない頭でぼんやりとそれを眺めていると、リンネがその視線に気づいた。
 彼女は鬼気迫る形相でレオンの顔をつかむと、まじまじとその瞳を覗き込んだ。

「り、リンネ?」

「あんた……レオンよね?」

 意味のわからない問いにレオンは「は?」と素っ頓狂な声を上げる。
 リンネはいつも通りのレオンの様子に、少し安堵した。
 胸を撫で下ろすと、リンネはその手を離す。

「……なんでもないわ。身体は? もう大丈夫なの?」

「え? ああ身体……っていたたたた!」

 レオンが意識を体に向けると、筋肉痛にも似た激痛が足に走る。
 しかし、一度限界を迎えたにしては痛みが弱い。
 そのことにレオンは少し違和感を覚えた。

「やっぱり痛いのね。でもビーディーが麻酔を打ってくれたから少しはマシなはずよ。ベル達も看病してくれたんだから、感謝しなさいよね」

「麻酔か。ビーディー、そんなもの持ってたんだな。リンネもありがとう。看ててくれたんだろ?」

「そういうこと。困るのよ、こんなところで死なれても」

 リンネの冗談めいた返答に、レオンは苦笑を浮かべる。
 しかしレオンは知っていた。
 これはリンネなりの照れ隠しなのだと。

「……ねぇ、レオン」

「ん?」

 レオンが再度リンネを見やると、その表情には陰りが見えていた。

「レオンにとって、悪を……」

 その時、部屋の扉が開かれ、ビーディーとベルが姿を見せた。

「リンネ~……お? レオン起きてんじゃねぇか」

「レオンさん、目を覚ましたんですか! よかったぁ……」

 二人が嬉しそうにベッドに寄ってくる。
 リンネもすっかり二人を歓迎していた様子だったので、レオンがさっきの話を聞くタイミングは失ってしまった。

「調子はどうだ、レオン」

「おかげさまでかなり足が痛い程度で済んでますよ。にしても、ビーディーって麻酔打ったりできたんですね」

「冒険者やってた時の名残でな。ま、大丈夫そうでよかったよ」

 なんて話していると、会話にベルが入ってくる。

「レオンさん、まる二日間寝てたからお腹空いたんじゃないですか? 私、なにか作りますよ」

「え、俺、二日間も寝てたの?」

「そうよ。あんたが寝てた間、色々大変だったんだけど……その話は後ね。ベル、何か作るなら私も手伝うわ」

「ほんとですか! 助かります~」

 そう言ってリンネとベルが席を立つ。
 部屋には、ビーディーとレオンだけが残された。

「あの……ララは、どうしてますか?」

 レオンは、パーティーメンバーで唯一姿が見えなかったララのことを尋ねる。
 すると、ビーディーは先程までリンネが座っていた椅子に腰掛けつつ答えた。

「診療所だよ。意識はあるんだが……戦闘中に負った傷がひどい。お前の妹に随分やられたみてぇだな」

 ビーディーは葉巻を取り出して火を付ける。
 その腕には幾つか傷があることに、レオンは気づいた。

「そうですか……その、妹、メルは……」

「ゴーレムが光だした時にウルフが連れてったよ」

 ビーディーの吐いた煙が、独特の香りと共に部屋に漂う。
 分かっていたことではあるが、“奴”についても、メルについても進展はなし。
 レオンの表情にはどうしても落胆の色が浮かんでしまっていた。

「あ~……まぁ、そのだな。あんま落ち込むな。これやるから。ほら」

 そう言ってビーディーはレオンの手の中に何か硬く、冷たいものを押しつける。
 レオンは軽く顔を上げてそれを確認した。

「これって……!」

 レオンの手中にあったのは、窓から差し込む光を怪しく反射する美しい短剣であった。
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