落ちこぼれの魔獣狩り

織田遥季

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魔龍動乱

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「かかってこいドラクル……殺してやる」

 満身創痍。
 立つこともやっとの状態のシンピはドラクルを見据えて微かに笑う。
 魔龍の恐ろしい双眸とシンピの力強い視線とが衝突する。
 大きく口を開けた魔龍はブレスによって小賢しい魔女を吹き飛ばさんと、その口内に炎を迸らせる。
 その絶望的状況でも、シンピの表情に影が差すことはない。
 何故なら――

「――私には優秀な弟子がいるからな」

 瞬間、なにもなかったはずの魔龍の足元から凄まじい〈殺気〉が放たれる。
 魔龍が急ぎ〈殺気〉の出処を見やるより先に、後ろ足に強烈な冷たさにも似た痛みが走る。
 そして、それと同時に魔龍の視界が凄まじい暗闇と多数のぼんやりした“なにか”に支配される。
 “なにか”は、存在を絡めるようにして魔龍の身体を縛りつける。
 その時、〈魔獣王〉によって支配されているはずの魔龍が感じたのは紛うことなき“死”への恐怖であった。

「動きが止まった……!」

 〈殺気〉の主であるレオンが声を上げる。
 反対方向の茂みからはビーディーが出てきた。

「本気でやばいマジックアイテムだな……これが出来るなら作戦関係ねぇじゃねえかよっと」

 ボヤキつつ、ビーディーが魔龍に飛び掛かって殴撃を加える。
 鱗が飛び散る程の一撃だったが、魔龍にはなんの反応もなかった。

「……もう死んでんじゃねぇか? これ」

「師匠!」

 試すビーディーをよそに、レオンはシンピのもとへと駆け寄る。
 レオンはフラつき倒れるシンピの身体を支えた。

「大丈夫ですか師匠!」

「ああ。おかげさまでな……レオン、よくやった」

「師匠が時間を稼いでくれたおかげです。それに、この短剣にこんな力があるなんて俺には分かりませんでした」

「そこは経験だな……それより、ビーディー。どうだ? ドラクルの様子は」

 いつの間にか近寄ってきていたビーディーは、魔龍の巨体を横目に口を開く。

「すげぇなこりゃ。なにしても動きゃしねぇ。死んでんのか凍ってんのか分かんねぇけどよ……これ、解けんのか?」

「さあな。ただ、彼が動かない今のうちにケリをつけておくべきだろう」

「師匠!」

 不意に三人の背後から聞きなれた声が聞こえてきた。
 振り向くと、そこには青い龍のジジに乗ったオーバ、リンネ、そしてレオン達に手を振るララの姿があった。

「……ほんと、いい弟子に恵まれたな。シンピ」

 半ば揶揄うかのようなビーディーの一言に、シンピはどこか嬉しそうに返して見せた。

「羨ましいだろ……自慢の弟子達だよ」
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